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16 京都②

俺達は伏見稲荷に着くとその前で足を止め周りを見回した。

入り口にはテープが貼られているが夜だからか警備の者は誰も見当たらない。

恐らく原因不明ではあっても命の掛かった現場に人を配置する事を危険と判断したのだろう。

特に夜は魔物が活発に動き外に出るのは危険だ。


しかし、俺達はそんな事を気にする事無くテープを切って中に入った。

そしてマップを頼りにまずは進んで行くが、この山には多くの魔物と数人の人の反応がある。

どうやら行方不明者は今も生存しているらしく一カ所に集められているようだ。


「生存者を見つけたぞ。」

「本当か!」


するとアキトが声を上げ、周りから安堵の吐息が聞こえて来る。

しかし、マップに死亡者は映らないので全員が無事とは限らない。

それに発見した人の傍には俺がまだ見た事のない魔物が居るので油断はできない。

俺達は表の参道から入ると反応に従って裏へと向かう。

山を越える必要はあるが山の周囲を移動するよりかは近道だ。

出て来る魔物もゴブリンやコボルトと弱い敵ばかりなので問題はない。


そして俺達は裏に回ると参道から外れ整備されていない山肌を進み始める。

するとその先から何かの匂いを感じ取ったホロが声を上げた。


「なんだか蜂蜜みたいな甘い匂いがする。」


ホロは犬の嗅覚を持っているので俺達よりも遥かに感覚が鋭い。

それにホロが言っている方向は俺達が向かっているのと同じ方向だった。

しかし、あまり気に留めていないホロの言葉にアリシアだけが大きな反応を示した。


「皆さん気を付けてください!毒の可能性があります!」


するとその声に反応しライラが周囲の鑑定を始める。

そしてすぐに白魔法のアンチドーテを俺達に掛けてくれた。

どうやらアリシアの懸念が的中したらしく鑑定によって確信を得たライラが言葉よりも先に行動へ移してくれたようだ。

そして一旦の危機が去った所でライラがどういう状況なのか説明をしてくれる。


「これはマンイーターの魅了毒よ。一定以上吸って毒の状態が進行すると意識が希薄になって操られるから毒耐性の低い人は気を付けて。それと毒の効果が出始める初期段階でステータスに表示されるから自己管理しながら慎重に進みましょう。」


どうやらライラとアリシアには思い当たる魔物がいたようで今の所は対処も可能な様だ

しかし、本当に異世界の知識がある仲間が居て助かった。

そうでなければ何も気付かないまま進んで俺達も行方不明者の仲間入りをしていたかもしれない。


(安全の為にも確認をしておくか。)

「ライラ、知ってる情報があれば教えてくれないか。」


するとライラは頷くと歩きながら説明を始めてくれた。

俺達は周りを警戒し襲って来る魔物を始末しながらその声に耳を傾ける。


「マンイーターは甘い匂いの毒で人を誘き寄せて養分にするの。魅了された人間はマンイーターの根元に集まり眠りに付くけど死んだらアンデッドになってしまうから二重の意味で危険な魔物よ。脅威度は低いけど毒耐性か対毒用の装備がいるから討伐が大変なの。私達にはホロが居たから気付けたけど何もしなかったら毒に犯されて意識を奪われていたかもしれないわ。」


俺には毒耐性があるので問題は無いかもしれないが他の仲間はそうとは限らない。

なので念のために皆の様子を気にかけながら進む事にした。


「ありがとう、参考になったよ。アキトたちはどうだ。問題は無いか?」

「ああ、俺達は訓練を受けていたから低レベルだがスキルに毒耐性がある。しばらくは大丈夫だ。そっちは?」


「私は毒耐性がありません。」

「私も無いです。」


こちらはアヤネとアリシアが毒耐性が無いようだ。

二人にはライラの傍に常に居てもらって定期的に魔法を掛けてもらうか待機してもらった方がよさそうだ。

するとそれについてアキトが提案を出してきた。


「魔物の脅威度が低いなら班を2つに分けないか。こちらからミズキとフウカを護衛に付ける。そちらは毒耐性の無い2人とライラを残せば問題がないだろう。」


どうやら、アキトはこちらの事を気に掛けてこんな提案をしてくれたようだ。

俺はアキトの意見に納得してアヤネとアリシアに視線を向ける。

すると2人は素直に頷き待機を選択してくれた。

こちらはこちらで危険性を理解したうえで足手纏いになると判断したのだろう。


そして白魔法のアンチドーテが使えるライラも残る事を決め、班を二手に分けて進む事となった。

こちらで毒に掛かった場合は俺が解毒できるので問題はない。

早めにレベルを最大にしておいてたのがさっそく役にたった。

日頃はライラが回復を担当してくれるがやはり複数の回復役がメンバーにいると便利だな。


そして俺達は更にマップに従って山の中を進んで行く。

それにこの山はそれほど大きくはないので目的地へとすぐに到着できた。

するとそこには山肌を抉ったような大きな穴が開いていて反応はそこに固まっている。

そして穴にライトの光を当てれば壁を埋め尽くすような大きな植物が生い茂っており中央に2メートルを超える毒々しい色の花が咲いていた。

しかも枝や根を触手のように動かしている事から唯の植物でない事は明白だ。

そして地面には複数の人たちが根に絡めとられ倒れているのが見える。

マップの反応ではまだ死んでいる者はいないが日数的にそろそろ危険そうだ。

それに、今は魔法が得意なライラがいないので魔法攻撃もできない。

一応俺も魔法は使えるが経験が足りないので制御を誤るかもしれず、人が近くにいる状態では巻き込みかねない。

そのためまずは倒れている人の救出を優先する事にした。


「全員に魔法を掛けて解毒しておく。素早く倒れている人を回収して離れよう。その後俺の魔法で魔物を焼き尽くす。」

「その作戦しかないか。俺達もスキルは取っているがまだ使いこなす自信はない。それなら俺とユウで壁役をして他の3人であの人たちを運び出してもらうってのはどうだ。」

「そうだな。それでいこう。ホロ頼んだぞ。」

「うん、任せて!」


するとホロはやる気満々に拳を握ると頭を突き出して来る。

どうやら一仕事の前に撫でてもらいたいらしく飛び出ている尻尾が激しく揺れている。

俺はそんなホロの頭を撫でてやり更なるやる気を呼び起こしてやった。


「えへへ~。」

「頑張るんだぞホロ。良く出来たらご褒美をやるからな。」

「うん!」


そしてその横でアキトも自分の部下に指示を出した。

ただ、こちらは男ばかりなので俺達の様に和やかでは無いのは言わなくても分かるだろう。


「お前らも頼んだぞ。倒れている人は8人。俺とユウで一番奥の二人は連れ出すから他の6人はお前たちに任せる。」

「それなら俺達にもご褒美が欲しいのであります。」


すると俺とホロのやり取りを見てヒムロが何時になく真剣な顔でそんな冗談を口にした。

いや、もしかするとあの顔は本気なのかもしれない。


『ゴン!』

「イッテ~~~!」

「ご褒美の先払いはこれで良いか?一人でも犠牲者を出して失敗したらこの程度で終わると思うなよ。」

「・・・了解しました。サー。」


そして、アキトはヒムロへと鉄拳を落として凄むとチヒロへと視線を向けた。

ただこちらはサッと敬礼するだけで何も言わずアキトもそれに納得している。

やはり口は禍の元と言うが本当の事だったらしい。


そして俺とアキトは準備を整えると先頭に立って動き出した。

俺達の仕事は囮役なので武器を手にして本体と思われる花の前で足を止める。

すると周囲で動いていた枝や根が自在に伸びながら襲い掛かって来る。

しかし、その攻撃は俺達にとっては速いとは言えず切り落とす事は可能だ。

そして後ろでは予定通りに3人が絡まっている根を断ち、人々を助け出している。

この調子ならあちらはすぐに救出を完了させそうだ。

しかし、そう思った瞬間、花の根元が大きく膨らみ雌しべに当たると思われる場所から紫の煙が大量に噴き出した。

それを正面から受けてしまったアキト、ヒムロ、チヒロは膝を付いて大きな咳を始めた。

ホロを見ればそちらは問題なさそうだが他のメンバーは次第に表情が消え目が虚ろになり始めている。

どうやらこの煙には毒が大量に含まれていて症状が一気に進んでいるようだ。


「ぐう、意識が・・・。高濃度の毒で耐性を突破された!」


そしてアキトは膝を付くと呻く様に言葉を絞り出し状態を知らせて来る。

それを聞いて俺は突風を起こして毒を拡散させ、更にアンチドーテで全員の毒を中和させる。

するとアキトたちは額に汗を掻きながらもすぐに立ち上がって見せた。


「助かったユウ。確かに強くない魔物だがこういう絡め手が得意な魔物はかなり危険だな。それに今後に備えて毒耐性は高レベルにしておいた方がよさそうだ。」


アキトは魔物を分析しながら今後の自分たちに必要な事を決めて行く。

俺も今まで毒を使う魔物がいなかったので油断していたが毒耐性はかなり有用なスキルだ。

今後、いろいろな魔物と戦って行くなら確実に必要になるだろう。


「アキトさん、ユウ。回収完了です。一旦離れてください。」


その言葉と共に俺達は足元の人に絡まる根を素早く断ち切ると抱えて後ろに跳躍した。

そして俺は後ろに飛びながら手に魔法の炎を生み出してマンイーターに向けて放つ。


「ファイヤーボール!」


すると手から放たれた炎の玉は花の中心に直撃し窪みとなっている周辺ごと炎で飲み込んだ。

その炎の中でマンイーターはしばらくのた打ち回り、最後には消えて魔石を落とした。

植物は通常、根の一部が残っただけでも後々復活しそうだが、魔物は魔石になって消えるので倒したことが分かりやすくて助かる。

それに映画のように実は生き残っていて『次回に期待』となると面倒でたまらない。


そしてアキトを見ると急いで何処かに連絡を入れている。

普通に考えれば立ち入り禁止となっている所に侵入しているので人を助けても怒られそうだが、アキトに任せれば心配はないだろう。

そんな事を新幹線の中でも言っていて、こういう所で行動するための特別な権限が与えられているそうだ。

そして連絡を終えると助けた人を抱えてライラ達の待っている場所へと戻って行く。

それにライラならアリシアを介抱していた実績があるのでこの人たちをどうにかしてくれるかもしれない。

そして少し歩くとライラ達と合流に成功し助けて来た人達の状態を確認してもらう。


「ライラ、この人たちを見てもらってもいいか?」

「分かったわ。そこに並べてくれる。」


するとライラはまず彼らから少し離れその状態を確認する。

どうやら鑑定をして状況を確認しているようだ。


「アキトさん。この人の体をちょっと調べたいの服を脱がせてくれない。」

「分かったが何かあるのか?」

「ええ、この人だけマンイーターの種子が寄生してるみたい。それにあの手の魔物は人に寄生して増える種が多いの。だからこうして人に種を植え付けておくとゾンビになった時に彷徨い歩くから丁度良いのよ。離れた所で死体を養分にして芽を出すから新しく芽を出しても獲物の奪い合いにならないでしょ。このままだと今は助かっても後でマンイーターの苗床にされてしまうわ。」


それを聞いてアキトは急いでヒムロとチヒロと共に身体検査を始める。

すると背中の肩甲骨の下あたりに不自然な痣と膨らみを見つけることが出来た。

アキトはナイフを取り出すとそこを切り開き中を確認する。

するとそこには5ミリほどの大きさの小さな種が入っており既に根を伸ばし始めていた。


「あ、あったぞ!これを取り出せばいいのか?」

「ええ。発芽するまでは動かないから大丈夫よ。落としたら地面ごと焼くからすぐに離れて。」


アキトは種をナイフで抉り出すと地面に落としてその場を離れた。

そしてライラはそこに小さな炎を放つと種を焼き尽くして始末を終える。

するとそこにはゴブリンの物よりも更に小さな魔石が転がっていた。

どうやらこれで完全に討伐は完了したようだ。

ライラはその後、魔法で傷を治療し全員に少しずつ何かの薬を飲ませて地面に寝かせた。


(そう言えばアリシアの時にも飲ませていたけどあれは何だろうか?)


「前もアリシアに何か飲ませてたけどそれは何なんだ?」

「私も気になってました。日に少し飲ますだけでアリシアさんは食べなくても平気そうでしたよね。」

「これは魔法薬よ。これを飲めば体力が回復するけど味は最悪なの。だから起きている時に飲むのはお勧めできないわ。」


そう言ってクスリと笑うがたった数滴で命を繋ぐ薬とは凄い効き目だ。

現代の医療は最後にはどうしても本人の体力が物を言うがこれはそれを回復させてくれる。

人によっては持ち主を殺してでも手に入れたい物だろう。


「でもこれだけじゃ生きて行けないわ。アリシアの時には魔法で水を操作して飲ませてたしね。それにこの薬も残り少ないの。材料があれば私の錬金スキルで作れるんだけど。」


どうやらライラは今まで結界石しか作っていなかったがその知識同様に技術面での引き出しも多いようだ。

これについては材料を聞いて探してもらうしかない。

世界が融合したため何処に何があるのか彼女自身、分からない筈なのでそう言う所は政府を頼ろう。

恐らく効果を教えれば大喜びで探してくれるはずだ。


そしてしばらく待っていると遠くから救急車の音が聞こえ始めた。

方向は表側なので俺達は救助した人々を背負い移動を再開する。

そして参道から出るとそこには何台もの救急車とパトカーが待機していた。

危険な夜にここまで来てくれたのだから彼らには感謝しなければいけないだろう。


そしてアキトが先頭に立って身分証を見せると警官たちは敬礼して離れて行った。

どうやら怒られる心配は無さそうで、俺達は助けた人を任せて次の目的地へと向かう事にした。

しかし嵐山でも同じように行方不明の人が出ているらしいが、今回のように毎回上手くいくとは思えない。

そろそろ覚悟をして次に行った方が良さそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] そして一旦の機器が去った所でライラがどういう状況なのか説明を →そして、一旦、危機が去った所で、ライラが如何云う状況なのか説明を
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