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169 ドワーフ王国 ③

兵士は到着早々、周囲の惨状を目にすると悲鳴と共に踵を返した。

確かに人間だったモノが散乱し、その中に立つ血塗れの二人を見ればその反応は正常かもしれない。

しかし、その逃亡を許さなかったのは誰でもない目の前にいるヒュームの男だった。


「逃がすな!」

「ガアーーー!」


するとオーガソルジャーは逃げて行く男に盾を投げつける。

盾は放物線を描いて飛んで行くと兵士の上に見事に落下した。

そしてその下敷きになった兵士はまだ生きている様だが完全に足が潰れており逃げる手段を失っている。

そしてオーガは兵士に近寄るとその手に持つ剣で形が無くなる程に滅多刺しにし始める。

しかしオーガは気が済んだのか、投げ付けた盾を拾うと再び主である男の所まで戻って来た。

どうやら先ほどの行動で気が高ぶっているのかその目は呼吸と共に赤く明滅している。

すると男は高笑いと共に喋り始めた。


「はははは!馬鹿なドワーフ共が。俺が本気で協力すると思ったのか。奇跡的にテイムに成功したこのオーガにドワーフ製の武具を装備をさせたかっただけだ。」


恐らく今まで誰かに言いたくて堪らなかった秘密なのだろう。

普通に考えてあのオーガにドワーフ製の装備をさせる為にはいくら金が要るのか見当もつかない。

どういう経緯で今に至るかは知らないが男にとってはまさに千載一遇のチャンスだったのだろう。

しかし、こうして秘密を話した以上は俺達を生かしておくつもりは無さそうだ。

男は笑いを急に止めて真面目な顔になるとオーガに命令を下した。


「奴らを殺せ。そしてお前の姿を目撃している先ほどの村人も皆殺しに向かうぞ。お前の事はしばらく秘密にしておきたいからな。」


するとクラウドは一瞬俺を見ると前に出る。

そして、俺は彼から「力を貸してくれ」という強い思いを受け取った。


「行けオーガ!早く奴らを殺せーーー!」

「オーーー!」


オーガは雄叫びと共にその場で高らかと剣を掲げる。

そして思っていた通りその場で体を捻ると男に向かい剣を振り下ろした。


「な、なんで!ギャアー・・・。」


男はオーガの剣を受けるとその場で潰れ、一瞬の悲鳴を谷間に木霊させながら死んでいった。

そしてすぐに向きを変えると次の標的をクラウドに変えた様だ。

その目は完全に理性を失い赤く輝いている。

ちなみにオーガは別名狂戦士と呼ばれ、興奮すると如何なる痛みにも屈しない不屈の戦士へと変わる。

その為、痛みを与えて言う事を聞かせるテイムの能力では完全な制御は不可能だ。

しかも上位種であるオーガソルジャーならなおの事。

テイムできたのが奇跡的ではなく、今までテイムしていて何もされなかったのが奇跡的なのだ。


その常識を知っていればテイムできる魔物だろうとオーガなど誰もテイムなどしない。

まさかこんな常識を知らない人間が居るとは思わなかった。

そして、俺はクラウドの為にスキルを通して彼に力を送り込む。

その途端にその体は薄い光に包まれ能力が飛躍的に向上した。

別に要らないとは思うがクラウドとしては家族の命が掛かった戦いとなるので最善を尽くしたかったのだろう。


そしてクラウドはオーガの前に立つと斧を構えた。


「掛かって来いやーーー!」

「ゴアーーー!」


しかしオーガの剣は俺達からしたら大剣と言っても良い程に大きく、長さは2メートルを超えている。

太さも幅もあり刃が無くても普通の人間が持ち上げる事も出来ないほどの重量があるはずだ。

そのためオーガは体格差を生かし、上段から全力で剣を振り下ろしに掛かる。

するとクラウドはその一撃を逃げる事なく、下段からの切り上げで迎え撃った。


俺はその二つの武器が衝突する瞬間にかなりの衝撃と音が出る事を覚悟した。

しかし、聞こえて来た音は『キン』という金属バットにボールが当たった程度の音だ。

そして二人の武器を見れば剣は根本付近から見事に切り取られていた。

クラウドは間髪入れずオーガの足元へと移動するとその鎧に包まれた足に斧を横なぎに振り切った。

すると先ほどと同じような甲高い音が二つなり、その足は見事に両断されてオーガは支えを失い地面へと倒れてしまう。

そして最後にクラウドはその手に持つ斧を首に向かって投げつける。

オーガは腕を十字にして防ごうとするが斧は激しい回転と共のその防護ごと全てを切り裂き、オーガの首を刎ねた。

その瞬間、オーガは魔石へと姿を変え、その場に装備のみを残して消えていった。


「やはり、武器も防具も質がかなり落ちてるな。少しはまともだったのは最後にオーガが持っていた装備くらいか。」


完全に圧倒していたのでよく分からないがクラウドが言うならそうなのだろう。

幾らスキルが進化して強化されようとそういう所は職人には敵わない。

直接打ち合えば分かったかもしれないがそれも微妙な所だ。

そしてクラウドは斧を綺麗にすると周りを見回した。


「かなり汚しちまったな。」


周りには人間だったモノが大量に散乱している。

身に着けていた装備は全て俺が剥いでいるがアイテムボックスの中身は既に消えているだろう。


「そう言えばユウ。お前は盗賊のスキルを持ってるよな。」

「略奪系の事か?」

「そうだ。もしかすると装備がまだ残ってるかもしれないから試してみろ。」


そう言えば希少金属は魔素に分解されにくい性質を持っているとライラから説明を受けた事がある。

それに気にしているのはコイツ等に奪われた自分の作品の事だろう。

もしそうなら作り手が良いので無事に残っているかもしれない。

俺は言われて思い出したのでスピカに手伝って貰いながら片っ端から強奪を使用していく。

すると確かに何も持っていない者が殆どだったが一部の装備は回収に成功した。

ただ、その多くは既に分解され始めていた様でボロボロになっている。

それでも材料としては使用可能なので後でライラにでもインゴットに変えてもらう事にする。

そしてその中で数本の武器だけは無傷で回収できた。

それを見てクラウドはホッと胸を撫で下ろしている。


「これがお前がこの村に置いていた武器か?」

「ああ、色々な記念で作った武器だ。友達が結婚した時や子供が生まれた時のお祝いに送った物でどれを取っても大切な記念の品になる。出来れば回収したかったから無事で安心した。」


しかし他の物は分解され始めていたのにクラウドの武器はそれに耐えきっていた。

完成度や質でどれだけの差があるのかがこうなると俺にもよく分かる。

俺はそれらをクラウドに渡し、後片付けをする事にした。

まずは周囲を死体ごと、オール・エナジー・ブレスで消し去り、更に浄化を行う。

骨も残さず消し去ったのでスケルトンの心配は無いがゴーストの心配はあるので入念に徹底的に綺麗にしておく。

特にあのヒュームの男が死んだ場所にはこれでもかと過剰な程に浄化を行っておく。

ああいうのはしぶといと相場が決まっているので念のためだ。

そして綺麗にすると地面が少し沈んでいるのでそこは魔法で綺麗にならしておく。

クリエイトのおかげでかなり綺麗に直す事が出来たのでこれで大丈夫だろう。

なんだかテニスから変な視線を感じるがきっと気のせいだ。

俺はやましい事をした記憶が無いのできっとあれば別の何者かに向けられているに違いない。

例え俺の後ろに誰も居ないのだとしても俺の考えに間違いはないはずだ。


その後、俺達は村の安全を確認して村人を呼びに戻った。

彼らには俺達が兵士たちを追い払った事にしている。

前王であるクラウドが命じたと言えば村の皆は納得を示してくれた。


そして彼らを村に案内すると俺達はその日は村に泊まる事となった。

かなり時間が遅くなったのもあるが時差の関係でもう夜になっている。

俺は借りた部屋に入ると家の皆に連絡を入れた。


「そっちはどうだ?」

『穏やかなままよ。さっき伯母様からも連絡があってお父様はしばらく日本への出入りを禁止したって言ってたわ。』

「そうか。せっかく再会できたのに悪いな。」

『良いのよ。今はユウと一緒に過ごしてるこっちの家族の方が大事だから。』

「そうか。・・・それとアルフェはどんな感じだ。」

『ここに来た直後は危なかったけど今は大丈夫。ホロとケイトが上手くやってくれたわ。』

「ケイトが役に立ったのは驚きだがアイツは猫・・・みたいの者だから当然か。」

『ええ、私も今回の事でそろそろ否定仕切れなくなってきたわね。』


その後、俺達は幾つかの話をした後に通話を切った。

やはり無理やりでもアルフェを拉致って正解だったようだ。

あの顔に浮いてたのは既に疲労ではなく死相と呼べる程の物だった。

アイツもまだ子供と言っていい年齢なのだから周りに甘えられれば良いのに環境がそれを許してくれないのだろう。

それに従来のまじめな性格も拍車をかけている様だ。

どうにかしてやりたいが俺には事務の才能が欠片も無い。

あちらはシロウさんが上手くやってくれている様なので任せるしかないだろう。


そして、俺は明日に備えてベットに入り目を閉じる。

この問題が片付けばまた少しはのんびり出来るかもしれない。

最近の事を考えるとちょっと心配だがトラブルの神様も少しは手加減してもらいたい。


そして、朝になって目を覚ますと俺達は車に乗って次の町へと走り出した。

すでに危険な先遣隊は潰したのでディスニア王国に危険はない。

ここからは急ぐ旅ではないので常識的な速度で車を走らせた。

途中、テニスにも運転を教えながらなので少し時間が掛かってしまったが太陽が沈む頃には次の村に到着することが出来た。

そして村に到着すると近くを歩いている村人に声を掛ける。


「この村に宿はあるか?」

「ん?ああ。旅の人か。それならあっちの建物が飯屋兼宿屋だ。何もない村だがのんびりして行ってくれ。」

「ありがとう。行ってみるよ。」


俺達は村人に言われた建物へと向かって行った。

その間にクラウドは周囲に意識を向けて何かを探している様だ。

そして宿に入るとクラウドは真っ先に村の異常について問いかけた。


「この村では鍛冶の音がしないんだな?」

「あ、ああ。あんた旅の人か。そりゃあ精霊様の加護が弱まってるのもあるが材料が無いからよ。」


するとクラウドは驚愕に目を見開き、カウンターに手を突いて宿の男に詰め寄った。

そう言えばクラウドの故郷では村を取り戻してすぐだったので気にならなかったが、ここで鎚の音を一度も聞いていない。


「そりゃどういう事だ!?この国にはその辺にダンジョンも幾つかあるし鉱石も定期的に取れるだろう!」

「あんたそりゃ何時の話をしてるんだ。そりゃあ、前王の時にはそうだったがな。今は材料は国が独占してて俺達の手には鉱石1つ流れて来ねえ。冒険者ギルドも国ばかりに鉱石を売ってるから買えもしねえのよ。それどころか、隠し持ってたら役人に捕まっちまうか没収されっちまう。どうしてこんな事になっちまったのかね~。」


そう言って宿の男は力なく笑っているがまるで急にリストラされた会社員のようだ。

それに千里眼で見ればこの宿の裏は工房になっている様だが道具には全て埃が被っている。

すなわちこの男も鍛冶師であり、この国の圧政に苦しむ被害者でもあるという訳だ。

この話にクラウドは前王として憤り、テニスはギルドの特殊調査員として目を光らせた。

やはりこの国のギルドにも何か問題がありそうだ。

組織は大きくなれば管理の目が細部まで向かないのは常だがここまでトップに近い所までが腐敗してしまうと大問題だ。

俺達は飯を食べて部屋に入ると先を急ぐために早々に眠る事に決めた。

この様子ではこの旅も急ぐ必要があるのかもしれない。


その後、俺達は幾つもの村と町を通り過ぎた。

しかし、村々ではどこも鎚の音が鳴り止み、町でも国が管理する場所以外での鍛冶が行われている気配は無い。

テニスはギルドに鉱石を売ってみたが適正価格よりもかなり安い値段で買い叩かれたそうだ。

しかも町で聞いた話ではギルド以外で鉱石の売買が出来るのは国の管理する買取所だけらしくそちらもギルドと同じ値段を提示されたらしい。

これはどう見ても国とギルドが完全に結託して値段設定をしているとしか思えない。

そんな時、買取所に一人の冒険者がやって来た。


「これを買ってくれるか?」

「ん?ああ。これならこの値段だな。」

「そうか。ならここでは売らずに他で売らせてもらう。この国では鉱石が安すぎる。」


しかし男がそう言った途端に周囲に居た兵士が男を取り囲んだ。

そして武器を向けると男にこう言い放った。


「鉱石密売の現行犯で貴様を拘束する。武器をこちらに渡せ。」

「な、何だ貴様ら。」

「拘束しろ。武器は没収だ。」


そして男は兵士に連れられ消えていった。

テニスはそれを見て苦笑を浮かべると何喰わぬ顔でその場を後にする。

当然、途中に尾行を巻く事は忘れず宿に戻ると先ほどの出来事を俺達に教えてくれた。


「まさかここまで酷いとは思わなかったわ。」

「今は精霊達からの制裁で材料も手に入り難くなっている。確実に中央も焦っているのだろう。」

「でも加工が出来ないんだろ。」


しかし、俺の言葉にクラウドは首を横に振った。

何か別の技術があると言う事か。


「この国ではな。しかし、他所の土地では加工は出来る。おそらく職人の流出も何らかの形で止めよとするはずだ。そして、もし他国に多くの職人が流れればこの国の強味は消えてしまう。」

「もしかして、あの砦が関になる場所だったんじゃないの?」

「確かに、国境も近いし兵士が駐留するには悪くない場所だな。」


そして、その夜は宿に当然の様にお客さんがやって来た。

当然それはこの国の兵士たちだが、彼らは俺達の泊まる宿に押し入ると扉を突き破って部屋になだれ込んで来る。

しかし、その頃には既に俺達は旅立っており部屋には誰も居なかった。


「テニス。もう少し慎重に行動しろよな。」

「え~、前みたいに皆殺しにしたら良いじゃない。」

「それも一理あるが王都はまだ遠い。少しは穏便に行動したらどうだ。」


しかし、次の日からテニスはギルドを通して国中から指名手配を掛けられた。

そして、そこには色々な罪状が書き込まれているようだが半分以上に見た記憶がある。


「何よこれ~。殺人に強盗に器物破損!密輸に人攫いまであるわよ。」

「・・・幾つかは心当たりがあるが酷いなこれ。」


しかし、テニスは手配書を呼んで怒るどころかカラカラと軽く笑い始めた。

どうやら怒ってはいない様でいつも通りの平常運転のままだ。


「まあ、腐ってるギルドだとよくある事ね。気にしてたらキリがないわ。でも、これで上層部を殺す理由が出来たからなんだか嬉しいわ。」


さすがデストロイの異名を持つSランク冒険者だ。

平常運転がこれなので仲間に居ると心強いが敵に回したくない女である。


その後も俺達は王都に向けて車を走らせた。

国の状況は既に把握できたので寄り道となる事は全て省略する。

それにテニスが指名手配を受けたので町には入れない。

村は警戒が薄いが俺達のせいで国から要らぬ言いがかりを付けられると大変な事になる。

そのため基本は野宿を行い結界石もあるので下手な町や村よりも安全だ。

それに俺のアイテムボックスには食材だけでなく料理も大量に入っている。

宿の飯よりも何倍も美味しいのでテニスも大満足だ。

しかし、この国に来てクラウドは一滴の酒も飲んでいない。

それだけ責任を感じているのかもしれないがもう少し肩の力を抜いた方が良いと思う。

ただ言っても聞かないだろうからアルコールは飛ばしているが酒を使った料理を幾つか出している。

これで少しは紛れれば良いが恐らくは無理な話だろう。

そして俺達はいつもと変わらず、今日もテントの中に入り眠りについたのだった。

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