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196 100階層ダンジョン ④

俺達が冒険者たちを起こすと状態異常も完全に回復したようで無事に目を覚ましてくれた。

以前の秘薬では不可能だったがライシアと、エルフの国で手に入れた解毒薬のおかげだろう。

もしかするとオリジンが言っていた万能薬の誕生が近いかもしれない。

後の問題は呪いに関してらしいが、それはもうじき目途が立ちそうだと言っていた。

手段や材料も教えてもらったが無理のない範囲で頑張って欲しい。

運が良い事に普通では手に入らない様な材料も大量にある。

それに手段に関しても今なら行える者は多く、これに関してだけは霊力を大量に保有しているシータを連れ帰って正解だったと言える。

そして、目を覚ました冒険者たちは俺達を見て一瞬警戒するが敵意が無い事が分かったのか、安堵の表情を浮かべた。


「アンタたちが助けてくれたのか?」

「あ、ああ。そう言う事だ。災難だったな。」

「手間をかけさせてすまない。まさかデビル・アイが出るとは思わなかったから準備が足りてなかった。礼をしたいがどうすれば良い?」


確かに彼らを助けるために秘薬を使ったので大出費ではある。

しかし、それはこちらが負わせた傷を治すために行った事だ。

それまでは一番大きな傷でも腕を軽く切られていたくらいで大した傷は負っていなかった。

手間も俺とは相性が良すぎたので苦労はしていない。

しかし、彼らもプロとして俺達が何も要求しない事は良しとしないだろう。


「なら一つだけ要求をする事にする。」

「何だ?」

「俺達が困っている時にお前たちの力を借りたい。命を懸けろとは言わない。出来る範囲の事で構わない。」

「そんな事で良いのか?」

「俺達はこの街では新参だ。あんたらの言葉が必要な時もあるかもしれない。」


すると最初は困惑していた彼らも最後は納得してくれた。

彼らとしても装備をもう一度整えなければ戦闘も出来ない程にボロボロだ。

どっちみちアイテムや金銭を要求しても大した物は得られなかっただろう。

それなら、小さくても信頼とコネを手に入れていた方が後々役に立つ可能性がある。

他の皆もそれが分かっている様で俺の言葉に何も言ってこない。


「それじゃあ気を付けて帰れよ。」

「ああ、借りは必ず返す。」


そして軽く言葉を交わすと俺達は別々の方向に進んで行く。

その後、俺達は順調に進み予定通りのペースで50階層まで到着した。


「そろそろお昼ですね。昼食にしましょうか。」

「待ってたよ。今日は何を食わせてくれるんだい。」

「俺とアスカは持参しているから大丈夫だ。」


そう言えば最近になってカエデはメノウから料理を習っていると話していたな。

敢えて情報の共有を使わずに時間をかけて直接習っているそうなので思い入れの大きさが分かる。

アスカも最近は参加する事があるそうなのでこちらは確実に花嫁修業だろう。

昨日、トキミさんから結婚に関する許可が下りたのでその苦労も報われると言うものだ。


そして期待をしてくれているところ悪いが、毎日毎食で特別な食事をしている訳ではない。

当然、弁当や簡単に食える物となるとお握りやサンドイッチなどの簡単な物に限られる。


「すみませんが、今回は普通のサンドイッチですよ。」

「なんだい。ユウでも普通の物を食べてるんだねえ。」


何を当然の事を言っているんだろうか。

それに世界が融合する前は自炊していて慎ましい料理で満足していた。

基本はご飯、漬物、味噌汁の他に1品か2品追加するくらいだ。

メノウが家に来て人数も増えた事で少し豪勢な料理が並ぶようになったが、それも最近になっての事なので俺自身は手の込んだ物でなくても美味しければ満足できる


そして俺はメノウの作ってくれたサンドイッチを取り出して3人に配って行った。

それを受け取るとそれぞれに箱を開けて手に取り口へと運ぶ。

するとその表情は緩みダンジョンの中とは思えない程、和やかな表情を浮かべた。


「それにしても、メノウの飯は何時食べても上手いのう。」

「そうね。どうしてこんなに美味しく作れるのかしら。」

「これはある意味では裏切りだねえ。なんでこれが普通のサンドイッチと言えるんだい!?」


3人は瞬く間にサンドイッチを食べ終わりお代わりまで要求してくる。

俺は仕方なく予備を渡してゆっくりとサンドイッチを味わった。


「うん、やっぱり普通のサンドイッチだな。」

「今度アンタに普通って言葉の意味を教えてあげるよ。」

(失敬な。俺は一般人として常識的な人間だ。トキミさんに言われるとかなり傷付くんだが。)


トキミさんはあからさまに呆れ顔で言って来るが俺はサンドイッチを食べながら軽く聞き流す。

そして、アキト達を見れば同じようにサンドイッチを口にしていた。

見た目や具材も一緒なのでどうやら今回の弁当は二人で一緒に作ったようだ。

二人はとても嬉しそうにそれを口にしているのでどうやら3人の仲は更に深まっている様だ。

しかし、カエデは今のままで満足なのだろうか。

メノウは最初から直球タイプだったがカエデはそうではない。

もしカエデの気持ちに変化があった時にアキトはそれに気付くことが出来るのか少し心配になる。

アキトも俺と同様にこういう事には鈍感だからな。


そしてその後は再びダンジョンを進んで行った。

しかし50階層を過ぎると冒険者は更に人数を減らしていく。

ここまでくればギルドランクでもAランク以上と認定される者ばかりになってくる。

実力としても最初に出会ったアスカに近い強さだ。

金も実力もある連中なので警戒が必要になって来る。

特にドワーフ製の武器はレベルを覆すだけの威力があるので警戒は怠れない。


「ここからは人間にも注意していきましょう。レベルだけなら俺達と同格かそれ以上の可能性があります。」

「襲われた場合は殺しても料理の品数は減らされないと言う事だね。」

「その通りです。逆に襲われた場合は容赦なく殺してください。こんな所で襲って来る上級冒険者なら百害あって一利なしです。」


先日に起きた事件では冒険者の腐敗が原因の一端になっている事が判明している。

そういう連中がまだ残っているのなら昨日の様な連中が居てもおかしくはない。

それにここは、深い地の底で証拠は魔物とダンジョンが消してくれる。

そのため痕跡が一切残さない完全犯罪が簡単に行える場所でもある。


俺はマップで全体を見ながらおかしな動きをしている奴等が居ないか警戒を強め進んで行く。

すると少し離れているが怪しい行動をするパーティを発見した。


「聞いてください。動きがおかしな連中を発見しました。マップを確認してください。」


俺の言葉で全員がマップを表示させると示した方向をスキルで確認する。

すると、こういう事に鋭いアキトから意見が上げられた。


「これは完全に尾行されているな。されてる方は気付いていない様だから潜伏系のスキルを持っているのかもしれない。」

「それなら。アスカは見えるか?」


俺達の中で一番索敵に向いていないのはアスカだろう。

彼女のマップに移っていなければ黒である可能性が高い。


「私のスキルだと全員は見えませんね。尾行者が複数人なら私には1にしか見えません。これはかなりスキルを使い慣れている連中の仕業です。今の私のスキルで捕捉できないなら普通の冒険者には気配すら捉えられない可能性が高いです。」


どうやら尾行している連中はチャンスを窺っているようだ。

されている側もかなり転移陣から離れた場所に居るのでそれなりの時間このダンジョンに潜っているのだろう。

今から向かえば十分間に合うかもしれないが俺が勝手に決める訳にもいかない。

まずは彼らをどうするかを皆で決める事にした。


「冒険者のルールは自己責任だけど彼らをどうする?」

「無駄に死なせる事も無かろう。」

「私はそろそろ人が切りたいわね」


当然良識的な事を言ったのはゲンさんで猟奇的な事を言ったのがサツキさんだ。

言葉でいえば似ているのにどうしてこうも真反対の意味なのか。

日本語とは不思議な言葉だ。


「俺も助けておいて損はないと思うぞ。」

「私はこういう奴らが嫌いです。サーチ・アンド・デストロイで行きましょう。」


アキトは助けるのに1票。

アスカは過去に仲間がダンジョンで裏切り襲われた経験がある。

だがかこういう連中を許せないのだろう。

そして、トキミさんはそのウキウキした顔を見れば一目瞭然だ。


「皆殺しに1票。」

「言っておきますが襲おうとしている者達だけですよ。」


どうしてそこで皆殺しになるのか小1時間程お話をしたいが今は時間が無い。

釘だけを差しておいて後はやり過ぎない様にこちらでフォローを入れておく事にした。


「それじゃあ、出来るだけ最初は半殺しでお願いします。」

「え~~~。」


トキミさんは不満を声に出すがあくまで最初だけだ。

黒と確定した場合は全てを奪って容赦なく死んでもらう。


「奴らから持ち物を奪ってから殺す予定です。アイテムボックスの中の物は死ぬと魔素になって消えてしまいます。その前に使えそうな物は奪っておきたいんですよ。」

「アンタ、稀に途轍もなく鬼畜な事をサラッと言うねえ。流石の私もドン引きするよ。」


失礼な言われようだがリサイクルできる物はするべきだ。

奴らも今まで殺し、奪って来たなら覚悟は出来ているだろう。

それに、どのみち捕らえてギルドに突き出しても同じ事になる。

手慣れている感はあるので今回の事が初犯ではないだろうから死刑も確実だ。

それなら少しでも俺達の役に立ってもらう。


「無理なら構いませんよ。どのみち俺達からすると大した物は持っていないでしょうから。出来ればで構いません。」

「それなら構わないよ。手加減の練習台になってもらうからねえ。」


彼女は30年もの年月を巫女として捧げていたので感覚が鈍っているのだろう。

弱くなっているという意味ではなく力加減を忘れているという意味で。

今回は死んでも良い連中なので好きにしてもらえば良い。

2人残れば御の字だ。

当然、それはゲンさんとアキトが相手した相手になるだろう。

神楽坂家の女性は容赦が無さそうだからな。


そして俺達は最短距離で彼らの所へと向かって行った。

出て来る魔物は剣と盾を装備したリザードマン。

それと百足やカマキリなどの虫系の魔物だ。

百足は足が全て刃物の様に鋭く、カマキリの鎌も岩をも切り裂く程に鋭い。

しかし、それらをものともせずにスピードを落とす事なく俺達は進んで行った。

勿論、最後尾の俺はそれらの魔石を拾いながら進んで行く。

最近は魔物が魔石に変わりそれが地面に落ちる前にキャッチするのがマイブームだ。


(あれ、俺ってサポーターだったのか?)


考えると悲しくなるので思考を途中で遮り無駄のない動作で魔石を拾っていく。

それに剣や盾を落とすのでそれも同時に回収しておく。

俺達には不要な物だがこれなら自警団の装備をかなり強化できそうだ。

後は防御のための鎧系が欲しい。

稀に鎧を着ている魔物はいるが数が少ない。

もう少し潜れば増えるかもしれないのでそちらに期待しよう。


そしてもうじき到着する頃になると尾行していた者たちが動き始めた。

されていた冒険者は複数の魔物を一度に相手をしてかなり疲労しているのでチャンスと見たのだろう。

前衛は疲労で立つのも難しいのか後衛が周りを警戒している中で膝を付いている。

しかし、この後衛は探知系には鈍いようだ。

すぐ後ろまで敵が来ているのに一向に気付く様子がない。

このままでは声を上げる事もなく後ろの暗闇に引きずり込まれるだろう。


それと今になって気が付いたが彼らはエルフで構成されたパーティの様だ。

見張りをしているのは女の様で迫っている男は下卑た笑みを浮かべている。

この様子ならすぐに殺されることは無いかもしれないが生かされても悲惨な未来しかないだろう。

すると男が女の口を塞ごうと伸ばした手が途中で止まる。

そして、不意に下へと動きそこにあった女の肩へと触れた。

その瞬間、女は驚愕と共に振り向くとそこには肩から先のない男が白目を剥いて立ち尽くしていた。


「きゃーーー!」


女は突然の事に悲鳴を上げ、その声は少し離れた俺の所まで届いてきた。

そして、男が倒れると憤怒の表情を浮かべたアスカが男の足を容赦なく切断する。

さらに他の4人に関しても同様の事が行われているようだ。

他の者に関しても手足を切断され意識を奪われている。

トキミさんだけは余分に一太刀多く斬り付けてしまい首から血が噴水の様に飛んでいるが急いで回復魔法で傷を塞ぎなんとか殺さずに済んだ様だ。

珍しく焦っている姿が少し面白い。

余程今夜のオカズを減らされるのが嫌なようだ。

そして、俺が到着すると追跡者たちは1カ所に集められていた。

エルフたちは突然に現れた俺達を警戒している様で固まって武器を手にしている。

俺は死ぬ心配が無さそうな追跡者たちを放置してますはエルフたちに声を掛けた。


「まずは武器を下ろしてくれないか?」

「ああ、アンタか。分かった。みんな、この人は大丈夫だ武器を仕舞え。」


俺の言葉にリーダーと思しき男が周りに指示を出した。

面識は無い筈だが向こうは俺を知っているらしい。

疑問に思い少し聞いてみる事にした。


「俺の事を何処で知ったんだ?」

「以前トゥルニクス様から高レベル冒険者に通知があった。サイジョウ・ユウを見かけたら暗殺しろとな。それでデータと人相書きが俺達の間に飛び交った事がある。それと王都でアリシア様と一緒に歩いているのを見た事があるからな。後は鑑定でアンタの名前を確認すれば問題ないと言う訳だ。」


そう言って男は紙を取り出すと俺に見せてくれる。

そこには俺の顔に似ているが凶悪さが5割増しになっている危険そうな男が描かれていた。

断固として似てないと言いたいが俺とトゥルニクスの仲は悪いので向こうからはこれ位に見えているのかもしれない。

そこは諦めて俺は破り捨てたい衝動に耐えて苦笑と共に紙を返した。


「あまり似てないな。」

「そうか?特徴は捉えているから役に立つぞ。そう言えばまだ自己紹介をしていなかったな。俺はマキアスだ。」

「俺の事は知ってると思うがユウだ。」


そして俺達は互いに名前を告げ合うと軽く握手を交わして本題に入った。

まずは知り合いではないかという確認からだ。


「それでアイツ等なんだがな。お前たちを狙ってたみたいだ。一応は殺さない様に捕まえたが知り合いじゃあないよな。サポーターとか荷物持ちだったら言ってくれ。」

「言ってくれって言われてもなあ・・・。」


マキアスは転がっている男5人を見てから頭を掻いた。

通常ならここまですれば手遅れだからだろう。

手足は無く、出血で顔色も悪い。

放って置いても助かる事はないだろう。


「なら知らないと言う事で処理するからな。」

「ああ、それは構わない。俺達は助けられた側だからな。」


俺は確認を終えると男達に歩み寄った。

そしてまずは見える範囲で鑑定を行う。

すると有るわ有るわ、大量に魔道具を所持している。

しかもどれも強力な代物で、主に隠蔽・潜伏系だ。

これのせいでエルフたちも気付けなかったのだろう。


「アキト、悪いが尋問をしてくれ。」

「何を聞くんだ?」

「コイツ等はガストロフ帝国の工作員かもしれない。」

「分かった任せろ。」

「それなら私もするよ。もう殺しても良いんだろ。」


トキミさんに任せると聞き出す前に殺しそうだ。

しかし、最初の一人なら見せしめついでに殺しても構わないだろう。


「最初の一人だけなら良いですよ。ただまずは持ち物で使えそうなものを奪ってからです。起こすのは全員にしましょう。」


そして男達のアイテムボックスを漁ると戦利品と思われる鉱石にギルド証なども発見できた。

ギルド証は誰のか分からないがコイツ等のものではない。

それを持って俺はもう一度マキアスの許に向かった。


「この中に知り合いの物は有るか?」

「・・・ある。」


マキアスは表情を歪めてそれを持っていた男達を睨みつけた。

仲の良かった相手の物も有ったのだろう。

マキアスはギルド証を握り目の端に涙を浮かべている。


「すまないが、これらをギルドに届けてくれないか?」

「任せろ。それと尋問の結果は共有してもらえるのか?」

「俺達は夕方には上に戻る。それまでギルドで待っていてくれるなら教えよう。でも勝手な行動はするなよ。ガストロフ帝国はかなり危険だ。その事はしっかりギルドに伝えておいてくれ。」

「分かった。それじゃあ俺達は一旦地上に戻る。待っているからな。」


そう言ってマキアスは仲間を連れて来ていた道を戻って行った。

それと同時にアキトは男達を起こすと尋問を始める。

俺のスキルを使えば簡単かもしれないが彼らには犯した罪の分、しっかりと苦しんでもらう。

ギルド証には名前とランクの他にも書かれている事が幾つかある。

性別や年齢が書かれており犠牲者の中に特に若い女性。

いや、年齢的には少女たちが多数含まれていた。

こういう物があると彼らがどの様な事をしてきたのかも想像が出来る。

簡単に死ねる一人目が羨ましく思う位に後の4人には後悔してもらう。


そして、アキトの拷問とトキミさんの容赦ない攻撃のおかげで十分な情報を得る事が出来た。

俺達は最短距離で60階層まで下りると地上に戻りギルドへと向かった。

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