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130 海王 ②

恐らくゲンさんは電話をかけて最寄りのゲートを開いてもらい、家まで来てから空を移動して来たのだろう。

それに何故かその後ろにはサツキさんも付いて来ている。

二人とも真剣な表情を浮かべ素早く静かに俺の横に並んだ。

着地の際に砂ぼこり一つ立てていないのはリバイアサンに気を使ったのだろう。

二人ならあれがどれ程の存在なのかは既に気付いているはずだ。

そして、ゲンさんはリバイアサンに対し慎重に話しかけた。


「貴女が我が国を救ってくれた方でよろしいですか?」


するとリバイアサンは微笑みと共に小さく頷いた。


「そうなりますね。あなたがこの国の代表ですか?」

「はい。現在この国の総理大臣を務めておりますゲンジュウロウと言います。こちらは妻のサツキです。」


するとサツキさんは紹介と同時に深く頭を下げた。

何時になく丁寧な動きにただ頭を下げただけなのに美しさすら感じる。


「始めまして。妻のサツキです。この度は多くの土地と人命を救って頂きありがとうございます。」


その言葉にリバイアサンは再び頷くが今度は二人の事をジッと見始めた。

そしてそばまで歩み寄ると、その周囲を周り何かを確認し始める。


すると何か分かったのか、一人納得すると元の場所へと戻って行った。

その突然の奇妙な行動に二人は苦笑を浮かべている。

もしかすると何か思い当たる事があるのかもしれない。

するとゲンさんはそんなリバイアサンに声を掛けた。


「何か分かりましたか?」

「ええ、あなた達から僅かに、私達と同じ龍の気配を感じます。でもそれはライラと比べても遥かに薄い。恐らく遠い先祖に龍と交わった者がいますね。それなのに人の身でこれだけの力を宿すとは・・・。先祖返りもしているみたいですね。」


その言葉に俺も少しは驚いたが、ライラは俺よりも遥かに驚いている様だ。

まさか自分と似た様な存在がこんなに近くにいるとは思わなかったのだろう。

俺としては驚いてはいるが二人の力は異常の一言に尽きる。

それは世界が融合したからだけでは説明出来ない所も多い。

また、その剣技も魔力や霊力などの特殊な力を使う事が前提としたモノが幾つもあった。

ハッキリ言って彼らが突然「実は儂ら人間じゃないんじゃ」とか言って来ても今の様にあまり驚かなかっただろう。


「ユウもライラさんも気になっておるようじゃから後で詳しく話してやろう。儂らの家についてな。」

「アキトとアスカは知っているのか?」

「あの二人には先日話してある。それよりも今はこちらの方との話を進めよう。」


そう言ってゲンさんはすぐにリバイアサンへと視線を戻した。

次にいつ会えるかも分からず、どれだけここに滞在するのかも分からないのに聞くべき事や言うべき事が多いのだろう。


「貴方の言う通り。遥かな昔に儂らの先祖の中にそういう方が居たと伝承があります。しかし、その方はある日、忽然と姿を消したそうなのです。それ以来、会った者はいません。」

「そうですか。死んだか、それとも帰ったのかは分かりませんが人に倒されたとは考えにくいでしょう。もしかしたらいつか会う事もあるかもしれませんね。その者の特徴は分からないのですか?」


するとゲンさんとサツキさんの表情が曇る。


「それが1000年ほど昔の事なので失伝している事が殆どです。ただ、黒き巨大な体に片目には雷の様な傷があったそうです。あと真実かは分かりませんが背中に一枚だけ白い鱗があったとか。それ以外は名も、どのような方だったのかすら残っておりません。」


しかし、ゲンさんの話を聞きながらライラとリバイアサンは同時に首を傾けた。

それに、なにやら何処かで見たことがあるという顔をしている。

リバイアサンが何歳かは知らないがライラですら100歳を超えている。

それで龍王の末の娘なので1000年以上は生きていそうだ。

もしかしたら何処かで見た事があるのかもしれない。

それにライラも龍王の娘ならば多くの龍と面識があってもおかしくない。

それなら何処かで見かけている可能性もある。

そしてリバイアサンは小声で独り言を言い始めた。


「確か・・・1000年前に行方不明になったのは・・・。それに黒い体に背中に白い一枚の鱗・・・。もしかして・・・」


そんな中で同じようにライラもブツブツ言い始めた。

その姿はリバイアサンにとても似ており、見た目はかなり違うがその仕草から伯母と姪と言うよりも親子の様だ。


「それって・・・でも・・・そんな特徴的なドラゴンって言ったら・・・。」


すると二人は顔を合わせて互いの姿を見てクスリと笑う。

どうやら互いに答えが出た様だ。


「その人物に心当たりがあります。近日中には一度連れて来ましょう。」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。私が知る限りでその特徴を持つ者は一人しかいません。それと話は変わりますがあなた達は姿を変えられないのですか?」


姿と言う事は変身スキルの事だろう。

魔物や動物は殆ど持っているらしいが人は逆に殆どの者が持っていないらしい。

ちなみに俺もそのスキルは持っていない。

どうしても必要になると隷属スキルの時の様に習得可能スキル欄に名前が出るかもしれないが今のところその兆しはない。

すると二人は少し悩みながらリバイアサンに問いかける様に告げた。


「儂ら二人ともあるにはあるのですが変身の項目が暗くなっていて選択出来ないのです。何かご存知ですか?」


するとリバイアサンは納得したようで俺達に向かい手を翳した。

そして俺も含め、光が体を包むと霊力が集中している上丹田の力が急激に高まりを見せる。

どうやら俺だけでなく他の3人にも加護を与えてくれたようだ。

何故かライラにも加護を与えているが彼女の力も大きく高まっているので、もしかしたら過保護か面倒見が良いのかもしれない。

すると俺の後ろからも大きな声が聞こえた。


「あ、あれれ。私にも加護が・・・。」


見ればヴェリルも俺達の同じように光を放っている

どうやら彼女にまで加護をくれた様だ。

棚から牡丹餅と言うか何と言うか。

しかし彼女は我が家では下から3番目くらいに弱いので霊力を手に入れれば少しは安心できるだろう。

少し訓練が必要だが精霊力に比べれば大人しめで扱いは容易い。

歌と合わせれば最強のセラピストになるかもしれない。


そして俺は貰った加護を早速確認してみた。


海王の加護

海王に認められた者に与えられる。

霊力が上昇し一部の者は特殊なスキルに目覚める。


俺は説明を読んで一部の者と言う所に引っ掛かりを覚えた。

そしてゲンさんを見るとスキルを見ている様でその顔が驚愕に染まっている。

しかし、驚いていないのは俺だけで他の4人はどうやらその一部という対象に当て嵌まっている様だ。


「みんな何か特別な事があったのか?」


するとライラが何やら微妙な顔になり何があったのか教ええくれた。


「実は私にもゲンさん達と同じように覚えられないスキルがあったの。」

「それが覚えられたのか?」

「ええ、特別なスキルで私達の様なドラゴニュートが覚える龍化ってスキルよ。今まで使えなかったけど加護を貰って使える様になったみたい。今度使ってみるから付き合ってね。」


と、言う事はゲンさん達もかな。

そう思い視線を向けると頷きが返される。

どうやら同じように龍化を覚えた様だ。


「変身スキルが急に龍化に変化した様だ。しかも加護と同時に勝手に習得しておる。」

「私もよ。上位スキルだからスキルポイントは高めだけど有り余ってるから適当に上げておきましょう。」


そしてヴェリルはどうかと聞くと。


「私には竜化があるけど何で?私、種族が違うよ。」


確かにヴェリルはマーメイドで龍族と関係はない。

するとリバイアサンから追加で説明が行われる。


「貴方はライラと一緒に過ごして家族の様だと聞きました。その為、特別に眷属としています。種族も変わっているはずですよ。」


しかし、そう言われても種族は自分で確認は難しい。

それをするには鑑定が必要だが彼女は持っていない筈だ。

するとライラが気を利かせて鑑定を行ってくれた。


「あ、確かに種族がマーメイドじゃなく水竜に変化してる。」

「水竜ですか?それってどんな種族です?」


そう言ってヴェリル首を傾げライラに問いかけた。

別にこれは彼女がおバカな娘な訳ではなくマーメイドは水辺で生活している。

その為、生きていく知識は教えられるがそれ以外は陸上に上がってから勉強して身につけて行く。

そして彼女は陸上に上がる様になって間もないうえに、日本にそれらの情報はない。

多少は年長者から教えてもらう事もあるだろうがどうやら彼女は初めて聞いたようだ。

するとライラはいつもの様に俺達も含め説明をしてくれた。


「水竜を分かりやすく言うなら亜竜と龍との間の存在よ。一部の魔物が力を付けて進化すると亜竜になるの。メガロドンなんかがいい例ね。」


そう言えば以前、理性がないからメガロドンは亜竜だと言っていたな。

それでもあれだけの強さがあったのだから、どちらにしても手ごわい事には変わりなさそうだ。


「そして、それが理性を持つと竜になる。そして、その中でひと握りの存在が龍へと至れるの。まあ、龍同士の子供は龍になるから龍自体の数はそれなりにいるんだけどね。」


するとライラの説明にリバイアサンが追加で説明を加える。


「しかし龍同士の子供はその強大な力ゆえに傲慢で他者を見下す傾向があります。私や弟は違いますがその子供達はその傾向が強いですね。」


確かに人の姿のライラを家族なのに虐めて追い出すような奴らだ。

もし家に来ても敷居は跨がせるつもりは無かったがもしかするといきなりブレスを撃って来る可能性もあるかもしれない。

そうなると今の俺に防げるかが心配になって来る。

そいつらはいったいどの程度の力を持っているのだろうか。

するとリバイアサンは俺の顔を見てクスリと笑った。


「大丈夫ですよ。龍と言っても私や弟はその中でも最上位に位置する存在です。その他の特に幼い龍など私達の足元にも及びません。今のあなたなら十分に戦えるはずです。」


あくまで戦えるというだけで勝てるとは断言しないんだな。

比較が強大な力を有するリバイアサン本人なのでかなり不安だが勝てる見込みがあるなら良いだろう。

それに今の俺ならなので更に鍛えれば良いだけだ。

特に精霊力に関してはまだまだ使い切れていない力の方が多い。

これからの目標は打倒『龍』だな。


それにしても思いがけないタイミングでヴェリルが強化された。

彼女も俺に付いて来たい派なので、これで安心して連れて行ける。


そう言えば種族が変わったのでマーメイドの宿命は回避されたのではないだろうか。

そう思いライラに聞くと首を横に振られてしまった。


「例え種族が変わってもベースになっているマーメイドの種族特性は残るの。だから、前よりも危険になったと言えるわね。」

「そうなのか。まあ、そこは問題ないから大丈夫だな。」


するとヴェリルは俺の言葉の意味を理解したのか後ろから緊張気味に袖を摘まんできた。

その顔は頬は赤くなっているが目は不安そうに俺を見上げている。

するとその横のゲンさんとサツキさんは手を団扇にして自分を扇ぎ始めた。

声にはしていないがその口の動きから何を言っているのかは理解できる。


「ああ~熱いの~。ここは沖縄か~。」

「ハワイじゃないかしら。人前で見せつけてくれるわよね。」


そんな苦情とも揶揄とも取れる言葉を聞き俺は苦笑を返しておく。

そしてヴェリルにはその頭に手をやり優しく撫でた。


「こんな俺だがもしお前が本当に望むなら死ぬまでずっと傍にいて欲しい。」


するとヴェリルは顔をさらに赤らめてクスリと笑い今度は強気な顔で俺の鼻先に人差し指を添えた。

そこには既に不安の色はなく、いつもの明るい感じの彼女が笑顔を浮かべている。

俺としてはコロコロ表情が変わるのが彼女の魅力の一つなので見ていてとても楽しい。


「私の答えはイエスよ。でもユウはどうなの。貴方の口からハッキリと聞きたいわ。」


そう言いわれ、俺の気持ちを伝える言葉がぼやけている事に気が付いた。

何度告白しても緊張はするのでついうっかりしていたようだ。

その事にライラは苦笑を浮かべゲンさんとサツキさんは背中を向けて肩を震わせている。


(仕方ないだろう。もともとそんなに会話が得意ってわけじゃないんだから。)


そして俺は深呼吸を行い今度は自分の気持ちも言葉にする事にした。

俺は鼻先に触れるヴェリルの手を掴むと互いの顔が触れ合う程の距離まで近づいてから告げる。


「俺もお前と一緒に居たい。だから俺と家族になってくれ。」


そして俺は初めてヴェリルの唇を奪った。

すると彼女は満足そうにそれを受け入れ、俺の首に手を回してくる。

今は観客がいるのでキスはそれなりで控えて離れると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

そして俺から離れるとライラの許に駆けて行き、大喜びで抱き着いている。


(それにしても本当に家のメンバーは仲が良いな。)


喧嘩もしないし何かあってもそれぞれでちゃんと話し合って解決をしてくれる。

困る事と言ったら皆が俺の顔を見て内心を悟ってしまうくらいだ。


(うん、俺以外は平和だな。)


そして、少しするとリバイアサンからも声が掛けられた。


「それではそろそろ私はここを離れます。」


そう言って彼女は人から再び龍の姿へと戻り空に浮かび上がった。

そして俺達へ順々に視線を向けると西へ向かい移動を開始する。


「それでは近い内にまた会いましょう。その時を楽しみにしていますよ。」


そして来た時とは違い、ゆったりとした動きで空を泳ぐように去って行った。

どうやら、話の流れからライラの故郷はあちらの方にあるらしい。

しかし、そんな事よりもリバイアサンが居なくなった事で締め付ける様な空気が薄まり肩から力が抜けた。


「「「「「は~~~。」」」」」


そして俺達はその後姿を見送り最後に溜息をこぼした。

流石にあれほどの存在と対面していると肩も凝るし精神的にも疲れる。

そのため唐突ではあるが俺達はこれから温泉に向かう事を決意した。

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