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15 京都①

俺達は東京を出て家路についているがせっかくの遠出なのでのんびり帰る事にしている。

そのため広島との間にある京都で新幹線を降りて一泊する予定だ。

それに今朝の内に部屋も確保してあるので泊る場所に困る心配も無い。

急な予約だったので夕飯は外で済ませなければならないが、アキト達と打ち解ける良いチャンスになるだろう。


そして時刻は既に夕方の5時になろうとしている。

俺達は近くの飲み屋に入り席に座ると店員がすぐにやって来て水とおしぼりを置き飲み物を聞いて来た。


「全員ウーロン茶で。」

「分かりました。すぐにお持ちします。」


ここは飲み屋で少し見ただけでも色々な種類の酒が揃えてある。

しかし俺達はここに来る前の話し合いでアルコールを控える事に決めた。

せっかく新しい土地に来ているのでここでも東京と同様に夜の散歩をする予定だ。

そのついでにアキト達を手伝いステータスを取りレベルも上げてもらう。

ただ、聞いた話では彼らは実戦も想定した訓練だけでなく、実戦の経験も豊富らしい。

そんな部隊が日本にある事を初めて知ったが、俺の様な一般人が知らない事は山程ある。

どんな仕事をして来たのかは細かく教えてもらえなかったが新幹線内で声を掛けた時の気配からすると人を殺した事があると言われても信じられる。


ちなみにそのアキトだが、俺達の泊る旅館に電話をして部屋を確保している。

俺が調べた時にも月曜ということで部屋には幾つも空きがあったので、直前での確認だが泊るだけなら問題は無さそうだ。


「はい、食事は外で食べて行きます。・・・はい、ありがとうございます。・・・それでは後程お世話になります。」


そして部屋の確保が無事に終了し電話を切ると溜息をついた。

ただ、その目は僅かに俺を睨むように見ているのは間違いではないだろう。

どうやら、俺には身に覚えがないが何か言いたい事があるらしい。


「言いたい事があるなら早めに言ってくれ。」

「それなら言うが、まさか家に帰らず途中下車するとは思わなかったぞ。あんな放送の後でお前には危機感が無いのか?」

「寄り道は旅の醍醐味だろ。最近は旅番組でもこれくらいは普通にしてるぞ。」


すると答えを間違えたのかアキトは頭を抱えて大きな溜息を零した。

まあ、護衛する側から言えば安全な場所から動かないのが一番護り易い。

それに護衛の仕事は危険な所へ行かせない事で、護衛される側は危険な所へ行かないのが前提条件だ。

しかし、俺達はそれに照らし合わせてみれば全く逆の行動を取っている。

テレビを見てどんな行動を取るか分からない人々の前に姿を晒し、尚且つ魔物まで狩ろうとしている。

頭を抱えるのも分からないではないが、俺達は籠の鳥ではない。

それに関してはアキトも分かっているのか、顔を上げて次の予定を聞いて来た。


「一応聞くが次の予定はなんだ?」

「次は神戸に行く予定だな。そこにある牧場に結界石を幾つか卸したんだが最近になって変な奴が来るようになったらしい。それで少し調べに行くんだが、報酬として牧場主が肉を振舞ってくれるそうだ。」


すると周りで聞いていた他の4人の耳がピクリと動きアキトを置き去りにして迫って来る。

その目には明らかに『肉』の文字が浮かび期待の籠った視線を向けて来る。

これでは先日まで犬だったホロよりも酷いのではないか?

しかし、もしかすると彼らは国の為に身を捧げて頑張っているのに、劣悪な輸入肉しか食べさせて貰っていないのかもしれない。

すると彼らは顔は遠慮しながら声だけはしっかりとした口調という器用な喋り方をし始めた


「おい!その牧場ってもしかしてアレか!?」

「何言ってんの。そ、そんな事がある訳ないでしょ!ね、ねえそうよね~。」

「でも、神戸って言ったら有名な牛肉の産地だろ。」

「ははは、お、お前ら夢見すぎだぜ。俺達は護衛なんだからもしそうだとしても遠くで見てるのが関の山さ。」


そして何やら4人は口々に言葉を零しているが一緒に行動をしないのだろうか?

しかし俺としても付いて来てもらわないと困る事がある。

せっかくブランドな牛をご馳走してもらってもすぐ傍で羨ましそうに見られていては迷惑でしかない。

それらの事も踏まえて最初の時点で彼らを誘ったのだから意味が無くなってしまう。

なので今の内に退路を塞ぎ一緒に来てもらえるように説得する事にした。


「言っておくがお前らも人数に入ってるから来ないと肉が余る。有名なブランド牛だから味は保証するぞ。」


すると4人は俺に向けていた顔を真横に向けると血走った目でアキトに視線を向けた。

その人とは思えない動きと顔にアヤネが少し怯えているが、他は平常運転で気にしていないようだ。

俺も人間はとうとうあんな動きが出来るようになったのかと感心しているが、もしここでステータスを持っていれば威圧のスキルも一緒に取れそうだ。

ただ、俺が初めてステータスを得た時にも一般的なスキルは既に習得していた。

なら戦闘面に強い彼らならそっち関係のスキルを高レベルで持っていても不思議ではない。

どんな結果が見られるのか、今夜が本当に楽しみだ。

そして、アキトの方は俺の時よりかは小さめの溜息を零すと睨んでいる4人に決定を伝えた。


「分かっている。ただし付いて行くのは良いが羽目を外し過ぎるなよ。目的地には正体不明の何かがいて危険なのは確定している。俺達はあくまで護衛なんだからもしもの時は盾になるくらいの覚悟は持っておけよ。」

「「「「よっしゃーーーー。」」」」


するとアキトの返答に彼らは立ち上がり大喜びではしゃぎだした。

しかしこの様子では同行を許可した最初の言葉以外は耳に届いていないな。

それとも肉が食えるなら死んでも良いと思っている潔い奴らなのだろうか。

それにこの姿を見ていると護衛を任せても大丈夫かと心配になってくる。

可能ならアキト以外はチェンジと言って他の人をお願いしたいが今夜の戦いを見てからでも遅くはないだろう。


そしてその後、飲み物が来たので全員で乾杯し店の料理を制覇する勢いで注文が行われた。

しかし彼らは体が引き締まっていて細く見えるのに凄い量を食べる。

それに対抗するかのようにホロも食べるのでまるで大食い選手権の様な状態だ。

周りに他のお客がいないので騒いでも迷惑にならないが奥にある厨房からはたった10人の客を相手にしているとは思えない程の音と声が聞こえて来る。

結果的に店には少し迷惑を掛けてしまったが、1日分の売り上げとしては十分に貢献できただろう。


すると俺達の下に一人の中年女性がやって来て穏やかに笑いながら声を掛けて来た。


「あなた達、凄い食欲ね。店の料理人達も久しぶりに腕を振るえて喜んでたわ。」

「でもここはこの辺では有名な居酒屋ですよね。どうして人が居ないのですか?」


周りに客が居ない思ったら普段から閑古鳥が鳴いてるらしい。

しかし、ここの料理はとても美味く駅からも遠くないのでアクセスも悪くない。

ネット上でも高評価を受けていた店なのにどうしてだろうか。


(これなら繁盛していてもおかしくないんだけどな?)


「少し前まではお客さんもたくさん来てくれてたのだけどね。最近はアレのせいで夜はあまり人が歩かないのよ。」


そう言って彼女は外を指差し困ったような怒っているような表情を浮かべた。

そしてそちらを見ると店の外には何者かが歩いており、手には棍棒のような物を持っている。

マップを使うとゴブリンの様だが、扉に手を掛けガタガタと揺すり開かない事が分かると補強された扉を殴って去って行った。


(確かにあれだとのんびり酒も飲めないな。)

「でももうじき政府が動いてくれますよ。そうすれば結界石が出回って安全になりますから。」


しかし、俺がそう言っても女性の表情は一向に晴れる気配はない。

それどころか表情は更に曇ってしまったので他にも心配事があるのだろうか。

そして、彼女は俺が薄々は気にしていた事と同じ事を口にした。


「でも行政って動きが遅いでしょ。それにそういう最新の者は中央から優先されてしまうのではないかしら。だから私達は独自にお金を出し合って別から購入しようかって話になってるの。でもそこが何処かまだ分からなくて困ってるのよ。」


きっと彼女が言っているのは俺達で間違いは無いだろう。

しかし俺達は広告やネットには乗せず、主に口コミで結界石を売っている。

それでも既に何百という結界石を売り毎日の様に注文が来る。

今はショウゴの奥さんに頼んで連絡先を聞くだけの軽い電話番をして貰っているが恐らくはかなりの仕事が溜まっているだろう。

下手に宣伝しても俺達で処理しきれないので仕方ないが、こうして噂は人から人へと自然と広がっていく。

それに昨日の国会中継で立証されたとあれば今まで確信が持てずに足踏みしていた人も買いに動き出すだろう。


すると彼女の話を聞いたライラとアヤネが俺をチラチラ見て来るのに気が付いた。

その目には助けたいという思いが宿っていているが自分では決めかねているようだ。

それにいつの間にか犬の姿に戻ったホロが俺の股の間からこちらを見上る。

どうやら美味しい料理を食べさせて貰ったのでお礼がしたいらしい。

しかし確認をしなくても好きにすれば良いのにと思うが、考えている事は俺も一緒だ。

そしてすぐに頷いて許可を出すと2人とも嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。


その後、食事を終えた俺達は食器を片付けてもらい机を綺麗にしてさっきの女性を呼んだ。

そして厚手の布を敷いたテーブルの上にライラが作った結界石を取り出して見せる。

それを女性は「ん?」と首を捻り眺めているが俺達の顔を見て何かを思い出したように「あー!」と口を大きく開けて声を上げた。

すると奥から木で出来たシャモジや料理棒を持った男衆が飛び出して来る。


「どうしたんですか女将さん!」

「もしかしてあれだけ作らせておいて食い逃げですかい!」


そして、出て来た男たちは料理人と言うよりも何処から見ても『ヤ』の付く人たちにしか見えない。

どうりで厨房から聞こえてくる言葉が威勢が良いと思っていたらこういう理由だったのか。

中には顔の至る所に刀傷みたいな痕がある人も居ていっては何だけどゴブリンなんかよりもずっと怖い。

そう言えばネット上の評価で点数を低くしていた人の多くが店員が怖いと書いていた気がするな。

てっきり何かの勘違いかと思っていたが本当だったみたいだ。

それに、どうやらこの女性がこの店の店主だったようで、そんな人が大声を出せば驚いて飛び出してきても仕方がないだろう。

しかし、普段から一緒にしているからか女将はそちらに意識を向ける事すらなく言葉を続けた。


「あ、あなた達!昨日テレビに出てた子達でしょ。ならもしかしてそれが結界石ね!」

「それは本当ですかい!」

「偽物じゃねーよな!」

「勿論でしょ。ちなみにこれは100万の結界石で効果範囲は半径100メートルよ。そしてこっちから順に効果範囲が100メートル広がって同時に100万円ずつ上乗せして行くわ。最少だと家一軒の結界石もあるわよ。」


すると女将は「ちょっと待ってて」と言って奥へと姿を消して行った。

その間に俺達は会計を済ませていつでも店を出られるように準備をしておく。

そして女将はすぐに戻って来るがその顔は少し暗い。

どうしたのかと問いかけると女将は理由を教えてくれた。


「皆で集まりたいけど最近は魔物が増えていて皆も外に出られないみたいなの。迎えに行こうにもお店を閉めている人も居るからすぐに集まるのも難しいわ。」


どうやら連絡を貰った相手もここに来たいのは山々だがそれぞれに理由があって集まれないらしい。

それを聞いて厨房から来ていた男たちも懐から出した刃物を再び隠して残念そうな表情を浮かべている。

しかし、この表情は集まれない事に対してなのか、獲物を狩れないからなのかは微妙なところだ。

しかし、それなら話は早い。

ちょうど腹も膨れているので運動しようと思っていた所だ。


「女将さんちょっと個室を借りれないか?」

「いいけどどうしたの?」

「時間も丁度いいし狩りに出て来る。少し待っててくれ。」

「え、ええ!待っててください。すぐに案内するから!」


そして俺達男性陣はその場で着替え女性陣は奥に行って着替えを行い装備を身に着けた。

それにアキトたちも最低限の装備は持っているらしく小さなナイフに鉄板が入った専用の服に着替えている。


「その服は便利だな。」

「そうでもないぞ。意外と重いし動き辛いからな。慣れればそうでもないが俺としてはそっちの装備の方が良いと思うぞ。」

「それなら材料があればライラが作れるから後で頼んでみると良い。ちなみに有料な。」

「ハハハ、俺達は大抵の物は経費で落とせるから後で頼んでみるか。ただ、俺達には隠密性も必要だからな。後で表面を塗装するか焼いて黒く染めておこう。」


そして、予定外の所からライラに仕事の依頼が入ったので後で伝えておく事にした。

その後、俺達は一軒用の結界石を店に置いて起動させると食事を終えた飲み客の様に外へと出て行った。

そしてマップを確認すると周囲一帯に魔物が徘徊している。

ただしアキトたちにステータスを得てほしいので最初だけ一緒に行動する事になった。

ここにいるのはゴブリンとコボルトばかりなので心配は無いと思うが最初だけは念の為だ。

相手は人間では無いので不意を突かれる可能性もあり、そうなれば治療が必要になる。

俺とライラならその辺はすぐにカバーが出来るので応急処置をしたり病院に行く必要がない。


そして俺の予想通り彼らは魔物を何の躊躇もなく停滞もなく倒して見せた。

その動きは今の時点で俺がレベル6になった頃に匹敵する。

やはりプロは長い訓練をして強さを身に付けているので根本的に違うようだ。

俺でレベル6なのだから他の人だとそれ以上に差があるだろう。

その後、俺はステータスとスキルの事をアキトたちに説明し感想を聞いてみた。


「これがスキル。前よりも明確な感覚として伝わってくるな。」

「マップって言うのかな。確かにこんなのがあったら隠れても見つかっちゃうよね。」

「そうね。でもこの身体強化って良いわね。体に余計な筋肉つけなくて力が出せるそうね。これがあれば女の子らしい体に戻れるわ。」

「女の子?お前も齢を・・・グハ!」

「ははは、力が漲って来るぜー」


そして各々がそれぞれのスキルを確認するとアキトが号令をかける。

ただし、無謀なツッコミを入れたヒムロだけはミズキの鉄拳制裁を受けて地面へと沈んでいる。

その姿をフウカもゴミを見るような目で見ているので2人の年齢は見た目以上に高いようだ。

そして、そんなヒムロを放置してアキトは周りに指示を飛ばした。


「確認は済んだな、それなら行くぞ。」

「「「はい!」」」

「ま、待ってくれ~!」


そして一人を残して一糸乱れぬ動きで整列すると彼らは町へと消えて行った。

その直後に周囲から魔物の雄叫びと悲鳴が広がりマップに映る赤い光点も次々に消えて行く。

この調子なら後は放置しても問題ないだろう。

ステータスの携帯機能についても既に説明し連絡手段も確保してあるので何かあれば声が掛かるはずだ。

しかし、この周辺を一掃するとなると大変なので俺達は反対側に走りそちらの魔物を殲滅して行く。


そして、このあたり一帯。

距離で言えば半径500メートル内の魔物を狩り尽くすのに1時間もかからなかった。

俺達もかなり仕留めたがアキトたちの殲滅速度がレベルに比べ異常に速い。

恐らくリーダーであるアキトの指示と連携が凄いのだろう。

レベル差があるのにも関わらず狩った割合は俺達が6割、アキトたちが4割といった所だ。

そして戻って来た彼らはとても楽しそうにしていたので良い運動になったのだろう。


俺達は店に入ると今度はライラの結界石を起動させこの周辺に魔物が入れない安全エリアを作り出した。

これでこの周辺に魔物は近づけなくなり発生もしなくなったのでいつでもここで会合が開ける。


「女将さん終わったからもう一度連絡して集まってもらって。この店の半径500メートルならもう魔物はいないから。」

「え、もう終わったの!?ありがとう!もう一度連絡して集まってもらうわ。」


その間に俺達は奥の席に移動し寒さに冷えた体を温める様に持って来てくれた暖かいお茶に口を付ける。

すると次第に集まって来るこの周辺の店主たちは久しぶりに見る魔物のいない夜の町に大喜びしている。

そして集まると彼らはどの規模の結界石を買うかの話し合いを始めた。


「魔物がいなくなるだけだと客は来ないぞ。旅館やホテルと繋げる形を取らないと。」

「そこはホテルとも話さないとな。運のいい事にホテルは京都駅周辺に集中している。皆で話し合えばこの辺一帯を安全域に出来るんじゃないか?」


ここは駅から近く周辺にホテルが密集している。

普段はそこから客が来ていたようだが今は夜が危険なため出歩く者が殆ど居ない。

しかし、周辺一帯が安全となると再び客が来るようになる。

それどころか、他が買わなければこの周辺へと集中するだろう


(時刻はまだ夜の20時。連絡をすれば来るかもしれないな。)


「それなら連絡してみたらどうですか?彼らもこの現状に困っているなら協力してくれるかもしれませんよ。」


そして彼らは俺の言葉に頷くと協力してホテルに連絡を入れ始めた。

その結果、殆どのホテルの責任者が出席し話し合いが行われる事になった。

しかし人数が増えて範囲も増えた事で購入する結界石に関して計画性が必要になった。

そのため話し合いが長くなりそうなのでその日は旅館に向かい休む事にする。

連絡先も渡しておいたので明日には電話があるだろう。

それに明日は昼の間は観光する予定なので連絡があったら来れば良いだけだ。

出来れば漬物屋に立ち寄って沢山の漬物を買い込んでおこう。


そして旅館に行き、俺達は予約した部屋に入る。

しかしロビーに行って聞くと何故か5人部屋に変更されていたのは驚きだった。


(おかしいな。一人部屋と4人部屋にしていたんだけど・・・。)


ロビーのおばちゃん店員には温かい目を向けられるし、いつの間にこうなったのだろうか。

そしてアキトたちはちゃんと男女別々の部屋に泊っている。

彼らも最近社会の風当たりが激しいので非常時でない限りはちゃんと線引きをするらしい。

・・・羨ましい限りだ。

そして俺達はその後、大浴場に向かいアキトたちと合流して中へと入る。

するとそこは木で出来た内風呂と、岩でできた露天風呂に分かれており風情を感じる事が出来る。

しかし湯船に入るなりヒムロが横に並ぶと、まるで揶揄うような顔で声を掛けて来た。


「それで、アンタは誰が本命なんだ。」

「誰と言われてもな。ライラとは付き合う事になった。」


(なんだか最近、全員に狙われている事は言わないけど。)


「か~、あの変わった目の子か。羨ましいぜ~。」

「おい、それ位にしておけ。ユウも困ってるだろ。護衛する相手に嫌われたら今後が大変だぞ。特にお前が。」


そう言ってアキトはヒムロに釘を刺し話を変えてくれる。

俺としても付き合い始めたばかりで恋人らしい事は何もしておらず、話せる事は殆ど無いので助かった。

ただ、ヒムロは見た目がチャラそうで女性に対する経験値が高そうなので今後に困った事があったら相談する事もあるかもしれない。

しかし、アキトが話を切ったのは今後の確認の為だったようだ。


「それで、今日は彼らにお節介を焼いたが明日はどうするんだ?」

「明日は連絡があるまで観光だな。数日かかるなら夜は少しこの町の調査もする。魔物の間引きも兼ねてるが新しく会う魔物は強さを確認しておきたい。あんたらも早くレベルを上げておきたいだろ。」

「まあな、俺達はかなり出遅れていると感じている。可能な限り狩りには同行したい。」

「なら明日は漬物と赤福を買いに行く。」

「待て、いきなり食い物の話に飛ぶな!」


そう言って呆れた顔で鋭いツッコミを入れて来たアキトは俺に声を荒げた。

それを見てヒムロは声を上げて笑い、あまり表情を変えないチヒロも顔を逸らして口を押えている。

しかし、これだけはどうしても譲れない。

ここでしか手に入らない物もあるのでこれは絶対に必要な事だ。


「そして夜は伏見、清水、嵐山に向かう。」


しかし、そんな俺の言葉にアキトはようやく話が正常に戻り真剣な顔で考え込んでしまう。

そのため、どうしたのかと思っているとアキトが表に出ていない情報を教えてくれた。。


「なら明日の明るいうちに伏見と嵐山に行ってくれないか。この二カ所はいまは閉鎖されているんだが調査が必要な場所だ。事前にこの周囲の事を調べたがそこは昼間でも事件が起きている。何でも人が道をそれて歩き出した後に帰って来ないらしい。原因が不明なうえに調査隊からも行方不明者が出たので現在は手が出せない状態になっている。」

「それはいつの事なんだ?」

「4日ほど前だ。」


俺は少し考え以前に同じ様な事があったのを思い出した。

それは世界が変わって少ししか経っていない頃の事でゴウダさんの牧場でゴブリンの巣を見つけた時の事だ。

あの時にも昼間だと言うのに洞窟の中にはゴブリンが居た。

普段なら何処かへ姿を消してしまう魔物だが、巣という特別な空間であったためにあの場で留まっていた。

もしそれと同じ事がその二カ所でも起きているとすれば、その人たちの命が危険なのは間違いない。

それに人は条件にもよるが3日くらいなら絶食絶水に耐えられるらしいので今なら運がよければ生きているかもしれない。

俺はあの時の事をアキトに話し、知らないであろう情報を共有した。


「そうなると、動くなら早い方が良いという事か。どうやらお前の寄り道も無駄にならなそうだな。」

「無駄とか言うな。こっちは大真面目なんだからな。」

「それじゃ今から行くという事で決定だな。」

「そうなる。すぐに他の二人にも連絡を入れておけ。」

「ライラ達にはこっちで連絡をしておくよ。」


そして俺達は電話を入れながら立ち上がると揃って出口へと向かって行った。

どうやら、今夜の仕事はまだまだ終わらせてくれないらしい。

それに昼間でも被害が出ているならなるべく急いだ方が良いだろう。

もしかすると明日になれば被害の範囲が広がって周囲からも行方不明者が出るかもしれない。


俺は体を拭いて新しい服に着替えると装備を装着して一階のロビーへと向かって行く。

生活魔法を使えば髪も簡単に乾かす事も可能なので女性陣もすぐに姿を現すだろう。

そしてアキトたちも急いで着替えると俺に続く様に風呂から飛び出て来る。

しかしその頭はまだ濡れていたので俺は魔法を使い乾かしてやったのだが、アキトたちは微妙な顔を俺に向けた。


「便利だな。それは魔法か?スキルか?」

「生活魔法だな。取っておくと灯や掃除に洗濯と便利だぞ。」


すると3人はスキルポイントが余っていたらしくステータスを表示させて操作を始めた。

恐らくポイントを使って生活魔法を取得しているのだろう。

そして少しすると女性陣も風呂から上がって来たが、みんなも髪を綺麗に乾かしてある。

するとフウカは嬉しそうにアキト達に駆け寄ると少ししゃがんで頭を見せた。


「見て見て、ライラが魔法で乾かしてくれたの。生活魔法で出来るんだって。便利だから教えてもらってすぐに取っちゃった。」

「ハッハッハー。俺達も取ったぜ。これからは任務で風呂に入れなくても体臭や頭の痒さに悩まされる心配がなくなったな。」

「そうですね私達女性にとっても辛い事なので助かりました。」

「そうだな。魔法とは便利なものだ。もっと早くに手に入れておきたかった。」


どうやら結局のところ、彼らは全員が生活魔法を取得したようだ。

しかし、その話の節々には今までの苦労が感じ取れ、聞いてるだけでも大変だった事が分かる。

俺も政府の働き方改革で仕事時間が法律で定められる前は風呂に入る時間も無くて風呂に入らない生活を送っていた。

そう考えれば今の生活は大変ではあっても飯も食えて風呂にも入れるし、護りたいと思える仲間も居るので幸せかもしれないな。


「それじゃあ行こうか。まずは近場の伏見からだな。」


そして俺達は外に出るとそのまま伏見に向かって走り出した。

途中で見かけた魔物は全てアキトたちに任せ経験値の足しにしてもらう。

俺達も後ろから彼らが戦う姿を見て参考にしながら走って行く。


「言い忘れてたがパーティを組んで経験値が共有されるのは50メートル以内だから気を付けろよ。厳密には倒した魔物から50メートルらしい。」

「分かった。しかしそれだと50メートル以上の魔物もいるような言い方だな。」

「ライラが言うには実際に居るらしいぞ。」

「そいつ等と戦うなら航空自衛隊が要りそうだな。」


しかし、航空自衛隊でも相手になるだろうか?

ライラが言うにはその魔物の1つはドラゴンらしく、先日乗った旅客機の何倍もの速度で飛び、体は鋼鉄よりも硬い鱗で覆われているらしい。

あちらの世界では海・陸・空を支配し最強種とも呼ばれているそうだ。

中には自然災害級の事象を起こしたり止めたりも出来るらしく現代の科学でも太刀打ちできないかもしれない。


そしてその後の俺達はそれ程の時間を掛ける事は無く伏見稲荷に到着する事が出来た。

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― 新着の感想 ―
[一言] それにそういう最新の者は中央から優先されてしまうのではないかしら。 →それに、そう云う最新の者は、中央から優先されて仕舞うのではないかしら。
[一言] マックスさんに同意。今なら駅で売ってるとは思うけど。
[一言] どうでもいいことなんですけど京都に来て何故赤福? お伊勢さんの名物なので三重県では… 土産物屋さんに行けば売ってないことはないのかな?
感想一覧
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