17 京都③
俺達は嵐山に到着すると伏見同様にマップで確認を取る。
しかし、見える範囲には生存者を確認する事は出来なかった。
代わりにまだ見た事のない魔物がいるようで名前が表示されない反応が幾つもある。
これは最悪の状況を考えて動いた方が良さそうだ。
「アキトはどう思う?」
「現状を見れば生存者がいない可能性が高い。しかし、ここの山は広い。もしかしたらという可能性もある。」
アキトの方はどうやら諦めてはいないようだ。
しかし俺も諦めは悪い方なのでこの目で死体を発見するまでは希望を捨てるつもりはない。
俺達は互いに頷き合うと山へと分け入って行った。
そして、まずはここに来た目的の1つである未確認の魔物の許へと向かう。
こいつらがゾンビなりグールだった場合は諦めるしかない。
何でもこの2つに関しては自然発生はしないらしく、元となる死体が必要らしい。
そして歩く事30分。
俺達は途中にいた既に知っている魔物を倒しながら山を歩く。
そんな中でアキトは歩きながら周囲を見回し首を傾げていた。
「どうしたんだアキト。何か気になる事でもあるのか?」
「ああ、山が綺麗すぎる気がしてな。」
「観光地なら普通なんじゃないか?」
「いや、こんな人の入らない所まで整備はされないだろ。普通はもっと蔦や枝で視界が悪くて歩くのが大変なはずだ。これはどう見ても人の手が入っているから警戒を怠るな。それに先ほどから誰かが魔物を狩っているみたいだ。敵か味方か分からない内は警戒するのが得策だ。」
「それもそうだな。」
ちなみに魔物と戦っている存在がいる事は俺も気が付いていた。
人を表す青い光点が何人も森に広がり魔物を狩っているようだ。
しかもかなりの手練れのようでマップの状態でも手練れだとすぐに分かる。
魔物の発見や戦闘時間が短く遠距離攻撃も使っている。
これが何者なのかは不明だが俺達はまず、近くにいる正体不明の魔物を優先する事にした。
そして俺達の前にその魔物が姿を現すと姿は青い芋虫のようで地面をゆっくり這うように移動している。
初めて見る虫型の魔物だがゴキブリや蜘蛛でなくてよかったと内心で胸を撫で下ろしている。
蜘蛛までは我慢できるがゴキブリは生理的に受け付けないので見かけたら即座に焼き尽くそう。
そしてこの芋虫にはキャタピラーと名付けるとマップに表示されていた未確認の魔物に名前がついた。
どうやら正体不明の魔物は全てコイツだったようだ。
しかし、こうして見ると普通なら警戒心が薄れる魔物だ。
動きは遅いし手足もない。
しかし、モ〇ラの幼虫ですらゴ〇ラを翻弄したのだから、もし同じように粘着性の糸を吐くなら厄介そうだ。
俺はここで森に詳しそうなエルフのアリシアに意見を求めた。
「アリシアは何か意見はないか?」
「・・・え?あ、はい。あれは遠距離から攻撃した方がいいです。口から粘着糸の他に魔法を吐く事もあります。動きは遅いように見えますが興奮すると体当たりもしてくるので注意してください。」
アリシアは声を掛けた時は周りを見ながらなんだか落ち着かない感じだったがすぐに意識を切り替えて魔物の説明をしてくれた。
俺達にとっては初見でも異世界から来たアリシアとライラには既知の魔物である事もある。
こういう情報は安全に魔物を倒すのに役立つのでとても助かるが様子がいつもと違うので心配を感じる。
それにそうなったタイミングは森に入って少しした辺りからだ。
ここに来るまでにも木に触れたり地面にしゃがんで何かを確認したりしていた。
まるで何かの痕跡を探しているようだったが、周囲の安全を確保したら一度話をする必要がありそうだ。
そして俺達はアリシアのアドバイスに従い魔物を反包囲し魔法を仕掛けた。
周囲への被害を最小限にする為、火は避けて残りの水、風、土の3属性を使用する。
アリシアには遠距離からの弓を放ってもらったがいつもは中心に刺さる矢が僅かに逸れていた。
しかしそれ程の問題にはならず、計画通りにキャタピラーは俺達に向かい糸を吐いて来た。
すると準備しておいた風の魔法に押し返され自分が絡めとられて動きが鈍くなる。
その後、体当たりは距離を取っていたため簡単に躱し完全に手玉に取る事が出来た。
魔法の良い練習にもなったので良かったが、今までの魔物と違い痛覚が鈍いのか勢いだけは消える直前まで鈍ることは無かった。
厄介な魔物だが倒せないことも無いので今後は魔法の習熟度も大きな課題だろう。
それに剣に頼り過ぎて今まであまり使っていなかったのも良くなかった。
しかし、魔物を倒した直後に何の前触れもなく俺達の傍に光点が現れた。
最初は魔物が湧いたのかと警戒してそちらを武器を向け警戒したがいつもと様子が違う。
マップに表示された光点の色は白で、これはアリシアが呼び出す精霊やテイムされた魔物と同じ色だ。
方法は分からないがこの森で戦っていた誰かが俺達に何かを飛ばして来たのだろう。
しかし、そういった存在はもちろん攻撃にも使われるため警戒しながら相手のアクションを待った。
すると木の影から出てきたそれは堂々とした態度で胸を張ると俺達に警告をして来た。
「こんばんは。私はドライアドのジェネミー。あなた達に伝言を頼まれたの。すぐにこの森を立ち去りなさい。そうすれば見逃してあげる。」
しかし、そう言って大きな態度をしているがその見た目は30センチ程ととても小さい。
服も大事な部分を隠すように葉っぱが覆っているだけで顔はとても美しく色は全体的に若葉を思わせる緑色をしている。
そしてその体は俺達の目線の高さまで浮いていて羽があればまるで妖精の様だ。
その手の趣味の人が見れば飛んで喜びそうな見た目である。
下手して捕まれば専用のガラス瓶にでも入れられて一生閉じ込められそうだ。
するとアキトは敵意のない事を示すために武器を仕舞い両手を上げて前に出た。
「まずは何も知らないとはいえあなた達の領域に侵入してしまった事を謝罪しよう。」
そう言って頭を下げるアキトにジェネミーは口元に手を当て「あら」と声を漏らす。
どうやらこちらがここまで下手に出るとまでは思っていなかった様だ。
「あなた達は私に驚かないし態度も良いのね。捕まえた人達は私を見るとみんな驚いていたわよ。」
するとアキトはジェネミーの言葉にピクリと反応した。
そこに生存者の可能性を嗅ぎ取ったからだろう。
「捕まえた?もしかしてその者達があなた達に失礼な事でも。」
「ええ、私を見て捕まえようとして森に入って来たの。せっかく帰る様に伝えたのに残念ね。仕方ないから捕らえて里の牢屋に閉じ込めているわ。」
「なら返していただけませんか?我々はその者達の捜索に来た者なのです。」
「それは私だと判断が出来ないわね。里の代表を連れて来るから少し待っててちょうだい。」
するとジェネミーは来た時と同じようにその姿を消した。
その直後に袖を誰かが引くので俺はそちらに視線を向ける。
するとその先には暗い顔をしたアリシアが居り、何か言いたそうな目を俺に向けていた。
「どうしたアリシア?何か気になる事でもあるのか?」
するとアリシアは口をモゴモゴさせ視線を逸らしながら袖を握る手に力を籠める。
どうやらかなり言い辛い事のようだ。
しかし、それでもアリシアは覚悟を決めて話し始めた。
「森の様子から気になってましたが、ドライアドが来た事で確信しました。ここにはエルフの集落があるみたいです。きっとこれから来るのはそこの里を束ねる里長でしょう。でも私は・・・」
そう言って言葉を切ったアリシアは縋るような目を俺に向けて来る。
そして彼女が目覚めた時の話を思い出して俺は少し納得した。
きっとアリシアは例え仲間が見つかってもそこに帰るつもりがないのだろう。
それか俺がアリシアを里に任せて家を追い出すと思っているのかもしれない。
たしかにアリシアには行く所がないならと言ったがいたいならいれば良い。
俺は周りが何と言おうとアリシア個人の意見を尊重する。
「俺はお前が居たい所に居ればいいと思うぞ。まだ数日の付き合いだがアリシアにも思う所があるだろ。気持ちの整理も付いてない内に追い出したりしないから安心しろ。」
「は、はい!それならこれからもっと頑張ります。」
(これからって今まで何かさせていただろうか?戦闘の事か?)
「ああ、頑張ってくれよ。顔を合わせづらいなら今はフードでも被ってるか?」
すると彼女は首を横に振り真直ぐに俺を見詰めた。
どうやら心配していたのは仲間に会う事ではなく家にいられなくなる事の方だったみたいだ。
「大丈夫です。それに彼らには出来れば種を分けてもらいたいのでこのままでいた方が良いです。」
「何の種かは知らないけど、その辺はアリシアに任せるよ。」
「はい!」
そして話が終わって少しすると俺達の前に数人分の青い光点と白い光点が一つ近寄って来た。
白はきっと先ほど消えたジェネミーだろう。
なら残りの青い光点はアリシアの予想が当たっていればエルフである可能性が高い。
彼女はもともと友好的な性格だったがこれからどんな相手が来るのかは分からない。
そして現れたのは男のエルフが二人と、女のエルフ一人だった。
ただ、アリシアが言っていた様に里長ならもっと年老いていても良い筈だ。
しかし目の前にいる三人とも美形で年は二十歳前後に見える。
そうなると見た目通りの歳ではないのかもしれず、俺はまだアリシアの事を何も知らないのだなと感じた。
すると俺達の前に立った3人は俺達を見てアリシアに視線を集中させた。
「同胞がいるとは思わなかった。それで捕らえた人間を返せと言う事だったな。」
「はい。無礼があったのなら後で正式に謝罪し、必要な物資があるならお届けしましょう。」
「そうか。まあ結果だけ言えば返す事は可能だ。ドライアドに言えば記憶も消すことも出来る。それで物資と言うがお前たちは何を払える。」
どうやら代価を払うのは既に決まっている様でその内容を聞いて来た
しかし、俺達には彼らが何が必要なのかが分からない。
まずは対話によって互いの事を知る事が必要だろう。
俺はアキトの横に立つと話に参加するために許可を取る。
「会話に参加したいけど良いか?」
「構わん。ジェネミーからお前たちは友好的な相手だと聞いている。多くの者と対話する事はこちらとしても願ってもない事だ。」
どうやら武力ではなく会話で解決できそうだ。
物語のように弓を構えられての話し合いではないので助かる。
それにジェネミーも最初は警告の為に現れたようなので彼ら自身も最初から争うつもりは無いのかもしれない。
「感謝する。それじゃあ教えてくれ。そちらは何が欲しいんだ?可能ならそれを提供したい。いらない物を押し付けられても困るだろ。」
すると彼らも納得したのか互いに頷き合い話し三人で話し合いを始めた。
どうやら俺達が急に現れたのでそこまでは考えてなかった様だ。
そこから彼らに思っていた程の欲は無いだろうと感じられた。
強欲な者なら言われた時点でつらつらと欲しい物を言って来ただろう。
そしてしばらくすると3人は話し合いが終わったのか再び俺達に向き直った。
「実は急に周囲が変化してしまい食料に困っている。良ければそれらを分けてもらいたい。それと嗜好品として酒と煙草を希望する。」
俺は煙草と聞いて一瞬耳を疑った。
全くイメージに合わないが彼らが求めているなら問題ないのだろう。
しかし、確認は必要なので俺はアイテムボックスから煙草を取り出した。
「これでいいなら問題がないか試してくれ。でも体には悪いし臭いもあるぞ。」
するとエルフの3人は顔を見合わせ「ははは」と笑った。
俺は常識的な観点から気に掛けているのだがそこに笑う要素があっただろうか?
しかし話を聞くと納得するしかない答えが返って来た。
「そんなの魔法で対処できるから大丈夫だ。知らなかったのか?」
「そう言えばそうだった。家は誰も吸わないから忘れていた。」
どうやら俺は吸わないので知らなかったが確かに臭いは生活魔法で消せそうだ。
体への影響は白魔法で対応できそうだし、あちらの世界では常識なのだろう。
そうなるともしかしてライラやアリシアも普段は吸っていて今は我慢しているのだろうか?
それに人によっては吸わないと禁断症状が出て機嫌が悪くなる人もいると聞いた事がある。
二人はそんな様子はないが居候なので色々と溜め込んでいるかもしれない。
「二人は吸わないのか?」
「私は煙草は嫌いよ。」
「私も苦手です。」
すると珍しく二人とも嫌悪感を含んだ顔で教えてくれる。
俺も吸わないので分かるがあれは本当に嫌いな人の反応だ。
話の流れであからさまな態度には出していないが家で聞いたらもっと声を荒げて言ってきそうだ。
まあ里長達には笑いが取れたので良しとしよう。
そして俺は友好の品として1カートンほど渡し味などを確認してもらった。
最初は開け方に困っていたが俺が教えるとそれ以降はすぐに自分たちで開けられるようになった。
俺は吸わないので味など分からないが彼らは煙草を試して絶賛している。
「これいいな。スーッとしてて痺れそうだ。」
「一本の量もこれなら丁度いいな。」
「匂いも私好みよ。まったく青臭くないのがいいわね。」
どうやらどの銘柄も気に入ってくれたようだ。
後は酒の好みと食べ物は何がいいかだな。
「それは良かった。あと酒と食料は何が良いんだ?」
「そうね。今の時期なら生の果物は大変でしょ。干した物でもいいわよ。後は何でもいいわよ。干し肉でも何でもね。」
「え?」
しかし話の途中で既にアイテムボックスから食材と道具を取り出していた。
以前ゴブリンの巣に行った時、食料関係でライラにアドバイスをもらったので何処でも料理が出来るように一式をそろえている。
俺は取り出した生野菜や生肉を驚く彼らの前で調理して行く。
肉を厚めに切ってフライパンで焼き、野菜を盛ってシーザードレッシングを掛けた後に粉チーズを振り掛けて彼らに提供した。
彼らはそんな俺の差し出す料理を手に取り互いに視線をぶつけながら口へと運んだ。
「オオオオッ、これは美味い!こんな時期なのに野菜は新鮮でシャキシャキしておる!」
「肉も最高だ!臭みが全くなく、しかもこの脂の乗りはなんだ!」
「それに、こ、これは生の果物。甘くて美味しいわ。それにこの宝石みたいな輝きは何!」
俺は最後にデザートとしてリンゴを切って現物と一緒に並べておいた。
それに野菜も肉も好評のようであっと言う間に消えてしまった。
これなら政府も彼らとの交渉を友好的に進め、今後も良い関係を築けるだろう。
それを確信したのかアキトは後ろで何処かに連絡を入れている。
この調子なら彼らに安住の地を提供する事も出来そうだ。
なにせ彼らは既に戦う力を持っているので農村にでも移動してもらえばそれだけで彼らが村を守ってくれる。
又は今の日本にはすでに潰れた村や放置された畑があるはずだ。
そこを提供すれば問題なく暮らせるだろう。
ノウハウはこちらでは既に確立されているので指導も可能だ。
「気に入ってくれたか?」
「ああ、これなら問題ない。しかし、いいのか?これらは貴重な品だろう。」
確かに今後は貴重品になるかもしれないが現在はまだ補充は効く。
それにアリシアの為にも奮発しておく事は悪い事ではない。
これだけ振舞っておけばアリシアの願いも通りやすいだろう。
そして連絡を終えたアキトが良い笑顔を浮かべてこちらに戻って来た。
どうやら政府からも良い返事を引き出す事が出来たらしい。
「話は通りました。数日中には準備が出来るそうです。それと確認ですが移住は可能でしょうか」
「そうだな。周囲も変わってしまい食料の確保も難しい。移住も検討していたが何処か良い所でもあるのか?」
「それに関しては次に来る我々の仲間が資料を持ってきます。その中でご希望に添える場所があればそこに移動して頂きたい。ここの周囲はこの国の観光地になっており、森の傍まで民間人が足を踏み入れます。きっと捕まえた者もそういった者達なのでは。」
「そうだな。どの者も戦士やならず者といった感じではなかったな。」
「そうですか。それで村では何か産業を行っていますか?もし移動になれば持って行く物などはありますか?」
アキトは上手く話をして相手の事を聞いているようだ。
ある意味では俺も普通の異世界人との初めてのコンタクトなのでこの話には興味がある。
「そうだな、普段はポーションの原料になる薬草を作って下ろしていたな。しかし、商人はもうここには来れないだろう。そこで相談だがあんたらは薬草は要らないか?」
しかしそう言われても困ってしまうのが現実だ。
俺達にポーション作成の知識はない。
(ん?そう言えばついさっきライラが何か言ってたな。)
そして俺は伏見でライラが言っていた事を思い出した。
材料が無くて作れないと言っていただけであれば作れると言う事だ。
しかし、俺達が買うだけでは需要は大した事はない。
それにこれではエルフたちが生活する上での基盤にはなりそうにない。
ならばどうすればよいのかと悩み、俺は彼らに1つ確認をする事にした。
「あなた達はポーションを作れないのか?」
「いや、作れるぞ。ただポーションにして売ると運搬が大変だろ。運んでいて破損したり重たかったり。だから今までの商人は薬草の形で運んでいたんだ。ポーションなら村の大人なら誰でも作れる。」
なら話は簡単だ。
この世界の運搬技術ならライラが持っていた瓶を割らずに大量輸送が出来る。
もし道が荒れていて危険だと言うなら政府に必要性と現物を見せて説得すれば喜んで道も整備してくれる。
なので彼らには薬草の栽培からポーションの作成までをしてもらえば問題は無くなるだろう。
後はそれを政府が買い上げ金額を上乗せして販売すれば良いのだ。
結界石と同じで確実に儲けることが出来る。
しばらくすれば食うに困らない程の稼ぎになるだろう。
その後は他の産業を取り入れるのも良し、自給自足できる環境を作ってもらっても良い。
お金さえ出せばライラの結界石も買えるので平和に暮らせるようになるだろう。
そして丁度薬草の話になったので俺はアリシアに視線を移した。
アリシアも話の流れから今が一番のチャンスと考えすぐに俺の所まで出てくれる。
「あの、出来れば種を分けてもらえないですか?少しでもいいので。」
すると先頭にいたエルフはアリシアを見て驚きの顔になりその場に膝を付いた。
どうやら夜ということで彼女の顔をハッキリとは認識していなかった様だ。
しかし、さっきまで少し偉そうにしていた里長の態度を急変させるなんて何者なんだろうか。
「気付かず申し訳ありません。まさか姫様が同行していたとは。それで、本国は無事でしょうか?」
どうやらこの里長はアリシアの事を知っていたようで顔を伏せたまま謝罪を行いアリシアが何者なのかを口にした。
しかし、後ろの二人は知らなかったのかその声を聞いて急いで膝を付いている。
するとアリシアは少し顔を顰めているが自身の目的を果たすために話を続けた。
「私は散策中にゴブリンに襲われ国を出奔する事にしました。今は一般人としてこちらのユウさんの所でお世話になっています。ですからそのような事は必要ありません。」
すると彼らはアリシアの言っている事を理解したのか表情を歪め立ち上がった。
しかし、その顔は別に侮蔑する物ではなく痛ましい者を見るような感じだ。
その顔から彼らはアリシアの伝えたい事が何なのかを理解したのだろう。
「そうですか。それならこちらを持って行ってください。先程そちらの者には色々いただきましたから。お礼になれば幸いです。」
「ありがとうございます。」
里長はそう言って袋を取り出しアリシアに渡した。
恐らくは薬草の種が入っているのだろう。
「それなら私からはこれを。」
「俺からはこちらをお渡しします。」
そう言って残りの二人は別の袋を彼女に渡した。
俺はその3つを鑑定してみる。
リカバリーミント・・・傷を治す。
エナジーミント・・・体力を回復させる。
レコベリー・・・全ての傷を癒す。
(最初の二つは普通だが最後のはなんだか凄そうだな。)
そう思ってアリシアを見ればこちらも驚いた顔をしている。
やっぱり俺が思った通り凄い物だったようだ。
「そんな!こちらの二つはともかくコレは頂けません。これはエルフのみの・・・」
そう言おうとしたところでアリシアは口に手を当て言葉を止める。
思った通りかなり重要な物のようだが様子からして貴重ではなく極秘に分類される物のようだ。
もしかするとこれがバレたら罰せられる対象になるのだろうか。
アリシアの慌てようはかなりのモノなのでその可能性もあるかもしれない。
しかし、里長達はそこには触れず掌でアリシアの手を押し返して笑みを浮かべた。
「私達はあくまで同胞に種を譲っただけですので問題はありません。そしてその同胞が信じる者にそれを使うなら、それは罪にはなりません。姫様、いやアリシア殿。我々はあなたが歩む道に幸多い事を祈っております。」
「・・・は。・・・ありがとうございます。」
アリシアはそう言って目に涙を浮かべお礼を口にした。




