124 お仕置デート 【ライラ】【アヤネ】
ディスニア王国で俺がライラ達を置き去りにしたお仕置が決められた。
その内容だが俺はそれぞれの仲間たちと同行し仕事を手伝う事になる。
仕事というが俺は物を作ったりは出来ないので主に納品関係だ。
ただ、1人ずつと出かける様になっているので、ようはデートをするのが目的らしい。
そして今日はライラと出かけるのだがその目的は車の研究機関に行く事だ。
実は魔力機構搭載の車がとうとう完成したそうなのだ。
そのお披露目に呼ばれたそうなのだが一人で行っても面白くないので一緒に行く事になった。
「それじゃあ行きましょうか。」
そう言って外に出ると俺はライラを抱えて飛び立った。
しかし、この時の俺達を見て明日から移動する時はこの態勢でと言う事が決まったのは言うまでもない。
ライラは俺に強くしがみ付くと楽しそうに周囲を見渡している。
ここは右を見れば山があり、左を見れば海がある。
冬と言う事で少し景色は寂しいが滅多に見れないのでとても楽しそうだ。
「ユウが暖かくて気持ちいい。」
そう言って俺の顔を笑顔で見上げて来る。
言われて俺もライラの体温を感じ、その温かさに顔が熱くなるのを感じた。
こうして平和な時間に外で触れ合うのは初めてな気がする。
家の中ではもっと大胆に触れ合っているが外だと変に意識してしまうからだ。
「ふふ、ユウの顔が赤くなった。ちゃんと私を意識してくれるのね。」
ライラは悪戯っぽく笑うと抱き着く腕の力を強めた。
「今日は一緒に来れてよかったわ。ユウはずっと忙しそうにしてたから。」
「そうか?」
そう言えばそんな気もする。
暇な時はオリジンが現れたり、海に行けばメガロドンが現れたりと世界が融合してこうしてライラとだけ過ごす時間も殆どなかった。
頭では分かっていても異性に慣れていないのもあり、どうすれば良いのか分からなかったのも理由の一つだ。
もしかすると特別な理由が無くてもこうして一緒に出掛けたり遊んでいれば良かったのかもしれない。
「そう言えばそうかもしれないな。それじゃ、今日はしっかり楽しむか。」
「言われなくてもそのつもりよ。」
そして俺達は空の移動を楽しみながら会場に到着した。
そこには何人もの技術者と役員と思われる者達が集まっている。
そして俺達が現れたのを知るとすぐに試験場でのテストが開始された。
車の見た目は普通車の様に見え外見の変化は無いが中身は大きく変わっている。
それに走り出すととても静かでエンジン音というよりもモーター音の様だ。
受ける印象は電気自動車に近いが走り出すと次第にその動きは激しくなっていく。
速度は早くなり左右に激しく動き、最後にはタイヤを滑らしながらドリフト走行も行っている。
更に何故か台からのジャンプまで披露するが最後のは必要だったのだろうか?。
(ん?フローティングボードも実装してるのか。あれは縦揺れに強いから悪路でも安定して走れるようになるからな。)
そして、俺達の前に車が止まると運転席からアキトが現れた。
(おい!どうしてここにお前が居るんだ!?)
俺が呆気に取られているとアキトは軽く笑い技術者たちの許に向かって行った。
そして幾つかの意見を伝えると俺達の所にもやって来る。
なんだかちょっとドヤ顔だが俺にはあんな運転は出来ないので見なかった事にしておこう。
それに俺の目的は平和な生活なのでそこにあのドライビングテクニックは必要のないものだ。
運転は常に余所見をせずに安全運転が基本だ。
「お前も来たのか。」
「お前もじゃないだろ。どうしてアキトが居るんだ?」
「それは向こうでの運転経験があるからだな。あの時に乗った車もここの会社が改造してくれたものだ。あの時はフローティングボードについてはライラに依頼したが俺達が向こうに行っている間にこれを完成させたようだ。これなら売り出しても大丈夫そうだな。」
俺は半年から1年はかかると思っていたが意外と日本の技術者は優秀だった様だ。
まあ、エンジンを魔力機構に置き換えるだけなので意外と簡単だったのかもしれない。
これなら売り出しも早そうなのでその時は買わせてもらおう。
そして技術者たちは少し話し合ってから俺達の許へとやって来た。
しかしお目当ては俺達というよりもライラにあったようだ。
「ライラさん。どうですかこの車の出来は。」
「なかなか良い感じね。燃費はどうなってるのかしら?」
「軽量化も出来たのでゴブリンの魔石で100キロ程、コボルトなら200キロは走る様になりました。ただ魔石の品質により若干異なるようです。」
するとライラは少し考えると案を出した。
「なら集められた魔石の品質が分かるように魔道具を作成して国に渡しておくわ。そうすれば市場に魔石が出た時にも安心でしょ。」
「「「おおお~~~!」」」
するとライラの言葉に一斉に感嘆のどよめきが生まれる。
そして彼らの視線は俺へと移された。
「そう言えばそちらの方は?」
するとライラは少し顔を赤らめてから俺を紹介する。
しかし、その変化を見て彼らの目元がピクリと動くのを俺は見逃さなかった。
「この人は私の・・・恋人?」
その言葉に周りの者の顔に一瞬安堵が浮かぶ。
恐らく疑問形だったからだろう。
しかし、俺の言葉が彼らの希望を完全に打ち砕いた。
「婚約者で良いんじゃないか?」
「そ。そうよね。もう少しで結婚するんだしね。」
その途端に彼らは膝を付いて項垂れた。
きっと俺の様な男が居るのを聞いていなかったのだろうな。
ライラは美人で彼らにも理解があり、面倒見も良いので彼らからすると理想の女性像だったのかもしれない。。
それに話が合う美人な女性が居れば夢を膨らませるのも分る。
「まあ、そういう事なんで悪いな。」
(それと変な奴がライラに付かない様に脅しておくか。)
「ちなみに変な事を考えた奴に俺は容赦しない。それは理解してくれ。」
そう言って俺は威圧を叩きつけておく。
最近はこのスキルの理解が進みかなり使いこなせるようになってきた。
そのため彼らは気を失う事無く顔色を悪くしただけで上手く納得を示してくれたようだ。
すると俺のした事に気付いたライラは俺の耳を摘まんで引っ張ってきた。
「イタタタタ・・・!」
別に痛くはないが雰囲気でそう言っておく。
じゃないと更に酷い未来が待っていそうで怖い。
「ダメよユウ。ここの皆は良い人達なんだから。あなたが本気で睨むと死んじゃうかもしれないでしょ。」
すると俺達のやり取りを見て何を言っているんだという顔と、羨ましそうに見て来る者に分かれた。
(よかったなトゥルニクス。ここにお前の仲間がいるぞ。ライラは見た目は若いが性格は姉さんっぽいからな。俺は無いが踏まれたい奴が居てもおかしくない。)
そして俺はライラの言葉が正しい事を示すために空を横切っていた鳥に威圧を叩き込んだ。
すると鳥は意識を失ってこちらに向かい落下してくる。
俺はそれを死なない様に受け止めるとそれを彼らに見せた。
「まあ、こんな事も出来る。ライラは嘘を言って無いからそのつもりで。誰か試してみるか?」
すると彼らは一斉に下がり勢いよく首を横に振っているのでどうやら理解できたようだ。
そして、俺の様子をアキトは苦笑しながら眺めていた。
しかし、アキトも何気に過保護な所があるので人の事を言えない。
その事を知っているのであれはおそらく自分と重ねて笑っているのだろう。
そう言う事にして俺達は彼らに声を掛けた。
「それじゃ、今日は終わりか?」
すると一斉に彼らが何度も頷いたので俺はライラを抱き上げると空に飛び立った。
恐らく彼らが一番驚いたのは俺が飛んだ事だろう。
来た時はこちらを見ていなかったので気付いた者は居ないはずだ。
その後、俺はライラと周囲の店を回ったりお茶をしたりして家に帰った。
そして次の日はアヤネに同行する事になった。
どうやら納品先が以前彼女が仕事をしていた会社らしい。
それで俺に同行を申し出て来たと言う訳だ。
こんな事に権利を使わなくても言ってくれればそのビルに結界石が必要でない程まで粉砕してやるのに。
しかし、そう言うと彼女は少し笑って首を横に振った。
「まともな人もいますから。」
そして今日はアヤネを両手で抱えるとその場所へと飛び立った。
距離はそんなに離れていないのだが彼女の希望を叶える事にする。
そして抱き上げて確信したが少し震えている様だ。
(やっぱり今夜にでも壊しに行くか・・・。)
「大丈夫だ。俺がちゃんと言ってやるからな。」
「喧嘩しないでくださいよ。」
分かっているよ。
これはアヤネの仕事で俺は付き添いだ。
俺の行いが悪ければアヤネの仕事に傷がついてしまう。
そして会社に到着すると俺達は応接間に通された。
俺はアイテムボックスから金属のダンプラを取り出すとそれにお茶を入れておく。
しかしその様子を見て横に並んで座っているアヤネは不思議そうに首を傾げた。
「なんでそんな物を持って来たんですか?流石にお茶くらい出ると思いますよ。」
「ちょっとした小道具だから気にするな。」
俺は笑顔でそう言って他愛無い会話でアヤネの緊張をほぐしてやる。
やはり緊張している様でいつもより表情が硬い。
そしてしばらくすると俺達の前に二人の男がやって来た。
「待たせたね。それじゃあ商談を始めよう。」
(商談?値段も言っているし相手は金を払い、こちらは結界石を渡すだけのはずだが。)
「あの、商談と言われましても既に話は付いているはずですが?」
すると男は机を叩いてこちらを威嚇するような目で睨んでくる。
怖くはないが不快な視線だ。
アヤネが女性だからか下から上まで嘗め回すように見ている。
「君ねー!そんなことも分らないで商売してるのか。あんな物に20万も出す馬鹿が何処に居る!」
(日本中どころか世界中に居るよ。)
「しかし、この金額でもかなりお安いはず・・・。」
「何を言っているんだ。だから君はここをクビになるんだよ。いいか良く聞け。」
『メキ!』
その瞬間俺は手に持つダンプラを握り潰した。
そして笑顔を浮かべながらちょっとだけ威圧をしておく。
「・・・・。」
「ああ失礼。俺はアヤネの婚約者でね。今日は付き添いなんだ。」
そう言って俺は潰れたダンプラ―を綺麗に折り畳んで男に放る。
男はそれが本物の金属である事を確認すると顔色を悪くした。
更に俺は新しいダンプラを取り出しそこにお茶を注ぐと手に持ち話しかける。
「それで、俺の嫁に何か言ったか?」
俺は挨拶ついでに更に威圧を放ちダンプラを加熱する。
すると金属のため中身のお茶はすぐに沸騰しグツグツと音を立て始めた。
「それで、オタクは買うの?買わないの?」
そして次第に熱は上昇し赤熱し始める。
それを見て男たちは驚愕するが少しするとダンプラは熱に負けてドロリと溶け落ちた。
「ああ、すまないな。怒りで体温が上がった様だ。」
彼らは溶けたダンプラを見て更に顔色を悪くする。
そして頷くと懐から金の入った袋を取り出した。
しかし、その中には10万円しか入っていない事は分かっている。
恐らくは最初から最大で10万円しか出すつもりが無かったのだろう。
それなら別に売らなくて良いのでここは帰る事に決めた。
こういう馬鹿が増えても面倒なのでそろそろアヤネの結界石も国に買い取ってもらう方向が望ましいかもしれない。
「それじゃあアヤネ帰ろうか。この人たちは買う気がなかった様だ。」
俺は溶けた金属を回収すると床を魔法で治しておいて立ち上がった。
それにここに居ても優しいアヤネを傷つけさせるだけだ。
「え、でも・・・。」
「その袋には10万しか入っていない。受け取った後で俺は20万入った袋を渡したとか言われると面倒だ。」
すると男たちは図星を突かれたのかビクリと肩を震わせた。
どうやら本当に考えていたらしい。
それを見てアヤネも溜息を吐くと立ち上がり俺の傍に駆け寄った。
そしてアヤネは最後に後ろへ振り向き彼らに声を掛ける。
「本気で買う気になったらまた連絡を下さい。」
「クッ!女のくせに偉そうなこと言いやがって。夜道には気を付けるんだな。」
(ダメだなこれは・・・。)
俺達は部屋の扉に手を掛けて外に出ると扉が閉まる瞬間にこちらを睨んでくる二人の男に視線を向けた。
そして本気の殺気を含んだ威圧を叩き返しておく。
アヤネは既に俺の家族の様な者なので息をするように殺気が湧いて出た。
それに俺が家族を狙うと宣言されて簡単に引き下がるわけがないだろう。
人に害を加えようとするなら、自分も害される覚悟を持つべきだ。
そして、俺の威圧を受けた彼らの動きは止まり、俺が扉を閉めると同時にその場に倒れた。
マップで確認するとそこには既に生きている人間は居らず、俺はそのままアヤネの肩を抱いてビルから出て行った。
その後、救急車が2台ほど走って行ったが俺達は気にする事無くその場から離れる。
「は~、今日はユウさんに付いて来てもらって正解でした。やっぱりあの会社は嫌いです。」
「まあ、蛇にでも噛まれたと思って後の時間を楽しもう。」
するとアヤネは笑い「犬じゃないんですね」と問いかけて来た。
「犬に噛まれるのはどちらかと言えばご褒美だろ。」
「フフ、そう言うのはユウさんくらいです。あ、あとテニスさんもですね。そう言えば何してますかね?」
「きっとあの国の腐敗しているギルドを探して今も暴れてるだろ。アイツは容赦がないからな。」
「それはユウさんもですよ。帰る時に何かしてましたよね。」
そう言って笑いかけて来るがどうやら気付かれていたらしい。
ゲンさんの様にピンポイントで威圧を飛ばしたつもりだったがまだまだ修行が足りないようだ。
「まあな。アヤネが夜道で襲われたら大変だからな。もしそんな事があったら俺はあの会社を塵に変えるぞ。」
「もう、ダメって言ってるのに。でも護ってくれて嬉しいです。これからもお願いしますね。」
「当然だ。今回みたいに危なそうならいつでも言ってくれ。それとそろそろクオーツかヒスイを同行させた方が良い。」
「ユウさんは心配性ですね。」
「大事な人を心配するのは当たり前だろ。」
「・・・分かりました。次からは2人以上で行く事にします。」
するとアヤネは俺の言葉に顔を真っ赤にして提案を受け入れてくれた。
これからはレベルを上げた者も出て来るかもしれず、生産寄りのアヤネでは危険かもしれない。
あの2人なら戦闘面でも問題が無く精神系のスキルにも対応が出来る。
俺ともスキルを通じて繋がりがあるので何かあれば瞬時に気付く事も可能だ。
そして俺達はその日は買い物やスイーツを食べて家に帰った。
その後もその日の事を話しながら怒ったり笑ったりしてみんなで思いを共有する。
やはりこうして話が出来る相手がいるのはとても楽しい気持ちになる。
そして明日に備えて俺達は部屋に帰って行った。
するとその夜、アヤネが部屋に寝間着姿でやって来た。
別にそれは良いのだがその表情は少し暗い。
どうやら何か不安な気持ちになってここを訪れた様だ。
俺は彼女をベットに招くとそっと抱きしめた。
「昼間の事か?」
「はい。昔を思い出してしまって。今が長い夢の中じゃないかと不安になりました。」
「大丈夫だ。俺達はアヤネの妄想でもないし今は現実だ。眠っても朝起きれば俺が隣にいる。だから気にせず寝ると良い。」
「ありがとうございます。」
そう言って彼女は微笑むと寝息を立て始めた。
肉体的に強くなっていても精神まで強くなるわけではない。
強くなるスキルを俺は持っているがあれは耐えられるようになるだけで同じように痛みは走る。
アヤネも今日一日でかなり精神が疲労したのだろう。
そしてしばらくして、テレビで今日の会社が潰れた事が報じられていた。
どやら内部告発があったらしくかなり厳しく捜査されたそうだ。
その少し後に警視総監から連絡があり。
「馬鹿な事をしていた馬鹿を処分しておいた。」
と言われた。
どうやら俺達との繋がりを知り何やら動いてくれたようだ。
しかし、これは未来に起きる他愛無い出来事である。
そんな未来の事は知らず、その日のアヤネはいつになく穏やかな眠りを愛する者の胸の中で味わったのだった。
 




