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14 のんびり帰りましょう

【総理】

総理は会議の後に自室へと戻り部下の一人と向かい合っていた。

彼はユウの下に手紙を届けた男で名を夜影ヤカゲ 明人アキト

所属は自衛隊だがこの国を陰で支える者の一人だ。

彼はここ数日ユウを監視し、その結果を総理に伝えに来ていた。


「それじゃあ聞こうか。彼を見た感想を。」


総理は出来れば今日の話し合いの前にアキトに会い、ユウについての資料を手に入れる予定だった。

しかし、他の議員の妨害に遭い、それが出来ないまま今日の会議へと出向く事になった。

その結果、馬鹿な議員の多くが失神し病院送りになったのだが。

彼らには何らかの責任をもって議員を辞めてもらう事になるだろう。

情報を少しメディアにリークすれば彼らは喜んで今日の真相を報道してくれる。

結果だけ見れば今日の会議はとても楽に進める事が出来たので結果オーライとも言える。

ただ、悪足掻きをした者が少し出た事はとても残念だ。

毒の件では危うく彼らの信頼を完全に失う所だった。

映像の差し替えに関してもあそこまでするとは予想を上回っていた。


(恐らく何もしなくても彼らは・・・。)


いや、あのユウという男はどうにかしただろうが、あのような危ない橋はもう渡りたくない。

それにあの映像は既に世界中に流れ、政府の信用はがた落ちと言える。

そのため日本と言う狭い話ではなく世界がどう動き出すかがこれからの問題だ。

そしてアキトはここ数日、ユウを見ての感想を話し始めた。


「主観を言えば化け物ですね。」

「化け物?それはどういう意味だ。」


総理はアキトが屈強な戦士である事を知っている。

そうでないと彼の仕事は務まらない。

彼の部署は一般には秘密とされているが諜報の他に暗殺や救出など、普通では知られていない事を処理する部署でもある。

当然彼にも人を殺した経験はあり、そんな彼が化け物と言う。

それはどういう意味なのだろうか。


「彼の感覚は鋭い。監視は500メートル以上離れないと感づかれる。動きは既に人を越えていて目で追う事も難しい。身体能力も高く30メートル以上高い所から飛び降りても無傷で着地する。それに戦闘能力が異常に高い。昨日の夜は街に徘徊していた魔物数百体を4時間程度で始末していました。ハッキリ言って奴を殺せと命令されれば仕事を放棄して逃げる事を選択します。しかし、食堂ではファインプレーでしたね。俺は丁度あの場を通りましたが彼からは既に殺気が出てましたよ。あなたが手を出さなければ血の雨が降っていたでしょうね。」


総理はアキトの言葉を聞きながら胃がキリキリと痛み出した。

話だけを聞けばユウは確実に獅子身中の虫だ。

しかし、直接会った者なら分かる。

彼は普通の人間だ。

強い力があっても敵対しなければその力を振るうつもりがない。

その証拠に病院送りになった者は皆、彼に敵意を持つ者ばかりだ。

無差別なら自分も既に病院のベッドで横になっている。

ああいうタイプはある意味言えばとても扱いやすい。飴や鞭が必要無いからだ。

ただ普通に、そして正当に接してやれば問題がない。

そう考えた総理は立ち上がると外に立っている秘書に色々な事の手続きをする様に指示を出した。

いまユウの政府に対するイメージはどちらかと言えばマイナスに傾いているだろう。

最低限それをプラスにするために行動を起こしておかなければならない。

そして数時間後、突貫で行わせたため処理は間に合っていないが書類は完成した。

それを持ち総理は国会議事堂を後にした。


【ユウ】

俺達はホテルに帰るとその日はのんびり過ごした。

ただ、なんだか女性陣が微妙に牽制し合っているので声を掛けずらかったのもある。

そんな俺の下にその夜、来客が訪れた。

その人物とは昼間に出会った総理大臣だ。

彼はお忍びでホテルに現れ俺と一対一で向かい合っている。


「それで、話し合いは終わったと思うがまだ何かあるのか?」


少し棘のある言い方をしているが昼間の事を考えれば当然の事だ。

この男も国のトップにまで上り詰めているのだから清濁くらいは合わせ持っているだろう。

油断すれば何を言い出すか分かったものではない。

すると総理はカバンから封筒を取り出すと俺に差し出してきた。


「私は近くで見たから分かるが君の所にいた3人は我々とは違うね。きっとこれが必要だと思って作らせたんだよ。」

「拝見させてもらう。」


そして封筒を開けるとそこには移民許可証やその他にもマイナンバー等が入っていた。

これらは俺も欲しいとは思っていたが異世界人がどうやったら移民として認められるかが分からず、まだ手を付けてはいなかった。

しかしこれがあれば銀行で個人の通帳を作ったりローンも組める。

国民として契約が出来る様になるので生活の幅が一気に膨らむだろう。

どうやら、一部の変な連中と違いこの人は俺達と友好な関係を築きたいらしい。

それならこちらとしても態度を改めて接する方が良いだろう。

そして俺がそれらを封筒に仕舞うと今度は別の封筒がカバンから取り出された。


「それとこれは契約書だよ。金額に関しては後で議会の承認がいるから仮契約書だと思ってくれ。結界石で得た収入の一部を技術指導料として払おう。ただこちらが頑張っても数パーセントになるだろう事は理解してもらいたい。」


俺は総理の言葉にしっかりと頷いて了承を示した。

もともとそちらの報酬についてはライラとも既に話し合っていて0でも良いという事になっていた。

期待していなかったと言うのが本音だが、あんな事がテレビで流れた後なので何もしないでは体裁が悪いのだろう。

それに数パーセントだとしても日本の面積を考えれば年間の収入はかなりの額になるはずだ。

しかし皆が困っている中で欲張り過ぎると今度は逆にこちらの印象が悪くなりどんな事をして来るか分からない。

それでなくても最近ではネットではフェイクニュースが横行し真実が見えにくくなっている。

きっと幾つかの記事では今日の事も悪く言う奴が現れるだろう。

そんな物が今回の出来事で職を失い苦しんでいる人の目に留まれば標的にされかねない。


「これは世論対策ですね。俺達から技術を得た事は既に多くの人間が知っているから何も与えていなければ後でどんな事を歪曲して伝えられるか分からないと言った所ですか。」


すると総理は俺の言葉に溜息をつき苦笑を浮かべながら肩を落とした。

どうやら大まかな所で間違いでは無かったようだ。


「まあ、その通りだね。今日の放送で内閣の信用はガタ落ちだよ。今後の事を考えればこういう所はしっかりしておかないといけない。それに今後も君たちの方でも結界石は売り出すのだろ。それについても販売許可証は作っているから今まで通りにしてくれて構わない。」

「そうですね、貴方がスキルの事をどれくらい理解してるか知りませんが。スキルはレベルを上げても使いこなすのに時間が掛かる。もしかしたら才能の問題もあるかもしれない。そちらで人を育ててもライラの様に強力な結界石を作れるようになるのはしばらく後になりますね。そちらのフォローも兼ねてしばらくはこちらでも販売させて貰います。」

「そうしてもらうとこちらも助かる。ここで君たちが結界石を売るのを止めれば今ある僅かな供給も止まって混乱が起きてしまう。そうなれば政府が疑われるのは目に見えているからね。」


そして総理は他にも何か思う事があるのか天井を見上げて頭を掻いている。

どうやら少し言い難そうだが苦笑いを浮かべながら独り言のように呟きを零した


「君たちは私達よりも多くの情報を持ってるようだね。出来れば公務員として雇い入れたいくらいだよ。」


しかし、俺も苦笑すると総理に向かい首を横に振りその提案を断った。

公務員になってしまえば収入は安定するが今とは大きく生活リズムが変わってしまう。

それに公務員と言っても年功序列に階級なども付いてしまうと今のように自由な行動が出来なくなる。

それでなくても家にはアヤネとアリシアという、精神的にも不安定になっている女性が居るので今の段階では不特定多数の人が居る職場では働けない。

今のところ俺となら問題なく行動できているがしばらく様子を見てからでないとすぐに辞める事に繋がりかねない。

いちおう話はしておくので後は本人たちが望む形で決めてもらおう。


「今の段階で組織に入ると動きが鈍くなります。仕事を依頼するのは構いませんがしばらくはフリーで動かせてもらいたい。それに世界が変わったのですから新しい仕組みを考えた方がいいんじゃないか?例えば国営のギルドとか、専用の特殊部隊とか。」


すると総理はバッと顔を上げて手を打った。

どうやら俺の思い付きが彼の琴線に触れたらしい。

何やら子供みたいな笑みで目を輝かせ真直ぐに視線を向けて来る。


「それはいいね!結界石で資金も出来るから余っている魔石も集められる。何より国が先頭に立って仕事を斡旋すれば信用も同時に勝ち取れる。近日中には資料をまとめて議会に提出してみるか。」


すると総理は元気に立ち上がると喜びながら部屋を出て行った。

俺はその後姿を視線で追い駆け、笑みを浮かべながら見送っておく。


(あの総理ならやってくれそうだな。)


そして俺としても欲しいと思っていた制度なので丸投げ出来て良かったと思う。

それに会社を作ったり経営するノウハウは持ち合わせていないので、どうしても必要に感じれば誰かに頼むしか無かっただろう。


「まあ、面倒な事はあちらに任せて今日は寝るか。」


俺も普段とは違う慣れない事をして精神的に疲れたので少し早いが眠る事にした。

しかしベットに入ろうとすると扉がノックされたのでそちらへと向かって行く。

すると今朝の事がフラッシュバックしてライラの顔が浮かんで来たのでマップを見て誰が来たのかを事前に確認する。

だが、どうやら外に居るのはホロのようで家に居る時と同様に一緒に寝に来たみたいだ。

俺としてもその事が嬉しく感じて軽い気持ちで扉を開けた。


「今日は一緒に寝るか?」

「ワン!」


そして俺が扉を開けると、そこには嬉しそうに尻尾を振るホロの姿があった。

しかし人の姿なら今朝の様に問題にもなりそうだがこの姿で一緒に寝ても咎められる事はないだろう。

俺はホロを部屋に居れるとベットに横になり横をポンポンと叩いて来るように促した。

するとホロは元気に飛び乗ると布団の中に潜り込みUターンして一緒の枕に頭を乗せる。

そして明かりを消して目を瞑るとすぐ横に居るホロの匂いを感じながら眠りに落ちて行った。




しかし、ホロはユウが寝息を立て始めるとパチリと目を開けベッドからそっと飛び降りた。

そして人の姿になってパジャマに着替えると扉の鍵を開け、そこからは3人の少女を招き入れた。


「ホロよくやったわね。」

「後でこっそりお肉を買ってあげます。」

「私は美味しいフルーツをあげるわ。」

「やった~~~!」

「「「し~・・・。」」」

「うん、静かにする。」


ちなみに今回の作戦名はユウの愛犬(元はトロイの木馬)である。

ユウが油断して招き入れたホロがカギをあけ、ライラ、アヤネ、アリシアの3人を招き入れるという完璧な作戦である。

しかし、彼女達は別に今朝のライラのように裸ではない。

ちゃんとそれぞれ長袖、長ズボンのパジャマを着用し可愛い下着(勝負下着)も、もしもの時の為に装備している。

更に今朝の内に『桃園の誓い』ならぬ『居候の誓い』なるものを互いに立て、ユウの独占と抜け駆けを禁止した。


そして一人部屋だが大きなベッドのあるここなら4人と1匹が寝るには困らない。

これは今朝のユウが彼女達を待っている間に4人で話し合って決めた事であった。

しかしユウの横は二つしかないので全員が傍で寝る事は出来ない。

そこで話し合いが行われ、まだ一緒に寝た事のないアヤネとアリシアにその権利が与えられる事になった。

どうやら女の戦いに仁義は無いが友情はあるようで不毛な戦いには発展していない。

そしてそれなりにゴソゴソと動いたり動かされたりしているのにユウは前日からの疲れで全く起きる気配がない。

そして3人と1匹は予定の配置に付くと仲良く眠りに着いた。




そして朝になり、一番に目を覚ました俺が仰天した事は言うまでもない。

しかし、それに関して慌てて飛び起きないのが俺と言う男である。

それにライラの事やここ最近の事から何となく感じているものがあったが、まさか全員こうして忍び込むとは思わなかった。

きっと手引きをしたのは足元でパジャマを脱ぎ捨て腹を出して寝ている愛犬姿のホロだろう。

これが目的で昨日の夜に部屋に訪れたに違いない。


そして、小さな溜息を零して右を見ればアリシアがあどけない寝顔をこちらに向けている。

見た目は少し幼いが既に成人しているらしく結婚も可能だと言っていた。

それに柑橘系の様なフレッシュな匂いが漂って来るので寝起きでも意識がスッキリする気分だ。


そして左を見ればアヤネが寝ており、そちらからはプリンのような甘い匂いが漂ってくる。

こちらは大人びた穏やかな表情を浮かべ手は俺の服を摘まむように持っている。

ちなみにホロもお菓子みたい甘い匂いがするがあちらはクッキーのような香ばしい感じだ。。


『嗅覚強化を習得しました。』


(あ、スキルが取れた。でも皆の匂いを嗅ぎ分けて取れたって言ったら何て言われるか・・・。これは秘密にしておいた方が良さそうな案件だな。)


それにしてもこうも完全に包囲されてると起きるに起きれない。

するとアリシアとアヤネが目を開き俺の事を見詰めて来る。

しかし、動じた様子はなく体を寄せて密着すると再び寝息を立て始めた。

だが俺も男なので体に感じる柔らかい感触に負けてしまいそうだ。

このままでは襲ってしまいそうなので仕方なくもう一眠りする事にした。

それは思考の放棄に他ならないが昨日ライラと恋人になり、次の日には別の二人から思いを寄せられ関係を持つ。

俺が第三者的な立場なら何処から見ても碌な男には見えない。


(昼まで寝てれば皆も起きるだろう。)


そして俺は眠りという手段でこの状況を乗り切ろうと目を瞑った。

すると周りから漂う匂いがアロマの様に俺の心を落ち着かせてくれる・・・訳がない。

俺は目を閉じた状態で必死に五感を遮断して眠りにしがみ付く様に眠ろうと意識を集中させる。

恐らく今まで生きて来て、こんなにベッドで疲れた事は無いだろう。

しかしこんな事で俺の今後は大丈夫だろうか。

そして次に目を覚ましそっと薄目を開けて確認すると彼女たちの姿は消えていた。

恐らく自分の部屋に帰ったのだろうが起き上がって鏡を見ると顔に薄く口紅の跡が残っている。

同じ家に住んでいるのでこれからの生活が凄く不安になりそうだ。

何故ならホテルと違い家の部屋には鍵なんて付いていない。

それに俺の見ていたアニメで「日本人の信条は察しと思いやり」だと言っていたが、家に住んでいる半数以上が日本人では無いのでそれは通用しないだろう。


そして、洗面所で顔を洗って部屋を出ると、普段通りに見える皆と合流して昼食を食べた。

それに今回は飛行機ではなく新幹線で地元へと帰る事にしている。

結界石を使えば安全な空の旅が出来るとは分かっていても、今はどうしても安心して飛行機に乗れそうにない。


今回は初めて見る魔物との戦いも経験できたので収穫も大きくこの際だから他の地域も見てみる事にしたのだ。

それに今後の事を考えるなら各地の情報をなるべく多く集めておく必要がある。

断じて飛行機にビビっている訳では無い!


そして俺達は予約しておいた新幹線に乗り込むと番号を見ながら車両を移動して席を探して歩いている。

ただし平日であるのと、今の状況から人は少なく団体客も居ないようだ。

しかし、そんな俺達を今日も尾行する奴らが居て車両を隔てている扉の向こうからこちらを窺っている。


ちなみにマップのスキルも性能が次第に上がっているので今は最大半径は700メートルになりマーカー機能も追加された。

この反応は先日に俺へ招待状を渡しに来た男でその他は周りに潜んでいた奴等だ。

名前は言わなかったが聞けば教えてくれるのだろうか?




そしてその頃のアキト達はユウたちと同じ新幹線に乗り込んでいた。


「アキトさん。アイツ等に護衛って要るのか疑問に感じませんか?」


彼らの任務はユウたちが国会に出た日から変更になり監視から護衛へと変わっている。

そして何から守るのかと問われればその対象は魔物ではなく人間である。

相手が魔物ならば今のユウたちを守る必要はなく場合によっては自分達が足手纏いになりかねない。

だが相手が人間となると話は変わって来る。

そこには法律、権力、そして殺人を犯す事が可能なメンタルが必要になってくる。

最悪、他国の工作員に誘拐される可能性もあり、それらから守るために彼らは護衛へと回されたのだ。


そしてあの時のメンバーで護衛に回されたのはアキトを除いて男が二人に女が二人の計4人。

これはユウ達に女性が多い事が考慮された結果で、そうでなければ男のみで構成されていただろう。

そして、命令に従ってここに集まり、何も説明を受けていない彼らにアキトは任務の必要性を言って聞かせた。


「俺達の相手は魔物ではなく人間だ。あいつらは強いが戦闘経験の少ない一般人に変わりは無い。なので昨日の放送を見て馬鹿な奴が現れたら俺達が代わりに排除する。良いか忘れるなよ。あいつらに敵対はするな。最悪、敵が不慮の事故で死んでも上が処理してくれる。」

「不慮の事故ですか。それは上も本気という事ですね。」

「その通りだ。気合を入れていけよ。失敗したら給料減額じゃすまないからな。」


ちなみに不慮の事故とは彼らが一般人を処分する時に使う隠語である。

そしてこれは護衛対象や自分たちの身を守る為に誤って相手を殺しても問題がない事を示しているのだ。

しかしそれだけではなく、もしも失敗した場合は蜥蜴の尻尾の様に切り捨てられるとも告げられている。

そして切られた尻尾がどうなるかというと軽くて僻地への異動を言い渡され、最悪は事故に見せかけて消される事もある。

しかし、彼らはそれを了承済みでここにいるスペシャリストたちだ。

国の為、国民の為に命と人生を掛け、困難で命懸けの任務を日夜こなしている。


「あ~~貧乏くじ引いちゃったかな。」

「そういうなよ。今から行く所は魔物も少なくていい町らしいぜ。」

「え~~でも護衛対象に張り付いてると買い物もできないじゃん。だから私は護衛任務きら~い。」


もう一度言うが国の為、国民の為に命と人生を掛け、困難で命懸けの任務を日夜こなしている。

しかしこういった本音は人それぞれのようだ・・・。

そんな話をしていると誰も居ないと思っていた方向から声が掛けられた。


「なら一緒に行動すればいいだろ。そうすれば俺も気を使わなくて済む。」


その瞬間に5人は驚愕の顔で声の聞こえた場所へと反射的に視線を向ける。

するとそこには護衛対象の一人であるユウが立っており、面倒そうな表情を浮かべていた。

しかし一体いつ来たのか?

自分達に一切気配を感じさせず気付いた時には既に立たれていた状況である。

それにここを通った者はスーツを着た営業マンが1人だけのはずなので自分達と客室を隔てている自動ドアも1度しか開いていない。

そのため先程まで気が緩みかけていたアキトを除く4人はユウを見て戦慄を覚えていた。


「久しぶりだな。それで、今回は名乗ってくれるのか?」


するとアキトは苦笑を浮かべると自分や周りの部下を紹介し始めた。

どうやって自分達の傍に現れたのか分からなくとも口振りから既に会話が聞かれており目的も知られているだろうと判断したためだ。

ならばここは影ながら護衛をする計画を切り捨て、知り合いや友人を装って堂々と護衛に付く事にした。


「フルネームは言えないが俺はアキトだ。そして右から水樹ミズキ風花フウカ火室ヒムロ地比呂チヒロだ。まあこの4人は偽名だけどな。」


そう言ってアキトはニカッと笑い傍にある自動ドアの方へと向かって行った。

そして、軽く手を上げて招く様に動かすと振り向かずに指示を出した。


「バレちまってるなら仕方ねえな。お前らもさっさと行くぞ。」

「え、行くってまさか?」

「そうよ!護衛対象とは接触しないのが普段の作戦でしょ!」


すると驚いて声を出したのはチヒロという男と先程買い物がどうのと言っていたフウカという女だ。

しかし思いは同じなため、他の二人もアキトに驚いた顔を向けている。

それでも自分達のリーダーは止まる様子はなく、顔を見合わせた4人は溜息を吐くだけで動こうとはしない。

その様子にアキトは振り向いて顔を向けると苦笑を浮かべて見せた。


「確かに普段はそうだが今の現状が普通じゃないんだ。それなら俺達は型に嵌らず臨機応変に動くべきだろ。護衛対象が良いって言ってるんだから口答えしてないで行くぞ。」

「は~、仕方ないですね。」

「ちょっと待ってくださいよ~。」


そして4人は一度ユウに視線を向けてからアキトを追いかけて行った。


ユウはその後に続き最後尾から他のメンバーの許へと戻って行く。

その後アキト達5人は護衛対象である他の4人とも挨拶を交わし親交を深めた。


そして会話の中でアキト達はいまだにステータスを持っていない事を話した。

ユウ達の監視任務を優先したため魔物と戦う時間が無くこれから得るつもりのようだ。

そして2時間ほど新幹線に乗り目的地に到着した一行は駅へと降りて行った。

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[一言] その様子に空きとは振り向いて顔を向けると苦笑を浮かべて見せた。 →その様子にアキトは、振り向いて顔を向けると苦笑を浮かべて見せた。
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