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160 矢文再び

俺達が地上に上がるとそこは既に綺麗に片づけられていた。

どうやら事前にメノウたちがやってくれていたようでこれならすぐに撤収できる。


「それでは帰りましょう。あれだけやればしばらくは大丈夫でしょうから。」


メノウの言う事ももっともだ。

魔物もフィールドも40階層までは全て焼き払った。

守護者も全て倒しているので再びダンジョンが復活するまで時間がかかるはずだ。

これだけやって1日で直ってたらそれこそお手上げだ。


そのため今からの事は自警団に任せて俺達は帰る事にした。

俺はイワトさんに軽く挨拶を済ませると皆で少し離れてゲートを潜り我が家へと向かう。

そして家に到着すると、やはりここは北海道に比べると温かく感じる。

昨日の犬たちも連れて来ているので庭で走り回ってとても嬉しそうだ。


そして俺達は早速マリベルに部屋を作ってもらって解体を始めた。

今回もクラウドが手伝ってくれるので少しは早く済みそうだ。

なにせ殆どの者は解体は素人に近いのでライラの指示に従い行って来た。

今度の魔物も巨体なのでかなり苦労するだろう。

するとそんな俺達にゲンさんから声が掛かった。


「大変そうじゃな。それなら儂の方でも助っ人を呼んでやろう。」


そう言われてやって来たのはあちらでスカウトしてきたギルド職員とエルフのメイド6人だ。

両方ともベヒモスが食べれると言えば喜んで手伝いに来てくれたらしい。

そしてギルド職員たちは部屋に入りベヒモスを見ると、その姿に喉を鳴らした。


「本当にベヒモスですね。」

「やべえ、見てるだけで涎が出そうだぜ。」

「最高級肉・・・。もう一生食べれないかもしれません。」


そしてメイドに解体が出来るのかと思っていたがクリス曰く「そちらもプロ級です」との事だ。

流石トゥルニクスが選んだだけはある。

変態だが目は確かな様だ。


現に彼女たちは持参の包丁を取り出してライラの指示のもと解体を始めた。


ギルド職員も知識は豊富で解体方法は知っていたのでクラウドの補佐としてとて頑張ってくれた。

ハッキリ言えば一番難しいのは臓器の取り出しなのでとても助かった。

それに皮の剥ぎ取りに関しては料理スキルの高いメイド6人が手にミスリルの包丁を構え恐ろしい速度で剥ぎ取ってくれた。

もう料理スキルで戦えそうなレベルである。

皮も剥ごうとするとかなり大変なのでとても助けられた。

メガロドンの時は何度か穴をあけてしまいライラに負担を掛けてしまったのは記憶に新しい。

肉だけになれば後は俺達にもできるし骨周りは本当に人手と時間さえあれば誰でも出来る。

それに今日はメイド達のおかげで料理できる者が4倍いる事になり準備もすぐに完了した。

今日は久しぶりに鍋にするようで沢山のテーブルに食器が置かれている。

出汁は既に準備されている様でコンロと鍋の準備をするだけだ。

先日ハナさんの所でこの手の道具を貰っておいてよかった。

早速役に立ってくれているので彼女も何処か嬉しそうだ。


そして準備が出来たのでみんな席について各々食事を始めていく。


(挨拶?乾杯?何それ美味しいの?目の前に美味しい物があるじゃない。)


という様に競う様に食べ始めた。

しかも精霊王も再び加わり片手にビールまで持っている。

家にはビールが置いてないので持参したのだろう。

俺のアイテムボックスには入っているがいまだに出したことは無い。

そして俺も肉に火を通すとそれにタレを付けて口へと入れた。

すると口の中に牛に近い味が広がるがイノシシの様な野性味も感じられる。

しかし、臭みは全くなく、まるで口の中で溶けて消えていくようだ。

サシもしっかり入っているので脂の乗りもよく口の中一杯に幸せがあふれ出すのを感じる。

しかし、幸せな時間とは長く続かない。

せっかく次の肉を楽しむべく箸を伸ばしたところでスピカから今日も警報が届いた。


ただ、いつも程度なら今回は無視したかもしれない。

しかし、今回は看過できない事態をスピカは俺に知らせて来た。


『以前と同質の魔道具による矢が東よりこちらに接近中です。』

『ジェネミーの依り代に命中する可能性99パーセント。』

『到着まで残り5秒。』


俺はその言葉と同時に立ち上がり窓を突き破って外に飛び出した。

そしてジェネミーが依り代にしている木の前に立ち、飛んでくる矢を探して東に視線を向ける。

すると1本の矢が飛んでくるのを発見するとそれを素手で掴み取り手紙を抜いて投げ捨てた。


「俺の家族に手を出そうなんて何処のどいつだ!?」


俺は飛んで来た弾道を追って千里眼を飛ばすとその延長線上に城を発見する。

すると俺の行動を見ていたジェネミーが飛び出し俺の背中に飛びついてきた。

その顔は笑顔と涙に塗れて俺を強く抱きしめて来る。


「護ってくれてありがとうユウ~。あんなのが命中したら痛くて泣いちゃったかもしれないよ。」


俺はそんな彼女の頭に手をのせると軽く撫で付けながら笑顔を返した。

するとジェネミーも顔を拭いちゃんとした笑顔を返してくれる。


「気にするな。お前は俺の眷族の前に家族みたいなものだろ。守るのは当然だ。それよりもご飯の途中だから中でみんなと食べよう。」


俺は手紙を読むよりもジェネミーを優先し彼女を部屋に戻した。

窓はクラウドとライラがすぐに修復してくれたので問題ないが危うくジェネミーに痛い思いをさせる所だった。

それに俺はあの僅かな時間で弾道を追跡し何処から飛ばされたかは掴んでいる。

その場所とはドワーフの国で丁度あの木が我が家との間にあったのが原因の一つだろう。

しかし、矢を飛ばして来る非常識に比べれば大したことは無い。


(これは報復が必要かもしれないな。)


そう考えていると後ろからオリジンが声を掛けて来た。

食事中に席を離れるのは俺から見て異常な事だ。

例え手に持つ皿に大量の肉が盛られていようともそんなものは彼女にとっては数秒で胃に収まる。

それでもあえて話しかけて来るオリジンの顔はいつになく真剣だ。


「ユウ、それはドワーフ王国からね。」

「ああ、内容はまだ読んでいないがな。今から読むところだ。」

「なら私も一緒に読ませて。」


そう言ってオリジンは食べ終わった皿を置くと俺の横に並び一緒に読み始めた。


『お前が精霊達に何を言ったか知らないが貴様たちのせいで我が国が大いなる危機に直面する事となった。その報復の為、貴様らと繋がりのあるディスニア王国へ報復措置を行う。もし止めたければ一月以内に我が国へ訪れ精霊の加護を我らに返すのだ。』


「これは救いがないわね。」

「もう滅ぼして良いか?」

「・・・良いわよ。」

「ならその前にクラウドには相談しないとな。なんか次に俺達が行く前に調査したいって言ってたし。」

「分かったわ。それと・・・ごめんなさい。」


そう言ったオリジンの顔はとても辛そうだった。

しかし、これはオリジンの責任ではない。

なので俺は彼女を抱きしめて短い言葉だけを告げた。


「今は俺の心を読んでくれないか。」

「分かったは・・・・!ありがとう・・・ユウ。」


こういう時は心を読んでもらえる事に嬉しさを覚える。

俺は感情表現が上手い訳でもなく、言葉も足らない事が多い。

なので俺の心を直接伝える事で俺がどれだけ感謝と愛情を感じているかをオリジンに直接知ってもらったのだ。

オリジンは先程までの悲しそうな顔から笑顔に変わり、俺の背中に手を回して顔をお腹に埋めている。

そして少しすると俺の横に移動し手を繋いで微笑んだ。


「私も愛してるからね。」

「分かってるよ。」


そして部屋に戻ると一応手紙をメノウとクオーツにチェックしてもらう。

あれでも以前の様に呪われていたら大変だからだ。


「これは普通の便箋かな。」

「そうですね。紙質はあまりよくないですが。」

「そうね。これなら普通の人にも害は無いと思うわ。」


そして安全であることが確認出来たのでクラウドに先程の手紙を手渡した。

すると彼の顔は憤怒に染まり真っ赤になると、手元にあった強い酒を一気に飲み干し大きく息を吐きだす。


「何だこれは!?俺が国を離れている間に何があったんだ!」


きっと暴れたいほど怒っているのだろうが自分の家でない事と周りに気を使ったのだろう。

こうして大人の対応が出来るドワーフが目の前にいると少しは手加減したくなってくる。

別に滅ぼすと言ってもドワーフを皆殺しにする訳ではない。

今回の首謀者と関係者を炙り出して制裁を加えるだけだ。

ただしその制裁には殺人も含まれている。

今回は危険性も高いので以前とメンバーの変更もしないといけないだろう。

敵の武器も今までと段違いに性能が高い事が予想される。

ホロを連れて行きたいが今回は我慢する必要がある。


「精霊達からは何か聞いてるのか?」

「ああ、先日の件で大体の事はオリジン様から聞いている。」

「そっちの仕事に支障は?」

「それに関しては持って行った鍛冶場は精霊王様たちが加護を受けてるからな。そのおかげであれだけ早くお前らの武器を試作できたんだ。そうでなければ普通は形にするだけでも何日もかかる所だった」


武器の出来るのがあんなに早かったのはクラウドとキテツさんの腕だけではなかったみたいだ。

精霊王たちはこういう所で気を使ってサポートしてくれるのでとても助かる。

オリジンは・・・こっちは置いておこう。


「そう言えば今回の事にデーモンは関わっていると思うか。」


俺は確実に繋がりがありそうなメノウに聞いてみると彼女は「聞いてみましょう。」と言って部屋を出て行った。

そして数秒するとメノウが戻って来てその後ろにはナトメアと以前に見た4人の上位デーモンが居る。

なんともお手軽に呼べるなと思いながら俺は絨毯とテーブルを新しく出して席を進めた。

ただ、これは旅館から貰って来たテーブルなので足が短く床にそのまま座るタイプだ。

別に茶目っ気でこんなのを出したのではなく既にここには50人を超える者が集まっている。

そのためこういうテーブルしか残っていなかっただけだ。

案の定、御付きのデーモンの一人がこちらを睨むように見てきた後に口を開いた。


「ナトメア様に床に座れというのか!?」

「何か問題があるか?」

「貴様ーーー!」


するとデーモンは激昂して体からオーラを立ち昇らせるが俺はそいつの横に行くと耳元で話しかけた。


「まあ座ってみろ。きっとその怒りも治まる。」

「何をふざけた事を。」


するとナトメアは苦笑を浮かべると率先して座りこちらに声を掛けて来る。


「あなたもこちらに座りなさい。」


そう言って自分の横をペシペシ叩いて促して来る。

俺はデーモンの背中を押して「ご使命だぞ」とそこへと無理やり座らせた。

すると座った位置はまさにナトメアのすぐ傍で彼女が顔を向ければ息がかかりそうなほどに近い。

そのデーモンは背筋を伸ばして緊張するとそれを見てナトメアもクスクスと笑った。

するとそれを見て残った3人が残ったもう片方の席を狙い睨み合いを始める。

俺達はそれを放置して話を始めるべく席に着いて向かい合った。

しかし、ナトメアはテーブルの上を見て俺の後ろに視線をチラチラ向けている。

どうやらベヒモス鍋が気になるようだ。


「食いたいなら情報を寄こせ。」

「貴様、またナトメア様にその様な口の利き方を!」


そう言って奴は腰を浮かせてチラリとナトメアを窺った。

するとそこからは彼女の胸の谷間が覗き見えてしまい、顔を僅かに赤らめると腰を下ろした。


「ん?何か言ったか?」

「い、いや。何でもない。話を続けてくれ。」


どうやら、俺の言った事を理解して態度が軟化したようだ。

一目見て分かったがこいつはナトメアに気がある。

常に守る様な位置に付き周囲を探っている。

それに何よりその目が如実に奴の内心を語っていた。


『ユウさんに言われるとは哀れなデーモンです。』

(し~、そんな事言ってはいけません。)

「そうか。そう言えばナトメアは鍋を食べた事はあるのか?」

「私は初めて食べます。」


するとナトメアが頬にてを当てると困った顔をする。

嘘か誠かは判断できないが最低限、話は合わせてくれるようだ


「お前はあるのか?」

「ふん、そんなもの当然だろう。私を舐めるな。」

「なら、後で鍋を出してやるからお前が食べ方を教えてやれ。茹でるだけで簡単なものだ。」

「あ、ああ。任せろ。」


そのデーモンは気合を入れて拳を握ると俺に頷きを返してきた。

強がりだとしても料理法は教えたので心配ないだろう

すると俺達のやり取りを見てナトメアは再び笑い声を漏らした。

俺は場が和んだ所で話を切り出し直球で質問を行う。

関わっていようといまいとどちらでも結果は変わらないが、難易度は大きく変わって来るからだ。


「それで、今回のドワーフ王国の件にデーモンは関わっているのか?」

「ハッキリ言えば関わる直前ね。だから今は関わっていないわ。」

「そうか、それだけ聞ければ十分だ。メノウ、コイツ等にも鍋を出してくれ。」

「え、もう良いの?」


するとナノメアは俺があまりにあっさりと質問を終えたので驚いている様だ。

しかし今回は別に相手の情報が聞きたかった訳ではない。

それに前回は自分達でやらかした事だが一応は情報を持って来てくれたのでそのお礼も兼ねている。


「関わってないんだろ。それだけ知れれば良い。肉は大量にあるから常識の範囲内でしっかり食ってくれ。それと、お前の名前はなんて言ったか?」

「ああ、名乗ってなかったな。俺はクルトンだ」


(なんだか添え物みたいな名前だな。)

「何か失礼な事を考えているな。」

(おっと顔に出ていたか、危ない危ない)

「そんなことは無いぞ。まあ、後は任せたからな。」


俺はそう言って立ち上がると家の皆の所へと戻って行った。

その後、彼らのテーブルへも鍋と濡れタオルと共に食器が準備され食事が始まった。

クルトンは甲斐甲斐しくもナトメアの面倒を見て肉を茹でている。

しかし、そんなクルトンも何故濡れタオルが渡されているのかをまだ知らない。

そしてその時はとうとう訪れた。


「アツっ!」


ナトメアは口に運んだ肉から汁が垂れてしまいそれは見事にその豊満な胸へと直撃する。

それを見てクルトンは急ぎテーブルを見るとそこには濡れタオルが準備されていた。

彼はそれを掴むとナトメアの胸を拭こうと手を伸ばす。

しかし、その瞬間に彼の動きは完全に停止してしまいナトメアの顔に視線を向けた。


「あ、あの。」

「良いのよ。早く拭きなさい。」

「は・・・・はい。」


クルトンは顔を真っ赤にして優しく拭き取るとサッと背中を向けた。

しかし、その先にはタイミングを見計らっていた俺が待機している。

俺はクルトンの肩に手を置いて再び耳元で囁きかけた。


「どうだ?」

「き、貴様・・・謀ったな。」

「たまにはこういうのも良いだろ。」

「・・・・・そ、そうだな。」

「頑張れよ。」


俺はエールを送ると数本の酒とコップをテーブルに置きその場を離れた。

場は完全な接待状態であるがこのテーブルで文句を言えるものは誰も居ない。

それを見て争っている時ではないとようやく残りの3人も席に着いた。


『ユウさんはデーモンを超えるデーモンだったのですね。』

(俺はこう見えてもアイツを応援しているつもりだ。)


例えこれがナノメアの思惑だとしても、デーモンにも飴は必要だろう。

そう思って彼女を見れば笑顔でこちらに手を振っている。

どうやら今日はアイツのサービスデーのようだ。

あれなら放っておいても上手い具合にアイツらをコントロールしてくれるだろう。

ここには精神的にまだ幼い者もいるので18禁に抵触しなければ問題ない。

先程のは少しグレーゾーンだがあれ位は目を瞑ろう。


そして、一時ドワーフ王国の事は忘れ、楽しく食事を続けた。

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