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142 バンパイア戦、決着

俺達が建物の前に立つと中から大勢のバンパイアが飛び出してきた。

しかし、既に分かっている事なのでそれと同時に攻撃を開始する。


「もう容赦しないわよ。」


サーシャはそう言ってストレスを発散させるように短剣を次から次に投げて行く。

その攻撃はスキルのおかげで外れる事なく全て敵の心臓へと命中していった。


「ヴェリル行くわよ。」

「やっちゃうわよ。」


そう言ってライラとヴェリルは龍と竜へと変身する。

そしてその口からはブレスが発射され敵を薙ぎ払った。


「切り裂き丸、私達も負けてられません。」


そう言ってマリベルは刀を抜いた。

時間があるときにサツキさんから稽古を受けているので俺よりも様になっている。

そしてマリベルが刀を振るうと遠く離れたバンパイアの体が両断されてその場で魔石に変わる。

まさに伝説にある通り、不可視の刃により遠くの相手を切り裂いている。


「フレア様、我が拳にあなたの炎をお貸しください。」


アリシアは俺の寵愛を受けてスキルが進化し、さらに新たなスキルが派生し特殊な召喚が使える様になった。

あれは精霊の一部を顕現させ、その力を身に宿して使う技で憑依召喚と言うらしい。

そして相手の弱点属性である火の精霊であるフレアを召喚したようだ。


「くらいなさい!」


そう言って拳を振るうと炎の拳が伸びて、遠くのバンパイアを複数同時に焼き尽くしていく。


クオーツも麒麟の姿に戻り空中から電撃を浴びせている。

彼女には銃弾が襲い掛かっているがその強靭な鱗に弾かれダメージになっていない。


しかしこれだけ騒ぐと周囲からグールが集まって来る。

その相手はメノウ、ヒスイ、ホロ、アヤネ、クリスが担当していた。

バンパイアは魔物だが位置的に微妙な存在なので天使に戦わせない方が良いだろう。

グールは完全なアンデットなので問題ない事は既に分かっているので天使の二人にはこちらを担当してもらう。

アヤネに関しては戦闘は得意と言う訳ではないが意識が残り喋るバンパイアを相手にさせるのは少し辛い。

グールも完全に人型だが既に死んでいるので何とか戦えている様だ。


それと今回は同じ管理者であるデーモンが関わる事なのでオリジンは戦闘には参加できないそうだ。

以前、魔王戦に参加しなかったのもそれが原因らしい。

彼らが戦闘に参加するにはそれなりの理由が必要だと話してくれた。

以前のエルフの国の様に危害を加えられそうな時や自分達の領分を犯されそうな時。

又はあちらの了承がなければ精霊王クラスは手を出せないそうだ。

今度ナトメアに言って今回の借りを盾に交渉してみよう。

いざと言う時くらい使えないと困る事もあるかもしれない。


そのため今回のオリジンは完全に知恵者として来てもらっている。

実際アリシアの精霊王を使った憑依召喚もかなりグレーゾーンなので、最初使えるか心配だったが問題なさそうだ。


そしてカーミラは精霊力のコントロールを覚えてもらうために頑張って魔法を連発中だ。

やはり的があると覚えが早いのか次第に調整が上手くなってきた。

普通は低レベルの者があれだけ魔法を連発すると魔力切れで倒れてしまうが精霊力は外部から送られてくる力を使うので体力が続く限り打つ事が出来る。

それと忘れられがちな猫獣人ケイトだが彼女はレベルが低いので戦闘は不参加だ。

今も後ろで、オリジンの膝の上に乗り腹を出して寝ている。

完全にペット枠に収まってしまった彼女に今後の出番があるかが心配だ。

ある意味では癒し要員だが、今やオリジンを上回るタダ飯喰らいである。


そして、大きな一発を放ったライラとヴェリルは姿を戻して魔法による戦闘に切り替えた。

現在、ライラはカーミラの横で指導を行いながら魔法を使っている。

こういう実戦のチャンスを無駄にしないためだろう。


そしてかなりのバンパイアを倒した頃に遠くの空から何機もの輸送機が近づいてきた。


「あれは?」


そして町の上空に来ると何人もの人間が飛び降り、パラシュート降下してくる。

一瞬敵の増援かとも思ったが全員が人間の様だ。


彼らは町に下りると周囲のグールを掃討しながらこちらに向かって来る。

そして俺達の前に来ると敬礼して話しかけて来た。


「ダニールから話は聞いた。化け物に国が乗っ取られようとしているとな。周辺の基地で連絡が途絶えている所は既にこちらで処理が終了している。索敵が得意な物も国中で配置中だ。後はここを落とせば全て終了する。」


どうやら時間的に考えて最初に到着した空軍基地で連絡を行っていたようだ。

既に周囲の制圧を開始しているなら後はここを処理をすれば終了となる。

軍なら昨日ダニールが使っていたような小口径ではなく大口径の銃弾を持っているはずだ。

今後の対処は彼らに任せて最後の仕事に移る事にした。


そのため俺は飛び上るとスピカに声をかける。


「本気で行くぞ。」

『了解。ホープエンジン・改、フル稼働開始。』

『オール・エナジー・クロス起動。』

『オール・エナジー・フュージョン開始。』


「ちょ、もしかしてユウの奴。本気の一撃を放つつもり。」


オリジンは上を見上げながら焦りの表情を浮かべた。

そして慌てた様に周囲に聞こえる程の大きな声を上げる。


「みんな集まって!すぐにこの場を離れるわよ。そこのあなたもすぐに周りの仲間を退避させなさい。」

「何かよくわからんが了解した。」


そうって男は無線で周囲に避難を呼びかける。

すると周りでこちらに向かって来ていた兵士は逆方向へ向かい移動を開始した。

現在の俺は力を高めており強い光を周囲に放っている。

そのおかげで兵士たちも危険を感じ取り明確な指示を待っていたようだ。


「マリベル、ゲートを開きなさい。ここから離れるわよ。あんたも、もう逃げ遅れてるんだから私達と来なさい。」

「か、感謝する。」


そして全員がその場から離れた直後にこちらの準備が整った。


『ホープエンジン臨界点。』

『マップを使い標的をロック。千里眼と合わせて視覚に表示します。』

『オール・エナジー・ブレス発射準備完了。』


すると俺の目前に十字が出現し標的である中級バンパイアがいる方向が映し出される。

そしてスピカの声と共に両手を地上に向けて突き出した。

その直後、高めた力の全てをこの一撃に集中させる。


「くらえーーー。オール・エナジー・ブレス、発射ーーー!」

『発射~~~!』


その瞬間、周囲は夏の太陽に照らされるよりも強い光に包まれブレスは触れた物全てを飲み込んで消していく。

物質は魔素に変換されそのまま止まる事なく建物と地面を呑み込んで行った。


(これ、もしかしてやり過ぎたんじゃね?)


そして光が消えた後には巨大な一筋の穴が底の見えない口を開けていた。

直径で言えば50メートルくらいだろうか。

底が見えない事を気にしなければ許容範囲だ。


「許容範囲なわけないでしょ!」


俺がそう思ているとそれを否定する言葉と拳が俺の頭に振って来た。

そしてそちらを向けばオリジンが目を吊り上げて怒りの表情で浮かべている。


「いや、俺もやり過ぎたとは思ってたんだけど・・・テヘ。」『ゴチン』


「二度も殴るなよ。結構痛いんだぞ。」

「普通の人間なら挽肉になるくらいの力で殴ってるんだから当然でしょ。少しは反省しなさい。」

「・・・はい。」


俺は仕方なく返事をするとゆっくりと下に降りて行った。

しかし近くで見ると本当に凄い光景だ。


「悪いけど、馬鹿が馬鹿をやったから後始末をお願いね。」


オリジンは穴の傍に行くと周囲に声をかけている。

おそらく精霊を集めているのだろう。

今から頑張って穴をふさぐ様だ。


「ユウも手伝いなさい。自分でしでかした事でしょ。」


そう言われると断りようがない。

俺は穴の傍に行くと土の精霊力を高めて穴を塞いでいく。

オリジンも手伝ってくれているので思っていたよりも早く終わらせる事が出来た。

ちなみに、表面を埋めただけで中はまだ空洞だ。

そっちは他の精霊達が時間をかけてしっかり埋めてくれる。


「先日も話したけど精霊は自然を管理してるの。だからこんな事したら悲しいのよ。それだけは覚えておいてね。」


するとそう言ってきたオリジンの顔は少し悲しそうだった。

それを見て俺は先程殴られた以上のダメージが心に襲い掛かる。

そのため俺の口からは自然と謝罪の言葉が呟かれた。


「すまない。次回からは気を付けるよ。」

「分かってくれたならいいのよ。ユウの事は信じてるから。」


俺はそんな彼女が愛おしく思い背中からそっと抱きしめた。

オリジンは俺の腕に顔を埋めると軽く手を添える。


「少し前まではこの温もりを知らなかったけど、こういうのも良いわね。」

「俺も最近知ったばかりだけどな。」

「そう、なら早く私達の家に帰ってみんなで暖まりましょ。ジェネミーも待ってるわよ。」

「そうだな。」


そして俺達は互いの温もりを感じ合うと仲間たちの許に向かって行った。

町にはまだかなりの数のグールが居る。

ここはこの国の首都でかなりの人間がいるがどれだけ被害が出たのか見当がつかない。

周辺の町にも当然、被害は出ているだろう。

今回の事を公表するかは俺には分からないが世界が融合してからは最大の被害になった事は確かだ。

もし、公表するなら歴史に残る事は確実だろう。

ただ、その最初の感染源はこの国の大統領と言う事になる。

日本に残っている兵士のドナトが言っていたように国の恥となるのは確実だ。

俺としては何か別の理由を捏造してくれる事を期待したい。


そして、その後ロシアはこの事を正確には公表しなかった。

今回の大量の犠牲者は新種のウイルスによる集団感染が原因で進行があまりに早かったため治療が間に合わなかった事にしたようだ。

兵士は治療のために多くが犠牲者を出しそれに大統領も含まれていた。

病原菌自体は完全に撲滅し、死体は全て火葬にしたと発表された。

その為、世間ではロシアが秘密裏に開発していたウイルスか毒ガスが漏れたのではないかと噂が立ったが、そんな事実はないので噂の域で自然消滅した。


「それじゃあ、俺達は帰るからな。」


俺はサーシャに軽く声を掛けて背中を向けた。

すると彼女から思いもよらない返事が帰って来る。


「私はバンパイア・ハンターよ。バンパイアがいる所には必ず現れるからね。」


そう言って彼女も背中を向けて歩き出す。

彼女の足取りは軽く車に乗り込むと猛スピードで走り去っていった。


「面倒なのに目を付けられたな。」


俺は苦笑を浮かべ、再開は早そうだと思いながら仲間と合流した。


「それじゃあ帰るか。」


そして、行く時は10時間近くかかったが帰るのは3分程度だ。

家に帰るとそこにはジェネミーが一人で寂しそうにテレビを見ていた。

そんな彼女の許に向かい、部屋に入ると同時に声をかける。


「ただいま。」

「お帰りユウ!それにみんなも。早く済んだの?」

「ああ、ジェネミーが寂しがるといけないからな。」

「そ、そんな事ないもん。でも早く帰ってきてくれて嬉しい。またしばらくはゆっくり出来るんでしょ。」

「そうだな。また近いうちに皆で旅行に行くかもな。」

「そう・・・なのね。」


俺の言葉にジェネミーは力なく肩を落とす。

いつも何処に行く時も彼女はこの家で留守番をしていた。

彼女の姿ゆえに今も家の敷地から殆ど出る事もない。

それでもやはり一緒に行きたい気持ちがあるのだろう。


「今度の旅行はジェネミーも一緒に行こうな。」


俺の言葉にジェネミーは一瞬、嬉しそうな顔になるがすぐに表情を曇らせた。

クリスマスの時もだったが彼女は人の目を気にするタイプだ。

ただ、嫌とかではなく俺達に気に使ってくれている結果なのでどうにかしてやりたい。


「なら、何処かの旅館を貸し切りにしたら良いんじゃない?大きい所じゃなかったら簡単だと思うわよ。」


確かに最近は人数がかなり増えて来た。

人数を増やせば金額も大きくなるが部屋だけを貸し来るならそれほど高くないだろう。

それに家には一人で10人前は軽く食べるメンバーが3人もいる。

宿が損をすることは無いはずだ。


「流石ライラだな。その提案を採用する。ジェネミー、次回は一緒に旅行に行けそうだぞ。もしかすると昔の仕事の関係でゲンさんなら良い所を知ってるかもしれない。今度聞いておくから期待してろよ。」

「ん~、なら待ってるからね。」


そう言って彼女は今日も小指を差し出してきた。

俺はその指を絡めると約束を交わす。


『ジェネミーを眷族にして加護を与えますか?』


すると指を切ったと同時にスピカから提案がもたらされた。

ジェネミーは現在、庭にある木に宿るフリーの精霊になっている。

そのため今は契約者がいない状態なので本人が良いならそれも良いかもしれない。

マイヤの件で自由にして良いと言えば本人の好きなように行動も出来ると分かっている。

そう思い、俺は嬉しそうに先ほど絡めた小指を見詰めるジェネミーに声を掛けた。


「どうしたの?」

「俺の眷族になってみないか?」

「・・・いいの?」


ここで拒否が返ってきたら諦めるつもりだったが確認してくると言う事は嫌では無いらしい。

俺が目線を合わせて頷くと彼女の顔に笑顔が浮かぶ。


「ならなる!私ももっとみんなと仲良くなりたいから。」

(眷族じゃなくても十分に仲が良いと思うがここは黙っておいた方が良いよな。)


そして俺はスキルを発動しジェネミーを眷族とする。

それに関してはコントラクトと同様に同意があれば簡単な様だ。


『ジェネミーが眷族に加わりました。』

『ジェネミーに加護を付与します。』


するとジェネミーは突然、光に包まれ姿を変えていった。

身長は130センチほどになり、緑の髪と瞳の可愛らしい少女の姿になる。

布面積が少なかった服は青のワンピースに変わり癖毛だった髪はウエーブの掛かった長髪になっていた。

彼女自身も突然の変化に驚いているようで自分の姿を見た後に俺の顔を見上げてくる。

すると横で見ていたオリジンが笑顔で声を掛けた。


「良かったわねジェネミー。今のあなたは中位精霊上位まで進化したわよ。それで気にせず旅行やお出かけも出来るわね。」


しかし、本人はいまだに状況が飲み込めていないようだ。

今の彼女は体が大きくなり世界の見え方そのものが変わっている事だろう。

そして、俺はそんな彼女の頭に手を置いて撫でながら笑顔を向けた。


「え、え~と・・・。」

「良かったな。今度からは買い物も一緒に行けるぞ。」


するとジェネミーは周りを見回しやっと理解できたのか喜びを体中で表現するように俺に飛びついてきた。


「やったーーー!ありがとうユウ!」


そして俺から離れると余程嬉しいのか、みんなの所に行って同じように順番に抱き付いていった。

その顔はとても嬉しそうで幸せそうに見える。

俺は次の旅行の計画を立てるべく、すぐさまゲンさんに連絡を入れた。


(今回はジェネミー初めての旅行記念に良い所へ連れて行かないとな。)

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