148 お仕置デート【カーミラ】
今日はカーミラとデートとなった。
オリジンはと聞くと彼女はもう少し後が良いそうだ。
その顔は笑顔ではあったが雰囲気は真剣だったので何か理由があるのだろう。
そして、俺はカーミラを連れて出かけて行った。
彼女は5年以上の奴隷生活を経験し、その間は苦しい人生を送ってきている。
家に来てからはそうでもないが本当に自由にこうやって出かけるのは初めての経験かもしれない。
そのため好きな所に連れて行ってあげようと思い聞いたのだが「あなたの好きな所に行きたい」と返された。
しかし、そう言われると困ってしまうのが俺である。
その為まず向かったのはファーストフード店だ。
今日の朝食は外で食べると言っておいたので俺もカーミラも食べていない。
そして、俺が選んだのは材料の安全性に拘ったハンバーガー店だ。
最近は外食が極端に無くなったので、こういうジャンク的な食べ物を全く食べなくなった。
言えば食べには来れるだろうが店には悪いがメノウの料理の方が断然美味い。
ただ、こういうジャンクな食べ物は理屈ではないのでどうしても食べたくなる時がある。
そして、俺はレジの前に立つといつものメニューを注文する。
「ご注文をどうぞ。」
「〇スバーガーと〇スシェイク、〇スチキンを2つずつ、シェイクはバニラをMサイズで頼む。」
「畏まりました。」
これがここに来た時の定番。
3種の神器と言っても過言ではない。
俺は支払いを済ませて札を貰うと席へと向かった。
この街ではモーニングをこの店で食べる様な者は殆どいない。
だから店内には客は誰も居らず、俺達の貸し切り状態だ。
俺は対面式になっている席に座ると頼んだ物が来るまで話でもする事にした。
「カーミラはこういう所は初めてか?」
カーミラもこの街に来て日は浅いが自警団のつながりで知り合いも増えている。
そうなれば遊びに誘われる事もあっただろ。
家の中以外では完全に放任していたので実はカーミラの行動範囲を全く知らないのだ。
それに自警団での稼ぎもある。
ただ一晩働いて1000円から2000円位のものだろうか。
カーミラの場合は魔物を狩ってそれを換金する事でそれが稼ぎになる。
他の皆は自警団に寄付しているがカーミラに関してはツキミさんとの約束がある。
その為、その日の成果に沿って魔石と交換でお金を貰っているのだ。
そして、俺の問いかけにカーミラは首を横に振った。
「来た事はないです。何か食べ物を売っているのは匂いで分かりましたが、外で間食を食べる気にならなくて。」
確かに、少し前まで碌に食べれなかったカーミラだが、今では3食にオヤツまで付いている。
外でも食べていれば確実に太る『ギロリ』・・・事は無くても食べ過ぎだろう。
(セーフ。)
「アウトです。」
(何故わかる!?)
本当に家のメンバーにも困ったものだ。
カーミラまで俺の内心に鋭くなってしまって・・・。
「なので今日は全てユウさんに会計はお任せと言う事で。」
しかもこんなに逞しくなって・・・。
「少しの間で逞しくなったな。」
「はい、これも全てユウさんがあの夜にあんなに激しく攻め立てるからです。それについても責任を取ってくださいね。」
そう言ってカーミラは頬を赤く染めて視線を逸らした。
「ちょーーーと待て。なんだその言い回しは!?周囲が誤解するだろう!」
そう思い俺は周囲を見回した。
するとレジにいる店員は俺に虫を見る様な目を向け、その横で頑張って調理している店員はからしのチューブを握っている。
(あれ・・・。たしかあのハンバーガーにはからしは入らないよね。なんで俺に向かってそんな良い笑顔を向けてるの?)。
実際カーミラの見た目は私服だが確実に高校生くらいに見える。
しかも顔の作りが優等生っぽいので悪者は完全に俺だ。
しかも今の発言から推測すると俺はそんな子を手籠めにした挙句、完全に篭絡させた屑男だ。
「ゴホン、あの夜の事は・・・そうだな、お仕置の様なものだ。」
(あ、セリフをミスった。)
すると俺の言葉を聞いていたのか、後ろから『べチャッ』という音が2つ聞こえた。
1つはどうやら店員がシェイク機の操作をミスった音のようだ。
そしてもう一つはハンバーガーを作っていた店員が、からしの容器を握りしめた音の様だ。
俺は嫌な想像をしながら目元を引き攣らせ料理が来るのを待った。
しかし、そんな状況でもカーミラの追撃は止まらない。
「それならもう少し優しくしてくれても良かったじゃないですか。あまりに激しいので身も心も逝っちゃうところでした。」
(ああ、これは知らない人間が聞いたら事案確定だな。)
すると注文した料理が出来た様で二人の店員がそれぞれにトレイを手にしてやって来た。
(2人?量から言ってもトレイは1つで足りるはずだけど・・・。)
そして二人はそれぞれに笑顔を浮かべてテーブルに料理を置いた。
見ればカーミラの前に置かれたトレイには白いバニラシェイクに綺麗に包まれたチキン。
それと綺麗に作られたハンバーガーが包みから顔を出している。
しかも頼んでいないのにポテトのオマケ付きだ。
しかし、俺のトレイには赤いトマトケチャップがコップを満たし、真っ黒なチキンが皿に乗っている。
この黒いのは胡椒だろうか。
そして俺のハンバーガには何も言っていないのに特注のシールが貼られていた。
しかも中はとても黄色い。
というか、黄色しか見えない。
匂うと鼻を刺す酸味の匂いがする。
店員は「どうぞお召し上がりください」と普通では言わない言葉を残して去って行った。
「さあ食べましょうか。」
「おい。どうするんだこれ。」
俺の言葉にカーミラはサッと視線を逸らしバーガーを食べ始める。
しかし、さすがに俺はこれを食べられそうにない。
ケチャップに関して言えば既に料理ですらない。
するとカーミラは「仕方ないですね~」と言ってハンバーガーを半分食べてそれを渡して来た。
「いや、さすがにそれは。」
「ん。」
「いや、だから。」
「んん!」
これは引く気はない様だ。
仕方なく俺はそれを受け取ると口に運んで食べ始めた。
すると今度はストローを2本手にし自分のシェイクに突き刺して机に置いた。
しかも高さが足りないため土の魔法で台を作る手の込み様だ。
「これは?」
「一緒に飲みましょう。ストローは一緒じゃない方が良いでしょ。」
そう言ってカーミラは自分に向いているストローに口を付けた。
すなわち反対のは俺のと言う事だ。
(まあ、食べかけのハンバーガーを食べた時点で気にする事じゃないか。)
そして俺も同じようにストローでシェイクを飲んだ。
するとタイミングが丁度ぶつかり互いの顔が目の前まで近付いてしまう。
その瞬間、彼女の顔は真っ赤に変わり、吸うのではなく息を噴出した。
それによってシェイクは爆発したように吹き上がり周囲へと広がっていく。
俺はそれを素早くコップに戻すと元の台に戻した。
「気を付けろよ。流石にこれ以上何かあったら店から叩き出されそうだ。」
(俺だけが・・・。)
最後だけ心の中だけに止めてカーミラに注意をしておく。
するとカーミラは赤い顔のまま首だけで頷いた。
そして今度はポテトを手に取り俺に付きだして来る。
「さ、さっきのお詫びです。」
そう言われては仕方なしと俺は口を開けてポテトに喰い付いた。
するとカーミラは同じように次から次へと手を伸ばして来る。
(なんか餌付けされてる気分だな。)
すると最後の一つとなってしまったがそれも突き出してきたので俺はそれを奪い取ると今度はカーミラに突き出した。
「一つぐらい食った方がいいぞ」
「は、はい・・・。あ~ん。」
俺の言葉にカーミラは少し嬉しそうに口を開けるとポテトに深く噛みつき唇が俺の指が当たった。
しかし美味しそうに咀嚼して飲み込むと今度はチキンを突き出してくる。
ここまでくれば何をしても一緒だろうと思い俺はチキンに嚙り付いた。
そして半分食べると今度は残りをカーミラが食べ始める。
何故か凄く嬉しそうなその顔に疑問を感じながらも食べ終わった俺達は店を出る事にした。
チラリと後ろを見れば二人の店員は血の涙を流しそうな勢いで歯を食いしばり地面を叩いている。
何かの精神的な病かもしれないと思いその場を放置して外へと向かった。
(いくら秘薬が優秀でも、心までは癒せないからな。)
そして外に出るとカーミラは寒そうにマフラーに顔を埋めて俺の腕にしがみ付いた。
彼女も加護のおかげで寒いはずはないのだがレベルの関係で寒さを感じるのかもしれない。
俺はカーミラに好きにさせるとそのまま歩きだした。
「お、新しいパン屋発見。」
「いい匂いがしますね。」
先程の店では互いに半分しか食べることが出来なかった。
そのため見つけたパン屋で追加の食べ物を買って食べる事にする。
中に入れば数人の主婦と思われる女性が店内を歩きながらパンを選んでいた。
俺達はトレイを持ってそれに加わり一緒にパンを選んで行く。
「これ美味しそうですね。」
カーミラが指差したのはチョコクロワッサンだ。
このクロワッサンはチョコが練り込んでいるのではなくチョコ板を挟んで焼いている様だ。
「美味しそうだな俺もこれにするか。」
「あ、待ってください。それなら色々買って二人で分けましょ。」
カーミラにそう言われ、それもそうかと思い一つだけ取ってトレイに乗せる。
それを周りで見ていた奥様方は「あらあら」と言う感じに笑顔を向けて来た。
俺達はそれに気付かない振りをしてフランスパンにクリームが入っているミルフランスや、
クリームの上にブルーベリーが乗っているブルーベリーパイなどを購入して店を出た。
そして近くにある公園でベンチに腰を下ろして買って来た包みを開ける。
「どうやって分けようか?」
パンはそれぞれ袋に包まれているがそれ以外には分けるのに使えそうな物は無い。
仕方なくお皿を出そうとすると素早くカーミラからストップがかかった。
「半分くらい食べたら交換すれば良いと思います。」
そう言われて先ほどの事を思い出した。
どうやら彼女はこういう事をあまり気にしないのかもしれない。
俺も気にする性格ではないのでそれに頷いて了解を示した。
「ならそうするか。」
俺達はそれぞれパンを手にすると包みを開けて嚙り付いた。
「お、結構美味いな。」
「本当ですね。とっても美味しいです。」
しかし、そう言ったカーミラはパンではなくこちらに視線を向けて口を開けた。
「私にも一口下さい。」
後で半分食べれるが今食べたくなったのだろう。
俺は手に持つパンをカーミラの口に近づけた。
「はい、あ~~ん。」
「あ~~ん。」
何か仲の良い恋人の様な感じだが気にしなくても良いだろう。
カーミラは美味しそうに口の中のパンを飲み込むと今度は自分の持つパンを差し出して来た。
「はい、お返しです。あ~~ん。」
「はいはい。あ~~ん」
俺達は互いに笑いながらパンを食べたり食べさせたりしてお腹を満たしていった。
そして食べ切るとゴミを処分して再び移動を開始する。
するとカーミラは歩きながら周囲を見回し笑顔を浮かべた。
「本当にこの国には奴隷が居ないのですね。」
彼女の出身はディスニア王国だ。
俺があちらの街を歩いている時は奴隷と思われる者をちらほら見掛けた。
カーミラは家に来た時は仕立ての良い服を着ていたが、あちらで見た一般の奴隷はあまり良いとは言えない服を着ていた。
だが、あれが一般的な奴隷の扱いなのだろう。
カーミラに関しては体裁を整えるために服だけは良い物を与えられていたようだ。
しかしあのやつれた姿を見ればその扱いの酷さが分かる。
あの頃の彼女の言動からもその余裕のなさが窺えていた
カーミラがもし家に来なければ、遠くない未来に死んでいて新たな聖女が世に出ていただろう。
ちなみに聖女とは何かを以前メノウに聞いた事がある。
彼女が言うには勇者が異性と交わるとその者に聖女と言うスキルが発現するらしい。
その為に女は聖女、男は聖人と言われるそうだ。
効果は成長力促進の劣化版だと言う事でスキルレベル1~6のポイント使用量が、1になりレベル7~9が3ポイント。
レベル10が5ポイントになるそうだ。
しかし、それだと既にかなり成長していると意味が無いのではと聞くと、驚く事にそれまで使用したスキルポイントが再計算され戻ってくるのだという。
さらにスキルレベルも上がりやすくなるそうなので、そう考えると何とも凄いスキルな気がするがそれでも勇者と比較すると大したことは無いらしい。
ちなみにメノウは言っていないがユウの場合、スキルが進化している為これよりも凄い事になっている。
一般スキルは全て1ポイントとなり、この条件が当てはまるのは上位スキルからになる。
歴代でも成長力促進が進化した例はほとんどない。
ユウと繋がりを持った者は彼の知らない間に途轍もない成長を遂げていた。
そして俺はカーミラの呟きに言葉を返した。
「そうだな。世界にはまだそういう制度が残っている所もあるけど日本はそう考えると平和だな。」
するとカーミラは真面目な顔になると俺の顔を見上げて来た。
その顔は先程から少し赤いので体調は大丈夫かと少し心配になる。
すると彼女は何かを決心したように抱えている俺の腕に力を入れた。
「私はユウさんに拾われて、助けてもらってとても感謝しています。あなたの傍ならずっと奴隷でも良かったです。」
しかし、それはあり得ない事だ。
俺はカーミラに、信頼したら奴隷から解放すると伝えてある。
口に出して言った以上はスキルに縛られていなくても実行する。
それが今までの人生で俺が唯一周りに誇れるものだ。
「しかし、それはな・・・。」
「分かっています。今の状態はユウさんから貰えた信頼の証だと。だから・・・その信頼に縋らせてください。」
するとカーミラは俺の腕を離し体に抱き付いてくる。
最近食べる物が良いからか彼女の成長は著しい。
身長は齢相応に伸び、胸も膨らんできた。
それに以前は無かった女性特有の甘い匂いを体に纏っている。
「あの、実を言うと今日は私の誕生日なんです。誰にも祝って貰った事は無いですが今日だけはユウさんにおねだりしたくて。その・・・私の・・初めての人に・・・なって・・ください。」
カーミラは次第に声を小さくしながらも飛び込んだ胸の中で自分の望みを言い切った。
俺はそんなカーミラの頭に手を置いて優しく撫でると小さな声で「いいよ」とだけ答える。
元々奴隷から解放した時点で信頼は十分している。
こういう事でふざけて嘘を言わないのも分かっているので俺は即答した。
すると彼女は嬉しそうに顔を上げるがその表情に少しの不安が顔を出す。
「あの、ユウさんが初めてですけど・・・。私の体は奴隷時代にその・・・玩具として弄ばれているので・・処女・・・ではないんです。・・・ごめんなさい。」
カーミラは表情を曇らせて謝って来るが俺にとってそれは些細な事だ。
俺は彼女が安心するようにそっと抱きしめるとそのまま場所を移動して行った。
いま、この不安を拭い去るには肌を重ねて証明するしかないだろう。
多くの慰めの言葉よりも一つの行動がそれを上回る時もある。
俺は彼女を部屋に案内するとその唇を奪った。
「あ・・・。」
「本当に良いんだな。」
言ってくれればここで止めても構わない。
それに昔の事がトラウマになっていて頭や心で分かっていても体が受け付けない事もある。
今が無理でも心が通じているなら時間をかけてまたチャレンジすれば良いだけだ。
「覚悟は出来ています。先日アナタへの気持ちに気付いてから皆さんにも相談して決めました。だからお願いします。大好きなアナタへの思いを愛に変えてください。」
確かにあの日のカーミラは様子がおかしかった。
思春期だからと思ってたけど俺の勘違いだったんだな。
そして俺は互いに抱き締め合い愛を確かめあった。
その後、今日という思い出を胸に家に帰ると、玄関で全員が待ち構えていた。
「「「お誕生日おめでとう。」」」
そう言って一斉にクラッカーを鳴らしてカーミラを出迎えてくれる。
俺は少し前に気付いていたがカーミラは気付いていなかったようで驚きに目を見開きクラッカーから延びるテープを頭に被って固まっている。
すると皆を代表してライラが前に出るとカーミラに微笑みかけた。
「みんなで計画を立てて急いで準備したの。」
「なら、ユウさんも知ってたんですか?」
「いいえ、ユウには全部黙っておいたの。そうしないとあなたの告白が台無しになるでしょ。」
そう言ってウインクをするとライラはカーミラの肩を抱いてリビングへと向かって行った。
俺もそれに続きリビングに入るとみんなで彼女の誕生日を祝う。
そして今日という1日を最高の状態で締めくくり大事な思い出の1ページに加えた。




