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217 拠点壊滅 ①

俺が拠点の一つに到着すると近くの森へと降り立った。

そして周りに視線を向けるとそこは当然、唯の森ではない。

ここは魔物であるイビルエントが密集した魔物の森だ。

俺が下りると枝や蔦で攻撃してくるが本気の浄化を放って一気に彼らを普通のエントに戻した。

以前の経験からイビルエントは浄化さえすれば大人しい普通のエントに戻る事は分かっていた。

ここを精霊達の避難場所にするためにエントに思念を飛ばしてみる。

すると彼らも精霊とは仲が良いのかすぐに了承してくれた。


「それじゃあ行って来るからな。」


俺はそう言って砦に向かって走り出した。

やはり何処に入るにしてもノックは必要だろう。

俺は砦にある巨大な門の前に立つと兵士に聞こえる様に大声を上げた。


「この門を開けてくれー!」


すると門の上に居た兵士が数名こちらに顔を覗かせる。

しかし、その顔からどうも歓迎はされていない様だ。


「誰だ貴様は。ここは一般人立ち入り禁止だ。大人しく帰れ!」

「なら用件だけ言うがここに捕らえている精霊達を開放しろー!」

「戯言をほざくな!出来るもんならやってみろ!入って来れたら相手をしてやる!」


その言葉に周りから一斉に笑いが上がり唾まで落ちて来る。

俺はそれを躱すと門の前まで行って拳を握った。


「許可があったから遠慮なく行かせてもらう。」


俺は拳を振るい、目の前の扉を粉砕した。

その余波で門を囲む壁も崩れて兵士が数名落ちて来たが気にしなくても良いだろう。

現に、落ちて来た兵士はそのまま立ち上がると剣を抜いて襲い掛かって来る。

約束を守るとは良い心がけだ。


「貴様、反逆者だな!各地で問題を起こしやがって。生きて帰れるとは思うなよ!」


俺は何も聞いていないのにその兵士は親切に情報を教えてくれた。

いや、兵士と言っては語弊があるな。

コイツの事は・・・そうだ。

反乱軍と呼ぶか。

実はここに来たのには訳があり、拠点の中に所属不明な兵隊が一番多く紛れ込んでいたからだ。

俺はそいつらをマーカーで識別して残った数名の兵士を容赦なく斬り捨てる。

その一瞬の出来事に反乱軍の兵士は自分の首に手を当てて生きている事を確認していた。


「アンタは味方か?」

「お前らの目的次第だな。俺は今日この国に来たばかりであまり事情を知らない。気に入らなければこいつら同様に差別も容赦もなく死んでもらうだけだ。」

「あ、ああ。俺の名はラントだ。ちゃんと話すから殺さないでくれ。」


そして俺は敵がこちらに来るまでの間にラントから事情を聞いた。

どうやら彼らはこの国のやり方に賛同していない一派の様だ。

辺境の人間ほど今のやり方に馴染めずこうして兵士をしながらチャンスを窺っているらしい。

そういった人間はこの辺境には多く、中央に行くにつれてそうでなくなるそうだ。

今でも辺境の村では隷属はされていても精霊達と上手くやっていると教えてくれた。

彼らが国から出ないのは精霊達を残して逃げられないからだそうだ。

精霊達は命令によって村から一定の距離までしか離れられないらしい。

それに強い魔物が多く、移動の際に襲われれば誰も助からない。

そう言った事情からこの国から逃げ出す者は居ないそうだ。


「まるで天然の牢獄だな。」

「村の周囲や畑は結界で守られているから安心だが一歩出ればそこは地獄と同じだ。移動が出来るのは兵士や一部の実力者だけさ。」

「ギルドは何も言わないのか?」

「ギルドも言ってはいるが効果は薄い様だ。それにあちらも国から出て行けば何も出来なくなるからな。今は情報収集と俺達の様な奴らの支援をしてくれている。」


それなら、ギルドに行けば少しは協力してくれそうだ。

スパイの事を考えると大っぴらには動けないが無いよりはましだろう。

そして、壊れた門の方を見るとそろそろ兵士たちが集まり切ったようだ。

マップを見るとその後方では倉庫のような所で反乱軍がせっせと精霊達を開放している。

どうやら彼らは俺と違って穏便に精霊達を開放する手段を知っている様だ。

何かプレートの様な物を翳して首輪を外して回っている。

後は集まって来たこの兵士たちを始末すれば良いだけだ。

しかし、見ると天使憑きが数名混ざっている。

どうやらデーモン憑きまでいる様だ。


「一応聞くが天使やデーモンを開放する手段はあるのか?」

「彼らに関しては憑かれた本人が許可を出すしかない。体を完全に磨り潰すかすれば体からは出て来るらしいが。それまでは首輪を外す為の魔道具が反応しないから無理だ。」


俺も最終手段でそれは考えていたが気分的にやりたくない。

それでも俺には別の手段もあるのでそれを使わせてもらおう。

話を聞けば首を斬り落としても天使は死なないようなので安心して皆殺しにさせてもらう。

この中に亜神は居ないので聖剣を使わなくても大丈夫そうだ。


俺は両手に剣を持つと敵の兵士に向かって行った。

殆どの兵士は一振りで武器ごと切断して始末できる。

しかし、天使やデーモンが憑いている者は一味違う。

手加減していると交わされるし中には飛んで逃げようとする者まで居る。

今は情報の拡散は避けたいので逃がす訳にはいかない。


俺は総勢で50人程の敵を倒すと天使を開放し続いてデーモンも解放する。

デーモンは暴れるかと思ったが軽く頭を下げて飛び去って行った。


(ああ、ナトメアの寵愛があるからか。)

『忘れてましたね。』

(あんまり役に立ってないからな。)


寵愛があるとそれをくれた相手と同種族から信頼を得られる。

まさかデーモンから感謝される時が来るとは思わなかったが彼らが大人しく去ってくれるなら事態の混乱が少なくて助かる。

俺は初めてまともに役に立ったナトメアの寵愛に感謝しながらデーモンを見送った。

彼らも今の世界では重要な役目がある。

後で実害となって押し寄せて来る場合もあるが邪険には出来ない。


「デーモンも逃がすのか?」

「今は細かい事は気にしている暇はない。そこの森を浄化しておいたが無駄になりそうだな。」


一時的な避難所だったがこの中はもう大丈夫そうだ。

逆にエント達にはこの中に避難してもらった方が良いかもしれない。


「ここの結界の通行証はあるか?」

「それならあるぞ。」


俺は大量の通行証を手にして森に向かった。

結界は砦の外の広い範囲をカバーしている。

彼らが行っても十分に入りきるだろう。


「これを付けてあの砦に向かってくれ。その後の事は自由にしてくれて構わない。」


俺はその後、エントの枝に通行証を下げて行き、一度拠点へと戻った。


「これからあのエント達が全部こっちに来るからな。後の事は任せたぞ。」

「分かった。お前も気を付けろよ。中央の奴らの中には化け物の様に強い奴も居る。特に新王はその中でも別格だ。」

「分かった。情報に感謝する。」


俺はそう言って次の砦へと向かって行った。

今度は中央を飛び越えて東側の砦に攻撃を仕掛ける。

どうも西と東の拠点に人が少なかったのは中央に人員を終結させていたからのようだ。

拠点の規模は同じなのにその10倍で500人以上の人間が集まっている。

この人数なら今のディスニア王国くらいは落とせそうだ。

もしかすると何かを仕掛けようとしているのかもしれない。

先程の話をしたラントからは何も聞けなかったのだ次の拠点に居る反乱軍から情報を得よう。

知らなければ後で直接確認すれば良い事だ。


拠点に到着するとそこは海に面した港町のすぐ傍に建っていた。

この国は東西南北の内、北以外を海に囲まれているのでこういう港町も多い。

そして、どうやらこの砦の周辺には人よりも亜人奴隷の方が多い様だ。

確認するとそれ以外にも多くはマーメイドやケルピーといった海の魔物や霊獣たちだ。

動物系の獣人も少し居るが数は少ない。

これはイソさんが見たらまた激怒しそうだ。


俺はまず、港町へと向かい入口の門番に声を掛けた。


「ここは立ち入り可能か?」

「ん?ああ、ここはあちらの砦と違って誰でも入ることが出来る。気にせず入ってくれ。」


ここは大きな港町だが村などと同様に身分証のチェックはしない様だ。

俺のギルド証にはSSと書かれているので都合は良いがこうなるとこのギルド証では少し困る事になる。

帝国とギルドの関係が上手くいっていないのなら、SSランクの俺はこの国なら見れば明らかに不穏分子になってしまう。

適当な所でBランクぐらいのギルド証を作った方が良さそうだ。


その為に俺はまずはギルドに足を向けた。

そして中に入ると銛を持った剣呑な顔の男達から容赦のない威圧を浴びせられる。

しかし、どこのギルドでも似たような物なので完全に無視して受付に向かった。


「ここのギルマスに会いたいんだが?」

「あなたは?」


俺はギルド証を出すとそれを受付に見せた。


「確認します。え!SSランク!?」


するとその声を聞いて俺に向けて一斉に視線が突き刺さる。


(おいおい、ここの受付嬢は守秘義務も守れないのか。)


俺は呆れながら頭を抱えて受付嬢を見ると「しまった」と口を押えてこちらを見て来る。


「もう遅いだろ。」

「す、すみません。」


俺が溜息を零すと頭を下げて謝って来るが当然、謝って済む問題じゃない。

現に俺は先程の銛を持っていた男達に囲まれてしまっていた。


「何か用か?」

「お前本当にSSか?」


質問に質問で返されたが俺は軽く頷いて返した。

こうならない様にギルドで別のカードを作ってもらえるようにここのギルマスにお願いに来たのに逆にトラブルに巻き込まれそうだ。


すると男は急に銛を構えると俺に突きを放ってくる。

躱しても良いがそうなると俺の後ろに座ってしょげている受付嬢の顔に穴が開いてしまう。

俺は動く事無くそのままの態勢で銛を体に受けた。

もちろん相手は途中で寸止めするつもりは無かった様で銛は俺の体に食い込んでいる。

しかし、それは先端の数ミリだけで皮膚すら貫けていない。

ただ、服には小さな穴が開いたので後でスキルを使い修復する必要がありそうだ。

俺は涼しい顔で男に視線を向けると声を掛けた。


「痛いじゃないか。」

「フッ、そんな顔で言われても説得力が無いぞ。」

「それで、これはどういった歓迎の仕方だ。」


俺がそう言うと首を振って着いて来いと言って来たので男に続いてギルドの階段を上って行く。

そしてある部屋の前に到着すると足を止めた。


「ここはギルマスの部屋か?」

「ああ、その通りだ。」


男はそう言って扉を叩くと中に入って行った。


「ギルマス。話がある。」

「だからいつも言ってるだろうウィル。叩いた後は返事を待て。」


部屋に入るとすぐに椅子に座る男から文句が飛んで来た。

しかし、ウィルと呼ばれた男は堪えた風もなく机の前まで行くと俺を親指で指示した。


「コイツを雇いたい。どうにかしてくれ。」

「また突然だな。依頼した冒険者が逃げたからと言って適当に連れて来ても良い結果は得られんぞ。」

「それなら大丈夫だ。こいつはランクSSの冒険者だからな。」


するとギルマスの顔が驚愕に変わった。

まあ、ギルドの基準で言えば俺の強さはドラゴン級だ。

そんなのをいきなり連れて来れば驚くのも当然か。


「君は本当にその若さでSSになったのか?」


疑り深いのか慎重なのかは分からないが俺はギルド証を出してギルマスに見せる。

ギルマスはそれを見て唸ると俺に返してウィルに顔を向けた。


「お前はこのランクの冒険者に依頼する時の金額を知っているのか。最低金貨で200枚。今回の事を考えれば500枚は掛かるぞ。それをどう負担する。」


するとウィルは歯を食いしばり拳を握って俯いた。

どうやらそれなりの事情があるのだろう。

そして、ギルマスの話は続いた。


「今は焦るな。奴らはある精霊を捕えるためにこの付近の兵士を集めている。頃合いを見計らい彼らも動くだろう。」


恐らく彼らとは反乱軍の事だろう。

傍にある拠点にも潜んでいるのでこの期に行動を起こすようだ。

しかし、このギルマスは何かの情報を握っていそうだな。


「もしよかったら奴らの目的を聞いても良いか?」

「ん?・・・まあ良いだろう。SSランクならそれくらいの権限はある。実は奴らが探している精霊が幾つかある。一つは精霊王。彼らを捕らえて従属させられれば世界が手中に落ちたも同然だ。そして二つ目がゲートという能力を持つ精霊だ。先日あちらの大陸から帰還した者が話していたらしい。長距離でも数千人を一気に移動できる能力がある精霊がいるとな。」


それは恐らくマリベルの事だろう。

あの時はあれ以外に手段が無かったので仕方なかったがどうやらガストロフ帝国の密偵が紛れていたようだ。

あの時の奴らには全員マーカーを付けているのでこの国に居ればすぐに分かる。

審問して黒なら確実に始末しておこう。


「実はその精霊がドワーフ国に居ると知らせがあったらしい。その後に連絡が付かなくなったそうだがそれで軍を動かす事に決まった。そして、最後の一人が幻の精霊と言われる精霊の母であるオリジンを捕らえる事だ。どの国でも深く関わる事がタブーとされている精霊だが神王を名乗るこの国の王はオリジンを強く求めている。噂ではとても美しいと言う事なので自分の妃にでもするつもりなのだろう。」

「そうか。それは良い事をたくさん聞けた。それで、お前らはどんな依頼で冒険者に逃げられたんだ?」


俺がそう聞くとギルマスは少し悩んでウィルに視線を向けた。

どうやら話すかどうかの判断は彼に委ねられた様だ。

しかし、ウィルは迷いなく俺に視線を向けると内容を話し始めた。


「実は俺にはマーメイドの妻が居る。そいつは今は奴隷として働いているが俺はそれから解放してやりたい。その為には奴らの持つ解放の魔道具が必要だ。だから、あそこを落とすために協力してくれ。」


ウィルはそう言って俺に深く頭を下がる。

俺はそれを見て軽く肩を叩き顔を上げさせた。


「ならこいつを使え。」


俺はさっきの拠点で手に入れておいた解放の魔道具をウィルに渡した。

こういう時の為に持ってきておいてよかった。

1つしかないが新しいのは目の前の拠点にあるだろう。

そこでまた幾つか手に入れておけば良い。


「これはまさか・・・。」

「さっき拠点を落とした時に反乱軍から貰った物だ。これを持って早く奥さんを自由にしてやれ。」

「しかし、金は準備してないぞ。」

「俺にもマーメイドの嫁がいるからな。困った時はお互い様だ。」

「ああ、ありがとう!」


ウィルはそう言うと大喜びで1階に駆けて行った。

すると途端に歓声が沸き起こり沢山の足音が外へと消えていく。

その様子を窓から見ていたギルマスは笑顔を浮かべると俺に振り向いた。


「気前が良すぎないか?」

「二人になったから言うが、さっきアンタが言っていた精霊は全員が俺の嫁と、知り合いと、居候だ。狙って来る奴は徹底的に潰す。どっちみちそのつもりでこの国に来たからな。」

「そうかい。なら任せるよ。俺に何か出来る事は無いか?」

「それなら偽装の為にBランクのギルド証を作ってくれ。これだとさっきみたいな問題が起きる可能性が高い。」

「それならすぐに準備させよう。」


そしてギルマスがベルを鳴らすと先ほどの受付嬢が顔を出した。

彼女は叱られるのかと思って縮こまっているがギルマスからの指示を聞くと俺に視線を向けて来る。

それに対して軽く手を振って笑顔で返すと彼女は頭を下げて駆け出していった。


「アイツが何かしたのか?」

「ちょっとしたうっかりだ。叱られる程の事じゃない。」


俺がSSランクでなければそれほど問題になるような事ではなかった。

今後は今日の反省を生かして頑張ってくれる事を願う。

そして数分後には先程の受付嬢が戻って来た。

そこにはしっかりと俺のギルド証が握られている。


「これをどうぞ。」

「ありがとう。次からは気を付けてくれよ。」

「はい。」


俺はその返事を聞くと部屋から出て行った。

海岸に少しだけ視界を飛ばすと嬉しそうに抱き合う複数の男女が居るので無事に解放が出来たようだ。

後はあの砦を落とせば大丈夫だろう。


そして俺はさっそく砦へと向かって行った。

少し寄り道になったが必要な事だったと思おう。

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