166 世界の在り方
「まずは確認ですが、こちらの地球では生物の起源は自然発生で良いのですね?」
「最低限、研究者はそう言ってるな。」
「そこはガイアも言っているので大丈夫だと思います。ですが私達の世界はそこからが違うのです。」
もしかして、テレビでよくある遺伝子に何者かの手が加えられた痕跡でもあるのか?
しかし、あちらにそれだけの事を調べる技術があるのだろうか。
スキルでそんなのがあるとか?
「私達の世界は神が一から作ったモノなのです。」
神と来るとは、いきなり予想が外れたな。
まさか創世記の方向とは思わなかった。
いや、ファンタジーが現実の世界ならこの可能性も十分あったな。
しかし、皆もそれなりに驚いてるな。
一体何年前の話なんだ?
「歴史書にもない古い話なので知らないのが当然ですね。今この話を知っているのは恐らくは私とオリジン。それと精霊王たちくらいです。天使とデーモンは時々記憶がリセットされるので覚えてる子は居ないと思います。最初はみんな知って生まれ来たのですが。」
俺はそれを確認するためにメノウとヒスイに視線を向けた。
すると二人は首を横に振り知らないと答える。
そしていつの間にか参加していたナトメアにも一応聞くが同じように首を横に振った。
最低限、トップである二人の記憶は既に失われている様だ。
「そうですね。数千年も前ですから仕方ありません。それで私達の世界は神が作りましたが、その理由はとても単純です。『他の神が同じ事やっててとても楽しそうだったから。』だそうです。」
その言葉に周囲に動揺が広がる。
流石の俺も頭を抱えたくなる程だ。
それは育てる側が最もやってはいけない事の一つ。
俺ですらホロを生涯護り共に生きる覚悟を持って引き取った。
それなのにその覚悟がなく世界を作るとどうなるかは火を見るより明らかだ。
「みんな殆ど同じ事を考えています。私とオリジンはその神に最初に作られた存在。そしてその次にオリジンが精霊王を生み出し、神の世界創造を手伝いました。結果としては私が世界全体の管理をし、オリジンが各所の小さな調整を担当していました。」
「でも手が足りなくてね。精霊王のほかにも小さな精霊を沢山生み出して世界に放ったわ。そのおかげで世界は安定に向かって行ったのよ。」
しかし、二人は突然表情を曇らせた。
どうやらここから問題が生まれた様だ。
「でも平和な世界は変化がなく退屈です。停滞していると言っても良いでしょう。だから神は変化を求めて人を作り出しました。でも、それだけでは飽き足らず、魔素と言う要素を取り入れ、更に魔物まで作り出してしまった。」
「きっと人々が戦ってる姿がゲームみたいで面白かったのね。さらに魔素の吹き出す場所に偏りをわざと作り出してダンジョンという現象を作り出したわ。それで人はダンジョンを利用するようになっていったの。」
なんだかきな臭くなってきたぞ。
なにせ神の動機が最初から楽しそうだからという理由だからな。
気分はゲームか箱庭程度なのかもしれない。
「そして、今度はその人間が世界を穢し始めました。怨念に呪詛。あらゆる負の感情が世界に広がって行きました。それを清めるために私達は神にお願いして霊獣を創造しました。」
「彼らは世界を浄化するために霊力と言う新しいシステムを組み込まれた生物なの。彼らのおかげで世界の呪いはかなり薄まったわ。」
しかし、俺の知る霊獣はそんな事は知らないようだった。
もしかしてこちらにも世代を重ねるごとに弊害が生まれたのか。
麒麟なんて人の居ない所にしか殆どいかないと言っていた。
しかし、呪詛や呪いを人が吐き出すならその反対が一番望ましいはずだ
「その通りです。特にドラゴンは傲慢になり、他の種族も今は使命を忘れ、好きに生きています。恐らく、かろうじてその使命を全うしているのはリバイアサンくらいですね。彼女は海を巡り、魔物を減らして安定させていますから。」
「ドラゴンも通常は魔物を減らし、他の霊獣を守る存在なの。でも最近は他の霊獣を殺したり好き勝手してる。クオーツ、あなたの居た群れもその被害で既に無くなっているわ。生き残りはゲンの所にいる一頭だけね。言うのが遅くなってごめんなさい。」
オリジンはそう言って深く頭を下げる。
ただ彼女が家に来てまだ日が浅い。
タイミング的には遅いとは言えないだろう。
その証拠にクオーツは平気そうな顔で首を横に振った。
「気にしないで。群れの事が知れただけでも嬉しいわ。今度ゲンさんに聞いて確認してみる。」
「話を戻しますが、ここからが更に重要です。」
「その神についてか?」
俺の言葉に二人は頷きを返してきた。
恐らくだが予想が当たっていればその神は俺が最も嫌うたぐいの事をしたのではないだろうか。
「神はある日こう言いました。「飽きた」と。」
やはり俺の予想は当たっていた。
周りの皆も薄々は勘付いていたのだろう。
すでに冷静に話を聞けている様だ
「そして神は我らを放置し、世界の狭間へと消えていきました。おそらくは他の世界へ渡ったか、自分の世界に帰ったのでしょう。」
「ちょっと待て。それならなんでお前は体が無かったんだ。その神以外で誰があんな巨木を切り倒せる。」
すると俺の問いにオリジンは顔を歪めて苦虫を噛み潰した様な顔へと変わった。
どうやらこの話にはまだ続きがあるらしい。
しかも、先ほどの神を上回るような最悪な話が。
「その後しばらくは要らない事を言って来る神が居なくなり平和な時代が続きました。」
もはや扱いが酷いな。
経緯を知ればそれも仕方ないけど。
「しかしある時、新たな神がこの世界に訪れたのです。しかし、その神はこの世界を破壊しつくして行きました。その時にドラゴンの古参は全て狩られ、霊獣もその殆どが死に絶えました。今いる霊獣の殆どは偶然ダンジョンで発生した特殊個体が殆どです。メガロドンも昔は海の守り神とまで言われていましたが今では恐怖の象徴の1つです。」
確かにあの凶暴性は守り神と言うよりも暴君だな。
今は俺達の美味しいオカズになってるけど。
「そして、最後にその神は私の本体であった世界樹を切り倒し高笑いと共にまた来ると言って去って行ったのです。私はその言葉を聞き早く世界を立て直そうと天使を生み出しました。しかし、天使と言う存在だけでは世界は救えても争いは止められません。その為、天使には反対の存在である裏の顔としてデーモンも生み出し表裏一体にしました。彼らのおかげで世界の争いは調整され長い平和を維持することが出来たのです。」
すると、その言葉にメノウ、ヒスイ、ナトメアが驚愕の表情を浮かべた。
彼女らにとって忘れていた事とはいえ、生みの親との再会である。
俺にとっては天使やデーモンの誕生秘話と言った程度だが当人たちにしたら衝撃は大きいだろう。
しかし、3人は話を先に聞こうとする冷静さは残していたようだ。
細かな話は後にするようで声を掛けようとはしない。
それを見てオリジンも話を進めた。
「でもそれにも限界があったの。一番の原因は姉さんが消滅しかけた事ね。まさか新しい体である世界樹がこんなに育てるのが大変だなんて思わなかったから。だから天使とデーモンに異常が出始めてたわ。あなた達も見てるから分かるわね。ここにいる3人は既に異常個体なのよ。」
そう言われればと言う所もあるしメノウに至っては自分でも言っている。
ヒスイはデーモンになった時の姿のままだしな。
でもナトメアは何だろうか?
すると間違い探しをしているとオリジンが答えを教えてくれた。
「ナトメアは女であるのが異常なのよ。天使は女。デーモンは男と決まってるの。表裏一体だからそんな風に分かれてるのね。」
確かにナトメアは何処から見ても女だな。
これでオネエだったらクルトンがあまりに可哀そうだ。
それに俺が見たデーモンも見た目はともかく確かに男っぽいのばかりだった。
そこにはしっかりとした理由があったのか。
そしてアティルはそんな3人を見回すと次の事を口にした。
「調整は出来るけどあなた達3人はそれを望まないわよね。」
「私は今でも十分プリチーな天使なので不要です。」
「私もこの体は気に入っています。」
「えー私はどうしよっかな~。」
「家は厳つい男は出入り禁止だからな。」
「あ、それデーモン差別よ。・・・まあ、女だとお店で時々おまけしてくれるからこっちで良いわ。」
コイツ、俺達のいない所でけっこう満喫してそうだな。
まあ、こっちに馴染んでるならそれはそれで良いか。
「まあ、実を言うとトップの態度が急変すると大変なので今の所その予定はありません。一応の意思確認です。」
「そう言えばオリジンがアリシアから種を取り出したな。あれは何だったんだ?」
「あれは種を発芽させるためには大量の精霊力が必要になります。しかし、外界では種が穢れてしまい発芽する前に腐ってしまうのです。そのため精霊の巫女となったアリシアに種を植えて苗床としました。まあ、苗床と言ってもその紋章に小さな空間を作り、その中に入れていただけですが。あなたの心はいつもとても穏やかで心地よかったと世界樹も喜んでいるでしょう。あんなに立派に育ったのですから。」
(穏やか?)
その瞬間、アリシアから鬼圧が巻き上がり俺だけに降り注いだ。
さすがレベルマックスのスキル・・・、既にここまで使いこなすとは。
そして彼女は表情は笑顔で優しく声を掛けて来た。
「何か意見でもありますか?」
「ナニモアリマセン!」
俺は汗を掻きながらそう返すと心の中で溜息を吐き、早くスキルが進化する事を祈った。
「そ、そう言えば世界が融合した事にも何か関わっているのか?」
実は以前ライラに確認したことがある。
俺がライラと会う直前に送られてきた幾つものメール。
それらについて聞くと彼女は知らないと答えた。
彼女が送って来たのは魔法の伝聞で『お楽しみ』というタイトルの物のみ。
どういう流れで俺のステータスにメールとして届いたのか知らないがそれ以外は他の何者かが世界中に送った物らしい。
そして、今も初めて魔物を倒した者で携帯を持っているとこのメールを受け取ることが出来る。
「そのメールと言うのなら私とガイア、今はスピカですね。彼女と一緒に作って世界のシステムに組み込みました。それと世界が融合した切っ掛けはそこにいるライラですが融合させたのは私とスピカです。」
その言葉にやはりライラは驚きに立ち上がる。
そして何かを言おうとしているが声にならないようで、そのまま椅子に力なく座り込んだ。
彼女はその心根の優しさから世界融合の際に少なくない犠牲者が出たのを気にしていた。
夜に悪夢にうなされていたのも知っている。
俺が傍にいる時は何度も優しく頭を撫でたり抱きしめて慰めたりもした。
しかし、常に俺が傍に居る訳ではないので一人で泣いている時もあっただろう。
するとアティルはショックを受けているライラへと視線を向けた。
「いきなりの事に驚いたかもしれませんが、私とスピカにはそれぞれ理由がありました。私は消滅の危機から少しでも最善を尽くすために。私が完全に消えれば世界に大きな影響があり多くの生き物が滅んでしまったでしょう。そしてスピカは汚れていく世界に涙していました。その為、時間以外で世界を浄化する手段を求めた。だからあなたには感謝しています。もし、あれがなければもっと沢山の命が失われていたでしょう。」
そう言ってアティルはライラに頭を下げてお礼の言葉を贈る。
関係性を完全に否定した訳ではないがこれで少しは心の重みが軽くなればいいが人はそんなに単純ではない。
割り切れない気持ちも当然出て来る。
俺はライラの傍に行くとその肩にそっと手を置いて顔を上げたライラに微笑みかけた。
「ユウ・・・私。」
ライラはいきなりの真実に困惑している様だ。
しかし、アティルが言った事が真実なら彼女の責任は殆どない。
それにそのおかげで助かった命も多いはずだ。
それはここに居るみんなが今の話で分かったはずである。
そして、俺は今の話から困惑しているライラが理解しやすい様に言葉を選んで伝える事にした。
「良かったなライラ。共犯者が他に二人も居たぞ。それどころか真犯人でも良いくらいだ。」
すると彼女は目を丸くすると僅かに笑顔を浮かべる。
呆れられている節もあるが残念ながら俺は慰めるのは得意ではない。
それでもやはり、一人で抱え込んでいた時に比べれば少しはマシになったようだ。
「そうね。ありがとうユウ。少し気分が軽くなったわ。」
そう言って俺の手に自分の手を重ね包むように握って来る。
心の整理がつけばこれから少しずつ軽くなっていくだろう。
そして、ようやく長い話も終わりを迎えた様だ。
「これくらい話せば問題ありませんか?」
「ああ。それならオリジンへのお仕置は控えめにしておくよ。」
「ちょ、ちょっとユウ!いきなり何言ってるの!?」
すると俺の言葉にいち早く返してきたのはオリジンだが、アティルも再び大きな衝撃を受けた様だ。
彼女は俺とオリジンを交互に見ると顔を真っ赤にして俯いてしまう。
(そう言えばコイツは一部始終を目撃してるんだよな。)
そしてアティルはオリジンに顔を近づけると手で口元を隠し小声で話し始めた。
「あ、あなたユウとあんな事やそんな事してるのは知っていますが、彼のお仕置は大変なのですよ。」
「知ってるわよ。だからして欲しい・・・。何言わせてるの。そんな事よりもお姉ちゃんもご飯食べたら帰らないと。夜に気が散る、じゃない。世界樹が心配でしょ。」
「あなたも変わりましたね。昔はあんなに物静かだったのに。これが男に染められると言う事なのね。姉さん、嬉しいやら悲しいやら。」
アティルはオリジンの欲望丸出しの言葉に笑いながら出てもいない涙を袖で拭い始めた。
オリジンも次第に顔を赤くすると一旦ヒソヒソ話を止めて再び向き直る。
その頃には女性陣からはニヤニヤとした視線を向けられ、首を傾げているのはユウだけである。
彼は如何にレベルが上がりスキルが進化しても何故かこういう所の鈍さは一向に治る気配がなかった。
それをどう受け取るかは人によるが、今ここにいるメンバーでそれを悪と見なす者は皆無である。
そして俺は少し開いている時間を利用して皆に指輪をはめながら配って行く。
殆どの者は左手の薬指にはめて行き数人は右手の好きな指にはめて行った。
皆嬉しそうに指輪を見詰めているので良い婚約指輪の代わりになっただろう。
見た目は普通だが魔道具としてみればかなりの価値がある。
知る者からすればダイヤの付いた指輪と遜色ないはずだ。
そして、今日の食事を終えると俺とオリジンは席を立った。
「それじゃあおやすみなさい姉さん。明日また迎えに行くから。」
「待っていますよ。」
そして、俺はオリジンと軽く風呂に入ると10分ほどで風呂から上がった。
これはオリジンと夜に過ごす時はいつもしている事でこの後髪を俺が梳かして部屋に向かう事になっている。
俺が彼女の長くて綺麗な黒髪を梳かし終わると腕を組んで部屋へと向かった。
そして中に入るとそこには既に一人の女性が待機していた。
その女性とはアティルである。
彼女は既にベットの真ん中に座っており、外からの月明かりに白い髪と肌を映し出して幻想的な美しさを表現している。
そしてそんな彼女にオリジンは駆け寄ると真っ赤な顔で声を掛けた。
「お姉ちゃん。こんな所で何やってるの!?」
「何って、ユウにお願いしたら良いよって。」
するとオリジンは今度は俺に鋭い視線を向けて来る。
しかし、俺はそんな彼女に一言だけ逃れえぬ現実を告げた。
「お仕置な。」
すると彼女はその一言で諦め、とても恥ずかしそうにベットに上った。
「ユウがどんどんエッチになってる。」
「否定はしないが誰でもいい訳じゃないからな。」
「知ってるわよ。」
そう言って彼女はそっぽを向いてしまった。
するとその横にアティアが並び白と黒の髪が混ざり合う。
そして二人そろって笑顔を浮かべて俺を見上げると揃って手を伸ばして来た。
俺はその手を優しく握るといつもと違う熱い夜を過ごすのであった。




