2 ライラ現る
俺はメールに気が付くと携帯を手に取り操作を始めた。
するとそこには幾つかのメールが届いていたのでまずはタイトルを確認していく。
『お祝いの言葉』
『レベルアップ』
『便利機能』
そして俺はまず一番初めに送られてきた『お祝いの言葉』を選んで操作しメールを開いて目を通してみる。
『おめでとうございます。あなたはこの世界で一番初めに魔物を倒した人になりました。次の中から好きなスキルを5つ選ぶことができます。それとスキルは今後も条件を満たせば習得可能です。考えて取りましょう。』
そして、文章に続いて選ぶことのできるスキルが表示され、それを見た俺は目を見開いた。
そこには一般的な剣術などもあったが魔法というスキルまで存在したからだ。
しかし取れる魔法の中には更に種類があり生活魔法、白魔法、黒魔法、召喚魔法、空間魔法と複数が存在している。
どれも最近の小説ではなじみ深い物で生活魔法は掃除や飲み水や衣服の浄化などのほか、ライトなどもあるようだ。
白魔法は補助と回復。
黒魔法は火、水、土、風などの属性のある攻撃魔法。
召喚は契約した相手を呼び出せる。
空間は移動系や収納系のようだ。
しかもそれぞれレベルが設定してあり横に(1/10)と書いてある。
そして他のスキルにも同じことが書いてあるので仕様は統一されているようだ。
俺はそれらを見て悩んだが選べる権利は既に得ているので先に他のメールを確認することにした。
「次はこの『レベルアップ』だな。」
俺は次にそのメールを開くと中を確認してみる。
『アナタは魔物を倒したことでレベルを獲得しました。現在は1です。確認はステータスプレートで可能です。ステータスと念じれば見ることができます。』
俺はさっそく書いてある通りにステータスと念じてみた。
すると目の前に青い半透明の画面が浮かび上がり色々なことが表示されている。
それを確認してみると俺の名前とレベルだけでなくスキル欄も表示されていた。
そして今の段階で得ているスキルは剣術、算術、言語、など一般的な物が多い。
しかし俺は剣を習ったことが無いのに剣術のスキルを覚えているのは木刀でゴブリンを倒したからかもしれない。
それ以外に使えそうなスキルを探していると何故か生活魔法を見つけることができた。
「もしかして自炊してたからか?いや、それなら家事とか料理とか・・・。あ、それはそれで別に覚えてるな。」
まあ、ラッキーということにしておこう。
これで魔法のスキルは絞り込めたからな。
そして最後に『便利機能』を開いて読んでみる。
すると急に携帯が激しく光り俺は咄嗟に手から離して目を庇った。
「な、なんだ!?」
そして光が納まると俺は目を開き落とした携帯を探した。
すると携帯はすぐに見つかったので拾い上げるが、何故か反応が無く画面も消えてしまっている。
「あれ、電源がつかない。もしかして壊れたか?」
そして、俺が携帯を操作していると耳元で『ポン』と軽い電子音が鳴り周りを見回してみる。
しかし、今はイヤホンは着けていないしテレビなどの音の出る家電も点けてはいないので意味が分からない。
「なんだ、この音は?」
そして開きっぱなしだったステータスプレートに新たな項目が増えていることに気が付いた。
それは先程までは確実になかった項目で先程から起きているファンタジーな状況には不釣り合いでもある。
「メールに電話? もしかしてこれで使うことができるのか?」
そして色々と試してみるとやはりステータスプレートに携帯の機能が取り込まれ融合したような形に変化したようだ。
しかし、そのせいで携帯が壊れたのなら大問題が発生してしまう。
それは登録していた知り合いの連絡先などのどうでも良いような物ではない!
俺にとってはもう手に入れることが叶わない重要で大事なデータがどうなってしまったかだ。
それにさっきから携帯を操作しても全く反応を返してくれないので焦りが次第に大きくなっていく。
「・・・・・。おい、まて。携帯のメモリーはどうした。あの中には俺のお宝写真が大量に入っていたんだぞ!」
そして俺は最後の望みを託し注意深くステータスプレートをチェックしていく。
すると追加されるように幾つかの項目が増えておりそこを乱暴に操作すると中身を確認していった。
「メモリーにカメラ、あとビデオにテレビか。」
俺はそこに表示されているメモリーを選択すると急いで中身を確認してみる。
するとそこにはホロの幼い時から今までの写真が並び可愛らしい姿を俺に見せてくれた。
しかもこのステータスプレートはかなり優秀なようで携帯と違いサイズをある程度自由に変えられる。
(す、素晴らしい! 持っててよかったステータスプレート!)
その後、俺はしばらく写真を見直してから新たに来たメールに目を向ける。
そこには『ステータス機能の拡張に成功しました。』と書かれており、どうやら先ほどのことを通知してくれたようだ。
俺は一息入れて再び取得可能なスキルを選択するとそこに書かれている項目に視線を走らせる。
その結果、選んだのは白魔法・黒魔法・空間魔法・成長力促進・探知を選んだ。
成長力促進は獲得経験値が増え、スキルを覚えやすくなりレベルも上がりやすくなるようだ。
探知は視界にマップが表示できるようになり一定距離内の相手を探すことができる。
今は人が緑、魔物は赤に設定してある。
探知範囲は表示されているマップ上の建物の配置から50メートルといったところだろうか。
そして確認を続けていると再びメールが届いたことが通知され、一旦作業を中断してそちらの確認に移る。
「なんだかチュートリアルを受けてるみたいだな。」
そして、次に来たのは2通のメールだ。
『魔石について』
『開けてのお楽しみ』
少し聞き見逃せない物があるがまずは魔石からだ。
お楽しみと書いてあって気にはなるが、俺は美味しい物は後に残しておく質なので先にこちらから終わらせる。
『魔石とは魔物を倒すと出る石のことである。これは武器や自身の強化に使うことが出来る。ステータスプレートに触れさせれば魔石ポイントとして表示されるようになる。』
俺は試しにポケットから魔石を取り出しステータスプレートに触れさせてみる。
すると魔石は吸い込まれるように消えていき代わりに魔石ポイントという欄が追加された。
そこには魔石3つで30ポイントと表示されているので、どうやらゴブリンの魔石は1匹10ポイントのようだ。
それを確認してから次にもう一つのお楽しみメールを開いてみる。
しかし、そこには簡潔にこう書かれていた。
『掛かったな!(ニヤリ)』
この時、俺は最後の最後で騙されたと感じ何が起きるのかと警戒を強めた。
すると数秒して今度はステータスプレートが激しい光に包まれ、青色の魔法陣のような物が浮かぶと高速で回転を始めた。
それは次第に赤く染まり俺の前に空間の歪を作り出すとそこから人の足が突き出し、手まで現れる。
そして体が突き出し最後に首から上が現れると二本の足で床へと舞い降りた。
その姿は俺と変わらない人間に見え、どう見ても性別は女に見える。
身長は160センチくらいと俺よりも10センチは小さく、髪は黒に近い青で瞳は緑。
だが瞳孔には蜥蜴のような線が入っていて普通の人間とは思えない。
それに胸はそこそこあるが顔は大人一歩手前くらいの少し可愛らしさの残る感じで今時では主流になっている若手アイドルみたいだ。
それに見ようによっては美人だし、可愛いとも言える絶妙なバランスを保っている。
服はレースが使われたドレスのように薄い黒のワンピースに黒のローブで、手には木でできた杖を持ち頭には魔女のような尖がり帽を被っているので、物語によっては魔法使いのような印象を受ける。
そして足にはブーツを履いていて土足で立っているが今だけは広い心で我慢して許してやろう。
しかし、それに驚いたホロが俺の足元で震えているので出てくるのは良いがもう少し静かに現れてほしい。
しかもそう思った直後に女は俺を指差して高笑いを始めた。
「ははは、掛ったな。」
「それはさっき読んだ。いいからその先を言え。」
俺がテンション高めな女とは対照的に冷たくあしらうと、そいつは顔を引き攣らせて腕を組み直した。
そして俺を見下ろすように胸を反らすと再び大声を上げた。
ただし、身長は俺よりも低くそんなことをしても胸が強調されるだけだ。
もちろん俺も男なので少し2つの丘へと視線が行ってしまうがすぐに視線を戻して互いに視線をぶつけ合った。
「私は天才大魔導士、ライラ・リディア。私が世界を融合させた者だ。」
「それも予想の範疇だ。いいから目的を言え。お前が騒ぐからホロが震えているだろ。いい加減にしないと本気で殴るぞ。」
俺は本気の思いを言葉に込めると睨み付けながら言い放った。
するとスキルの獲得に成功したらしく、耳元で声が聞こえてくる。
『威圧を獲得しました。』
(お、丁度良いスキルを覚えたみたいだな。この機会に早速使ってみるか。)
そして俺が威圧を込めて睨むとライラは急に額から冷や汗を流し体も震え始めた。
どうやら効果があったようで目にも涙が浮かんでいる。
「う、うむ。実は研究ばかりしていてもうお金がないの・・・。だから養ってくれない?」
その途端俺の威圧が増していくのは言うまでもないだろう。
それと同時に威圧のレベルが上がり、それを知らせる通知が耳へと届いてくる。
『威圧のレベルが2に上がりました。』
『威圧のレベルが3に上がりました。』
『威圧のレベルが4に上がりました。』
ちなみに俺は別に同居させてくれなら文句はない。
部屋も家具もあるしホロがいると言っても一人と1匹ではこの家は広すぎる。
しかし、養ってくれとはこれ如何に。
(こいつはもしかして俺を舐めてるのか?)
ライラは既に汗を通り越して涙目で顔色も悪い。
しかし、いくら顔立ちが綺麗でもこんな心構えでは簡単に許す気はない。
するとそんなライラに心優しいホロは歩み寄りあやすようにジャレ付いた。
どうやら登場は最悪だったが、ライラが怖がって縮こまったことでホロの恐怖が和らいだようだ。
ホロはライラに鼻を擦り付け可愛くお腹を晒している。
するとライラはその姿に「へ?」と声を洩らすと許可を求めるように俺を見た。
「撫でてやればいいだろ。」
俺はホロのその姿に毒気を抜かれ威圧を解除し椅子に座ると小さく溜息を零した。
その後ライラはホロの毛並みを堪能すると落ち着いたのか俺の向かいにある椅子に腰を下ろして席に着いた。
そしてホロはと言うと俺の足元で寝転がり、満足そうに口角を上げてスヤスヤと眠り始めている。
きっと初めて見るライラに撫でられて疲れてしまったのだろう。
「それで、言うことはあるか?」
「養ってください・・・。」
「ダメだ。」
「う~。じゃあ体で払う・・・。」
「いらん。病気でも移されたらたまったもんじゃない。」
俺が素っ気なく言葉にするとライラは立ち上がり声を荒らげた。
「な、何言ってるの。私はれっきとした処女よ!病気なんて持ってないわ・・・。て、何言わせんの馬鹿!!」
勝手に言ったくせに酷い言いようだ。
それに大声を出すからホロが驚いて起きてしまったじゃないか。
この家ではホロが基準で最優先だ。
テレビも音を抑えるし、大声も出さない。
こいつはそれを知らないがもう少し常識をもって話をしてもらいたい。
もしかして犬の聴覚が人間の6倍以上だという常識すら知らないのか。
それに病気はやれば移るとかではなく唾液の飛沫や糞尿、表皮にさえ存在する。
異世界から来たという目の前の女を家に置けば俺だけじゃなくホロまで危険に晒してしまう。
俺はそのことをストレートに、一切オブラートに包むこと無く伝えた。
どうもこいつにはハッキリ言わないと通じない気がしたからだ。
しかしライラは納得したように『ポン』と手を叩いて「それなら大丈夫」と返してきた。
いったい何が大丈夫なのか不安であるが、彼女は手に光を集めるとそれを自分に押し当てる。
「生活魔法を私に掛けたわ。これで菌は死んだから大丈夫よね。」
「・・・・・お前馬鹿か。体内には必要な菌だって沢山いるんだぞ。そんな事してどうするんだ。」
しかし、ライラの笑みは崩れること無く説明を付け加えた。
「フッフッフ、大丈夫よ。この魔法は人体に悪影響を与える菌や寄生虫だけを殺すから。」
俺はライラの言葉に一瞬思考を加速させる。
すると周囲の動きが遅くなった感覚になり再び声が聞こえてきた。
『思考加速を獲得しました。』
なんだか意識しないところでスキルが勝手に増えていくな。
しかし今はそんなことよりコイツのことが最優先だ。
結論だけ言えば今の状況で養うのは問題しか感じられない。
ならば仕事を与えればどうだろうか。
金は出せないが飯なら出せる。
それに俺には親が残した遺産があるし一人くらいならどうにかなる。
少し前に株や土地を現金に換えたばかりで通帳には3億以上の金があるからな。
今の会社も特別思い入れがあるわけじゃないし辞めてもっと楽な仕事に変えても大丈夫だろう。
そして、俺はあることを思い出し壁に掛けてある時計へと視線を向けた。
「そろそろホロの散歩に行くか。ライラ、お前も来い。」
しかしライラは顔を歪めるとあからさまに拒絶の態度を見せた。
だが散歩と聞いて火の着いたホロを止めることはできない。
ホロはライラのローブを咥えると散歩に同行させようと玄関まで引っ張り始めた。
「ウ~ウ~!」
「ちょ、待って。引っ張らないでよ。分かったわよ。行けばいいんでしょ。」
するとライラも観念したようでスカートを押さえながら玄関へと向かっていった。
そしてホロは次にリードを咥えて俺の前にやってくるとキラキラした目でこちらを見上げてくる。
俺はリードを受け取りながらホロの頭を撫で木刀を腰に差して家を出た。
そのまま歩くこと10分程度。
予想していた通り街中に魔物は複数存在しているようだ。
俺はゴブリンを見つけては始末して魔石を拾っていく。
そんな時。
「ガウ、ガウ」
「ギャギャ!」
俺はライラにホロを任せてゴブリンと戦っていた。
しかし、犬の散歩の経験が無かったライラはホロに引っ張られてリードを離してしまったようだ。
ホロはそのままゴブリンに駆け寄るとその足首に噛みついて見事に怯ませ隙を作ってくれる。
「隙あり。」
そして俺はすかさずゴブリンの頭を強打して倒しホロへと駆け寄った。
するとホロは「くしゅん、くしゅん、ゲーーー」と言いながら俺を切ない目で見てくる。
どうやら見た目通り味も最悪だったようで、まるで昔に飲ませた苦い薬を飲んだ後のような顔をしている。
俺はそんなホロを抱えるとすぐにライラの許へと戻って行きその前で足を止めた。
するとライラは落ち込んだ顔をしていて肩を下げて上目遣いに俺を見てきた。
どうやらホロのリードを離してしまったことで怒られると思っているようだ。
だが、そんなことはするつもりはない。
初めてなら誰しもあることだし、ホロは逃げ出したりしないからだ。
俺はホロを下ろすとライラの頭に手を伸ばし優しく乗せてやる。
それに反応しライラはビクリと肩を跳ねさせ目を瞑るが俺はその手をそっと動かしてゆっくりと撫でてやった。
「きゃっ!」
すると今度は驚いたような顔になり顔を上げて目を開ける。
しかし予想と違う結果に驚いているようだが、俺にどんな印象を持っているのか不安を感じてしまう。
別に俺は殴って覚えさせる様な性格ではないのだが、互いを理解できるようになるには時間が掛かりそうだ。
それにどちらかと言えば俺は褒めて伸ばすタイプなので余程のことでもしない限り手を出したりしない。
今回は失敗したが次回は気を付ければ良いのだからな。
「リードを離したのは失敗だが最初は誰でもあることだ。ホロは逃げたりしないからもしもの時は手を放して自分の安全を確保しろよ。」
するとライラは、はにかむように笑い「うん」と言って頷いた。
しかし元が可愛いのでその笑顔の破壊力は中々に強力だ。
出会い方が良ければそれだけで恋に落ちたかもしれない。
(それにしても、最初の強気な言葉遣いは何処に行ったのやら。もしかしてこっちが素なのかもしれないな。)
そして今の戦闘でホロも共闘したと評価されてステータスを得たようだ。
ホロはステータスが読めないので何が書いてあるかは理解できないだろうがレベルが上がれば強さも上がるらしい。
スキルも覚えることができるので危険が身近となったこの世界でも少し安心できる。
(これなら地元の信用できる友達には説明ができそうだな。俺と違って家族がいる奴ばかりだからきっと協力してくれるだろう。)
その後、ライラに頼んでホロを滅菌してもらい綺麗にしてもらった。
変なモノを噛んでしまったので安全のためにこれくらいは最低限で必要なことだ。
それに本人が体で払うと言っているのでこういうことでしっかり働いてもらうことにしよう。
その後、周囲のゴブリンを狩り尽くしたので俺はライラとホロを連れて家へと帰っていった。
そして家に入ると一番に確認するのは助けた女だ。
さっきのホロのことを考えればこっちもステータスを得ているかもしれない。
ちなみに俺のレベルは今の戦いで3まで上昇した。
それにレベルが上がるとスキルポイントというものが獲得できるようで、レベルが1上がるごとに10増えていて現在は20ポイント所持している。
そして既に取るスキルは決まっていてテイムと気配察知を覚えた。
ちなみにテイムは相手を選びその者が望んで初めて発動させることができる。
そのためホロに発動してみると簡単にテイムができたので、心の中だけでホッと安堵の溜息を零した。
しかしこれでもし拒否されたら俺の心が折れていたかもしれない。
今考えると何かご褒美を手にして使うべきだっただろう。
効果はテイムした相手となんとなく意思が通わせるようになりコミュニケーション能力が得られるみたいだ。
そして、今のホロから伝わる意思は『お腹空いた』なので効果は確かなのだろう。
これで何かを催促されても分かるし、何処を撫でてもらいたいかも分かる。
本当にテイムとはすばらしいスキルだ。
そして気配察知は周りの気配を感じて敵を見つけやすくする効果があるみたいだ。
探知を使っているとマップが視界を妨げてしまうのでのでとても助かる。
このままスキルを併用して上手く使っていきたい。
それにスキルのレベルも上がっていた。
成長力促進・探知・剣術が2に上昇している。
そして俺は一旦ステータスの確認を中断し時計を見ると時刻はそろそろ朝の6時になろうとしていた。
今日は朝からの出勤なのでそろそろ朝食の準備をしなければならない。
俺はまず冷蔵庫のチルドから買っておいた牛肉ブロックを取り出した。
「今日はこれにするか。」
「ワン!ワン!」
俺はパックを開けて包丁で一口サイズにすると軽くフライパンで炒めてお皿に乗せた。
するとそれを見ていたライラが俺の横へと近寄ってきて覗き込んでくる。
あまり近付くととんだ油で顔を火傷するので気を付けてもらいたい。
もしかしてこの歳まで料理をしたことが無いのだろうか?
「これはなんという肉なの?」
それに昨日ここに来たばかりのライラには肉の種類も分からないだろう。
俺はもう少し焼いて小皿に一つ載せるとその上からコショウと塩を軽く振ってライラに渡した。
「これは一般的に食べられている食用の肉だな。牛という獣の肉で人が美味しく食べられるように育てられている。口に合うか分からないが食ってみろ。」
するとライラは皿の肉を凝視したかと思うと一気に口に入れた。
初めて食べる食材なのに思い切りのいいことだ。
「ウミュウミュ・・・!!!う・・・美味い。美味いよユウ。」
どうやら口に合ったようだ。
世界が変われば食文化の違いから味覚も変わる。
それでもメイド・イン・ジャパンの牛肉は変わらず美味いようだ。
さすが日本が世界に誇れる物の一つだけのことはある。
(・・・こいつが美味いって事は魔物も美味いと思うんじゃないか?)
俺はライラの感想からある懸念を感じていた。
もし、牧場に魔物が現れたらこの肉が今後食えなくなる予感がする。
「ライラ、一つ聞いていいか?」
「なに~。」
どうやらライラは先ほどの牛肉の余韻に浸っているようで表情が凄くだらしなくなっている。
しかし、ただ焼いただけでこれなら焼き肉店に連れていったら感動して泣いてしまうんじゃないだろうか。
俺はそんなことを思いながらも贅沢なことを教えるのはしばらく先のことにして質問を続けた。
「魔物ってどこに出るか分からないのか?」
「そうだね~、拠点を潰せばしばらくは少なくなるよ~。でも今のユウが行ってもすぐ死んじゃうけどね~。」
どうやら拠点とやらを潰す必要があるがそれはかなり大変そうだ。
それに、ライラの言う通り今の俺はレベルも低くて明らかに弱い。
拠点ということはゲームで言うところのパーティ級(数人で挑む)の相手なのかもしれないな。
それなら、俺もレベルを上げながら情報を集めて拡散させていくしかないだろう。
俺は一応、今感じている懸念をライラに伝えておくことにした。
「この肉はプロの管理者が牧場で育てた牛なんだが、もしそこに魔物が現れるともう食べられなくなるかもしれないな。」
「・・・。」
すると俺の言葉にライラの表情が見るからに固まった。
どうやら日本の牛肉は異世界人にそれだけのインパクトを与えたようだ。
何やらライラの背中に『ゴゴゴゴゴ~』と擬音付きの炎が見える・・・気がする。
するとライラはだらしなかった顔を真顔に変えると何処からともなく一抱えもありそうな石柱を取り出して床に置いた。
「ふ~重かった。」
「それはなんだ?」
「これは結界石と言ってこれを置けば半径500メートル以内である程度までの強さの魔物を寄せ付けなくなる代物よ!」
どうやら小説等で町などを護っているアイテムと同じ物のようだ。
これがあれば雑魚は来なくなるのである程度までの被害は防げるみたいだな。
しかし、俺はこれから仕事があるので家を空けなければならない。
こうして話している最中にも時間だけは消費しているので急いで料理を完成させてテーブルへと並べていった。