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173 ドワーフ王国 ⑦

俺とテニスは完全武装で城から出るとギルドへと向かって歩いていた。

この国のギルドも他の町と同じように本部は町の中央に近い場所にあるらしくここから400メートルと離れていない。

しかもこの辺りは屋敷の様に大きな家が多く人通りは殆どない様だ。

そのため疎らに人とすれ違うだけのはずだが、俺達が向かう先から波の様に人がやって来るのが見える。

恐らくは冒険者たちだろうがその中にはドワーフの兵隊も多数含まれている。

どうやらあちらも俺達に対応するために動き出したようだ。


「テニス、気付いてるな。」

「ええ、楽しいダンスが見れそうね。」


そして、少し歩くと人の波に行く手を遮られた。

全員が体に鎧を纏い、武器を手にしている。。

どうやら一部の鍛冶師が製作していた鎧や武器はギルドに流れていたようだ。

しかも予想通り、冒険者には既に人で無い者たちが紛れ込んでいる。

ナトメアに聞いた時にはドワーフ王国に手は出していないと言っていたがギルドには手を出していたようだ。


確かに二つは違う組織なので言っている事に間違いはない。

今回は俺の聞き方が悪かったと反省しよう。

すると俺達の前を遮っている者たちから1人の男が前に出て来た。


「初めてお目にかかりますね。私はこの街でサブマスターをしているギータと言います。そちらに居るのが指名手配犯のテニスさんですね。そしてあなたが報告にあったユウという男ですか。手紙が無事に届いた様で何よりです。」


男はそう言うと楽しそうに笑い目を細めた。

それに対し俺は内心で怒りが沸き起こるが最終確認は必要だろう。

別に死んでも心は痛まない相手だが犯人が有耶無耶になるのは避けたい。


「お前が家に矢を放ったのか?」

「ええ、この国の保管庫にあった魔道具を使いましてね。」

「そうか・・・。」


俺はその言葉に短く返すと空に向かい手を掲げる。

それを見てギータは首を傾げるが俺が手を振り下ろすと同時にその顔に驚愕の表情が現れた。


「「ガアーーーー!」」


それと同時に王都から離れた空に二つの光が灯る。

そして数瞬後には彼らは光と衝撃に飲み込まれ立っていた地面は衝撃により抉れていった。

その光景をテニスは面白そうに眺めて笑っているがこういう事で笑う彼女の精神が少し心配になって来る。


俺はと言えば周囲に被害が出ないように防御するので必死で声を掛ける暇はない。

流石に自分の家は大事だけど他人の家はどうでもいいとは言えないからだ。

そして光が収まると同時に空に二匹の龍が現れ、変身を解くと結界を突き破って見事な着地を決めた。


「待たせたなユウ。」

「ナイスタイミングだったでしょ。」


俺達の前に現れたのはゲンさんとサツキさんだ。

手が空いたら来ると言っていたがやっと暇になったようだ。

朝には来ると連絡はあったのだが念のために外で待機してもらっていたのでついでに敵を一掃してもらうのに協力してもらった。

奴らの動きに合わせて連絡を行い、丁度良く人の少ない所で待っていたのもそのためだ。

今ではブレスを撃つのにも慣れた様で大きな疲労も感じていない様に見える。


そしてブレスの到達点を見るとどうやら重傷は負っている様だが死んだ者は居なさそうだ。

流石はドワーフ製の鎧と言う事だろう。

しかしそうなると紛れていたデーモンもまだ息があると言う事になる。

俺は剣を手にするとスキルで相手を確認し弱った相手でデーモンだけを切り殺していく。


「ユウはこんなに容赦がなかったっけ?」

「俺が殺しているのはデーモンだけだ。人は洗脳されているだけの可能性があるから生かしてある。」


そして、俺が鎧ごと切り裂いて行くと少しして天使が光と共に増えていった。

彼らは適当に待ってもらい俺は全てのデーモンを始末していく。


「お前でラストか。」


距離があったためかギータと名乗っていたデーモンも生身でありながらしっかりと生き残っていた。

しかし、その身は満身創痍で戦闘が出来るとは思えない。

奴は俺がデーモンを見分けて殺しているのを見ているので自分の正体がバレているのにも気付いていたのだろう。

普通の人間なら立つ事も出来ないほどの怪我をしているがギータはなんでもない様に立ち上がった。


「まさか、気付かれていたとは驚きですね。しかし、私とて中位に位置する者。そう簡単には負けませんよ。」


ギータはそう言って剣を構えたので俺も同じように構えを取る。

手に持つのは水の魔石を材料にした青い刀だ。

そして、ギータが持っているのは見た目は普通の剣に見えがそれは見かけだけなのは分かっている。

それにデーモンが使う剣は過剰に見た目が邪悪な武器を使っているが、ギータが今持っている剣はまったく飾り気のないロングソードだ。

そして、クラウドの鍛冶をコピーしている俺には剣のいたる所に見える特徴からあれは彼が作り出した剣だと分かる。


「良い剣を持ってるな。」

「そうでしょう。前王が作った最高傑作です。これを使うと色々な物が簡単に切り裂けてとても楽しいのですよ。今あの城に居ると言う事なので自分の剣で殺してあげようと思い持って来ました。」


やはりクラウドの剣で間違いは無さそうだ。

しかし彼の最高傑作という剣に、打ち合ってこちらに勝ち目があるだろうか。

最悪の場合は全ての攻撃を躱さなければならない。

中位程度なら難しくは無いが油断は禁物だろう。

そのため、俺は刀の制限を解除して吸いたいだけ力を吸わせていく。


そして、そんな中で先手を取ったのはギータだ。

奴は力の高まりに警戒したのか即座に間合いを詰めて攻撃を仕掛けて来た。

俺はその一撃目を交わすが即座に返しの刃が襲って来る。

その素早い動きに俺は咄嗟に刀を合わせて受け止めた。

その瞬間ギータの口角が上がり、勝ちを確信したように笑みを浮かべる。

しかし、それは次の瞬間には驚愕へと変わった。


「な!?なんで俺の攻撃が受け止められる。」

「さあな、俺に勝てたらクラウドにでも聞いてみろ。」


俺は驚くあまり隙を見せたギータに蹴りを放って弾き飛ばすとそのまま追撃を加えた。

偶然にも剣同士で打ち合えることが分かったのでもう遠慮することは無い。

俺は距離を詰めると突きを放ち、動揺している相手の足を蹴り上げて態勢を崩すと刀に力を限界まで食わせて複数の水刃を放つ。

ギータはそれを防ぎきる事が出来ず、片腕を飛ばされ腹を裂かれた。

俺は更に刀を振るいその手首を切り取ると返しの攻撃でその首を胴から切り離し決着をつける。


そして、俺は剣を拾うと大事に収納して後でクラウドに返却する事を決めた。

流石に落ちているからと言ってベルドの時の様に貰う訳には行かないだろう。

クラウドは思い出を大切にする男なのでこれも思い出の品の一つかもしれない。

奴が何を斬ったかは知らないが今後どうするかはクラウドが決める事だ。

そして、俺の背後に忍び寄る二つの悪魔に気付けず。

気付いた時には既に肩を完全にホールドされてしまった。

俺はそのあまりにも見事な動きに戦慄を覚えて肩越しに後ろを振り返る。


「いかんなユウ。あれは完全に油断と言うものだ。」

「これが片付いたら少しお稽古しましょうね。」


そして、やはりあの瞬間を見過ごす二人ではなかった様だ。

俺はこの時点で地獄の訓練メニューが確定した事を知り背中に汗が流れる。

そして心で涙を流すと次第に増加していく握力に観念して頷きを返した。


こうなれば残りのデーモンは1人だけだ。

コイツに八つ当たりをして憂さを晴らそう。


しかし、そんな俺の考えは見事に叶うことは無かった。

何せ、暴れたいテニスに、お祭り気分で参加しているゲンさんとサツキさんが加わったのだ。

あの程度で見学をしてくれる様な3人ではない。


そして冒険者ギルドの前に到着するとあちらも準備万端で待ち構えており、手にはやはりデーモンらしくない剣を持っていた。

しかし、その剣は大きく、先日見たオーガの剣を思い出させる。

するとテニスが一歩前に出ると男に声を掛けた。


「あなたがフライスね。」

「そうだ。私がこの国の冒険者ギルドのグランドマスターであるフライスだ。そして上位デーモンでもある。」


フライスは名乗ると同時に黒い繭に覆われるとそれは瞬く間に巨大化していく。

そして4メートルほどにまで大きくなると繭を突き破って姿を現した。

しかしその姿はまさにクラウドの故郷で見た鎧を着たオーガと同じである。

フライスは着心地を確認するように手足を動かすと後ろにある大剣を手に取った。


「なかなかの着心地だ。ドワーフ共に特注で作らせたが俺の真の姿に合う鎧など普通は無いからな。ははははは!これで俺は無敵だ!!」


どうやらオーガの鎧こそがカモフラージで自分の鎧を作らせるのが本命だったようだ。

しかし、奴の語った単語を拾い俺達は首を傾げるばかりで4人で集まり小声で話し合いを始めた。


「ちょっと、ちゃんと教えてあげた方が良いんじゃない。アイツ、あんなに自信満々になってるわよ。」

「仕方あるまい。奴は職人ではないのだから目利きは無いのじゃろう。」

「あれなら着てない方が強そうよね。」

「俺はさっき本命を倒したのでパスしますね。3人でジャンケンでもして決めてください。」

「ちょ、ユウ。私達に押し付ける気。」

「何を言っているんだ。ここは暴れたりないだろうと思って率先して身を引いているんだ。」


俺は早々に離脱を決意し、3人を残して後ろへと下がって行った。

彼らにはしっかりと暴れてストレスを発散してもらおう。

もしかしたら以外に善戦して俺の訓練が楽になるかもしれない

それにしても、ドワーフ王国の武器防具は人間サイズを基準に作られているので仕方ないとはいえ適当な職人が作ったのでは意味がない。

すると、3人は俺から提案を渋々と受け入れ、ジャンケンによって誰が戦うかを決める様だ。

しかも負けた者が相手をする事にしたらしく、既に罰ゲーム扱いである。


「「「ジャーンケーン・・・ホイ、ホイ、ホイ、ホイ」」」


そして手に残像が発生するような高速ジャンケンが始まった。

それぞれ出しながら手を変えたり、相手の気配を読むなどの高等技術を惜しみなく使っている。

その様子をフライスは呆れて見ているが、どうやらそれほど長くは待てなかったようだ。

とうとうジャンケンの相子が100を超えた時、奴は動き出した。

しかし100と聞くと普通なら数分は掛かる。

だが3人の高速ジャンケンならたったの数秒なので気が短いにも程がある。

まあ、名乗りを上げて対決に意気込んだ直後に相手がジャンケンを始めれば仕方がないかもしれない。

俺なら即座に魔法を放つところだがフライスは余程あの剣と鎧を自慢したいようだ。

馬鹿正直に剣を掲げ鎧で重くなった重量により地を揺るがす様にして迫って来る。

しかし、それでも3人はジャンケンを止めない。

どうやらデーモンと戦うよりもこちらの方が楽しくなっている様だ。


「人間の分際で俺をナメやがってーーー!」


フライスは怒りの咆哮と共に巨大な剣を振り下ろした。

すると一瞬3人の視線がそちらに向いたかと思うとそれぞれの獲物を放っていた。

その速さはまさにジャンケンの速度に見劣りしない程に速い。

その結果、サツキさんが両肩から腕を斬り飛ばし、ゲンさんが両足の付け根を切り離す。

テニスは最後に残った頭部を、その拳により完全に粉砕した。


「「「あ・・・。」」」


そして3人はつい相手を殺してしまった事に気が付くと顔を見合わせて肩を落とした。

それを見て俺は逆にあまりの不完全燃焼ぶりに背中に冷汗が噴き出るのを感じる。

どうやら、訓練は更に厳しいものになりそうだ。

その後ろでは一人の天使が現れ、俺達の姿を見て首を傾げている。

俺は罪のない彼女を優しく先導して他の天使たちと引き合わせた。


「君たちは少ししたら我が家に行ってもらう。君たちの上司がいるからそちらの指示に従ってくれ。」

「分かりました。あの・・・大丈夫ですか?何か助けがいるようなら力になりますが。」


どうやらこの後の訓練の事を考えて気が落ち込んでしまっていたようだ。

先程会ったばかりの彼女たちに心配されるようでは良くないな。

俺は気を取り直して家に電話を掛けた。


「メノウか。決着がついたから門を開いてもらえるようにマリベルに言ってくれ。」

『分かりました。それでは10分後に門を開きます。』

「頼む。それと天使がまた30人程増えたからその対応も任せた。」

『・・・分かりました。その子達の事はお任せください。ナトメアもお仕置を考えておきます。』

「・・・任せた。」


俺は怒っていないがメノウに丸投げする事にした。

彼女も天使なので酷い事にはならないだろう・・・多分!


そして俺は天使たちを連れてゲートの場所へと向かって行った。

俺の帰宅は明日と伝えたので今日はこちらで過ごす最後の日になる。

クラウドもこれからの事を考えれば日本に帰る事は難しいだろう。

俺達の武器がどうなるか分からないが彼の事なのでこちらで仕事を終わらせれば連絡をくれる筈だ。


そしてゲートのポイントに到着したので俺は時間と同時に彼女たちをゲートへと入れていった。

あちらではメノウが面倒を見てくれるので心配はない。

以前の様に少し歪んだ常識を植え付けて送り出してくれるだろう。

そして、最後に先ほど俺を心配してくれた天使が残った。


「あの、本当に大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。だから早く行きなさい。みんな待っているよ。」


俺はそう言って軽く頭を撫でると彼女の背中を押した。

そしてゲートが閉まるのを見届けてから城へと戻って行く。

その頃にはテニス達3人も既に城へと向かっている様だ。

もともと、ゲンさんの目的は武器の調達とここのドワーフ王との話し合いだった。

その両方が既にクリアされているとはいえ挨拶はする必要があるだろう。


そして俺は3人と合流してすぐに、久しぶりに地獄を見た。

テニスもあまりに不完全燃焼だったためストレスが溜まり、全力で暴れたいと言い出したからだ。

そんなのを受け止められる人間は俺を含め、ゲンさんとサツキさんぐらいしかいない。

そして俺は3人が納得するまで王都の外で血反吐を履く程の厳しい戦いを強いられた。

スキルを制限した状態での戦いだったので仕方ないが、やはり戦士としての力量は3人にはまだまだ及ばない。

これからも家族を守るために、まだまだ精進が必要だと再確認した。


そして次の日の朝、俺達はテニスとクラウドを残して日本に帰って行ったのだった。

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