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177 温もりを取り返すために

今回の事で助けた商人達から色々な話を聞くことが出来た。

特に東の大陸にある、南の国について知る事が出来たのが大きい。

その国はガストロフ帝国と言うらしく魔道具で有名な国らしい。

しかし、最近になって急激に技術が発展したらしく強力な魔道具を作り出し始めたそうだ。

今回の事で問題になっている霊獣を封印した魔道具もどうやらその国が出所らしい。

しかも噂の域を出ないが、どうやら他にも危険な魔道具を開発している様だ。


精霊を捕まえて無理やり力を行使させたり、天使やデーモンを使役する物も作っているとか。

しかし、彼らがあちらに居た時には眉唾物の話だったそうだが今回の件で可能性がありそうだ。

オリジンたちには既に連絡してあるので早急に調査してくれるだろう。


もし、この話が事実ならエルフの国で第一王子のセドリアスがアクアを呪いに組み込んだ技術もこの国が関わっている可能性が出て来る。

普通に考えて精霊王を呪いに組み込む事が可能かと聞かれると今の俺にも不可能だ。

あの時は深く考えなかったが、もし関係があるなら早急に動く必要があるだろう。

しかし、これはオリジンたちの調査待ちとなるので今は目の前の問題に集中する事にした。


ちなみに俺の前にはワカバとコガネが居る。

ワカバはどうしたら良いのか分からず棒立ちだがコガネは再び土下座スタイルだ。


「どうか!どうか我々も連れて行ってください!」


どうやらコガネは俺達の旅に同行したいようだ。

そのこと自体は別に問題はない。

この先は俺達にとって未知の領域で案内は必要不可欠だ。

何が問題なのかと言うとそれは横にいるワカバの存在にある。

どう見ても子供な彼女に戦いが出来るとは思えない。

それにこうして逃げてきている以上は虎人よりも確実に弱いのだろう。

もし連れて行くとなると誰かが御守をしなければならない。


「ゲンさん、サツキさん・・・。」

『『プイ!』』


しかし声を掛けた途端に視線を逸らされてしまった。

普段は子供にやさしい二人だが今回は遊びに、ケフン、ゲフン。

戦いに来ているので相手をするつもりはなさそうだ。


「テニスは・・・ダメだな。」

「何でよ!」


テニスに任せると四六時中あの尻尾をモフッて役に立たなくなってしまう。

彼女もここには遊びに来ている訳ではないのでそれは良くない事だ。

今も手をワキワキさせてワカバを怯えさせてるしな。


ヴェリルとマリベルはもうすぐ帰ってしまうので除外し後はクオーツとホロだ。

しかし、この二人が面倒を見ると言う事は自動的に俺も手伝う事になる。

クオーツは群れから離れてすぐに捕まったため、ある意味では箱入り娘の世間知らずだ。

ホロに関して言えば、普段から普通に喋っているので忘れそうになるが彼女の年齢はまだ2歳にもなっていない。

友達にするのは良いが護衛は厳しいだろう。

だからゲンさんか、サツキさんが適任なのだが断られてしまっては仕方がない。


「ホロに護衛を任せて大丈夫か?俺も手伝うから。」

「頑張ってみる。」


俺は最終的に索敵と捜索に強いホロに護衛を任せ俺がサポートに回る事にした。

戦闘はしたい人にやらせておけば良いだろう。

出来れば幼いワカバには殺伐とした光景は見せないつもりだ。

そして、俺は今も顔を伏せたままのコガネに声を掛けた。


「ワカバはこちらで守るからお前は道案内として付いて来ても良いぞ。」

「あ、ありがとうございます!」


その後、俺達はマリベルとヴェリルを見送りその日は町で一夜を明かす事にした。

この街は開けた海岸付近にあるが、俺達がこれから向かう先は大森林と言われるこの大陸の半分以上を占める場所だ。

道も悪く、この先は虎人の占領下となっている。

真面な宿どころか食料すら調達できないかもしれない。

食料に関しては皆も所持しているので問題は無いが、まずは最初の村で様子を見る事になった。


そして、その日の夕飯は炊き立ての米と肉じゃが。

それと豚汁の豚の代わりにメガロドンが入ったメガロドン汁だ。

当然肉じゃがに使っているのはベヒモスである。


その出された物を見てコガネはまずメガロドン汁に顔を近づけ匂いを確認する。

やはり、完全には警戒が解けていない様だが俺達は気にせずに口へと料理を運ぶ。

それにさっき会ったばかりでその日に信用してしまう方が心配になるのでこれが正常な反応だろう。

しかし、コガネは匂いを嗅いでそれに使われている見えない物を言い当てた。


「これは・・・味噌ですか。」

「分かるのか!」

「はい。こちらの大陸では一般的な物ですから。」

「東では見た事ないぞ。」


俺達はあちらでかなりの数の町や村の飲食店で飯を食べた。

しかし、味噌の姿どころか匂いすら嗅いだことは無い。


「こちらに来る商人たちは味噌を腐った穀物。醤油を腐った豆の汁と言っていますから。その為、この街にも置いていません。大量に保管しているとどうしてもニオイが出ますからね。」


そういえば子供の頃に聞いた事があるが醤油屋は周囲にかなりのニオイを出すそうで近年にはトラブルとなる事もあるらしい。

それと同じように味噌にも独特のニオイがあるので印象が悪いと置く事も出来ないだろう。

日本では売られている時にしっかり密閉されているが昔はそんな事はなかった。

初めて嗅いだ者や嫌う者からすれば異臭にしか感じないだろう。


「まさか醤油まであるとはな。」

「こちらの方が洗練されていて美味しいですよ。私達のはもう少し酸味がありますから。」


味噌は自家製で作ると酸味が出やすい。

食べ慣れればそう気にはならないが初めて食べる人にはハードルの高い調味料だ。

しかも、食文化が発達していないと酸味は腐っている事を知らせてくれる危険信号の一つでもある。

日本の味噌に忌避感を感じる人間が今まで居なかったのはそういう理由かもしれない。

それ以前に商人が運ばないなら誰も知らない可能性もある。

そうなるとこちらでの食事が少し期待できる物に変わって来た。

やはり旅の醍醐味はその土地独自の料理だろう。


そして、話している最中にも食事は進んで行く。

ホロとワカバの一角だけ我が家でよく見る光景に思えるがああやって友情を育んでいるに違いない。

ワカバが少し大きくなっている様に見えるがそれはきっと光の屈折による物だ。

コガネも食べ始めると喋らなくなったのでこの日の話はそれなりに終わらせて俺達は眠りについた。

それにしてもメガロドン汁と肉じゃがを食べ尽くされるとは思わなかった。

80センチはある寸胴鍋一杯にあったのに油断していた。

まだストックはあるが次からは注意して食べさせよう。


そして、朝になると俺は早めに起き出して朝食の準備を始めた。

準備と言っても、食器を並べていつでも料理が出せる様にするだけだ。

朝から手の込んだ料理を作る気は無いので出来合いで我慢してもらう。

ただし、こちらはメノウが作った料理なので味は保証済みだ。

そして皆を呼ぼうとした時、宿にしていた家の二階から妙な声が聞こえて来た。


「みゃあ~~~!何これ~!?」


その間の抜ける様な声は悲鳴と捉えて良いのか微妙な所だ。

しかし、声からしてワカバで間違いないだろう。

少し、昨日とは声質が違う気もするが俺は急いでワカバの許に向かった。

襲撃ではない事は分かっているので俺は扉にノックをして声を掛ける。


「何かあったのか?」


この中にはワカバの他にホロとクオーツも居る。

二人に対応できない事態なら俺が対応するしかない。

すると扉が開きホロが顔を出した。

その動きは慌てている様には見えないのでやはり大した事ではなさそうだ。

そして扉が開かれたので中を確認するとそこには見た事のない少女が毛布から顔だけを出していた。


「誰だお前?」

「ワ、ワカバだよ~~~。」


そう言って毛布の中から9本の尻尾も顔を出した。

しかし、その顔はどう見ても昨日見た少女のものではない。

一晩しかたっていないのに5年は成長している様に見える。

伝わって来る気配も昨日とは段違いだ。

例えるなら昨日をFランク冒険者だとすると今はBランクくらいはありそうだ。


「姿を調整出来ないのか?」

「今は無理~。さっきから試してるけど小さくなれないの。大きくはなれそうだけど。」


そう言って若葉は更に大人の姿へと変わるが元は良いので成長後も美人な姿だ。

銀の髪も伸びてまるで絹糸の様に滑らかな光沢を放っている。

しかし、どうして毛布をかぶっているのだろうか。

そう考えて先程から揺れる尻尾を見るとそこには綺麗な素足と色白な桃が顔を出していた。

どうやら成長で服が破れてしまったようだ。


「キャッ!」


しかし、俺の視線に気付いたワカバは短い悲鳴と共に毛布を被りなおす。

その直後、涙目で俺を見て来るがこれは完全に不可抗力だ。


「うう~、もうお嫁に行けない・・・。」

「たかが尻を見られたくらいで大げさな。それよりも最小まで小さくなれ。ホロ、服を貸してやってくれないか。」

「分かった。それじゃあ着せたら下に行くね。」


俺は頷いて部屋を出ると1階へと戻って行く。

するとそこには既にゲンさんとサツキさん、それとテニスが待っていた。

そして、少し遅れてコガネも慌てたように起きて来る。

やはりあの声では誰も危機感までは抱けなかったようだ。

俺は先程の事を簡単に説明するとコガネが何が起きたのかを教えてくれた。


「恐らく昨日の食べ物のおかげで大きく力を付けたのではないでしょうか。特に九尾様は変身を得意とし、持っている力が大きい程に美しい大人の姿になれます。ワカバ様は今まで子供の姿にしかなれなかったのですが力が増した事で大人の姿に変身が可能になったのでしょう。」


そう言えば吸血鬼であるアリーナにも同じような事があったな。

まさか霊獣でも同じ事が起きるとは思わなかった。

昨日の夕飯の時に少し大きくなっている様に見えたのは気のせいではなかったようだ。


「ところで、昨日の料理には何が使われていたのですか?」

「ああ、メガロドンとベヒモスだ。焼き肉の時には地竜の肉も食ってたな。」


するとコガネは驚いた後に納得の表情を浮かべた。

最初の二つは自分も食べているので理解も早かったようだ。


「それ程の食材なら急激な成長をしてしまう事も考えられます。おそらく姿が小さく出来ないのは力の制御が上手く出来ていないからでしょう。完全に馴染めば元に戻れると思います。」

「やけに詳しいんだな。」

「こう見えて近衛隊隊長ですからね。それなりの知識は持っています。我々と九尾様との関係も数百年と長いですから。」


どうやら、コガネは俺が思っていたよりも地位が高かった様だ。

てっきり中隊長辺だと思っていた。


そう言えばワカバはどうやって生まれたのだろうか。

麒麟は独自の方法を持っていたが。


「ワカバに親はいるのか?」

「ええ、九尾様は女性しかいませんが数十年に一度子供を身籠ります。その方が必死に我らを逃がしてくれたのです。無事であればいいのですが最後まで抵抗したので一番心配しています。」


見せしめに処刑されてなければ良いが今は心配しても仕方ないだろう。

封印された地はここから遠く、情報も入って来ない。

場所が分からなければ俺の千里眼でも探しようがないのだ。


すると上の階からホロ達が下りて来た。

その後ろにはワカバが隠れる様に付いて来ている。

ホロの肩を掴んでいるのでまだ歩くのに難があるのだろう。

視点も歩幅も変わっているので仕方ないが移動は車でするので問題は無い。

これからゆっくりと慣れてもらえば良いだろう。

そして今日の朝食は目玉焼きにベーコンとキャベツの千切りに味噌汁とご飯だ。

俺達はそれを食べると片付けをして外に出た。


『西から接近してくる高速物体あり。』


それを聞いて西に視線を向けるとそちらからは一本の矢が飛んでくる。

どうやらこちらでも矢文は標準の様で俺の探知内数キロには人は居ない。。

危ないから止めてもらいたいのだが今回は無事に地面に落ちそうなので大人しく到着を待つ事にした。

そして矢は予想通りワカバから5メートル程離れた場所へと落下する。

しかし、その途端にワカバは駆け出し矢を引き抜いた。

見ればそこには文の他にも小さな包みが縛りつけられている。

しかし、それは下の部分が赤黒く染まっており、ワカバは急いで包みを開けた。


「お母様!」


ワカバの叫びに俺は急いで駆け寄りそれを確認する。

するとそこには切断された5本の指がくるまれていた。

それを見てワカバは絶望した表情で蹲り、声を押し殺すように泣き始める。

俺は彼女の手にある包みを見ながら確認を取った。


「間違いないのか?」

「うえ~~~!おがあざまの・・・匂いがするもん。」


俺は文を取るとワカバの代わりに目を通し始める。

そこには赤い血文字でこう書かれていた。


『お前が投降すまで今日より1日ごとにこの者の尾を1つ切断する。止めたければ早く来ることだ。しかし、10日後には見せしめとして命を頂く事になる。それと指は餞別だ。母の温もりでも感じれば足も早まるだろう。


その短い文面を呼んで俺は怒りに奥歯を噛み締めた。

恐らくは切断した指で書いたのだろう。

それにどうやら、相手は九尾を殺す事に何の躊躇いも無い様だ。

俺は文をゲンさんに渡しワカバの前にしゃがんで視線を向けた。


「お前はどうしたいんだ?」

「お母様を助けたい。でも間に合わない。私ここまで何日も必死に逃げて来たの知ってる。10日なんて絶対無理。」


これは完全に心が折れているどころか砕けている様だ。

母親の指を必死に握りしめ、嗚咽を噛み殺すようにして現実を口にしている。


しかし、俺はそんなワカバから包みを奪い取るとそれを頭上に放り投げて炎で焼き尽くした。

その光景を呆然と見つめるワカバだが何が起きたかに気が付くと俺に飛び掛かって襟を掴んでくる。


「な、なんてことしてくれるのよ。お母様の形見・・・。」


しかし、すぐに言葉は止まり俺の前に膝を付いた。

まだ母親が死んでいない事を思い出したのだろう。


「今から助けに行くぞ。」

「でも間に合うはずない!」

「なら願え。そうすれば叶えてやる。」


俺の言葉にワカバは顔を上げて俺を見上げて来る。

その目は絶望に沈んでいるが僅かな希望も映し出していた。


「私はまたお母様に撫でてもらいたい!それが叶うなら私はなんだってする。だからお願い。お母様を助けて!」


俺はゲンさんとサツキさんに視線を向ける。

二人はその意味を正しく理解すると龍へと姿を変えて矢が飛んで来た方向へと飛び立った。

クオーツは麒麟へと姿を変え、その背にはホロとテニスが飛び乗る。

コガネは残念だがここで留守番をしてもらう。

彼も足手まといである事が分かっているのか素直に頷きを返して引いてくれる。

俺はワカバを抱えるとそのまま目的地へと向かい移動を始めた。


奴らの軽率な行動のおかげで方向は完全に分かっている。

俺の千里眼にも既にワカバの母親の姿を捉えることが出来た。

彼女は広場の中央で磔にされ、その手には既に指は残っていない。

尾も既に5本が切り取られ残るは4本のみとなっている。

どうやら奴らはワカバを待つ気は無かったようだ。

周囲を見れば虎人の兵隊がまるでスナック菓子の様に彼女の指であろうものを美味しそうに食べている。

その横には血濡れの包丁が置いてありテールスープを作っている様だ。

その為ワカバに似た銀色の毛が足元に散乱し奴らはそれを踏みつけながら歩いている。

急がなければコイツの母親は奴らの昼食にされてしまうだろう。


俺は速度を最大へと上げ寵愛の力で風の抵抗を無くす。

そして、ゲンさんとサツキさんを追い抜いて更にその先にいるクオーツを追い掛けた。

流石に装備で強化した速度には俺もそう簡単には追いつけない。

少し顔を下げてワカバを見れば昨日の強化のおかげでなんとかこの速度にも耐えられている様だ。

そして、クオーツに追いついた辺りで目的地が見えて来た。


俺はそのまま減速しながら降下するとワカバの母親の前に降り立った。

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