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225 平穏

男の周囲に目を向けても既にデビドの姿は無かった。

それに確かな手応えがあったので倒す事が出来たはずだ。

しかし、それとは別の問題が目の前に現れた。

目の前の男は武器も構えず自然体で立っているだけだ。

それなのに俺が敵意を向ければその直後には消されてしまう確信がある。

その攻撃は確実に俺だけでは終わらない。

周りの家族も巻き込むことになる。

すると男は俺を見て軽い感じに問いかけて来た。


「お前の名前は何だ?」

「ユウだ。」

「そうか。俺はソウシだ。こう見えてもお前と同じ少し前までは普通の人間だった。それで本題に入るが・・・。」


少し前まで人間だった?

これだけの力を持っているのにか。

ならコイツはどれだけの戦いを経験してきたんだ。

俺がそんな事を考えているとソウシという男は話を進め始めた。


「おい、最高神。条件は伝わっているな。」

「条件?」


視線は俺に向いているがスピカに向けての言葉だろう。

しかし、ソウシは呆れた顔もせずに律義に条件と言うのを教えてくれた。


「俺達はこの世界を救うのを手伝ったからな。その世界に戦力が無いなら仕方ないがそうでない場合は戦力や技術を提供する決まりがある。」

「すなわち、俺の家族や仲間も今回のアンタら同様に他の世界を救いに行けって事か?」

「それもあるが技術提供でも構わない。この世界の結界システムは優秀な様だからな。だが、神や魔王と戦える即戦力は貴重だ。何人かには戦闘に参加してもらう事もあるだろうな。代わりに再びこの世界が他者の脅威に晒された時は助けに来よう。それが連盟に加わると言う事だ。」


俺は先程の事やその前にアティルを助けてもらった事を思い出して納得する。

俺一人ではここまでの結果は得られなかった。

彼らが助けに来てくれたからこそ、誰も失う事なくこの結果に行き着けた。

その借りは返さなければならないだろう。


「分かった。それが決まりなら仕方ないな。」

「聞き訳が良くて助かる。それに俺はそれとは別にお前の仲間の願いを叶えてるしな。」


するとソウシは俺の後ろに視線を向けながら呟いた。

俺はその視線を追って進むとそこにはライラが立っている。

しかし、本人にも覚えはないのか首を傾げているようだ。


「私?」

「コイツが無事に帰って来るように願を掛けたろ。その願いはこの手で受け取ったから俺はここに居る。普通なら見てるだけのつもりだったんだけどな。まあ、そのおかげでデビドの奴を逃がさないで済んだんだが。」

「そうッだったのね。願いってちゃんと神様に届くのね。」


ライラはそう言って俺に笑顔を向けて来る。

これはどうやらライラの願い分もしっかり働いて返さないといけない様だ。


「それじゃあ、俺はそろそろ戻る。お前らもせっかく平和になったんだ。あっちで他の奴と親睦を深めると良い。」

「そうさせてもらうよ。これからは世話になる事もありそうだからな。」


そして精霊の住処に行くと多くの神が待ちわびていた。

主に待っていたのはメノウやクリスなどの料理人だ。

見れば数名の見慣れない女性も竈の前で料理を作っている。

すると作っている女性の一人が俺の横に立つソウシに声を掛けた。


「ソウ君はここに入っちゃだめだからね。」

「わ、分かってる。入らないからあまり知らない奴らの前で言わないでくれ。」


どうやらソウシにも苦手な相手がいる様だ。

感じと見た目からして恋人か?


「あれは俺の妻だよ。この間、正式に結婚したんだ。」

「そう言う事か。ソウシも尻に敷かれてるな。」

「お前も結婚すればそうなる。しかもお前には子供も出来てるだろ。」

「そうだった!」


俺はソウシの言葉で子供の事を思い出してライラの許に駆けた。

先日からの事を思い出してみても可能性があるのはライラだけだ。

そして、俺が前に立つと彼女は自分のお腹を撫でて優しく微笑んでくれた。


「本当に・・・。」

「ええ、ユウとの子供よ。喜んでくれる?」

「当然だろ。」


俺はライラの腋に手を入れて持ち上げるとクルクル回りながら喜びを表現した。


「ちょっと、ユウ降ろして。お腹の子供に障るわ。」

「あ、ああ。ごめん。つい嬉しくて。」


そしてライラを下ろすと今度は優しく抱きしめて喜びを表した。

ライラもそれに応えて抱き返してくれる。

俺はあまりの嬉しさに気が動転しそうだがある事に気が付いた。


「そう言えば結婚式はどうする。あまり先延ばしにするとドレスは辛いだろう。」


ライラはレベルが高いので妊娠していても問題は無いだろう。

しかし、この世界では生まれてくる子供のレベルは0。

安全のために無理はさせられない。

すると後ろから多くの声が飛んで来た。


「なら、今からしちまえよ。」

「こんだけの神が出席する結婚式なんてそうないぜ。」

「うむ、善は急げだな。」


するとその声に答えアキは完成したドレスを取り出した。

しかもしっかり全員分揃っている。

あの短期間でどうやって仕上げたんだ。


「フフフ、レベルの上昇でスキルが取り放題だからね。この程度、今の私なら余裕よ、ヨ・ユ・ウ。」


そう言って満面の笑顔でこちらにピースを向けて来る。

俺はそれに苦笑すると周りに視線を巡らした。


すると皆は乗り気なようでドレスを手に離れて行く。

そうやら今から着替えをするようだ。

俺がそれを見送っていると再びソウシがやって来た。


「結婚指輪は準備してあるのか?」

「当然だ。俺は鍛冶も出来るからな。サイズは付与を使えば問題ない。ダイヤモンドは土の精霊に頼んだらすぐに作ってくれたしな。」

「そ、そうか。お前は器用なんだな。」

「ソウシは手作りの物は送らないのか?」


俺はそう言って彼の奥さんに視線を向けた。

すると彼女からは何故か手をクロスして大きなバッテンが返される。

どうやら力のある神なら何でもできると思うのは違ったようだ。

俺は苦笑を浮かべてソウシの肩を軽く叩いた。


「ガンバ!」


するとソウシの手が俺の頭に乗せられ髪を掻き回して来た。


「お前こそ、もう少し頑張らないと出産が死亡フラグになるぞ。」

「そ、そうだった。かなり定番なヤツだ。」

「まあ、それも踏まえて要請を出すのは1年後位だな。まあ、それまでにやる事しっかりするんだな。」


何かこうしてジャレ合っていると中学の頃を思い出す。

あの頃はこうやって友達と良くじゃれ合って笑っていた。

少ししか話していないがソウシとは良い友達になれる気がする。


そして馬鹿話をしていて分かったがソウシが住んでいる世界と俺達の元の世界はとても似ている事に分かった。

もし行く事があれば歓迎してくれるそうで、その時は町を案内してくれるらしい。


そして、少しすると着替え終わったようで皆が戻って来た。

どうやら、ライラの事を考えてマリベルがゲートを開いてくれたようだ。

少し抜けているライラだとドレスの裾を踏んで転げそうだと言うのが理由らしい。

それを聞いて周りから笑いが沸き起こり俺達は世界樹の下へと移動していった。

神たちは当然、地面に敷いた敷物ごと転移で移動している。

そして、飲み会場は瞬く間に世界樹の下へと移動された。


俺はそこに立つと上に広がる巨大な木を見上げて息を吐いた。


「上は美しい枝葉が広がり、下は飲み会場か。ギャップが酷いな。」

「諦めろ。あいつらはああなると細かい事は気にしなくなる。」


確かに、既にかなり酔いが回っているようだ。

絡んでくる者がいないだけでも良しとしよう。


そして準備をしていると頭上から新たな二人の神が降り立った。


「これはどういう状況だね。」

「アマテラス。おそらくは結婚式ですよ。だから急ごうと言ったでしょう。」

「すまないツクヨミ。まあ、間に合ったから良いじゃないか。それで誰が神職の者は居るのかな?」


すると俺達の視線はトキミさんに向くがあれは巫女だが破壊僧の類だ。

あれが神職と言うなら他の神職の方々に失礼だろう。


「なんだかこちらに視線が集まってるけど私は巫女と呼ばれてるだけで神には仕えていないよ。他を当たるんだね。」


しかし、完全に失念していた。

結婚をするなら神職、司祭が居ないと式は挙げられない。

今から適当に捕まえて来るか?

いや、無理だ。

普通の人間だとここに来た時点で確実に意識を失う。

すると、困っている俺達にアマテラスはある提案をした。


「それなら、私達が立とうじゃないか。」


その言葉で俺はピンときた。

司祭などの仕事は神との中繋ぎだ。

しかし、そんな事をしなくても神自身が目の前にいる。

それなら彼らの前で行えば必要が無いと言う事だ。


「お願いできますか?」

「構いませんよ。」


そして、アマテラスとツクヨミの前で誓いを行う事になった。

二人はスサノオも呼んでいたが彼は恥ずかしそうに酒を飲みながら断っていたのでこういう事が苦手なのだろう。

そして、準備が整い俺達は整列をした。

こうして見ると凄い数だが俺に断る理由は無い。

それにここで断る様なら一緒には暮らしていないだろう。


「それでは始めましょう。」


そう言ってアマテラスは軽く咳ばらいをすると周囲が静まった。

どうやら酔っていても空気は読めるようだ。


「君たちの結婚を祝福しよう。さあ、指輪を交換して誓いのキスを。」


一瞬「早っ」と声が出そうになったがここには21人の女性が並んでいる。


(ん?21人?ライラ・アヤネ・アリシア・ホロ・オリジン・メノウ・ヒスイ・ヘザー・アリーナ・クオーツ・ワカバ・リア・リリ・ツボミ・カーミラ・ヴェリル・アティル・マリベル・ジェネミー・・・最後のはもしかしてスピカか。)


何やら数名増えているが最後のは見た事のない顔だ。

俺が歩み寄るとはにかんだ笑顔を浮かべて上目遣いで見上げて来る。


「これが私の本当の姿です。」


彼女の今の姿は長い黒髪に褐色の肌。

身長は俺よりも少し低いくらいで目はエメラルドの様な綺麗な緑。

その顔立ちは美人だが悪戯好きな印象を受ける。

俺は初めて見るその姿に笑顔を返し日頃の仕返しにその鼻を摘まんでやった。

するとその顔からは笑顔が消えてジトっとした視線が向けられる。


「なんでそんな反応が返されるんですか。頭を撫でてくれると思ったのに。」

「いや、何となく。今までの仕返し?」


なんだか初めてスピカに仕返し出来た気がした。

今までは姿が違ったのでなんだか本人を叱っている気がしなかったのだ。

それでも本人にとっては不本意だろうからその後にはご要望通り頭も撫でてやる。


「ブ~ブ~。」


するとブーイングが飛んでくるがその顔は笑っているので許してくれたようだ。

そして、確認が取れた所で俺は順番に指輪をはめてキスをしていく。

皆は出会った順番に並び一人一人に十分な時間をかけて誓いを立てた。

流石に21人となると時間が掛かるので終わったころには神々は勝手に宴会を再開している。

俺達は再びアマテラスとツクヨミの前に立つと祝福の言葉を貰う。


「それでは一人の男と21人の女性の結婚を祝福する。」


その瞬間、頭上から光が差し込み俺達を照らした。

かなり簡単な式だったがリハーサルも何もしていないのでこれでも良いだろう。

それに最後だけはとても綺麗な幕切れだった。

なんだか体が光で浄化され軽くなった様だ。


そして、俺達は少しだけ宴会に参加して家に帰って行った。

神々の宴は連日連夜休みなく続くそうだ。

そんな所に身重のライラを居させられないし、俺達も付き合い切れない。

家に着くと俺達はみんな揃って同じベットに入って朝まで眠った。


その後は数日程、平和な時が流れる。

そして、ある日俺達の家に来客が現れた。


「探したわよ。引っ越したなら教えてちょうだい。」


家に現れたのはリバイアサンだった。

どうやって探し出したのかと聞くとライラに与えた加護をたどって来たそうだ。

そしてライラを見て優しそうな笑顔を浮かべた。


「あらあら、ライラは妊娠したのね、おめでとう。」

「ありがとうございます。」

「きっとあなたに似て良い子に育つわ。無事に生まれる様に頑張るのよ。」


リバイアサンはドラドの子供達には厳しいがライラにはかなり甘い。

それでも育て方を間違えると容赦が無さそうなので俺達も親としてしっかり育てよう。

そして料理を食べながら彼女はついでとばかりに話題を変えた。


「実はこの大陸の南側をさっき沈めて来たの。もしかしてと思うけど知り合いとかいなかったわよね。」

「大丈夫です。そちら側で助けたいモノは既に逃がしましたから。」


避難完了の知らせは既にギルドから聞いている。

丁度ディスニア王国も人がかなり少なくなっていたので歓迎してくれたそうだ。

アルフェにもあの後に話をしておいたので無事に受け入れられて少しホッとする。

助けたは良いが受け入れ先がなければ彼らも生活が出来ない所だった。


「そうなのね。それなら良いわ。それにこれから世界は変わりそうね。とても楽しみだわ。」


そう言ってリバイアサンは笑顔を浮かべているが俺はこの龍が神に至っている事に気が付いた。

今なら分かるがその身に宿す神気は膨大で俺より遥かに大きい。

道理で龍王であるドラドを簡単に圧倒できる訳だ。

この世界だけでも俺よりも強い存在はいる。

これからも慢心する事なく更なる修行に励むとしよう。


そして、今までの事が嘘の様に平和な時が流れた。

ユウライシアの効果は本物で、他の皆は順調に妊娠している。

特にメノウは妊娠できた時は涙を浮かべて喜んでくれた。

それはオリジンも同じで妊娠した時は大はしゃぎだった。

皆が俺との子供を心から喜んでくれる。

そして、順調にライラのお腹も膨らみ、とうとう陣痛が始まった。

その時にはクリスが付き添い、リバイアサンも協力してくれた。

その結果、ライラの出産は無事に成功し、彼女の腕の中には元気な女の子の赤ちゃんが産声を上げている。

やはりレベルが高い為かライラに疲労の色は薄い。

産後の経過が悪いと命を落とす母親も居るそうだがこれなら大丈夫そうだ。

もしもの時には秘薬や魔法もあるので今後は出産後に女性が死ぬ可能性もなくなるだろう。

出来れば子供も全員救いたいが生まれた時には既に死んでいる可能性もある。

こちらに関しては残念ながら絶対という保証は付けられない。

その為、これから生まれて来る子供達には俺でも注意が必要だ。

そして、俺は赤子を抱くライラに声を掛けた。


「頑張ったなライラ。」

「ええ。あなたとの子供よ。私、お母さんになれたのね。」

「そうだな。俺もお父さんだ。」

「ふふ、そうね。これからもずっと一緒に居てね。」

「当然だろ。」


俺達は互いに再び一緒に居る事を誓い子供を挟んで静かに抱き合った。

それを見てライラの抱いている赤ちゃんがキャッキャッと笑い声をあげる。

まるで自分も混ぜろと言っている様だ。


俺はこれからも大事な家族を守り続ける。

たとえ敵がどんなに大きな存在だとしてもだ。

だから何があろうとこの決意だけは最後まで守り通して見せる。

再投稿の作品でしたが多くの人が読んでくれたり、意見をくれるなど色々な経験が出来ました。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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