122 暴露 ②
そしてスタッフからカウントダウンが始まりアクドイは急いで汗を拭うと何とか平静を装う事に成功したようだ。
奴は微妙に周りのスタッフから笑われていた気がするが嫌われているのだろうか?
そんな事はさて置き、司会の男女がまず番組が急に変更になった事を詫びていた。
しかし、ニュース枠と言う事であまり批判は出ないだろう。
そして司会者は俺達の紹介を始め、まずは総理であるゲンさんからだ。
「こちらは年末年始と話題沸騰中の現総理大臣神楽坂 源十郎さんです。今日は突然な参加ありがとうございます。」
司会者はそう言って笑顔で紹介をするとゲンさんは表情を崩し笑顔でカメラに手を振った。
「いえ、これも国民の為です。特に医療に関しては皆さんに多大な負担を掛けております。もし、この番組で少しでも皆さんに現状を知っていただければと思い急いでやってきました。」
そしてその横には腕のないガイとウイルが並んでいる。
見た目はスーツを着た好青年だが以前見た時よりも顔付が凛々しくなっている気がした。
恐らく俺達がいない間にかなり厳しく鍛えられたのだろう。
彼らはサツキさんに任せておいたので生半可な教官を付けていない筈だ。
「お二人は神楽坂総理の付き添いと言う事ですがその腕について聞いてもよろしいですか?」
すると二人は互いに苦笑を浮かべて語り始めた。
「俺達は以前に住んでいた国に利用され、その結果腕を斬られたんです。」
「そして、この国に来た時にあそこにいるユウさんに拾ってもらいこうしてこの方と巡り合うことが出来ました。実は今日は皆さんに見せたいデモンストレーションがあるので楽しみにしていてください。」
すると司会は一瞬彼らから視線を外しカメラの横にいる社長を見た。
恐らく進行内容には含まれていなかったのだろう。
しかし、秘薬が既に準備してあった事から社長が知らない筈はない。
彼は頷いて了承を示すと司会は一瞬で思考を切り替え笑顔で返事を返した。
(凄いな。俺には真似できない事だ。あ、でも模倣したら出来るのか?)
『あれらに関しては模倣は使用できなくなっております。』
またか!
しかも『関して』なので対応していないのではなく使用でき無い様に制限が掛けられ、誰かが故意に行っていると言う事だ。
そこまでして俺の慌てふためく姿が見たいのか。
そして俺が内心で頭を抱えている間にも話は進み俺の紹介となっていた。
「それは楽しみですね。そう言えば今も話が出ましたそちらの最上 ユウさんは去年の国会放送で世間を騒がせた方で間違いはないですか?」
すると司会者はアクドイを飛ばして俺に話しかけて来た。
それを見てアクドイは僅かに顔を顰めるがそれはカメラには映っていない。
映像は俺をアップで映しているのでテレビに出ているのは俺の姿だけだ。
「まあ、それで合ってますよ。あの時は色々と面白い経験をさせていただきました。」
「ははは、放送関係者としては耳の痛いお言葉です。今日はあの様なことは無いので安心してください。」
「もちろん信用していますよ。それに今日もお茶の間の皆さんには有益な情報をお伝え出来ると思います」
「それは私も楽しみにさせて貰いましょう。」
俺達は互いに言葉には出していないが、あの時に国会中継をしていたテレビ局の一部が映像を差し替えた事を言っている。
年末にも一部の番組で取り上げていたので記憶に残っている人もそれなりに多いだろう。
そして、司会者は最後にアクドイへと目を向けた。
「それでは最後になりましたが今日の様な番組ではいつもお世話になっているアクドイさんです。来て頂きありがとうございます。」
「いえいえ、こういった詐欺まがいの事を放置すると大変ですからな。今日も専門家としてしっかり意見させてもらいますよ。」
するとアクドイの言葉に反発する様にさっそく総理が手をあげた。
それを見て司会者の目がキラリと光る。
「神楽坂総理、もしや早速デモンストレーションでしょうか?」
「ええ、そうさせてもらいます。薬は既にそちらにお渡ししているので持って来てください。」
するとスタッフの一人がポーション瓶が乗ったワゴンを押してやって来る。
そしてガイとウイルは立ち上がると上着を脱いでTシャツの姿になった。
その体は元冒険者と言う事で肉付きは良く、かなり引き締まっている。
しかし、二人とも片腕が無いのでどう見ても痛々しい印象を受ける。
するとカメラは二人の斬られている腕にズームで近寄り、その姿を視聴者に確認させた。
「かなり綺麗な治療痕ですね。縫った後も無いようですが?」
「魔法で回復させるとそう言った痕は残りません。酷い骨折の時には切開をして治療を行う時もありますがそれは骨を正常な位置で修復するためなので後で傷を魔法で治せば綺麗に治ります。」
その回答に司会者は驚愕した顔を浮かべて大袈裟に驚いた。
少しリアクションが大きいがテレビで見るとこれで丁度良いのかもしれない。
「それではもしかして大手術をした後などに傷が残りますがそれも無いと言う事ですか?」
「その通りです。それにこの国ではスポーツが盛んですが彼らが負うような怪我程度ならすぐに回復しますよ。」
「何を嘘を言っているんだ!そんな事が出来るはずはない!そう言うなら証拠を見せてみろ!」
するとアクドイは二人の言葉に激昂した振りをしているが口元は僅かに笑っている。
どうやら瓶の中身を入れ替えているので治るはずはないと思っている様だ。
そして俺はここで手をあげた。
「すみません。渡す薬を間違えていたようです。こちらを使ってください。それとその瓶を触れた事がある方は手を上げてください。」
するとアクドイはぎくりと表情を崩し俺を睨みつけて来る。
俺が見た時、アクドイはポーション瓶に素手で触っているように見えたので確実に指紋が付いているだろう。
それに手袋をつけていても最近の科学捜査なら薄いゴム手袋程度なら付けていても指紋は採取できる。
もし、指紋が付着するのを防ぐなら厚いゴム手袋等を使わなければならない。
すると俺の言葉にゲンさんと社長が手をあげた。
しかし、アクドイは手を上げる気が無い様だ。
「その瓶はそのまま誰にも触れさせずに保管してください。おそらくポーションでない物と入れ替わっているはずです。」
俺の言葉に司会者も含め周囲から驚愕の声が洩れる。
するとアクドイの顔色が悪くなり、急に汗が浮かび始めた。
そして、二人は俺から薬を受け取るとそれを受け取り、スタッフが準備したスリガラスの後ろに半身を隠した。
そしてまずはガイが薬を飲むとガラスの向こうで骨が形成され肉が盛り上がり始める。
その見た目は慣れていない人が見ると気分を害しそうな光景だ。
そして少しするとガイはスリガラスから半身を出して再生した腕を見せた。
「す、凄い。これがポーションの効果・・・。」
「まやかしだ!トリックに決まっている。」
俺達からは腕が形成される様子が見えているにも関わらずアクドイはそんな事を叫んだ。
流石にこれには演技派司会者である彼も冷たい目を向けている。
その内心はいったい何処に仕掛けがあったんだど如実に語っていた。
するとウイルは困った顔で周囲に視線を向けた。
それを見てゲンさんと俺は社長に視線を向ける。
すると社長は周囲に指示を出し、司会者に1枚の紙を渡して少しするとこちらに頷いた。
そして司会者は紙に書いてある事を読み始める。
「これから放送される事には皆さんの気分を著しく害するモノが含まれています。もし見たくない方は映像を5分ほど切り替えてください。」
司会者がこの様な事を言うのを俺は初めて聞いた。
しかし、子供も見ているかもしれないので必要な事なのだろう。
それでも報道とは真実を伝える義務もあるのでこの様な行動に踏み切っているのだ。
そして1分ほどで司会者に促されウイルはポーションを飲み干した。
それをカメラは1秒も逃す事なく映し続ける。
その光景を目のあたりにして日本中が震撼したことだろう。
しかも彼はオマケとしてせっかく治った腕に軽く傷を付け魔法でそれを治して見せる。
それを見て周囲から小さなどよめきが生まれたが時間が来た事を確認した司会者は進行を再開する。
ちなみにこの映像は瞬時にチューブに乗って拡散し、数日で数億回の再生回数を叩き出した。
急な放送にも関わらず多くのテレビ局の協力もあり視聴率も過去最高だったらしい。
「ガイさん、ウイルさん。ありがとうございました。あなた達のおかげで日本中に希望が溢れているはずです。」
すると二人は元の席に戻って行くとその顔には喜びの表情を浮かべる。
そして、今回は流石のアクドイでも何も言えない様で口を噤んで不機嫌に腕を組んでいた。
その行動自体がこの映像が現実にあった事だと語っている。
そして焦点は移り今度はユキトさんとサキさんだ。
彼らは自身の顔が世間に広がるのもいとわず、隠れる事なく出演している。
「あなた方は資料によると昨夜、奇跡に遭遇したそうですね。」
「ああ、その通りだ。俺は昨日まで余命僅かという所で天使に助けられた。」
「天使とは先日握手会に数万人が並んだというあの天使ですか!」
すると司会者は再び大きく驚き自らの中にある情報を基に補足を行う。
どうやらこの司会者は情報にも精通している様でアドリブにも強い人材のようだ。
あの握手会にはそんなに人が集まったのか。
それにどうやらメノウとカエデのおかげで天使の知名度はかなり高くなっているようだな。
「ああ、その子に病気を治してもらったおかげでこうしてここに来れている。」
すると司会者の後ろにボードが運ばれ、そこには破られたカルテとそうでないカルテの写真が貼られている。
病状以外の所はマジックで消しているが、そこには彼の昨日までの症状が細かく書き込まれていた。
しかし、その横には幾つかの数値やレントゲン写真があるがそれには健康を示す様に幾つもの書き込みがされている。
すると司会者は先程から顔を隠している二人の医師に声を掛けた。
「あなた達はこの方を担当していた医師だと聞きましたが真実ですか?」
「はい。私達が保証しますが彼は既に健康な体を取り戻しています。ただ、簡易検査なのでもっとしっかりとした真っ当な病院での検査をお勧めします。」
それに対してユキトさんは頷くが表情が曇りそれを司会者は目ざとく汲み取った。
「表情が優れないようですがどうかされましたか?」
「実は・・・」
そう言って二人は今日あった事を話し始めた。
それを補足する様に二人の医師も会話に加わり病院側の対応が白日の下に晒される。
そしてそれを聞いて司会者は激昂してカメラに語り掛けた。
「聞きましたか!病院側のこの対応を!これは殺人行為に他なりません。しかも病院側は検査結果を5年以上は保管しなければいけないのをこうして破り捨てています。これはコピーですが現物はどちらにありますか?」
その声に俺が破られたカルテを取り出した。
それを見てアクドイは目を見張り驚きの行動に出る。
「それを俺に寄越せ!そんな物は嘘に決まっているんだ!」
「黙れーーー!」
するとゲンさんの喝が飛びアクドイの動きが止まる。
そしてそのまま気力を失ったように椅子に座り込んだ。
このカルテには破り捨てた院長の指紋が付着している。
しかもその付き方から誰がカルテを破り捨てたかも分かる。
おそらく、こいつはそれを阻止したかったのだろう。
社長を見るとボタンを3回押して何処かに電話をかけている様だ。
恐らくは警察だろう。
しかし、俺は地元の警察官を信用していない。
下手に賄賂を貰っていて紛失させたり隠滅されたくないんだが。
するとゲンさんも何処かに電話をかけている。
そして、彼は掛けていた電話を司会者に渡した。
「あの、そちらは誰でしょうか?」
『警視総監の神崎 鬼鮫だ。今回のテレビを見て本庁が動く事が決定した。』
すると司会者はすぐにそれをスタッフに渡しテレビに接続させた。
「あの、こちらの声が聞こえますか?」
「よく聞こえる。その証拠は我々が責任を持って与ろう。」
すると周囲からも驚きや歓声が聞こえて来る。
しかし、それはすぐに収まりカンザキと名乗った警視総監はゲンさんへと話を振った。
「それでゲンジュウロウ。お前の所で滞っているせいで助かる命が日々失われているぞ。必要ならこちらでも手伝ってやろうか?」
「ああ、それなら助かる。近い内に協力の要請を行う事になるだろう。」
「お前がそう言うならその時を待っているぞ。そろそろこの国も溜まった膿を出して健全な状態に戻さなければならないからな。」
そして彼は挑発的な事を言い残すと通話は切れて話を終了させた。
(これなら大丈夫か。)
病院が協力しないのは全国規模なので刑事事件になる場所もあるかもしれない。
そこで国の機関が正常に機能してくれるなら命以外でも助かる人が増えそうだ。
するとここで社長が止めを刺すために俺の渡した録音音声を再生させた。
「こ、これはもしかして!?」
「ええ、ここに録音されているのは私達と院長の会話です。」
「しかし、これは・・・院長自身が殺すように命令していますが・・・。」
そして、この録音を聞いてユキトさんは本当に命が危険だった事を知って驚愕した。
彼としては病院の不正を暴く程度の気持ちだったのだろう。
そのユキトさんを支える様にサキさんは横で手を握っている。
その後、すぐに警察が現れ病院に警察を送り、アクドイも連れて行かれた。
任意同行なので付いて行かなくても問題は無いのだが不審な行動が多かったので後日になって令状を持った警察に逮捕されるよりも良いと判断したのだろう。
そしてもちろんテレビではその一部始終が放送されていた。
放送が終わり俺達は互いに向き合うと苦笑を浮かべた。
「あの時はかなり無茶な頼みをしたが全て揃えるとは驚いたぞ。これなら探偵をしても食べて行けそうだな。」
探偵と言えば聞こえは良いが殆どが依頼者の言った相手の身辺調査だ。
やろうと思えば出来るが恨みを買いそうなそんな仕事はこちらからお断りと言いたい。
「出来るでしょうが嫌です。俺はのんびり暮らしたいのですから。」
すると俺の言葉に社長は大笑いし周りからは苦笑を返されてしまった。
俺は首を傾げるが誰も答えをくれそうにない。
そして、坂上夫婦は数か月ぶりに我が家へと帰って行った。
しかし重病になった人は入院後から一度も帰れない事も珍しくない。
長い闘病をしても芳しい結果を得られず、弱った体で家に帰ることが出来なくなる。
そのまま、最後まで病院のお世話になるので家に帰れるのがとても嬉しそうだ。
きっと、今夜の食事は今までで一番の美味しいものになるだろう。
そして、俺はテレビ局から出ると家に帰る事にした。
医師の二人は既に事情聴取のため警察に同行しているし社長もこれからが忙しいらしい。
先程から局内の電話が鳴りやまないらしいので徹夜する者も出るだろう。
そして、家に帰るとゲンさんもこれからが忙しいとの事なので急いで東京に帰って行った。
来た時もマリベル便で来たそうなので誰かが気を利かせてくれたようだ。
俺はその日はもう遅くなったので皆で少しのんびりすると眠りに付いた。
 




