20 デーモン②
俺はその後も戦闘を続けていたがアデルは俺を警戒し遠距離からの攻撃に切り替えて来た。
その為俺の耐性スキルもかなり上昇している。
・毒耐性5→8
・麻痺耐性1→7
・腐食耐性6→8
・威圧耐性4→5
・夜目4→6
・再生4→6
そして耐性が上がってもそれぞれの状態異常やダメージはある程度受けるので俺の後ろではライラ達が必死に俺を回復させてくれる。
なのでレベルの低いアキトたちは既に魔力切れを起こしていた。
その他のメンバーもライラは余裕がありそうだがアヤネとアリシアはかなりきつそうだ。
そしてこのままでは回復役が居なくなり押し切られると判断しここで一気に勝負に出る事にした。
まず成長力促進・改をレベル10に上げる。
これは問題なく以前と同じように一ポイントでレベルを上げきる事が出来た。
すると俺の耳元でアナウンスが流れる。
『成長力促進・改がレベル10に上がりました。これにより全上位スキルがスキルポイント1で上昇可能です』
恐らくだがスキル剣聖の事を言っているのだろう。
これでこの剣聖というスキルもレベルをMaxまで上げられそうだ。
俺はすぐに剣聖のレベルを10まで上げ、これによりスキルが引っ張られるように進化を遂げた。
『直感が先見に進化しました。』
『スキルが統合され五感強化に変化しました。』
『魔刃が魔装に進化しました。』
『隠密が気配遮断に進化しました。』
『身体強化が身体強化・改に進化しました。』
『思考加速が高速思考に進化しました。』
『聖装を習得しました。』
『天歩を獲得しました。』
先見はどうやら敵の動きの先が見える様になるスキルの様だ。
普通の脳なら処理に困るが思考加速が高速思考に進化してくれたおかげで脳が焼き切れることは無さそうだ。
五感強化は任意の感覚を強化できるようになったみたいだが今はスピードに感覚が追いついていなかったのでとても助かる。
魔装は今まで武器にしか纏えなかった魔力を体全体に纏えるようになった様になりこれで防御力が格段に上昇する。
隠密は今までは気付かれにくくするだけで何かの拍子に認識されてしまっていたが、気配遮断はそれさえもカバーしてくれるようになった様だ。
そして聖装は武器と体に聖属性を纏えるようになるスキルだ。
魔装と似ているがこちらは悪魔・デーモンに特攻があり、目の前のアデルには有効だろう。
天歩は字の如く空中を足場にして移動するためのスキルになる。
これを使えば壁の無い所でも立体的な戦闘が可能になり、空を移動できるアデルにも対応できる。
俺はそれらを一瞬で確認すると剣を下げて構えを解いた。
するとアデルは俺が諦めたと勘違いして魔剣で切り掛かって来る。
俺は即座に聖装を纏い新たなスキルを活用して攻撃を防いだ。
剣が体を掠めたが聖装のおかげで呪いには掛かっていない。
しかし、呪いは防いだが受けた事には変わりないのでスキルレベルが上昇した。
『呪い耐性のレベルが2に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが3に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが4に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが5に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが6に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが7に上昇しました。』
『呪い耐性のレベルが8に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが2に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが3に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが4に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが5に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが6に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが7に上昇しました。』
『即死耐性のレベルが8に上昇しました。』
どうやらアデルが言っていた事は正しかった様だ。
その証拠に耐性が一気に上昇したのでもしこの攻撃をまともに受けているとスキルレベルが上がる前に死んでいたかもしれない。
それに即死の呪いとは聞いていなかったので敵に全てを言わない位の警戒もしているようだ。
もしかしたら成長力促進・改に進化した事で成長速度も上がっているのかもしれない。
しかし、そんな事を知らないアデルは俺が無事な事に驚愕していた。
「貴様!剣を受けて何故生きている。この呪いを受ければ貴様程度は即死しているはずだ。」
そしてようやく俺も喋る事が出来るくらいに余裕が出始めた。
まだ変化した多くのスキルが体と感覚に馴染んでいないために、まだ余裕と言っても小さいが防御面を固める事が出来た事は大きい。
「そんなのお前と戦って進化したに決まっているだろう。お前は十分に俺の糧になった。そろそろ決着を付けようか!」
「何を戯けた事を!そんな事は勇者くらいしか聞いた事が無い。貴様程度の男に俺が負けるはずがないのだーーー!」
しかし、アデルには既に最初にあった余裕は完全に消えている。
今では俺の攻撃を必死に捌いてはいるが対応しきれておらず体のいたる所にダメージを負っている。
しかも俺の聖装にはデーモンに特効があるため、そのダメージは見た目を大きく上回っている。
そして余裕のなくなってきたアデルは俺に条件を出して来た。
今の状況で聞く必要は無いが一応は聞いてやる。
昔からこちらの世界でも悪魔の囁きという言葉は有名なので興味本位だが聞いてみたくなった。
それに俺は別に油断している訳ではない。
俺の手は今も攻撃を緩める事無く続けアデルにダメージを与えている。
このままいけばアデルが言い切る前に決着が付きそうだ。
「き、貴様の願いを一つだけ叶えてやる。殺したい相手がいればすぐに殺してやろう。金が欲しいなら黄金をくれてやる。女が欲しいならお前の後ろの女共を従順なメスに変えてやろう。どうだ、いい条件だろう。」
しかし俺はアデルの言葉を聞いて頭で何かが切れる感覚がした。
そして、好奇心は猫をも殺すと言うが、僅か前の自分に呪詛を吐きたい気分になって来る。
やはりコイツの言葉に耳を傾けた俺が限りなく愚かだったようだ。
『限界突破を獲得しました。』
その途端俺の力と速度が一気に跳ね上がる。
それによりアデルは剣を上に弾かれ、俺はその隙を突いて両腕を切断する。
「ぎゃああーーー!俺の腕がーーー!」
しかし、そこで止まれる程に俺の怒りは小さくない。
更にその顔に拳を振り落として地面に叩き付けると跳ねるアデルを追って滅多打ちにしていく。
そして最後に地面へと突き刺す様な拳を振り下ろし、倒れたアデルに答えを叩きつけてやる。
「お前には俺の望むモノが理解できてないみたいだな。俺が求めるのは平穏なんだよ。そんなの受け取って誰が喜ぶか!」
俺はそのまま動かなくなったアデルの首を切り飛ばして戦いに決着をつけた。
それにこの短い間に俺のスキルは更に成長見せている
・高速思考1→3
・身体強化・改1→3
・先見1→3
・縮地1→5
・瞬動6→7
・聖装1→3
・挑発1→5
今回のデーモンとの戦いは俺にとってとても大きなものだった。
経験という面でもスキルポイントの節約という面でも。
ただ最後にここまで不快になるなら早く決着を付ければよかったと少し後悔している。
もし今後、この様な人間が俺の前に現れた時に俺は自分を抑えることが出来るだろうか?
こいつは俺にああ言ったがおそらくは人間の中でもあの誘惑に頷く者がいないとは限らない。
というよりも確実に居ると断言できる。
俺は大きく息を吐いて気分を落ち着かせるとアデルの死体に背を向けて歩き出した。
だがここで俺の頭に疑問符が浮かんだ。
(こいつは死んだはずなのにどうして消えないんだ?もしかしてこれでまだ生きてるのか?)
そう思った瞬間、アデルの体は光に包まれ宙に浮かび上がると斬り飛ばした首が元の戻り回復して行く。
しかしその白い光は俺の聖装の光によく似ており柔らかくて温かさを感じる。
何が起きたのかと俺は目を細め警戒を強めてアデルの居た場所を睨み付けた。
すると光に包まれアデルは次第に形を変えて大きく姿を変え始める。
蝙蝠の翼は光を放つ羽を持った純白に染まり、その逞しい体は少女の様に細く丸みを帯びて行く。
そして黒の髪は背中まである銀髪に変わり黒かった服は白いトーガに形を変化させた。
身長も先ほどまであった2メートルから縮まり150センチ程まで小さくなる。
身長のわりに胸はデカいが顔は童顔で高校生なりたての様な可愛らしさがある。
そして次第に光が治まるとその少女は目を開け赤い瑪瑙の様な瞳で俺を見詰めて来た。
しかし、俺を確認するとその場に膝を付き両手を胸の前で交差させると頭を垂れる。
「契約により私は今日からあなた様のモノです。主の願いにより全力であなたの平穏をお守りします。どうか私をテイムしお傍に置いてください。」
どうやらアデルとの口約束はしっかり契約として作用したようだ。
しかも俺の最後に言った言葉がそのまま願いになるとは思わなかった。
予想外の結果が色々と起きて混乱気味だがそこは良しとしよう。
そんな事よりも何で悪魔が天使になったのかが俺には分からない。
しかもこの流れはコイツも家に住む事を示している。
俺は助けを求める様にライラに視線を向けるとライラは結界の傍まで来ておりこちらへと手招きしている。
俺はそれに従いライラの下へと向かうと困った表情を浮かべて見せた。。
「これはどういった状態なんだ?」
「悪魔は倒されると天使になって甦るの。逆に天使は死んだり悪事を重ねると次第に翼が黒に変わり悪魔になるのね。今回はユウが悪魔と契約して倒す寸前に願いを言ったからそれが天使の状態で履行されたの。ああなった天使はあなたが許可を出すまで死ぬまであそこから動かないわよ。」
そしてライラの顔にはヤレヤレという雰囲気が漂っている。
同時に小声で「またですか」とアヤネとアリシアが話しているのが聞こえた。
しかし俺は望んで今の状況になった覚えはないはずなのに酷い言われようだ。
ただ行き場のない者が俺の家に住み着いているだけのはずで、それにはホロ以外の3人も含まれているはずだ。
(まあ、ホロは俺の愛犬だし、ライラは恋人になったので問題ないんだけどな。でも君たちはれっきとした居候だよ。それを思い出して出来るだけ聞こえない様に話そうよ。)
そんな事を考えながら俺は先程から微動だにしない天使に歩み寄った。
倒れるまで動かないなら放置するが死ぬまでとなると話が変わってくる。
死ねば悪魔に逆戻りする訳でそうなれば再び厄介ごとが起きそうな気がするからだ。
それなら仕方がないとして連れ帰るのもやむなしだろう。
だがこの姿はどうにかならないのだろうか。
ハッキリ言って今の彼女の姿は直接背中を見なければ羽を背負ったコスプレ少女だ。
しかもかなりゆったりした服を着ているのでこの寒空の下では風邪を引きそうだ。
それにこんな薄着の少女を連れて歩いていれば周りから何を言われるか分からない。
俺はまずそこをどうにか出来ないのか聞いてみる事にした。
牧場主のオオノキさんの話だと悪魔の時に最初は翼を仕舞っていたらしい。
もしかすると天使の時にも出来るかもしれない。
それに天使に変わる時、服も変わっていたので変更可能かもしれない。
「家に来る事は認める。でも先にその背中の翼と服装はどうにかならないか?」
すると彼女は無言で翼を折り畳み背中の中に消して行った。
服はどうするのかと思えばライラ達の服を参考に現代人の様な服装へと変えて見せる。
するとライラ達に向けていた顔が再び下がると感情の感じられない平坦な言葉が返って来た。
「これでよろしいですか?」
俺はその服装を見て納得すると彼女が望むようにテイムを発動する。
彼女はそれを受け入れたので今日から家に住み着くモノ第4号となった。
「そう言えば名前は何て言うんだ?」
俺はまだ彼女に名前を聞いていない事を思い出した。
それにこれから共同生活をするなら互いに自己紹介をするのは大切だろう。
「俺は最上 夕。ユウと呼んでくれ。」
「ユウ様ですね。それと申し訳ありませんが私には名前がありますが悪魔も天使も真名は通常名乗りません。ですので良い名前を付けていただければ幸いです。お嫌でしたらゴミでもカスでもお好きなように。」
俺は彼女の言葉に一瞬呆れるが、それなら既に決めている。
その赤い瞳を見た時に瑪瑙を連想した。
だから俺達がこいつの名前は呼ぶ時はメノウだ。
安直だが響きも良いし俺自身も瑪瑙は嫌いではない。
「それならメノウと呼ぶ事にする。嫌なら変えるがどうする。」
すると彼女は口の中で同じ言葉を繰り返し納得したのか頷いて俺を見上げた。
その顔は今も無表情だが、何処となく嬉しそうに見える気がする。
「良い名前だと思います。それではこれからはメノウとお呼びください。ユウ様。」
「なら俺に様は付けるな。俺はそんなに立派な存在じゃあない。それとその硬い口調はどうにかならないか?肩が凝るというか落ち着かない。」
するとメノウは少し考え、先程までの無表情が嘘のように消えて笑顔になる。
「それなら普通に話すね。普通はさっきみたいに喋った方が相手も自分が主らしいって喜ぶんだけどユウさんは違うみたい。こんな私だけどあなたの為に尽くす気持ちは変わらないからみんなで仲良くしましょ。それにしても奥さんがもう4人もいるなんてお世話が大変そう。私も別に5人目になっても良いからいつでも声を掛けてね。」
そんな風にいきなりフランクになった彼女は俺の後ろのライラ達に笑顔で手を振っている。
その後メノウはライラから結界に入るための首飾りを受け取り俺達と一緒にオオノキさんの待つ家に向かった。
(俺は未婚者なんだけどな・・・。)




