224 最後の敵は神
俺達が町に入ると先ほどの町と同じ光景が広がっていた。
人は堕落し、明確な意思といえば神王を称えているくらいだ。
もしかすると神王を放置すると世界の全てがこうなってしまうのかもしれない。
そして、俺達が城に到着すると跳ね橋すら上がっておらず入り口は開け放たれたままになっていた。
恐らくは上げる者が既に居ないからだろう。
そしてこの城で唯一の反応がある城の頂上へと向かって行った。
そこには反応はあるが同時にかなり大きなプレッシャーを感じる。
これは確実に亜神以上で先ほどのクロテの何倍も強い。
そして部屋に入るとそこには一人の男が椅子に座り優雅にグラスを傾けていた。
しかしその姿は何処となく誰かを連想させる。
俺は部屋に入ると男に声を掛けた。
「アンタがこの国の親玉か?」
「親玉。品の無い言葉だがその通りだ。」
「お前は何者なんだ?」
「僕はこの世界の創造主にして破壊する者だよ。名はデビドと呼ばれている。」
すると男から巨大な神気が立ち上った。
これだけの巨大な気はこの国だけではありえない。
恐らくこいつは神だ。
俺の様になりかけではなく完全な神。
それを感じさせるだけの力をコイツからは感じる。
「ならどうしてオリジンとアティルを求めたんだ?必要ないだろう。」
「その事かい。ちょっとしたゲームだよ。そう言えば僕に付き従う駒が必死に動くからね。でも、今回は負けちゃったって事かな。」
「それなら素直にこの世界から出て行ってくれないか。」
俺がそう持ち掛けると奴は軽く鼻で笑った。
「どうして?ここは僕の作った世界だよ。君は自分の家から出て行けって言うのかい?それにアティル達には前回もう一度来るって伝えておいたんだけどね。思いのほか準備が出来てないから驚いたよ。せっかく本体である世界樹まで切り倒してあげたのに。危機感が無いな~。」
「もしかして、お前が去った後に現れた別の神って言うのは・・・。」
俺は嫌な予感が頭を過る。
この世界を作った神は気まぐれで享楽的だったと聞いている。
そして、その後に来た神は世界を滅茶苦茶にして最後に世界樹を切り倒して去って行った。
最後に「また来る」と言い残して。
「姿を変えてたから上手く騙せたみたいだね。僕とそいつは同一人物だよ。それに獣だって姿を変えられるんだ。神である僕が姿くらい変えられるのは当然だろ。」
言っている事は確かに正しい。
正しいがコイツをこのままにしているとまた世界樹を切り倒しかねない。
そうなれば再びオリジンは涙を流するだろう。
それにこの世界は二つの世界が融合して歩き出したばかりだ。
まだまだこれからだというのに壊させる訳にはいかない。
目の前の男は今も余裕のポーズで薄く笑みを浮かべている。
少しオリジンとアティルに似ていると思ったが明らかに違うようだ。
(でも・・・こいつに勝てるのか?)
『騙されてはいけません。』
そう考えた時に俺の中でスピカが叫んだ。
『この者は神ですが今はかなり弱っています。この世界でこのような事をしているのも弱った力を回復させるためです。おそらくは何処かで同じように世界に迷惑を掛けて逃げ出したのでしょう。』
「おかしいな。どうして持ち直したのかな。さっきので心が折れると思ってたのに。まあいいや。それなら私が直々に相手をしてあげよう。神にすら成り切れていない君に私は倒せないよ。」
「それはどうかな。」
「強がりかい。・・・ああそうだ。君を殺したらその体を頂くよ。きっと楽しい事がたくさん出来る。君の家族を皆殺しにして今度こそこの世界を滅ぼしてあげるよ。」
一瞬だけ周りに視線を向けると他の皆は先程の神気に充てられて動きが鈍い。
俺はスピカのおかげで持ち直したが少しだけ時間を稼がないといけないだろう。
皆ならその間に必ず戦える状態に回復してくれるはずだ。
「君は剣士のようだね。ならそちらに合わせて剣で戦ってあげるよ。」
そう言ってデビドも剣を取り出した。
どうも俺とは美的感覚が違うのか剣には宝石がちりばめられ見ているだけで目が痛くなる。
そして、そのまま一瞬で間合いを詰めると連続で剣を振って来た。
ただしそれは子供が滅茶苦茶に棒を振り回している様で出鱈目な攻撃に見える。
しかも、剣が頻繁に光を反射するので眩しくて剣筋が読み難い。
(もしかしてこれは視覚的な攻撃か!)
「そんな訳ないだろう。この美的センスが理解できない君の感性がお粗末なだけだよ。」
すると俺の心を呼んだ様で攻撃が激しくなり始めた。
どうやら俺の心の声は気に障ったらしい。
しかし、四天王のアカテもだったがどうして勝手に人の心を読んでおいて俺が怒られるのだろうか。
この理不尽を改善するためにはやはりあのスキルを取るしかないのか。
『不可能です。ポイントが足りません。』
しかし、何か思考的な引っ掛かりを覚える
そして俺はある重要な事に気が付いた。
(ん?そう言えば神気を取らなかったらもう少しで1000ポイント溜まってたんじゃないのか。)
『・・・あの時は緊急事態でしたので。』
(こういう落とし穴があったのか!)
『フッ!』
「何を独り言を言っている!」
デビドはそう言って大きく剣を振って来る。
その一撃は重いが防げない程じゃない。
剣筋も見えるのでどうやらスピカの言っていた事も間違いではなさそうだ。
そして、俺達の戦いを見てようやく皆も動けるようになった。
ある者は剣を握り、ある者は拳を握って攻撃を加えていく。
その猛攻にデビドは次第に押され始めた。
「おのれ、雑魚の分際でーーー!」
するとデビドは咆哮を上げた。
その瞬間奴の体から腕が生え、それぞれの手に武器を持つと俺達に襲い掛かって来た。
まさか、こんな隠し玉があるとは思わず形勢は逆転して俺たちが押され始める。
しかし、それを狙っていたかのようにデビドは何かに躓いた様に僅かにバランスを崩した。
その様子に笑みを浮かべたのはサツキさんだ。
どうやら怒りに意識が向いた一瞬を突いて足元を窪ませたのだろう。
足元に意識が向いていないと、ミリ単位でも態勢が崩れる。
俺達はその一瞬の隙を突いて攻撃を加えた。
「その首貰ったーーー!」
「舐めるな雑魚共がー!」
デビドは叫びと同時にその場から転移して距離を取った。
その為、誰の攻撃も届かず俺達の攻撃は誰も居ない空間を切り裂いた。
しかし、俺達の中で唯一、その刃を届かせた者が居た。
「がはっ。どういう事だ。全ての攻撃は躱せたはずだ。」
「甘いのう。転移があるなら攻撃も飛ばせて当然じゃろう。儂は先日の修行で切裂き丸が無くても遠くの物が切れるようになってのう。お前さんは人間を甘く見過ぎじゃ。」
「おのれ、人間の分際で神に血を流させるとは。」
しかし、そんなデビドに向けて再び斬撃が放たれる。
それをデビドは転移で避けるがそんな事は長くは続かない。
何故なら斬撃を放つのが一人から二人に増えたからだ。
「な、なぜ・・・。確実に避けたはず。」
「ホッホッホ。ユウはもう覚えてしもうたか。」
そう言って楽しそうに斬撃を放ちながらこちらを見て来る。
俺もそんなゲンさんに笑いかけながら模倣で覚えた技を容赦なく放って行く。
流石にああも何度も見せられると覚えると言うものだ。
しかし、この斬撃は相手に痛みを与えるのにはむいているがダメージを与えられているかと言えば微妙な所だ。
見ると傷は浅く、すぐに回復している。
どちらかと言えば転移によって力を消耗させる方が効果が高そうだ。
「おのれーー!こうなったら第2形態になってくれる。」
そう言ってデビドは回避を止めて体に力を漲らせ始めた。
するとその体は3メートル程に巨大化し、肌の色も紫へと変わっていく。
そして、姿が完全に変わると先程までの優男風から、ムキムキマッチョへと変わった。
それでも顔が少し爽やか系なのでそちらが少しキモイ。
「貴様は先程から神である我を侮辱し続けおってーーー!」
「だったら心を読むなよ。そうすれば互いにWIN・WINだろうが!」
「貴様が心の声を駄々洩れにしているからだろうがーーー!」
なんと理不尽な怒りだ。
俺はこんなに頑張って心に壁を作っているのに。
『ユウさんの心のA〇フィールドは世界最弱ですから。』
(止めて~。俺の心を抉らないで!)
そして、デビドはそんな俺達の前に再び降り立つと床が激しく揺れた。
「あ・・・。」
すると、やはりと言うか、その瞬間をあの人は見過ごさなかった。
サツキさんは魔法で奴の足元の床の構造を緩めるとデビドの衝撃を吸収しきれずそのまま下の階に沈んでいった。
しかも下の階に止まらず3階ほどは落ちたようだ。
(ププ~!)
「貴様の仕業かーーー!」
「それは誤解です!」
「ここは5階だ。やはり貴様の仕業かーーー!」
「意味が違うって!」
そしてデビドは変身によって禿げ上がった頭に血管を浮かべて怒りの形相を向けて来た。
見ると先程まで宝石が光っていて目に痛い剣は禍々しい物に変わっている。
どうやら武器を変えた様で魔物の骨で出来たボーンソードの様だ。
しかし、持ち変えると言う事はかなりの業物なのだろう。
こうして対峙していても材料にされた魔物の声が聞こえて来る。
『肉を切らせろー!血を吸わせろー!命を我に捧げろー!』
聞くからに持つだけで呪われそうだ。
するとデビドは何故か大きく剣を引くとこちらに向かて投げつけて来た。
そして剣は勝手に軌道修正を行いまるで必中のスキルの様に的確に俺の心臓を狙って来る。
どうやら、意思だけではなく自身も動かせれるようだ。
その証拠に俺が躱しても後ろでUターンして襲って来る。
それを見てデビドは愉快そうに笑うと自慢げに解説を始めた。
「それはヒュームを即死させる能力がある魔剣だ。いまだに亜神のお前では逃げようとも無駄な事。更にそいつは私の力で強化もしているからな。ハハハハ。」
何気にさっきの攻撃のお返しでもあるのだろう。
これだから粘着質な奴は嫌いなんだ。
素直にこの世界から去っていればこんな事にはならなかったのにな。
(そうだろ、オイ。)
「・・・・。」
(お前だよ粘菌ハゲ。)
「誰が粘菌ハゲだーーー!」
ちゃんと聞こえてるじゃないか。
無視をするから聞いていないのかと思ったぞ。
それにしても残念な神様だなな。
先程スピカの言葉も頷けると言うものだ。
特に先日ビシュヌ様を見たばかりなので余計に脅威を感じない。
『我が名はヴィシュヌである。』
(な、何だ。空耳か!?)
『この戦いは多くの神々から酒の肴にされています。下手な事言うと後が怖いですよ。』
俺は下手な思考は切り捨てて戦闘に集中する事にした。
後も怖いが勝手に俺の心の声を聞いたハゲが勝手にヒートアップしている。
「まだ言うかーー!」
俺は攻撃を躱しながら剣で魔剣を弾いた。
すると魔剣に向かい元気よくホロが駆け出し歯を噛み鳴らす。
そして魔剣をジャンプキャッチし見事な着地を決めた。
するとホロの牙に神気がみなぎり、まるでカミカミ棒を得た犬の様に、器用に前足で挟み齧り始めた。
『ノ~!主助けて~!』
(・・・美味しくない。・・・あ、良い事思いついた。)
俺にはホロの頭の上に電球が点灯したのが見えた。
最初に齧った時にあまり美味しそうな顔ではなかったので何かのトッピングを考え付いたんだろう。
大人しく見ているとホロは何かの瓶を取り出し、それをドレッシングの様に魔剣へとかけ始めた。
『あれはユウライシアの秘薬ではありませんか?』
「そうだな。美味しくないからソースを掛けるみたいにして味を変えるつもりなんだろう。」
『しかし、あれだと魔剣は浄化されてしまうのでは?』
『ギャ~~~!浄化される~~・・・。』
「逝ったな。」
『逝きましたね。』
すると魔剣だったモノは唯の骨に変わりホロの歯に噛み砕かれていく。
そこには既に断末魔の叫びは無く、ホロの尻尾の振られる激しい音が響くだけだ。
一応、食べているのが骨と言っても元が剣なので少し心配だったが怪我は無さそうだ。
そして、デビドが手を触れた柄だけになると、何度かニオイを嗅いでポイっと投げ捨てた。
まあ、あそこまで食べようとすれば流石の俺も止めに入る所だったが捨てて良かった。
「それで、どうするんだ?」
「おのれーーー!」
そして、武器を失ったので再び別の剣を取り出した。
俺なんてまともな剣はこれしか持っていないのに・・・。
そして、再び接近戦へと移行していく。
しかし、奴の体で変わったのは見た目だけではなさそうだ。
その体に見える筋肉によって力が増大し、肉の壁が鎧の役目を果たしている。
剣士としての実力は俺達よりも下だがその防御が突破できない。
もしかすると俺達には決定的な何かが足りないのではないだろうか。
力や技ではない何かが。
俺は亜神とは言っても人の身だ。
神に比べて矮小な俺達に足りない物があってもおかしくはない。
(スピカ、俺達に何が足りない?)
『知れば後悔しますよ。』
俺が問いかけるとスピカからは真剣な声が返された。
しかし、このままでは何時まで経っても決着がつかない。
それどころか、俺達には体力の限界がある。
今はまだ余裕はあるが何日も命をやり取りする状況を続けるのは不可能だ。
(それでも教えてくれ。)
後悔しようとこの戦いに負けるわけにはいかない。
それに俺の聖剣やサツキさんの小太刀はまだ耐えられる。
ここに来る前に俺の血を吸っておいて正解だった。
しかし、それ以外だとそろそろ武器の耐久度が限界に近い。
やはり神との戦いをするには武器が役不足の様だ。
奴があの時にガルーダが使っていた様な強力な武器を持っていないのだけが救いになっている。
もし持っていれば戦いはもっと不利になっていただろう。
そして、スピカは俺の返事を聞くと少し間を開けて話し始めた。
『実は皆が知っていてユウさんには秘密にしている事があります。』
(何だこんな時に。)
『大事な事です。これは自覚があるか無いかで大きな違いがあります。』
(なら教えてくれ。)
『皆とはユウさんが自分で気付くまで待つ約束だったのですが。・・・実はユウさんはこの世界を救う勇者なんです。』
スピカの言葉に俺の動きは一瞬止まる。
その隙を突かれ肩を深く切り裂かれるがゲンさんのフォローが間に合い首を斬り落とされることは無かった。
「ユウ、何をしておるのだ!死にたいのか!」
俺は戦闘を継続させながら「すみません」と謝り心の中で先ほどのスピカの言葉を繰り返していた。
(これは何かの罰ゲームか。・・・そうか夢か!)
『現実です。先ほど肩を斬られたでしょ。』
(え、でも、何時から?)
『最初からです。ライラが言っていたでしょ。成長力促進のスキルは勇者が持つものだと。』
(で、でも俺は勇者じゃない・・・はず。)
『勇者です。』
そう言ってスピカはステータスを開き称号を見せてくれる。
するとそこには昨日まで無かった真の勇者という称号がある。
(何でだ。昨日までは無かったはずだ。)
『今までは私が見えないように隠していましたからね。諦めてください。ユウさんは勇者なんです。それにユウさんの行動は勇者と呼べるものでした。今までを思い出してみてください。』
そう言われても俺は多くの人を殺した。
たくさんの人を見捨ててもいる。
そんな俺が勇者・・・。
『ユウさんは勇者を誤解しています。勇者とは人を救う存在ですがそれ以上に大きな役目があります。』
「役目?」
「貴様先程から誰と話している。」
「少し黙れ。いま大事な話をしているんだ。秘剣・桜花!」
「な、何だこの攻撃速度は!」
俺は攻撃の速度を上げてデビドの口を塞ぐ。
決定打にはならないが後先を考えていない猛攻は奴の口を塞がせるには十分だった。
『勇者の役目は人類だけでなく世界にとっての最終兵器。いつかこの世界に戻って来ると告げた破壊の神を倒すために作り出された存在です。』
そうだったのか。
俺はてっきり勇者とは人の家に入ってタンスを漁ったり、人を無償で助けたり、魔王と戦ったりしないといけないのかと思った。
『2つ目と3つ目は良くしてましたよね。』
(そう言えば・・・。幾つも覚えが・・・。)
『さあ、ユウさんが勇者であると自覚したところで真の力を起動させましょう。』
ここで覚醒ではなく起動と来たか。
まあ、マニュアルではなくオートであるならいつもの様に死にかける心配はなさそうだ。
『さあ皆さん。ユウさんがとうとう勇者であると諦めました。』
そこで認めたのではなく諦めたか。
たしかに言いえて妙だが俺もその方がしっくりくる。
すると何故か俺の後ろに皆が現れたが何故ここで呼ぶ必要がある!
しかもこれって強制転移だろ。
一体誰がしたんだ。
『私です。』
(オイ!)
つい突っ込んでしまったがこれはどういう状況なんだ!?
『さあユウさん。我が子の為に頑張ってください。』
「子供!?何の事言ってるんだ。」
『ムフフ、それは勝ってからのお楽しみです。』
「ぬおーー!何が起きたのだ!」
俺の攻撃はいつの間にか次第に早くなり先程と違いデビドに深い傷を刻み始めた。
そう言えば最初に魔王を倒した時もこんな状況だった。
もしかして、俺のスキルは背水の陣の時こそ最大の力を発揮するのか。
『それでは仕上げに入ります。アティル。もう一つの聖剣をここに。』
『分かりました。』
スピカの声にアティルの声が俺の頭に響き俺の前にもう一本の聖剣が現れる。
俺はそれを手にすると更に激しい斬撃をデビドに放つ。
『更に『聖剣完全開放』』
すると聖剣から力が流れ込んでくるだけでなく聖剣自身もその力で自らを強化する。
まるで海をひっくり返した様な力を放ち聖剣の一撃はデビドを大きく切り裂いた。
『とうとうこの時が来ました。この頭の腐った神に天誅を下す時。あの時の恨み、100倍返しにしてやります。』
『長い時間で恨みが熟成されてますね~。』
どうやら聖剣の片方にはアティルが宿り、もう片方にはスピカが宿っているようだ。
そのおかげで聖剣にも意思が宿り力を自在に使える様になったのか。
しかし、あまり時間をかけ過ぎれば世界に影響が出るかもしれない。
ここは一撃で決める。
「な、なんだこの力の急な高まりは!?こ、こうなったら。」
そう言ってデビドはダメージを顧みずに逃げに徹し始めた。
(このままだと確実に逃げられる)。
そうなれば再び力を取り戻したコイツは俺の大事な者を襲うだろう。
それが100年先か1000年先か。
その時まで俺が存在できるかは分からないがこのままでは確実に逃げられる。
既にデビドの前には空間の亀裂が出来ている。
しかも、その亀裂はマリベルのゲートとは違う。
恐らくは繋がる先はこの世界の外側だ。
そしてデビドは最後にこちらへ顔を向けて口角を上げ目を細めた。
「残念だったな。そして再びこの言葉を残そう。それではまた来る。ハハハハハハ!」
デビドはそう言って高笑いを上げながら空間の亀裂に手を入れてこの世界から消えていく。
それを見て間に合わない事が確実になったが突然デビドの表情が歪んだ。
「何処に逃げるつもりだ。指名手配神デビド。前回は逃げられたが今度こそお前を殺す。」
「き、貴様は、あの時の破壊神!」
「勘違いするな。俺はれっきとした闘神だ。司る権能は才能。貴様の様な享楽で世界を破壊する馬鹿にはどっちでも同じかもしれないがな。オイ、そこのお前。」
逃げようとしていたデビドは伸びて来た手に頭を掴まれこちらに押し返されて戻って来た。
それと同時に亀裂から別の男が姿を現し声を掛けて来る。
その姿は普通の日本人に見えるが一瞬で理解できた。
コイツは俺やデビドとは次元が違う。
ヴィシュヌと同等かそれよりもさらに上。
見ているだけで心の底から恐怖が湧いてくる。
しかもその鋭い視線がこちらへと向けられている。
「そろそろ準備が終わっただろう。その攻撃を早く放て。」
「アンタにも当たるが良いのか?」
「その程度で俺には傷も付かない。早くしろ。」
俺は言葉に促されて剣を構えると一気に距離を詰める。
そして、自分に放てる最強の一撃を振り下ろした。
それをデビドは目を見開き、切り裂かれる瞬間まで見続けている。
「やめろーーーー!」
「これで最後だ!三技一体『イザナギ』!」
『これで引き籠れるーーー!』
『死ねーーー!』
何やら一つ変な掛け声があったが俺の一撃は見事にデビドを斬り裂いた。
それと同時に膨大な力が解放され俺達3人を呑み込んで行く。
あまりに大きな力に俺も余波で体が引き裂かれそうだ。
しかし、そんな俺の胸を前から強く押す者がいた。
「自分の攻撃で何を死にかけてるんだ。」
その声はとても平静でこの激しい力の乱流の中でも良く聞こえた。
本当に俺の攻撃程度では痛痒すら感じていない様だ。
俺は押される事でその中から弾き出され皆の前に背中から倒れた。
「「「ユウ!」」」
その姿に後ろに居た皆が心配そうに駆け寄って来る。
俺は何とか立ち上がると先程まで自分がいた所に目を向けた。
するとそこには一人の男が立っておりこちらを見下ろしていた。。




