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176 マーメイドの町 ②

次なる案を考えていると俺の脳髄にとある名案が思い浮かんだ。


「よし、彼らの心を掴むのは一旦諦めよう。」

「ならどうするのよ。」

「心が駄目なら胃を掴めば良いんだ。」

「確かにその通りね!」


すると俺の名言にテニスは手を打って納得をしてくれる。

そうなると善は急げだ。

俺はバーベキューセットを取り出すと炭に火をつけて肉を焼き始める。

今回焼くは在庫の多いワーム肉だ。

そして、風の精霊達に頼んでこの街の風を操作してもらい、集中的に匂いがあちらへと流れる様にお願いしておく。

当然その報酬は払わなければならないがそれは今焼いている肉を代価に交渉済みだ。


(さあ、我が完全な策略に悶え苦しむが良い!)


そして匂いは見事に彼らを包み込み、俺は次々に肉を焼いて行く。

すると他の精霊達も集まって来たので仕方なくそれぞれの精霊に仕事を与える事にした。

土の精霊には磨かれた大理石の様に滑らかで巨大な石板を作らせ、火の精霊にはそれを温めさせる。

水の精霊には液化した油を満遍なく塗ってもらいその他の雑多な精霊には俺が渡したお皿やコップを並べてもらったり、肉を焼くのを手伝ってもらう。


すると後方から犬の姿のホロがすごい勢いで駆け寄って来る。

そのコマ落しの様な動きから縮地も使っているようで、まさに犬まっしぐらだ。

しかし、このままでは焼いている肉に埃が付くため風の精霊達が風の向きを調節してくれている。

そのせいでホロの方向に匂いが流れてしまい、さらにスピードが加速した。


そして、俺の前まで来ると当然の様に強い目力をもって俺を見上げて来る。

するとそれを見ていた獣人たちから激しい声がかけられた。


「お前には獣人の誇りはないのか!」

『じ~~~、プイ』


しかし、ホロは声を掛けて来た兵士を少し見ると俺に視線を戻して来る。

どうやら、彼の言葉はホロには届かなかったようだ。


「ワウ!ワウ!」


そして兵士の事を完全に無視すると代わりに催促の声を上げる。

俺は焼けた肉を皿に盛るとそのままホロの前に置いて次の肉の準備に入る。

ちなみに我が家に待てのルールなど存在しないので置かれた時が食べる時だ。

ホロは当然、置かれた直後からガツガツと肉を食べ始め至福の笑みを浮かべる。

時々チラリと獣人たちを見ているが彼らも既にお腹と喉を鳴らしているので体は正直なようだ。

しかも匂いで気絶していた者達も目を覚まし、こちらをガン見している。


するとホロは食べ終わると同時に獣人たちの許へと向かい、犬の姿のまま彼らに声を掛け始めた。


「ワンワン!」

(食べたければ我が軍門に下れ。そうすればバラ色の肉が待っている。)


確かに肉は薔薇の様に赤い。

元がミミズの様な姿なのでバラ肉は無いが言っている事に間違いはないだろう。


「ク、俺達には誇りが・・・。」


しかし、既にその目は焼いてる肉に釘付けだ。

後ろに居る者達に至っては先程まで垂れていた尻尾と耳を天に向かって突き立て完全に心を奪われている。


「ワン。」

(それは残念。)


そしてホロが背中を向けてこちらに戻り始めた瞬間、後ろの子供たちが我慢の限界を迎えて兵士たちの前に走り出た。

そしてホロの後を追い掛けてこちらまでやって来る。


「おい、そいつらは敵だぞ!」

「でも誰も襲って来ないじゃないか!この人たちはアイツ等とは違う。俺はこの方に付いて行く。そうすればあの肉も食べられるんでしょ。」


その言葉にホロは頷くと焼けた肉を受け取って子供たちに分け始めた。

当然、ホロも一緒に食べ始め口一杯に肉を頬張っている。


「うっま~~~!」

(良いリアクションだな。)


そして例え相手が子供だとしても一人でも動けばその数は次第に増えていく。

子供で安全だと分かれば大人が動き、それに安心すれば全ての子供がやって来る。

そして最後は諦めた兵士たちもこちらへとやって来た。


「本当に食べても良いのか?」

「最初から俺達は友好的に話をしているはずだろ。死者も怪我人も出してないしな。」


奴隷から解放した者が逃げる過程で怪我をする事はあったかもしれないがそれは仕方のない事で俺達の責任ではない。

それにお腹を膨らませた子供たちはテニスと一緒に尻尾鬼をして楽しんでいる。

あの姿を見れば誰も敵意があるとは思わないだろう。

ただ、彼らはマーメイドを奴隷としてしまった。

その事だけは彼女たちと、特にイソさんに謝罪しなければならない。

こうして話している間も彼の怒りは晴れてはいないはずだ。


「でもお前らはマーメイドを奴隷としたからそれだけは絶対に謝っておけよ。俺達の連れの一人は『マーメイド命!』だからな。このままだと確実に血を見るぞ。」

「ああ、それに関しては謝罪をしよう。俺達も色々必死だったんだ。」


そう言って彼は誠実な顔を見せる。

イソさんの方はあちらの島に渡り、今も警備をしている様なので後で代表を連れて謝罪に向かおう。

幸い怪我人は出ておらず、扱いも悪くは無さそうだったので許してくれるはずだ。

そして、俺達は獣人たちの胃と心を同時に掴むことに成功したので彼らの言う事情とやらを聴く事にした。


「それで、俺はこの大陸の事は詳しくないんだが何があったか教えてくれないか?」


マーメイドたちは人化が出来て陸に上がれるようになっても海から遠くには行かないそうだ。

なので彼女たちはこの周辺の事を知っていても内陸の事まで知っている者が居ない可能性が大きい。

しかし狐人達ならこの先の事を含めて色々な事を知っていそうだ。


「それならこの大陸の獣人には大きく分けて4つの種族があるのは知っているか?」

「いや知らないな。」

「ならばそこから話すがここでは狐、鳥、虎、亀の獣人が国を作って生活している。」

「それはもしかして霊獣と関係あるのか?」


実はここに来る前にアティルからこの大陸に住んでいる霊獣について少しばかり説明を受けている。

そして、彼の言っている種族はその霊獣のタイプと一緒だ。

ならば海でリバイアサンがマーメイドたちに崇められている様に、ここでも霊獣に対する信仰か何かがあったとしてもおかしくはない。

そして、兵士の男は俺の質問に頷いて返して来た。


「そうだ。俺達はナイン・テール・フォックス。九尾様の元で生活していた。しかし虎人の奴らが急に攻めて来て九尾様の力をあろうことか封印してしまった。」

「そんな事が簡単に出来るものなのか?ドラゴン程では無いにしても九尾は強力な霊獣なんだろ?」

「当たり前だ!しかし、どんな仕組みかは知らないがその技術を持ち込んだのがヒュームの商人だ。そのせいで九尾様は奴等に捕まってしまった!」

「それで俺達を警戒していたのか。」

「そうだ!だから俺達はお前らヒュームを信用できない。そしてこの町に来てすぐに全員を奴隷にしたんだ。」


どうやら話を聞けば支配が目的ではなく安全の確保の為であったようだ。

しかし、あんなに大量の奴隷の首輪をどうやって手に入れたのだろうか。


「それでもマーメイドを奴隷にするのはやり過ぎだ。それと奴隷の首輪は何処で手に入れたんだ。」

「この街にあったのが殆どだ。この街はあちらの大陸から魔道具を仕入れている。確か主な生産は南側でしていると聞いた事がある。」


どうやら、残っている南の国にも一度行ってみる必要がありそうだ。

別に産業として魔道具を作るなら何も言う気は無いのだが霊獣すら従える技術を持っていた場合は世界のバランスが崩れてしまう。

霊獣が本来の役割を忘れていると言え、その力で少なからず世界を安定させる事に一役かっている事に変わりはない。

そんな存在を好き勝手させる訳にはいかないだろう。


「そうか。しかし今はそういう事を忘れて肉を喰え。それと九尾については俺達がどうにかしてやる。だからまずは精を付けろ。」


そして肉を食わせながらその後も少しずつ話を聞いていった。

どうやらこの街は中立的な町でもう1つの大陸から来たヒュームの殆どはここで折り返すらしい。

その為、ここから先には獣人しかいないそうだ。

そして、ここから一番近い大きな国が彼ら狐人の国で今は虎人に支配されている。

しかし、九尾さえ解放できれば再び国を復興できるそうだ。

すなわち、彼らは難民と言う事になる。


「それで、謝罪は誰が行くんだ?」


すると俺の言葉に彼らの視線は先程から話している目の前の兵士へと向けられた。

どうやら、この男が彼らを束ねているようで九尾の代役と言ったところか。


「俺の名前はコガネだ。俺が責任を取って謝罪に向かおう。」

「お前一人か?」


俺の言葉にコガネは僅かに反応を示すが視線は俺に向いたままだ。

しかし、コイツの言葉には隠された意味があるのを俺は知っている。

コガネはあくまで責任を取ってと言っており、代表者やリーダーとは言っていない。

それもその筈、このグループのトップと呼べる存在は他にちゃんと居るからだ。

しかし、その存在は謝罪に行かせるには見た目が幼い。

それでもそいつが謝罪に行くのと目の前の普通の獣人が行くのとでは誠意という面で大きく違って来る。

最低限、姿は見せるべきだろう。


俺は歩き出すと今も肉が焼かれている一角へと向かって行く。

そしてそこには一人の少女が今も必死に肉を焼いて食べていた。

見た目は銀の毛並みに茶色い瞳、身長は120センチほどと小さい。


しかし、その顔に浮かぶのは喜びではなく不安や悲しみと言った表情だ。

周りの者たちが美味しそうに食べている中、ただ一人だけまったく美味しそうに食べていない。

しかも、現在は探知のスキルのおかげでその姿が見えているがスキルを切ると姿が見えなくなる。

恐らくスキルか何かで姿を消しているのだろう。

マップでは確認できるが姿が見えないと焼けた肉が勝手に消えていっている様にしか見えない。

俺は少女の前まで言って足を止めると視線を下げて顔を見詰めた。


「・・・・・。」


しかし少女は一瞬俺に視線を向けるがすぐに逸らしてしまった。

恐らく気付かれていないと思っているのだろう。

俺はそんな彼女の前で普通に肉を焼き始める。

しかし、今回焼いているのは地竜の肉だ。

その味と食欲をそそる匂いは今までのワームと比べて比較にならないほど跳ね上がる。

すると目の前の少女も今ではこちらに視線が釘付けになっている。


俺は周囲のワーム肉が焦げない内に回収し横にいるホロに渡しておく。

これでここにあるのは俺の置いた肉、ただ一つだけだ。


「そろそろ焼けたかな~。」


俺は肉に箸を伸ばすと目の前の少女からも同じようにフォークが伸びて来る。

そして、俺の箸は肉ではなくその伸ばされたフォークを掴み取った。


「!!!」


当然、少女は自分が見えていないと思っていたのでその驚きは大きいだろう。

そんな中で俺は肉を回収するとそれをホロの口に放り込んだ。


「あ~!」


少女は途端に涙目になると俺を睨みつけて来る。

先程まで倒れていた耳が起き上がり、9本の尻尾が毛を逆立てた。

彼女の種族は先程から話題に出ていた九尾の狐だ。

俺もマップで気付いた時には首を傾げたが霊獣が1匹だけとは限らない。

周囲を探してもこの少女しかいないので他は捕まったか別の場所に逃げたのだろう。


それとどうやら肉を取られた事で先ほどの驚きは完全に吹き飛んでしまったようだ。

少女は仕方なく他の肉を食べようと周りを見回すがそれらも既にホロの胃の中にある。

俺は少女にニヤリと笑うと悪戯を止めて声を掛けた。


「見えてるからな。」

「・・・本当に?」

「ああ、だから隠れても無駄だ。それと謝罪にはお前も行くから着いて来いよ。」

「・・・うん。」


少女が頷くのを確認すると俺は肉を取り出して並べて行く。

すると少女は再び目を輝かせて肉を焼き始めた。

それをホロも狙っているとも知らずに。


「名前はあるのか?」

「ワカバ。」


俺は名前を聞くとその場を離れてコガネの許へと戻って行った。

その少し後に後ろからホロの声とワカバの悲鳴が聞こえた気がするが気のせいだろう。

そしてコガネは隠していた事を簡単に暴かれてしまったのでその顔は心配そうに歪んでいる。

しかし、こういう隠し事はよろしくない。

これから一緒に行動するなら致命的な場面で存在が明るみになるのと最初から知っているのとでは対応が変わって来る。

その事をコガネに納得させて俺達は少しするとマーメイドの許へ向かって行った。


船では向かえないのでコガネは俺が背負い、ワカバはホロが抱えている。

今は尻尾を1本にしている様であれなら他の獣人と見分けはつかない。

先程は肉を奪い合った仲なのでそれなりに打ち解けている様だ。

そして島の海岸に到着すると歩いて村へと向かって行った。

村は海岸から見える木々を抜けた先にある。

大きな村ではないがマーメイドの人数は100人以上は居る島の規模から考えれば十分な大きさがある。

そして、村の中央には大きな湖があり変身のスキルの無い者はそこで生活している様だ。

俺達が到着するとこちらに気付いたイソさんが直ぐに迎えに来てくれる。

そして後ろにいるコガネを見て殺気の籠った鋭い視線を向けた。


「そいつは何をしに来た。既に彼女らからある程度の事情は聞いているぞ。そいつが今回の犯人だろう。」


流石にワカバには向けない様だが代わりにコガネは一人でイソさんの殺気に晒されている。

覚悟があったとしてもかなり厳しい対応である事に変わりはない。


「しゃ、謝罪を・・しに・来ました。」


しかし、コガネは詰まりながらも何とか言葉を絞り出した。

ワカバの方は既に怯えて言葉すら出せない様だ。

イソさんはその言葉に幾分か殺気を緩め俺達に背中を向けた。


「ならば着いて来い。彼女らが許すなら俺もお前らを許そう。」

「・・・感謝する。」

「そう考えるのは早計だ。」


そしてイソさんは俺達を案内するように村へと入って行った。

その後を付いて行くとそこには多くのマーメイドが集まり笑いながら話をしている。

その中心に居るのはここに置いて行ったヴェリルで俺に気付くと嬉しそうに駆け寄って来る。

どうやら彼女らとも上手く打ち解ける事が出来た様で俺の事も知られている様だ。


「情報は聞けたか?」

「聞けたけどあまり有力な情報は無さそうだよ。マーメイドはあまり内陸には行かないから。」


それは既に予想していた事なので問題はない。

それにそちらに関しては丁度いい情報源を既に確保してある。

ただ、その前に彼女らの許しを得なければならないという大前提が残っているが。

イソさんはマーメイドたちの所に行くと彼女らにコガネ達が謝罪に来た事を伝えてくれている様だ。

少し表情を曇らせているがどうにか門前払いにはならないようでマーメイド達はこちらへとやって来た。


「それでは話を聞きましょう。今回の事で幸いにも怪我人は一人も居ません。捕まった者達からも手荒な事はされていないと聞いています。」

「寛容な言葉に感謝する。俺達はどうしても安心して休める場所が欲しかっただけなんだ。その過程で判断に誤りがあったのも認める。しかし、可能ならばこちらの方だけでもこの島に置いてもらえないだろうか。」


そう言ってコガネはワカバに視線を向ける。

マーメイドたちもそれにつられてホロの足元で震えるワカバに視線を移した。

するとマーメイドたちの顔に驚きの表情が浮かぶ。

何故ならそこにはここに来る前と同じように9本の尾を持つ少女が居たからだ。


「まさか幼い霊獣を連れているとは思いませんでした。」

「この方は封印から逃れる事が出来た最後の九尾なんだ。だから頼む。ここで匿ってもらえないだろうか。」


コガネはそう言って膝を付いて地面に頭を擦り付けた。

その見た目はどう見ても土下座だがこちらの世界にもあったみたいだ。

その姿にマーメイドたちは一旦集まり話を始めた。

しかし、それほど待たずに結果は出た様だ。


「我々はここを捨てて他に移る事にしました。使いたければ好きに使いなさい。それと謝罪は受け入れましょう。霊獣である九尾まで来たとあっては誠意としては十分です。ただ、気を付けなさい。この島は出る事は容易ですが入るにはマーメイドの許可が要ります。今回は我々が導きますがそれ以降は入る事が出来ませんよ。」

「感謝する。これで他の者も少しは安心して暮らす事が出来る。」

「あ、ありがとうございます。」


その後、俺達はマリベルを呼び寄せてまずはマーメイドを日本に送る事にした。


「イソさん。任せましたよ。」

「大丈夫だ。どうやらあちらの中に知り合いも居るみたいだからな。」


今回は距離があるので魔石を使ってゲートを開いている。

その魔石は彼女たちが提供してくれたので無事に移動できることになった。

町から人を連れて来る時はヴェリルがいるので問題はない。

こちらは現在、情勢が不安定なのでなるべく早く避難した方が良いだろう。


「色々ありがとう。いつかお礼をするわね。」


マーメイドたちは晴れやかな笑顔を浮かべながらゲートを潜って行く。

歩けない者は誰かに抱えられたりしているので残った者は誰も居ない。

マップで確認し取り残された者が居ないのを確認するとイソさんが最後にゲートへと入って行った。


そして、ここには再び俺に権限が移された約100人の奴隷たちが残されている。

その中の一人が俺に声を掛けて来た。


「俺達はこれからどうなるんだ。」

「どうしたいか言ってみろ。」


恐らく世界融合でこちら側に取り残された者たちだろう。

帰りたいなら条件次第で手を貸さない事もない。


「出来ればあちらに帰りたいが船で出ても進む先が分からない。何度か試したが東の大陸に辿り着けずに引き返しているんだ。いったい何が起きてるんだ。」


どうやら世界が融合した事も知らない様だ。

確かに今までその事を知っていたのは一部の者たちだけだった。

彼らが知らないのも仕方ないだろう。

ただ別にそこを知らなくても問題は無いので何も答えず、別の事を告げる事にした。


「それならあちらの大陸までは送ってやるからそこからは好きにしろ。それと一旦向こうに戻るから少し待っててくれ。」

「ほ、本当に帰れるのか!?」


男は嬉しそうに笑みを浮かべると目に涙を浮かべた。

ここに取り残されて3ヶ月は経つので中半諦めていたのかもしれない。

家族を残している者も居るだろうから嬉しさも一入だろう。


俺達はまずはワカバとコガネを連れてあちらへと戻り船を出させた。

そして互いに人を入れ替えながら往復し獣人たちは島で下り、奴隷達には周辺に散って行った者たちを集める様に指示を出す。

遠くの者はゲンさん達にお願いしておいたので今日中には逃げて行った者たちも集めることが出来た。

そして現在、俺達の前には多くの帰還を待つ人間が列を作っていた。


「それじゃ、順番に進んでくれ。ゲートから出ても止まるなよ。後ろが閊えるからな。」


ゲートはそれほど広くないので横に2人か3人並べば限界だ。

誰もが戻れる事で嬉しいのかその足取りはとても軽い。

多くを失った者も居るが、こちらに居ても生活する手段が無いので全員が帰還を希望した。

奴隷だった者も全員解放しているのであちらで勘違いされることも無いだろう。

ゲートを繋げるのにかなりの魔石を消費したが町にはかなりの量の魔石が残っていたのでそれを使わせてもらった。

残った分は俺達の手間賃として頂いておく。

ここから何ヶ月も知らない海を進み、無事に辿り着けるかもしれない航海をするのに比べれば安いものだろう。

漁ればもっとあると思うが日本人の感覚からして、人様の家の物を頂戴するのには抵抗がある。

ゲームなどでは勇者がよくそんな事をしているがあれは確実に心臓がオリハルコンで出来ているに違いない。

そして最後の人間がゲートから出たのをマリベルが感じ取った様でゲートが閉じられた。


「マリベル大丈夫か?」

「はい。今回は全て魔石で補いましたから大丈夫です。」


いつもは数人の移動なのであんなに沢山を運んだのはマリベル自身も初めての事らしい。

少し心配だったが大丈夫そうで良かった。

俺は頑張ったマリベルの頭を撫でてやりながら町へと戻って行った。

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