19 デーモン①
俺達が店に入るとそこでは既に話し合いは終わりみんなで俺達を待っていた。
それに昨日見た顔も多いが初めて見る顔も多い。
そんな中、俺達の知り合いと言う事で女将さんが代表して話しかけて来た。
「早く来てくれて助かったわ。それで話し合いの結果だけど私達で協力して500万円の結界石を6つと個人で幾つか小さな結界石を買う事になったの。自分の家がこの付近に無い人もいるから。」
確かに家一軒分の結界石なら高校生でもバイトをすれば買うことが出来る。
それに店主の中にはこの近辺に住んでいないと言う人も居る様なので自分の住んでいる場所に置きたいという者がいたのだろう。
こはアヤネの担当なので彼女に任せよう。
「任せても大丈夫か?」
「頑張ってみます。」
そう言ってアヤネは女将さんの前に座ると緊張した表情を浮かべた。
まるで新入社員に初めて仕事を任せた時の様な印象だが、アヤネが直接こうした商談をするのは初めての事になる。
いつもは注文があると電話で対応しただけで後は郵便物として送っていたので人前だといつもとは大きく違うだろう。
それに相手は小さくても一軒の店を構える店主ばかりで今後の生活にも関わってくるため視線が厳しい者も居る。
するとアヤネは隣に立っている俺の手を強く握ると覚悟を決めて話を始めた。
「数を言ってくれればすぐに準備します。あと名刺を渡しておきますのでまた追加の注文や問題があったら教えてください。」
「助かるわ。バイトの子は入れ替わりがあるから話を聞いたら欲しいって言う子が出るかもしれないもの。」
「俺達の中にも家族や親戚に確認が取れてないのがたくさん居るからな。」
「私の所も従業員には確認が取れていません。後で追加注文をさせていただきます。」
「こちらは上に話して同じ系列のホテルがどうするか相談しないといけませんから答えが出るのにまだかかりそうです。」
そして女将に続いて周りもアヤネの意見に喜び、それぞれに名刺を受け取っていく。
それと同時に表情が緩み、アヤネも相手の好意的な言葉に緊張が消えて行った。
ただ握っている手の力は緩んでいるが離す気はない様で最後までずっとつないだままだった。
それをどうにかしようと下から犬の姿のホロが前足を伸ばしているが微妙に届いていないのでその仕草が凄く可愛い。
その後は支払いと引き渡しを済ませると、俺達は互いにお礼と挨拶をして次の目的地へ向けて出発した。
それにみんなも早く目的の肉が食いたくてソワソワしているようだ。
しかし彼らは昨日の話をちゃんと覚えているのだろうか?
俺達は今から肉をご馳走になる代わりにどんな物かもわからないトラブルを解決しなければならないということを。
しかも今回も今までにない程の未知の魔物である可能性が高い。
マンイーターの前例がある様に、それだけでも危険度は跳ね上がり命にも関わって来る。
油断すれば自分だけではなく周りも巻き込んでしまい同じ危険に晒してしまうかもしれない。
その為、俺は並列思考で雑談を交わしながらその横でスキル表を確認し戦闘に有効なスキルをピックアップするなどの作業を行った。
特に今回の事で耐性系のスキルが不足しているのではないかと思える。
パッと見ただけでも。
・斬撃耐性
・刺突耐性
・打撃耐性
・麻痺耐性
・呪い耐性
・腐食耐性
・即死耐性
等がある。
俺はこれらの必要そうな物をスキルポイントを使って取っておく事にした。
受けて得るよりも安全の為に事前に取っておいた方がいいと判断したためだ。
特に呪いなんて未知のモノは出来るだけ受けたくない。
目に見える防御スキルよりも目に見えないダメージのスキルを優先した方が良いだろう。
そして、俺達は目的の駅に着くと既に迎えの人は待っていてくれた。
彼は少し前にゴウダさんに紹介された牧場主の大之木という男性だ。
ライラから複数の結界石を買ってくれたので超が付くお得意様と言える。
そんな彼が数日前にトラブルが起きたと言って来た。
ただ東京に向かう前日だった事と、今の段階で大きな問題にはなっていないということなので後回しにさせて貰った。
そして、結界石を売り始めてからは初めての事なのでアフターケアの一環として慎重に対応する必要がある。
しかし、こういうトラブルや報告が今後は増えてくるかもしれないのでこのまま結界石を売り続けた場合に俺達だけでは対応に手が回らなくなる。
そうなるとクレームの嵐が起きる事も考えられるので早い段階で政府が結界石の販売に協力してくれたのはこちらとしても大いに助けになっている。
「こんにちわ。連絡を受けてきた最上 ユウです。」
「やあ、来てくれて助かったよ。こうして直接会って話すのは初めてだね。私がオオノキ牧場のオオノキです。こちらにマイクロバスを持って来ているのでまずは移動しましょう。」
「ありがとうございます。それと急に人数が増えてしまってすみません。」
俺はオオノキさんにバスへと案内されながら急な予定変更で人数が増えた事を謝罪する。
すると気にした様子はなく、笑顔で首を横に振ってくれた。
「こちらとしても人数が多い方が安心できて助かるよ。なにせ周りには何も無い所だからね。もし何かあった時は助けを呼んでも時間が掛かる。まあ、呼んだとしても誰が助けに来てくれるんだって話だけどね。だから君たちが来てくれたのは本当に助かったよ。」
「そう言って貰えるとこちらも助かります。」
それに当初は車で迎えに来る事になっていたがオオノキさんは人数が増えた事を聞いてマイクロバスを準備してくれた。
それに今回のトラブル解決に全員が協力してくれると伝えているので対応も丁寧だ。
しかしアキトたちの方が戦闘員として見ると適した体つきをしているので、もしこれが完全に初対面なら下に見られたのは俺達かもしれない。
そしてバスに乗せると、オオノキさんは運転しながら事情を話し始めた。
「実はうちにの牧場に最近変な奴が飛んで来たんだ。」
「鳥ですか?」
「鳥か。いや、ただそのー、なんだ。普通の鳥じゃないんだ。」
オオノキさんは説明を始めるがどうも要領を得ない言葉を続ける。
その顔には何処となく恐怖の色が隠れしているようにも見えた。
表現は難しいがまるで幽霊や悪魔を見て混乱していると言えば分かるだろうか。
その為にまずは言いやすくする為に大まかな形の例をだして確認する事にした。
それにこんな顔をする以上は普通では無いので鳥型でも大まかに2つに分けられる。
人型かそれとも巨大な鳥かだ。
既に魔物を何度も見た事があるオオノキさんなので空を飛ぶ魔物を見たくらいでは俺達が呼ばれる事は無いだろうと見越しての事だ。
「それは通常ではありえない程に巨大な鳥ですか?」
「いや、それなら先に伝を頼って警察か政府に話をしている。」
するとオオノキは即座に首を横に振り聞かれた内容を否定してきた。
どうやら特撮に出てくるような巨大怪鳥が現れた訳では無いようだ。
「それなら、それは人の姿に似ているとか?」
すると次の例えにオオノキは肩を跳ねさせ顔を青くする。
どうやら今回の相手はハーピーの様な魔物の可能性が高そうだ。
俺はこの情報を元に何か知っている事が無いかライラとアリシアに問いかけた。
「二人は何か知ってる事はあるか?もしあるなら教えてくれ。」
すると二人は視線を合わせまずアリシアから話し始めた。
そして、更なる特徴を聞き出す為に具体的な質問に入った。
「確認ですがそれは女の姿でしたか?」
「いや違う。男の姿だった。奴は最初普通の人の姿で牧場にやって来て結界に触れて弾かれたんだ。それで魔物だと分かったんだがそいつはそこでいったん帰って行った。しかも蝙蝠の様な翼を生やして。」
(それでオオノキさんは鳥という表現をしたのか。ならどうしてこんなに恐れるんだ?)
するとようやく覚悟を決めたようでようやく重い口を開き話を続けた。
その話に俺達は何も言わず、まずは耳を立てて静かに聞く事にした。
「しかし、そいつは次の日もやって来て今度は結界を壊そうと殴りだしたんだ。でも破壊できない事を知ると怒りで顔を鬼の様にして俺達に条件を出して来た。そいつは6日以内に生贄の女を用意しろと言って来た。その時はそれで帰ったがその生贄を求めた期限が今夜なんだ。他に相談できるところが無くて・・・。悩んだが君たちに連絡を入れたんだ。家の牧場には少しだが女の従業員もいるし愛娘も一人いる。しかも約束を守らないで結界から出た所を襲われたらと思うと・・・。」
たしかに結界は牧場にしか張っていない。
ずっと結界内に閉じこもる事は出来ないし魔石を手に入れるにも結界から出なければならない。
今後の事を考えるなら倒しておく必要がありそうだ。
すると情報を吟味したライラが何か思い当たる事があった様で話しを始めた。
「もしかしたら結界を壊せなかったって事は中位以下のデーモン族かもしれないわ。低位のデーモンならそこまで知能が高くないし、上級なら結界を破壊しているはずよ。でもそうなると厄介な事になったわね。」
ライラはそう言っていつもの様に顎に手を当てると俯き気味に悩み始めた。
どうやら何が問題があるようで、少し悩んで顔を上げるとその目が真直ぐに俺を見て止まった。
「デーモンはこれでもかって程の状態異常を使って来るのよ。絡め手と魔法も得意な相手で個体によっては戦士としてもそれなりに優秀な奴もいるわ。きっとこの中で正面から戦えるのはユウと私だけよ。」
そして俺はライラがなぜ悩んでいるのかが分かった。
俺はそれほどレベルは高くないが成長力促進のおかげでスキルレベルだけは高い。
ホロも俺と同じスキルは持っているが出だしが遅かったのでそれだけ成長が遅れている。
アヤネは生産寄りだし、アリシアはまだレベルが低い。
アキトたちも先日レベル上げを始めたばかりでアリシアと同じ理由で除外されると言う訳だ。
「それならそいつの相手は俺とライラでするか。倒す以外に選択肢は無さそうだけど他のメンバーを加えても犠牲者が増えそうだしな。耐性については時間が無いから後で対応を話し合おう。」
しかし、俺の提案にアキトが声を上げて待ったを掛けて来た。
あちらも俺達に付いて来る理由が護衛なので自分達が除外されたのを見過ごす事が出来なかったのだろう。
「お前らだけで戦うのか。確認するがライラ。本当に他に手はないのか?」
「あるにはあるけど今は時間も材料も足りないわ。」
するとアキトは渋面を作り俺を見た。
まあ、アキトの仕事は俺の護衛なので自分が足手まといなのが悔しいのだろう。
しかし、犠牲を出さない為にはこれがベストな選択だ。
それに最悪の場合で俺に何かあってもアキトが居ればライラ達を保護してくれるだろう。
そんな事を考えているとライラが俺の傍に来て手を握って来た。
そして俺を正面から見つめるとニコリと笑う。
「死んだらダメだからね。」
「もちろん死ぬつもりは無いさ。」
「それなら良いけど今のあなたの顔は死地に赴く者の顔だったわよ。」
どうやら俺の考えに気付いて釘を刺しに来たようだ。
こういう時の女の勘は恐ろしいな。
横に座っていたホロも犬の姿になって服を咥えて離さない様にしている。
俺は苦笑を浮かべてライラには頷き、ホロは頭を撫でて返しておく。
「こう見えても俺はしぶといから大丈夫だ。危ない時は結界の中に逃げ込むしな。」
「ホントね?」
「ああ、でもライラは狙われるかもしれないから出来るだけ結界から出ないようにな。回復はすべて任すから頼んだぞ。」
「そっちは心配しないで。魔力が尽きてもユウの事は私が護るわ。」
それだと俺も引くに引けないのだが気持ちだけは受け取っておこう。
それにこんなに強く思われ言葉をぶつけられたのは初めてなのでちょっと嬉しい。
しかし俺は毒耐性のスキルレベルは5に上げてあるがそれ以外の耐性は全て1だ。
でも戦いに参加できないメンバーも回復役としては活躍できるのでそちらに回ってもらう。
「他のみんなもライラの指示に従って回復役に回ってくれ。」
「分かった。今回は引き下がるが遠くない内に足手まといにならない程度には成長してやるからな。」
「ああ、その時は俺はアキトの背中を見て戦う事にするさ。」
そう言ってアキトも今回は引き下がってくれたが無茶をしない様にヒムロ達には傍で見張っていてもらおう。
どうやら俺と違って正義感の強いアキトの場合はそれが元で暴走するかもしれない。
それに確定と言っても良いが今回はホブの時以上に厳しい条件で戦う事になるかもしれない。
あの時は1対1なら勝つ自信があったが、今回は皆に協力してもらって勝てるかどうかと言ったところだ。
俺達はその後も打ち合わせをしながら牧場にむかい到着したのは昼を過ぎた辺りだった。
そして到着してバスを降りるとそこには大きな敷地に牛が放し飼いにされ、スタッフが忙しそうに働いている。
今は既に15時を過ぎているが、ここに魔物が来るのは日が沈む間近だと言う事で秋を過ぎようとしている今でももう少し時間がある。
そのため今日は安全の為に早めに牛を牛舎に収め、早めに避難する事に決めているらしい。
それに結界から出て帰宅しているとその人が魔物に襲われるかもしれない。
それを防ぐためにここのスタッフは今日から牧場主の家に泊り問題が片付くまでは夜は外出をしないそうだ。
そして俺達は魔物が現れた場所に案内してもらい、その場で野営の準備をすると相手が現れるのを待ち構える。
そして太陽が山に隠れた頃の赤黒い空から羽ばたく様な音が聞こえて来た。
まさに魔の者と逢うという黄昏時に相応しいタイミングだ。
そしてそいつは地面に下りると俺達を見てニヤリと笑った。
「これはこれは美味しそうな女性がこんなに。あの人間には一人と言いましたがこんなに沢山準備してくれるとは嬉しい限りですね。愚かな人間と思っていましたが少しだけ評価を改めた方がいいかもしれません。さあ、こちらに来なさいお前たち。お前たちにはこの世で最上級の喜びと快楽と死を与えてあげましょう。」
そう言って男はこちらに手を伸ばし笑顔を浮かべた。
しかしその手を遮る様に俺は前に立つと仲間を庇うように剣を構えて相手を睨みつける。
すると俺を見た男はゴミを見る様な目を向けガッカリした様に手を下ろした。
「貴様は誰の視界を遮っているのか分かっているのか?」
「知らないな。お前はいきなり湧いて出た虫の名前を知っているのか。言葉が通じるならまず名でも名乗ってみろ。耳が汚れるが我慢して聞いてやる。」
『挑発を獲得しました。』
すると俺の挑発を受け男は怒りの表情を浮かべ表情を一変させる。
既に聞いてはいたが先程まではイケメンの優男だったのにその顔を歪めると鬼の様な顔になっている。
しかも体の筋肉も膨らみ着ている貴族の様な服を突き破りそうだ。
「貴様ーーー!この高貴なるデーモンのアデル様に向かってそんな口を利いてタダで済むと思うなよ!結界に守られているからと図に乗るな!」
そしてアデルと名乗ったデーモンは既に人の姿を捨て腕と足は丸太の様に太くなり、背には蝙蝠の翼を広げている。
頭にはねじれた様な角が2本生え、手には鋭い爪が伸びると禍々しいデザインの大剣を取り出した。
「俺様を侮辱したお前は殺す!拷問の上で手足を切り取り地獄の苦しみと絶望を味わわせてやるぞ!」
俺はそんなアデルへと更に挑発を行い、手首を振って追い払う様な動きでジェスチャーを送る。
「図星を突かれたからと言って怒るな。それよりも下がれよ。今から結界から出て相手してやる。」
アデルはその言葉に激昂しそうになるが、すぐにニヤリと笑い後ろに大きく跳躍した。
どうやら結界を破壊できないのは本当のようで結界から出るまでは手が出せないらしい。
「ハハハハッ。愚かな男だ。実力の違いも分からないとわな。俺は相手のレベルを見ることが出来るがお前程度のレベルで俺に勝とうなど片腹痛い。それともお前は戦う前に俺を笑い殺すつもりだったのか?」
「高貴な者が覗きをするとは情けない。言動に行動が伴ってないとはこの事か。」
「黙れーーー!」
追加で更に挑発して怒らせてしまったが、アデルには相手のレベルを見る能力がある様だ。
先程から見せていたこの男の余裕はそれが原因だったのだろう。
沸点は低く挑発に乗り易そうだがこの油断は上手く利用したい。
「それなら賭けをしないか?」
「賭けだと。」
「ああ、勝った方が負けた者を好きに出来るってのはどうだ。」
「いいぞ良かろう!貴様が勝てば何でも言う事を聞いてやろう。しかし俺が勝てば貴様の全てを貰うぞ。」
アデルの言う範囲は曖昧だが俺が負ければここに居る者に未来はない。
ライラはどうか分からないが持久戦になれば恐らく最後に倒れるのはこちらだろう。
どう見てもこの悪魔は接近戦もこなすみたいだからな。
俺は結界から出ると気合を入れて剣を構えるとアデルから強烈な威圧が放たれた。
それはまるで自分よりも強者である肉食獣が目の前に居る様な錯覚を感じ、体が無意識に反応して震えてしまう。
(これが威圧か。初めて受けたけど結構きついな。ライラがあの時に涙目になったのも分かる気がする。)
『威圧耐性を習得しました。』
『威圧耐性のレベルが2に上昇しました。』
『威圧耐性のレベルが3に上昇しました。』
『威圧耐性のレベルが4に上昇しました。』
さっそく耐性が取れてレベルも上がったか。
レベルが上がるにつれ心に沸いた恐怖が薄らぎ心に平静が戻ってくる。
俺も相手に会わせて威圧を放つと更に相手から届く威圧が薄らぎ何も感じなくなった。
どうやら威圧の対抗手段はこちらも威圧を放つ事の様でこれから戦う時には常に使っておこう。
「私の威圧に耐えるとは思っていたほど雑魚ではなさそうですね。しかし、その様子では耐性のレベルを上げて戦闘系か魔法系が疎かではないのですか?」
するとアデルは手の上に複数の魔法を浮かべて放って来た。
しかもそれぞれ属性が違う事から並列思考か何かで同時に魔法を発動しているのだろう。
話しながら魔法を使っているのでそれだけでもかなりの実力が伺える。
俺は魔法を紙一重で躱しながら炎に肌を炙られ水に体を殴られ風に腕を切られ土に足を穿たれる。
しかし、傷を受けた直後に後ろから回復魔法が放たれ俺の傷を塞いでくれた。
『黒魔法耐性のレベルが2に上昇しました。』
『黒魔法耐性のレベルが3に上昇しました。』
『黒魔法耐性のレベルが4に上昇しました。』
『黒魔法耐性のレベルが5に上昇しました。』
かなり痛かったが耐性のレベルが上がり受けるたびにダメージは小さくなっていった。
傷もすぐに回復してくれたので問題はないが受けた場所にはいまだに幻痛が残っている。
あまり受けたくないと思いながらもアデルは更に魔法を放って来た。
しかし、今回は水の魔法だけだ。
それに対して俺の中で何か嫌な予感が浮上する。
『直感を習得しました。』
俺はスキルに従い今度は大きく跳躍してその攻撃を躱した。
『ジュウウウウウ』
するとその魔法が当たった地面は煙を上げて溶け出し散った液の一部が俺にも付着する。
そしてそこを起点に服が溶け、さらにその下にある皮膚を焼いて爛れさせた。
『腐食耐性のレベルが2に上昇しました。』
『腐食耐性のレベルが3に上昇しました。』
『腐食耐性のレベルが4に上昇しました。』
「ハハハ、弱い弱い。そーら、どんどん行くぞ。避けねば溶けて死体も残らんぞ!」
そしてアデルは高笑いをしながら更に多くの腐食液を飛ばして来る。
俺はそれを直感に従い避けて行くが完全には避けられない。
しかし耐性のおかげで最初程のダメージは無く痛みも耐えられるレベルだ。
それでも魔法なので飛んでくる軌道は直線だけでなく湾曲したり螺旋を描いたりしている。
それらを組み合わされているので躱すのはかなり厄介だ。
『直感のレベルが2に上昇しました。』
『直感のレベルが3に上昇しました。』
『直感のレベルが4に上昇しました。』
『直感のレベルが5に上昇しました。』
『直感のレベルが6に上昇しました。』
『黒魔法耐性のレベルが6に上昇しました。』
『再生のレベルが4に上昇しました。』
今までの戦いでここまでの傷を負ったのは初めてだがこうして考えればかなり俺はスキルに頼った戦いをしていたようだ。
それに命を賭けた戦いになるとここまで簡単にスキルが成長するとは思わなかった。
今の所は防御に役立つスキルがメインだがライラの話ではデーモンは状態異常を得意としているらしいので、これでもかなり手を抜いているのだろうな。
それにこちらも今は避けるのに精一杯で攻撃に転じる余裕はない。
「魔法でいたぶるのも飽きてきましたね。そろそろ直接この手で肉を切り裂く感触を楽しませてもらいましょうか。」
すると危険感知と直感が同時に働き、俺は直感に従い剣を横薙ぎに振るう。
するとそこには剣を刺突の構えで飛び込んで来たアデルの姿が現れ、俺が剣を逸らした事で胸を貫かれる事無く腕を掠めただけで済んだ。
そこは鎖帷子があったので何とか無事だったが、なければ骨までは切られていたかもしれない。
『斬撃耐性のレベルが2に上昇しました。』
『斬撃耐性のレベルが3に上昇しました。』
『斬撃耐性のレベルが4に上昇しました。』
『斬撃耐性のレベルが5に上昇しました。』
『刺突耐性のレベルが2に上昇しました。』
『刺突耐性のレベルが3に上昇しました。』
『刺突耐性のレベルが4に上昇しました。』
『刺突耐性のレベルが5に上昇しました。』
やはり今の一撃はかなり強力だった様だ。
しかし、腕を斬られる形になったので運よく二つのスキルレベルを上げることが出来た。
それにしても今のは恐らく縮地か瞬動のどちらかで転移移動ではないだろう。
ちなみに縮地はスキルで距離を縮めて一瞬で移動する業だ。
恐らく空間を歪めているのだろうが俺には理解できない法則が働いていて詳しくは分からない。
そして瞬動は読んで字のごとく素早く動く業だ。
どちらも位置を素早く移動するという結果を示しているが過程が違う。
俺はこれに対応するためにこの二つのスキルを取ることにした。
『瞬動を習得しました。』
『縮地を習得しました。』
俺は距離を取るためにスキルを使ってみる。
まずは瞬動だが周りの時間がゆっくりになり空気が重く感じるが感覚は問題なさそうだ。
続いて縮地を使うと目標にしていた場所までの距離が視覚的に短くなった感じだ。
これに関しても距離感は目に見えた通りなので使うには問題ないだろう。
しかし、俺がいきなり二つのスキルを使った事でアデルは少し警戒したようだ。
それでもそれは一瞬で今も侮蔑の視線を向けて来ている。
ここまでの戦闘時間はたったの3分程度なので相手の油断が消えるにはまだ早いだろう。
「私の瞬動に対応してスキルを取ったようですね。しかし、私のスキルレベルは5です。付け焼刃のスキルで対応できますかね。」
奴は自分の優位を疑っていないのか自らの所有するスキルを明かす。
俺は相手の油断を誘うためにスキルを6まで上げるがそのままレベルが低い速度で使用する。
そのおかげでアデルはいまだに俺を侮りいたぶる様に戦いを継続してくれた。
すると俺のスキルに1つの変化が訪れた。
『剣術スキルが剣聖レベル1に進化しました。』
『これに伴い成長力促進は成長力促進・改レベル1に進化しました。』
俺は初めて聞く言葉に一瞬動きを止めてしまった。
それを見てアデルは顔に狂気的な笑顔を浮かべ剣を振り下ろして来る。
しかし、先ほどまでの俺ならその一撃を受ければ確実に死んでいただろう。
しかし、今の俺にはアデルの動きが全て見えていた。
どうやらスキルが進化すると想像を上回る程の力が手に入る様だ。
俺は振り下ろされる剣の腹に、刀で軽く打ち込みを入れる。
すると刀はアデルの持つ剣を容易く切り飛ばしてしまい、アデルもそれを見て驚きの顔をうかべる。
しかし、これに驚いたのは俺も同じで互いに短くなった大剣へと視線を向けた。
「「え?」」
しかも声までハモり後ろへと飛びのくのも同時だった。
僅かに生まれた驚きと余裕から顔が笑みの形を作りそうになるがそれを必死に捻じ伏せ、今は無表情を貫く。
そしてアデルは刀身の短くなった剣をその場に捨てると新しい剣を出した。
今度の剣は先ほどの物に比べると途轍もなく禍々しい気配を感じる。
どうやら警戒が強まったようで今迄の様な温い戦いでは済まないだろう。
「まさかこの魔剣を使う事になろうとは。しかし喜びなさい。これに切られた者は呪いを受けて確実に死にます。何処まで躱せるかが楽しみですね。」
どうやら呪いで死ぬ方が戦いに負けるよりも楽に死ねるようだ。
それに剣を構えたアデルからは先程までの油断は感じられず、今まで感じられなかった気迫が伝わって来る。
そして、更なる戦いが幕を開け本当の殺し合いが開始された。




