128 お仕置デート 【ヘザー】
昨日の今日だが予定はつつがなく行われることになった。
今日の予定はヘザーとのお出かけになっている。
俺は準備を整えるとリビングに顔を出した。
「おはようヘザー。」
「おはようユウ。それじゃ出かけましょうか。」
そして、俺達はマリベルにゲートを開いてもらうとある場所へと移動して行った。
今日向かうのはとある試験会場だ。
そこでは今も日本で問題になっているあるスキルに関する試験が開かれようとしている。
そして看板には隷属スキル認定試験と書かれていた。
そこには50人の人間がおり、試験の開始を待っている。
ちなみにこの試験に合格すると国家資格が与えられ条件付きで使用と所持が可能になる。
その条件とは国が依頼した相手にのみ使用が許されると言うものだ。
使用できるのは基本、犯罪者に限られるが警察の協力要請にも応じる事が出来る。
そして、これに通らなければそのスキルは封印されることが決まっていた。
封印方法は同じ隷属スキルで相手の使用条件を厳しくしすると言うものだ。
流石に命が掛かっていれば使用しなければならないのでそこは考慮されている。
そして、周りを見れば以外にも女性が多い様で男性は20人、女性は30人だろうか。
しかし数人の男がヘザーを見て厭らしい視線を向けている。
スキルはその者の内面に沿ったものが多いのでそう言う素養が当然あるのだろう。
しかしこの試験自体は世間を騒がせた隷属スキル所持者を見つけるのが目的ではない。
本当の目的は斎藤 ツカサの様な者を事前に見つけ出すために開かれている。
あの事件ではメノウにかなり無理をさせてしまいもう少しでデーモンにしてしまう所だった。
もうあんな事を起こさない為にも厳しい取り締まりは必要だ
それにあの時に被害に遭った女性達も記憶が無くても何かを感じていたようだ。
今現在はステータスを得て俺達と一緒にこの会場に来ていて試験を受けるらしい。
一般には名前は公開されていないが俺達にはアキトがいるので知る事が出来た。
そして、今日この会場に来る者の中に名前がある事を教えてくれたのもそのアキトだ。
あの事件では彼もその場に居たので何か思う事があったのだろう。
そして試験の会場が開くと周りの者は一斉に歩き始める。
すると先ほどヘザーに厭らしい視線を向けていた男が1人、こちらへと早足でやって来た。
「ちんたら歩いてんじゃねえ。」
そう言ってヘザーの胸に向けて手を突き出した。
それを見て俺は素早く彼女の肩を抱きクルリと回ってその手を払う。
「お前こそ女性に乱暴する位ならとっとと歩け。後ろがつかええいるぞ。」
俺の言葉に男は俺を一瞬睨むと周りに視線を向けた。
すると特に女性陣から厳しい視線が向けられ、男は舌打ちをして歩き始める。
その目は僅かに血走り俺を最後に睨むと集団の先頭へと向かって行った。
その後は何も問題はなく会場に集合すると扉が固く閉ざされてしまった。
しかしその途端、部屋の外周を警察と思われる男達が取り囲み、司会をすると思われる男がマイクを持って現れた。
「皆さん良くお越しくださいました。これからギアスによる契約を行ってもらいます。」
その言葉に周りからドヨメキが生まれる。
恐らく試験を受けに来てこんな歓迎を受けるとは思っていなかったのだろう。
すると数人の男たちが司会者に向けて怒りの言葉を飛ばし始めた。
「舐めんなよ。俺達は資格試験を受けに来たんだ。何勝手な事を言ってやがる。」
「国には呆れたぜ。この事はネットに上げさせてもらうからな!」
「政府の犬どもが!誰が貴様らの言う事を聞くかよ。」
まあ、隷属のスキルを持つと言う事は相手を縛っても縛られたくない者が多く、酷い者はこういう態度をとるだろう。
すると警察官たちは動き、即座に彼らを拘束した。
「お前達を危険思想の持ち主として一時拘束する。他の者もよく考えて行動する事だ。」
その言葉が決め手となり残りの全員がその場で口を閉じる。
そんな中、俺とヘザーは前に出て司会者に話しかけた。
「それで、これから俺達はどうするんだ?」
「この紙にある内容でギアスをお願いします。納得いかないようであれば試験は不合格。スキルは封印します。」
すると司会者は指示を出して内容の書かれた紙を全員へと配って行った。
その内容は俺が既に聞いている事と変わらない。
そして、俺達は首を縦に振って肯定を示した。
「いいぞ。それじゃあ頼む。」
すると後ろで見ていた他の受検者たちは驚愕の声を漏らす。
「お、おいマジかあの二人。この内容が理解できないのか。」
「許可なく使ったら死ぬかもしれないんだぞ。」
「こんな契約イカレてる・・・。」
このギアスには違反すれば行動の自由を奪う事や最悪、その場で命を落とすような厳しい罰則が書かれている。
しかし、隷属スキルを習得すると言う事はそれだけのリスクがあると国民に示す必要がある。
非人道的に感じるかもしれないがこれ位しなければ他の国民からの納得は得られない。
そして隷属スキルを事故の様に習得してしまった者は率先してこれに従う事が出来る。
その人たちは別に望んで習得した訳ではない。
その為、被害者であった3人の女性も俺達に続き肯定を示した。
「私もこれで構いません。」
「元々レベルをあげたら最初からついてたしね。何もしない方が問題よ。」
「もし周りに知られると困るのは自分だしね。」
そして俺達はそのまま係りの者に連れられて別々の部屋へと向かって行く。
するとその先にはミズキが待ち構えおり俺に笑顔を向けて来た。
「この度はようこそおいでくださいました。それではお帰り下さい。」
「ヘザーの方も大丈夫そうだな。」
「あちらは知っていると思いますがフウカが担当しています。すぐに出て来ると思いますよ。」
そして俺は席を立ち扉へと向かって行った。
その背中にミズキは手を振り自分も立ち上がる。
そして入れ替わる様に別の者が席に着いた。
俺達の今回の目的は会場でサクラをする事だ。
あんな厳しい条件をいきなり付きつけても誰も納得しない。
そのため俺達が最初に了承をして他の者の決断を促すのが目的だ。
当然、俺とヘザーにも国家資格は与えられる。
そして当然あの条件を呑んだ者も国家資格を与えられる。
しかし、呑まなかった者は問答無用で隷属でスキルを封印されると言う訳だ。
俺達はスキルを封印されると都合が悪いので今回の様な手間をかける事になったがこの映像は後で目隠しをして全国に放送される。
これで隷属スキルなどの危険なスキルに手を出した者への牽制になるだろう。
その間に国は新たな法律を作りスキルについても取り締まっていく予定らしい。
それと国からはライラに依頼があり既にスキルチェッカーを製作している。
これで相手のスキルを確認する事が出来るそうだ。
ただこれは一般には知られない様にするらしい。
まあ、個人情報を無断で見る様な物なので仕方ないだろう。
ちなみにゲンさんが作ろうとしているギルドは所持スキルは自己申告制にするらしい。
脛に傷のある者も来るだろうから登録は気軽に出来る様にするそうだ。
そして俺は部屋から出ると無事にヘザーと合流する事が出来た。
「大丈夫だったか?」
「ええ、それともう一仕事残ってるしね。」
そうである。
彼女にはもう一つ仕事が残っている。
それは先程の了承しなかった連中を隷属スキルで縛る事だ。
条件は簡単で隷属スキルの使用禁止。
主とその家族や知人に対しての報復禁止。
今回の試験に関する事を外部に漏らすのを禁止する事である。
これ以降は警察がライラのスキルチェッカーで取り締まるそうなので俺達の仕事はこれまでだ。
そして俺達が部屋に入るとなんと30人もの人間が拘束されていた。
彼らは目隠しをされて口を縛られており、俺達を見る事も話しかける事も出来ない。
すると司会者の男が俺達の前までやって来た。
「それではお願いします。隷属させた後は主を私にしてください。」
「大丈夫なのか?」
「はい。私も責任者としてギアスで制約を掛けています。主になっても彼らが普通に生活している以上は命令権はありません。」
『ヘザーにユウさんの加護を与えます。』
するとヘザーは何かに気付いた様で少し視線を逸らして俺にニコリと笑顔を向けて来る。
どうやらアリシアの時の様に何か変化があった様だ。
『彼女の隷属が隷従に進化したようです。』
(分かるのか?)
『何となくですが。あれで下位スキルの隷属では許可なく奴隷からの解放も出来なくなりました。強奪にも抵抗できるでしょう。』
それなら誰かに頼んで勝手に解放されないので少しは安心できる。
それに、進化したスキルがあればこれからの仕事にも役立てる事が可能だ。
そして、どうやら隷従のスキルは精神にも影響を与えるようだ。
後で聞いた話だが彼らはスキルを封印された事に納得して素直に帰って行ったらしい。
しかも一番肝心な奴隷紋も見えなく出来るようであれなら生活に支障はないだろう。
日本には伝統の風呂文化があるので肌を晒す機会も多いからな。
その後、俺達は会場を離れ町の喫茶店に入って行った。
それにここで二人きりになれたのでヘザーから色々な話を聞く予定になっている。
そして注文を終えるとヘザーは家の中の現状を話し始めた。
「ヒスイの事はまだ分からないけど、クリスはメイドとして今のところあなたに特別な感情はないわね。それとジェネミーも一緒みたい。」
まあ、ヒスイはまだ出会って日が浅いからな。
それとクリスとジェネミーの二人に関しては流石の俺でも分かる。
クリスは俺との距離を上手く取っているし、ジェネミーは男女と言う物に興味が無いように感じる。
俺自身も誰とでも関係を持ちたいと思っている訳ではないので、この二人にはこれからも家で頑張ってもらいたい。
「カーミラは少し微妙だけど、嫌いではないのは確かね。あの子は今までが辛い事ばかりだったからあなたとの距離を掴みかねているのね。期待しすぎると失った時がそれだけ辛いでしょ。」
確かにカーミラは子供の時に親に売られてからずっと辛い奴隷生活を続けてきた。
まともな主に出会えればそんな事はなかったのだろうが残念な事に彼女の前にそんな人物は現れていない。
その為、相手に期待を寄せないのは一種の防衛本能の様な物だろう。
それに彼女はまだ17歳なので人生は本当にこれからだ。
もうじき奴隷からも解放する予定なのでその後は自由に生きれば良いだろう。
別に追い出す気はないのでゆっくりとこれからの事を考えてもらいたい。
「後、マリベルはあなたに好意はあるけど彼女は見た目通りまだ精神が幼いわ。でも、精霊だから成長する時は早いわよ。」
マリベルは下位精霊の時は感情の起伏が少ない感じだったが今では感情を素直に出すようになった。
しかし、喜怒哀楽を表現する心は出来てきたが相手を愛するという感情は複雑なので自分の中でどう表現したらいいのか分からないのだろう。
精霊は上位になる程、感情が豊かになるそうなのでその事を言っている様だ。
「クオーツはあなたの事が大好きみたいね。それとヴェリルと私は言わなくても分かるでしょ。」
ヴェリルは家に来た晩に皆から教えてもらったので知っている。
ヘザーに関してもあそこまで積極的にアピールされると流石に気付く。
最近では影移動で風呂にまで入って来るので勘違いのしようがない。
しかし、クオーツについては初めて知った。
会った時はあんなに拒絶されたのに何が良かったのだろうか?
俺は普通にコントラクトでテイムしただけなのだが。
そしてヘザーは家の中の事情を細かく教えてくれると溜息を吐いた。
俺があまりにもこういう事に疎いのでこの機会に直接教えてくれたのだが旅に出るたびに居候が増えていく感じだ。
それに急いではいないとは言ってもそろそろ式場は予約したいしウエディングドレスも注文しなければならない。
だからと言って、そのために関係を持つのは不誠実なので焦ってはいないが結婚式は皆でしたいという希望が出ている。
別に婚前交渉をする必要はないので結婚してからでもまたゆっくりと時間を掛ければいい。
大事なのは結婚式を何人と挙げるかなんだよな。
「大体わかったよ。言いにくい事もあったと思うけどありがとう。」
「そう思うなら体でしっかり払ってね。」
そう言われると俺も弱い所だ。
ヘザーの事は十分に魅力を感じるし、短い期間でも相談に乗ってもらうなどして一部の分野に限定すれば誰よりも深く関わっている。
この段階で体でと言うなら俺は頷くしかないだろう。
そのため、俺はヘザーに「それで良いなら」と頷きを返した。
すると彼女は「え!?」と余裕を見せていた表情を崩して目を大きく開いて俺を見詰めた。
そしてその口から独り言の様にポツリと言葉が零れる。
「本当に?」
恐らくいつものノリで俺が断ると思って言ったのだろう。
しかし、その当てが外れて俺が了承したものだから驚いている様だ。
俺はヘザーに問い返されたのでもう一度ちゃんと見える様に頷いておく。
「ヘザーが良いならね。先に言っておくけど好きでもない相手とこんな話はしないからな。」
するとヘザーの手がそろそろと伝票に滑り寄りそれを掴んだ瞬間に立ち上がった。
「そんなの当然でしょ。私はそんなに軽くないわ!」
そう言って俺の手を掴み引き摺る様にレジに行き、伝票と1万円札を置いた。
「お釣りは要らないから取っておきなさい。さあ、行くわよ。この近くに雰囲気の良い所があるの。私をこんなに待たしたのだから覚悟しなさい。」
そしてヘザーは細腕に似合わない怪力で俺を片手に抱えると猛スピードで走り出した。
その様子に担当したウエイトレスは驚きに固まってしまい、セリフを聞いた男連中からは針の様な視線が飛んでくる。
しかし到着してみればそこはホテルと言ってもそっち系のホテルだった。
彼女は何処で知ったのか手慣れた感じで部屋を指定すると中へと入って行く。
「こんなの何処で知ったんだ?」
「え、ライラとアリシアも使い方は知ってたわよ。ユウと来た事があるんじゃないの?」
俺は記憶を遡るがそんな記憶はない。
恐らくはこういう所は雰囲気もあって色々な物があるので機会があれば利用しようと思っているのだろう。
「俺は来た事ないけどみんなこういう所って興味があるのかな?」
「そうね~。それは来てからのお楽しみね。」
そしてヘザーが軽く笑いながら部屋に入って行ったので俺もそれに続いて部屋に入る。
すると中は良い雰囲気で少し小さめなホテルと何も変わらない。
テレビにお風呂に大きなベットが一つあり、よく見ればカラオケや冷蔵庫まである。
なんでも普通に泊る人も居るそうなので設備的には十分だろう。
するとヘザーは待ちきれないのか自分の服を乱暴に脱ぎ捨てると俺をベットに投げつけた。
そして彼女は飢えた獣の様な目で襲い掛かって来ると俺と何ラウンドも愛し合った。
(何か反対なような気がするな・・・。)
その後にシャワーを浴びて服を着替えてからフウカとミズキと合流しゲートを開いてもらい帰っていく。
横では今までで一番の笑顔を浮かべたヘザーが俺の腕をその胸に抱き締めている。
何か一緒に歩く二人の視線が途轍もなく痛い気がするが気のせいではないだろう。
そして家に到着すると気が付いたライラとアリシアが声を掛けて来た。
「お帰りなさ・・・。」
「遅かったで・・・。」
しかし、二人はヘザーを見てピタリと言葉を止めた。
彼女の顔が家から出かけた時に比べ遥かに艶々しており、何かがあった事を言わずとも現しているからだろう。
すると二人はヘザーの傍に来ると笑顔で手を引いて2階へと消えて行った。
それに対しヘザーも笑顔で着いて行っているので別に喧嘩する訳ではなさそうだ。
二人とも今日行った場所に興味があるそうなので恐らくは感想を聞くのだろう。
俺は苦笑を浮かべるとリビングに入りメノウに声を掛けた。
「ただいま~。」
「お帰りなさい。」
俺は帰宅を知らせるとやっと帰って来れたという気持ちになる。
(今日はマジで疲れた。)
何か一番疲れたかと言えばやはり底なしのヘザーなのだがそこは言わないでおこう。
これだけすると賢者モードを通り越して思考が鈍りそうだ。
『絶倫を習得しますか?Yes/NO』
(Yesで・・・。ん?)
『スキルポイントを使用し(ちょっと待ったーーーー)絶倫を習得しました。』
(・・・やってしまった。)
『フフ、やってやりました。』
思考が鈍っていたとは言ってもまさかYesを選択してしまうとは。
しかし、この絶妙なタイミング・・・、もしかして・・・。
『何の事でしょうか?私には心当たりがありません。』
(絶対嘘だ。さっきやってやりましたって言ってただろ。)
『・・・・・記憶にございません。』
(お前はどこぞの政治家かーーー。と言ってもこのままならいつか勝手に覚えただろうな。それなら限界が来る前に覚えておいて損はないか。)
『その通りです。妻を満足させるのも夫の務めです。』
まさかスピカに夫婦について説かれるとは思わなかった。
俺のスピカのイメージは前に見た幼い少女なんだけどな。
そして俺は絶倫を習得してしまう事になり、このスキルレベルが10に上がるのに1週間と掛かる事はなかったのは今とは関係ない話だ。
 




