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120 医療の闇

俺達はあの後、それほど長居せずに日本に帰って来ている。

アルフェは有力な王族がいなくなった事で国王になれる可能性が格段に上昇し周りの助けを借りて国内の掌握を始めていた。

それに彼女の周囲の騎士たちは優秀な者も多いので争いになっても勝つ事は出来るだろう。

恐らく、一番問題なのは腐敗した冒険者ギルドだろうがそちらはテニスがどうにかするそうだ。

彼女にはそれを実行するだけの権限と実力があるので大丈夫だろう。


そして次の問題だが俺達が国の兵士の大半を殺してしまったのでもし他国から攻撃を受けると国を護りきれないかもしれないと言う事だ。

そのためアルフェにはステータスに携帯を取り込んでもらい俺達に連絡が出来る様にしてある。

今なら相手を殺さずに引かせる事も出来るだろう。


それに彼女にはトゥルニクスに頼んで後ろ盾になってもらった。

最初は渋っていたがライシアを餌にチラつかせると簡単に頷いた。

奴も毒の事は覚えていたようで恐らく今後の事で危機感を抱いていたのだろう。

元々今回のお礼で渡すつもりではあったが良い感じに無駄にせずに済んだ。

数日中には苗と実を渡す予定だ。


しかし、家に帰ってからが一番大変だった。

忘れていたが俺はお仕置を受けなければならない。

その為その内容を決めるために夜遅くまでかかったが結局みんなの仕事を手伝うついでにデートをする事になった。

俺はその程度で良いならと了承し数日後から順番に皆の仕事に同行する。

数日後なのは旅から帰って来たばかりだからと気を利かせてくれた結果だ。

全員が自営業に近い仕事をしているので時間はあるらしい。

実際は自営業はかなり大変な仕事だが前倒しして仕事を片付けているので大丈夫だと言う事だ。

ならばと、俺は彼女たちの厚意に甘えて数日のんびりさせてもらう予定だ。


・・・と思っていたのも束の間、次の日からやる事は盛沢山だった。

まず行ったのは天使たちの対処だ。

流石に小さくなったとは言っても200人以上の天使が家に居る。

現在は家の壁にマリベルが小さな部屋を人数分作りそこにタオルを敷いて寝泊まりさせている。

そのため家の壁が鳥の巣の様な状態になっていた。


それと体が小さいので食事面は大した事ないが、さすがはメノウと同種族だけあって食べ始めたら止めるまで止まらない。

黙々と食べ始めると次第にその顔が笑顔に変わるので美味しく食べている事は何となくわかる。

しかし、我が家に働かない居候は要らないのだ。

その為働き口を探さないといけないのだがこの町はそれほど広くないため仕事先が無い。

しかもいまだに常識も知らない彼女達を雇ってくれる所は無いだろう。

そう思っていると彼女達を統率するメノウが行動を起こしてくれた。


「全員集合~。」


そう言うとまるで躾けられた鳩の様にメノウの許へと集まり始めた。

なんだか雀の学校みたいだがそれは言わないでおく方が良いだろう。


「皆さんにはこれからこちらでの常識をインストールしてもらいます。」

(なに!?そんな事が出来るのか!)


ハッキリ言ってその時は驚いたが天使たちは列を作るとメノウと握手を交わしていく。

たったあれだけで大丈夫なのかと心配だったがメノウが全員を引き連れて家の共同エリア。

すなわちキッチンやお風呂、トイレなどに行って操作をさせると問題なく扱うことが出来ていた。

それを見て俺はある事が気になり聞いてみる事にする。


「メノウさんや。」

「何かなユウさんや。」

「カエデの時はなんでアキトに任せたんだ?」


するとメノウは急に視線を逸らし以前の様に無駄に上手い口笛を吹き始めた。


「忘れてたのか?」


するとメノウは答えを得たりという感じにこちらに振り向くと「その通りです。」と答えた。

その瞬間、「あ、これは誤魔化したな。」と直感が俺の中で囁く。


(どうせその方が面白いとかそんな事を思ったに違いない。)


メノウは天使の癖に時々平気で嘘をつく。

彼女の力は今も世界中から送られているらしくこの程度の嘘で受けた業などすぐに挽回してしまうからだ。

力の無駄使い以外のなにものでもない。

そう思っているとやはり再び視線を逸らし口笛を吹きながら天使たちを連れてリビングへと戻って行った。


(逃げやがった。)


しかし、知識があってもこの地域は就職難だ。

それに、ブラックな仕事も意外と多いため簡単に仕事を決める訳にはいかない。

彼女達の場合、変な所で仕事を始めるとまさに死んでデーモンになるまで働いてしまう。

その場合、1つのブラックな仕事場がダークな職場に変わってしまう。

下手をすると少し目を離した隙にデーモンとしての力をつけてしまうかもしれない。


「メノウはこいつらをどうするつもりだ?」


そのため、俺は彼女たちのリーダーであるメノウへ率直に聞いてみる事にした。

俺自身も定職に就いている訳ではないので偉そうな事は言えないが。


「彼らは今から世界中を旅してもらいますよ。その為に私の力を分け与えました。困った時や何かあった時は連絡する様に言っておきますので大丈夫です。」


しかし、そうなると一つ心配な事があった。

日本はそれなりに天使や魔物に寛容な所がある。

これはここ最近の小説や漫画、映画によるところが大きい。

それに言葉が通じれば姿が自分と違っても受け入れやすい精神をしている。

流石にホラー要素の高いゾンビや首だけの魔物が現れたらそうはいかないが見た目が人に近い天使などは問題ない。

現に俺達が旅をしている間に行われたメノウとカエデの握手会には長蛇の列が出来ていたらしい。

俺もニュースでは少し見たがあれなら1万人はいたのではないだろうか。

その事をメノウに聞くと彼女からは「大丈夫です」という答えが返って来た。


「ユウさんは忘れているかもしれませんがデーモンは人の中に入れますよね。」

「そうだな。カエデの時に初めて知ったけど。」

「デーモンに出来る事は天使にもできます。危なくなったらそうして人の中に隠れればいいんですよ。何もしなければ誰に天使が入っているかも分かりませんし、いざとなれば私が転移で迎えに行きます。」


それなら大丈夫か?

いざとなれば俺も向かって相手を殲滅すれば良い。

天使が善の存在であると言うのは今や世界的な常識になりつつある。

それに手を出すならそれ相応の報いを受ける覚悟があるのだろう。


「それと、既に数人は働き口が見つかっていますからそちらで働いてもらう事になっています。」


それは驚きだ。

いつの間にそんな話になっていたんだ?

俺達が帰ったのはつい昨日の事だというのに。


「以前から家の前で犬を散歩させてるおじさんとおばさんを知っていますか?」

「どの犬だ?」

「黒いラブラドールです。眼科の先生らしいですね。人手が足りなくて困っているとか。あと、近所の内科の病院からも声が掛かっています。最初は私に来た話ですが他の天使に任せても問題ないでしょう。どちらも魔法を治療に使い始めているので指導員という形で働いてもらいます。」


そう言えば、自警団にも最近レベルを上げて仕事に役立てたいという人が来ているらしい。

戦闘員としては無理でもサポーターとしての役割が担えるため自警団は彼らのレベルアップを手伝っている。

もしもの時に医者に伝があると個人としても安心できるからだろう。


それに医者としても俺達との繋がりや長年に渡り魔法を使用してきた者の知識や経験は自分たちにもプラスになる。

大型の病院も早く変な利権や意地を捨てて広い視野で患者と向かい合って欲しいものだ。


実の所を言うと家の両親が死んだ理由がそれにあたる。

病院の院長が変わり派閥がどうのと言い出したため今まで懇意にして来た先生や優秀な人が別の病院に行ってしまった。

そのため転移に気付かずに癌の発見が遅れてしまい呆気なく死んでしまった。

その時の彼らの言葉は今でも覚えている。


『まさかガンが転移しているとは思わなかった。』


両親は辛い検査と治療を受けて頑張って生きようとした。

それなのに医師はこの一言で終わらせて二人は最後を迎えた。

もう過去の事なのでその事に関する怒りは薄らいでいる。

しかし、こうして醜い姿をさらしているのを見ると怒りが湧いて来てしまう。


(今なら助けられる命も多いだろうな~。ん?別に助けてはいけない理由は無いんじゃないだろうか?)


そんな事が頭を過ったが俺が視線をメノウに戻すと彼女は既に天使を外に出して旅立させ始めていた。

彼女は旅立つ天使たちに手を振りながら彼女たちを見送っている。

そしてその横には10人の天使が残されていた。

するとメノウは振り返り俺に微笑みかけて来る。


「ユウさんの好きにすれば良いと思います。私達はそれを全力でサポートするだけです。」


どうやらメノウは俺の考えを読み取り背中を押してくれるようだ。

なら早速今夜にでも動くとするか。


そして夜になると俺は天使たちを連れて近くの国立病院に潜入した。

こんな所で鍵開けのスキルが役に立つとは思わなかったが相手は現代科学の電子ロックだ。

どうやら数字を押すタイプの様だがよく使う為か使う番号が4カ所ほど擦れて数字が薄くなっている。

俺は鍵開けと直感のスキルに従い4桁の番号を押してみた。


『ピッピッピッピ・・・ピピピピピー。ガチャ!』


どうやら鍵開けには成功したようだ。

入ろうと思えば急患用の入り口はあるがあちらは監視カメラもあり入り口の前に警備員が立っている。

最近はおかしな事を考えて病院に侵入しようとする奴が居るので当然の対応だろう。

それでも入れない事も無いがこっそり入るには向かない。


そして俺はエレベーターを使いこの病院の10階にやって来た。

俺はここで両親を看取ったがあの頃と変わっている様子はない。

この階は安らぎ病棟とも言われ末期癌や余命僅かの人が入院している。

薬で痛みを緩和して苦しまない様にしてあげる場所だ。

そのため、この場所はいつも静かで重い空気が渦巻いている。


俺は一番端の一室に入ると中を見渡した。

すると患者の男性の横には女性がソファーに布団を敷いて寝ている。

ここの患者は何時容態が急変して呼吸が止まるか分からないので病院側の配慮で泊まり込んでいるのだ。

そしてこの人には、もうあまり時間が残されていないのだろう。

恐らくは夫婦なのだと思うが年齢はまだ50代ぐらいだ。

まだこれからという時に運命とは非情である。

そして俺は静かに歩み寄ると隣に眠る女性に声を掛けた。

部屋は暗いが俺の目には彼女の目元が赤く腫れているのが分かる。


「起きてくれないか?」

「誰ですか・・・。」


どうやら彼女は寝ぼけている様だ。

普通は見ず知らずの人間がいれば警戒して当然だが今のところその気配は無い。

日頃からあまり眠れていないのかもしれないな。


「この患者を助けたいか?それともこのまま死なせてやるのが望みか?」


人によっては家族でも生きていると困るという人がいるかもしれない。

その為に俺は審問のスキルも使い彼女に問いかける。

患者には悪いが既に彼にはまともな意識はない。

もしここで彼女が死んでほしいと思っているなら助けるのは控えるつもりだ。


「助かって欲しいわ。」

「そうか。なら少し眠っていろ。」


俺は彼女を魔法で寝むらせると点滴のチューブを引き抜いた。

これには麻薬に似た強い鎮痛効果がある。

今の彼には無くてはならない物だが元気な体になれば必要無くなるものだ。

そして俺は天使たちに向くと確認を行った。


「お前らの中でこの人を救える奴はいるか?」


すると付いて来ていた10人が同じように手を上げる。

どうやら彼らに治療を任せても大丈夫そうだ。

俺は適当に白魔法で彼の手術痕等を治しておき、天使たちの負担を減らす。

最悪でも秘薬は沢山あるのでそれを使えば失った臓器も取り戻すことが出来る。

天使たちはメノウから力を分けてもらっているので一人くらいを全快にしても余裕はあるだろう。


「なら、お前に任せる。治療が終わったら俺の所に戻って来い。」

「分かりました。」


そして俺達はその後10人の患者を治療してその日は家に帰る事にした。

ただしこの場には天使を一人だけ残している。

無いとは思うが明日以降に起こるかもしれない最悪を考慮しての事だ。

その天使は最初に治療した女性に潜ませているので明日には結果が出るだろう。

そして次の日、メノウの所にその天使から連絡が届いた。


「ユウさん。彼女から連絡が来ました。」

「連絡があったという事は病院側が馬鹿をやったな。」

「はい。朝になって元気になった患者を再検査したそうです。しかし、検査結果では病気は治っておらず、今は興奮して痛みが無いだけだと再び点滴を始めたそうです。」


点滴には麻薬と同じく相手の意思を鈍らせる働きがある。

一度、薬が効き始めれば本人は喋る事も出来ない。

どうやら、奴等は俺が想定した最悪を行った様だ。

あのままだと薬漬けにされてしまい下手をすれば死んでしまう。

しかも、余命も短い相手なので治った事を認めないために何かの手段で殺される可能性もある。


「俺はすぐに動く。」

「分かりました。」


俺は外に出ながら携帯を取り出して、以前に知り合ったテレビ局の社長に電話を掛けた。


『君から電話がまた来るとは思わなかったよ。』

「話したい事がある。時間を空けてくれるか?」

『特ダネか?』

「ああ、現在の医療機関に本気でメスを入れられるぞ。」

『分かった。ちょっと君。』


俺の言葉の後に電話から社長の声が洩れ聞こえて来る。

どうやら近くに秘書か誰かがいた様だ。


「今日の私の予定を全てキャンセルしてくれ。それと今から大事な客が来る。それとニュースをいつでも特番に差し替えられるように手配しておけ。日本が動くぞ。」


なにやら大事になり始めているがそれなら俺も少し本気を出すか。

俺はその為に電話の先の社長へと問いかけた。


「それで、何が必要だ?」

「証拠と証言者。それと当事者と家族。それだけあれば完璧だ。」

「任せろ。」


俺は病院へ行くとまずは昨日会った夫婦の部屋に行った。

ここの監視はザルなので家族以外の者が来ても親戚と思われる。

そして部屋に入ると昨日眠っていた女性が再び涙を流し、ベットで寝る男の横に座っていた。


「昨日ぶりだな。」

「あ、あなたは。それにその声。もしかして昨日のは夢ではなかったのですか?」

「ああ、その人の病気は完治している。それはそこの天使が証明してくれる。」


すると彼女の胸元から光の玉が飛び出し小さな天使の姿へと変わった。

それを見て女性は涙を一瞬止めるが再び手で顔を覆う。


「でもお医者様は気のせいだって。それにこの人もまたこんなになってしまって。」


彼女の言葉の通り、男性は目は開いているが焦点は定まっておらず呆けた様な顔をしている。

その為俺は再び点滴を引き抜き魔法で薬を消し去った。

ハッキリ言って用途は薬となっているが健康な体には毒と変わらない。

その為解毒の魔法で簡単に消し去ることが出来る。

薬が消えると男は意識がハッキリしてきたのか俺を見て声を上げた。


「お前は誰だ。何故ここにいる。」

「俺はあんたの病気を治すために昨日の夜ここに来た。でも病院側があんたが健康だと認めようとしない事を知ってもう一度来たって訳だ。その気があるなら今からここを脱出するぞ。」


すると男は歯を食いしばり拳を握り締めた。

どうやら彼には既に健康になった確信があったようだ。


「やはりそうか。以前まで体にあったあった怠さや痛みが完全に消えていたからな。それで、逃げて何処へ行くつもりだ。」

「テレビ局だ。」


俺はニヤリと笑いその行先を告げた。

すると男もニヤリと笑って返し女性は口に手を当てて驚いた。


「こうなったら最後まで付き合ってやるよ!」

「そうね。驚いたけどあなたが無事に家に帰れるなら何処にでも行くわ。」


どうやら夫婦そろって肝は太い様だ。

俺は仕込みをするために連れて来た天使たちに声を掛ける。


「メノウには言っておくからこの人たちを家に運んでくれ。その後はテレビ局に先に行っておいてくれ。」

「分かりました。」


そして天使は3人がかりで彼らを抱えると窓から飛び出した。


「ちょ、マジかこれ。お前何もんだよ。」

「フフフ。まるでおとぎの国みたいね。」

(ホント、あの奥さんは図太いな。ここは一応ビルの10階なんだけどな。)


そして俺は探索のスキルを使い、今回再検査をした結果がある場所を特定した。

さらに周りに気付かれない様に行動するため気配遮断のスキルも使用し移動を行う。

どうやら検査資料はこの階には無い様でここから少し離れた場所にある。

そこには3人の人間が居る様で確認するとどうやらこの病院の医師と院長の様だ。

俺は急いでそこに向かうと携帯を取り出しいつでも会話が録音できる状態にしておく。

そして部屋に入ると俺は録音をはじめ男たちのすぐ後ろに立った。

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