表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/225

12 東京二日目

朝起きると俺達は朝食を取りにレストランに向かった。

するとそこには支配人がおり予約もしていないのに個室に案内してくれる。

そして部屋に入ると支配人は深く頭を下げお礼を言って来た。


「昨日はありがとうございます。噂は耳にしていましたがまさかあそこまで効力があるとは思いませんでした。」


支配人が言うには俺達が帰った後に魔物が現れホテルの入り口に近づいて来たらしい。

いつもは従業員がなんとか追い払っていたらしいのだが昨夜は結界のおかげで入って来る事が出来ずに諦めて去って行ったという。

そのおかげで夜の危険が減り今後の集客も見込めると喜んでいた。

さすがは日本の中心地とも言われる東京なだけはある

こんな状況でも観光客はそれなりに訪れるので安全の面から結界石は欠かせないらしい。

しかし、結界石は魔石を燃料にしているのでその調達を考えれば戦える者は必要になる。

いまだに売られている魔石は見た事が無いのでその辺りの事だけはしっかり伝えておかないといけない。


「結界石は魔物を倒した時に落とす魔石を燃料にしているのは既に説明をしましたね。

「はい。数日分は分けて貰いましたがその後はどうしようかと皆で話し合っています。買う事が出来れば良いのですが今の状況での過度の出費は経営に関わります。」


きっと他で売られていない事を良い事に高額な料金を吹っ掛けられる事を危惧しているのだろう。

売る側にもそれなりの言い分があり、明確な価値さえ定まっていないので支配人が心配になるのも無理がない。

それに日頃でもそう言うのを狙った買い占めや転売が横行しているとニュースやネットでも問題になっている。

どんな形であれ需要に対して供給が間に合わなければ自然と価値が高まり価格が上がるのも消費社会では当然の事だ。

そうなるとこの心配を解消する手段は1つしかない。


「このホテルで戦える者はいますか?一つで10日は持ちますがそれでも月の消費は15個になります。余裕を持てばその倍の30個は魔物を倒してストックしておかないと何か問題が起きた時に結界石が使えなくなってしまいますよ。」

「た、確かに・・・。」


ちなみに『何か』と明確には言っていないがその中には対処が不可能な程の魔物の大量発生も含まれている。

それに今は前例の無い事が起きているので予想もしていない事が起きるかもしれない。

そうなった時にここが避難所となる可能性もあり、そうなった時の備えも必要だ。

時間さえ稼いでくれれば俺達の様な魔物と戦う一般人だけでなく、政府も重い腰を上げて自衛隊の出動要請をしてくれるだろう。

そしてその辺の事を話すと支配人は頷き外にいる者に声を掛けた。


「すぐに魔物と戦った経験がある従業員がいないか探してくれ。」

「居ない時は希望者でも良いですよ。今晩にでも一緒に街に出て魔物との戦いを経験してもらいます。」

「ありがとうございます!聞いていたな。いない時は希望者でも構わん。その者には特別手当を出すと言え。」

「分かりました。すぐに聞いて回ります。」


そして、指示を出した支配人は大きく息を吐き出すとこちらへと戻って来た。

急な話となったが今の状況では誰かに売って貰う位なら自分達で調達した方が確実だ。

5つくらいならすぐに集められるし、いざと言う時には戦力の確保にもなる。

もちろん最初は魔物を殺す事に戸惑ったり恐怖を感じるだろうが一番最初の危険な所は俺達が同行してフォローしてやれば良い。

もしそれで自分には合わないと分かれば諦めて普通の従業員として働けば良いだけだ。


「色々ありがとうございます。あなた達が滞在中は当ホテルのコックが腕を振るって美味しい料理を提供させて頂きます。どうかお楽しみください。」


「美味しい料理!」(ジュルリ)

「わ~い。美味しいご飯だ~。」

「フフ、こちらの料理は美味しいので楽しみですね。」

「なんだか少し前と生活が全然違って少し怖いです。」


それに今が大変な日々であるのは誰もが同じだが、うちのメンバーはそれぞれに楽しんでくれているようだ。

支配人の計らいに感謝して昨日手に入れた魔石の一部を料金の代わりにプレゼントしておこう。

善行には善行で、悪行には悪行で返すのが俺のポリシーだ。

それと明日に備えて今日は狩りはしない予定だったがもしやる気がある者がいれば出る事になりそうだ。

それに昨日の狩りでここにもコボルトがいたので防具と武器に関しても十分な数が揃っている。

必要ならライラに修復してもらって進呈しよう。

アイツも美味い飯の礼なら喜んで作業してくれるだろうからな。

しかし、本来こういう事は政府が軸になって進めてもらいたい。

個人でやるには限界があるし数が多すぎて追いつかないからだ。

彼らも最近は下がり続けている支持率が上がって良いと思うのだが・・・。


(まあ、明日になれば答えが出るか。)


そして俺達が食事を終えるころ再び支配人が俺達の前に現れた。

その顔には明確に困ったという表情が張り付いているので今夜の手伝いは確定のようだな。

態度からして言い難そうなのでこちらから提案しておこう。


「経験者がいなかったみたいですね。」

「はい。それでですがどういった物が必要なのか教えて頂けますか。可能な限りで急いで揃えてみます。」

「それなら装備も此方で用意してあるので数を言ってください。サイズの調整もある程度は出来ますしやる気さえあれば問題ありません。」


すると支配人は沈んでいた顔に光が差したように変わり、お礼の言葉を口にして頭を下げると部屋を飛び出して行った。

見た目60歳に近そうなのに元気な人だ。

そして俺達はこれから外出すると伝えるとホテルが車を準備してくれた。

大きな黒いワゴン車で俺達5人が乗っても十分な余裕がある。

事前に行きたい所を聞くと皆食べ歩きで良いらしい。

その事を運転手に伝えると快く承諾してくれた。


「それなら浅草が良いですね。今は観光客が減っているので土曜ですがのんびり回れると思いますよ。」


東京の人と俺達とではのんびりの定義は違うが、まあ期待せずに行く事にする。

そう言えばこの人は店の案内が出来るのだろうか。

浅草には数多くの店があるのでガイドブックも無くそこを回るとなるとかなり面倒臭い。


(一応聞いてみるか。)


「あなたは浅草の案内が出来ますか?」

「ん?ああ、確かにあそこは初めての人には少しキツイですね。それなら俺の知り合いにガイドをしてる人がいるので頼んでみますよ。」


そう言って運転手はいったん車を止めて電話を掛け始めた。

客である俺達を乗せているので当たり前だが、最近は『ながら運転』をしているのを見つかるとすぐに捕まってしまう。

こういう所には普段の行動が出るので日頃から安全運転を心がけているに違いない。

もしかすると誰か大事な人を頻繁に車に乗せる機会があるのかもしれないな。

そして相手が電話に出たようで、俺達に対してとは違い砕けた感じに話し始めた。


來未クミか。仕事の依頼なんだが・・・。ああ、分かった。あと少しで着くからその後は頼む。」


すると運転手は携帯を切り再び車を走らせ始めた。

そして、走りながら前を見ながら慣れた感じにこれからの事を説明してくれる。


「連絡が付いたから到着後の案内はそいつがしてくれます。出来ればチップは弾んでやってください。」

「金額は決まってないので?」

「個人でやってる案内人で最近始めたのですが生活費を稼ぐのが目的なんですよ。」


しかし、生活費と言っても東京は俺の地元と違って物価も高く、賃貸で生活しているのだとすると簡単に稼げる金額ではない。

するとその思いが顔に出ていたのか運転手は苦笑いをすると説明を付け加えてくれた。


「先日魔物の被害で仕事をリストラされたんですよ。それで良く知っている浅草の案内をして小銭を稼いでるいるんです。まあ、逞しい奴だからきっと大丈夫ですよ。その・・・俺も付いてますし。」


すると運転手は最後は小声で言っていたが俺達には丸聞こえだ。

そして俺はニマニマした顔を運転手に向け片肘で揶揄う様に二の腕辺りをグリグリと突いてやる。

周りのみんなは羨ましそうな視線を向けるが、何故かその後に俺に視線を向けてジッと見て来る。。


(なぜそんな目で俺を見る?)


ホロにはたくさん愛情を注いでいるし、他の3人は行き場のないただの居候だ。

生活基盤が確立すれば出て行くのだろうからそんな目で見られる理由が思いつかない。


そして俺が疑問に思っていると車は浅草に到着し運転手は再びクミという案内人へと連絡を入れる。

するとすぐにこちらを見つけてくれたので簡単に合流する事が出来た。


「すまないな急な話で。」

「いいのよ。真治シンジのおかげで今日もご飯代が稼げるわ。いつも気にかけてくれてありがとね。」


すると運転手のシンジは鼻の下を指でこするとニカリと笑って返した。

しかし、てっきり恋人みたいな関係かと思っていたがもしかして片思いだったりするのだろうか。


「気にするな。お前も頑張れよ。それと困った時は俺に連絡するんだぞ。」


そしてシンジは軽く会話をしただけで車を走らせて去って行った。

ちなみに彼女は日本人らしい黒髪を短めに整えていたスポーツ少女という印象を受ける。

体の肉付きも良く、歩き方にもブレが無いので体幹も良さそうだ。

そして彼女の体つきを観察しているとクミから声を掛けて来た。

すこしジロジロ見ていたので不快にさせていないか心配になったが、まずは必要な事なので東京に来るのが初めてである事を伝えておく。

こういう時に見栄を張っても話が合わずに案内人を困らせてしまうだけだろう。


「そう、浅草どころか東京も初めてなのね・・・。なら今日は色々案内してあげるから食べ歩きなら私に任せなさい。」


そしてクミは一瞬何かに悩んだような表情を見せたがすぐに笑顔に戻り俺達を案内してくれる。

その後はクミの案内でこの近辺を回り、美味しい餡菓子や団子などを堪能し腹を膨らませる事が出来た。

しかし女性にとって甘い物は別腹と言うが、ライラは少し食べ過ぎだろう。

どの店でも常に3人前は注文し店員を驚かせていた。

まあ、もちろんそれにホロも加わっていた事は言うまでもないだろう。


そして時間が来たのでシンジに連絡してもらい迎えを頼むと車を降りた場所に向かい歩き出した。


「ねえ・・・その・・・何号室に泊まってるの?」


するとクミは何かを悩んだ末に不安そうな顔で俺の部屋番号を聞いて来る。

ただ別に隠す事では無いので俺は普通に答えておいたが、クミは不安そうな顔を深めて口を噤んでしまった。


「どうしたんだ?」

「何でもな~い。ちょっと気になっただけ~。」


しかし、クミはお道化て見せているがその手が微かに震えているのを俺は見過ごさなかった。

馬鹿な事を考えてなければ良いが、それは俺が決める事ではない。

もし俺の予想が当たっていたとすれば魔物と戦う以上の覚悟をしているという事だ。


そしてホテルに帰って夕方になると希望者がロビーに集まって来た。

その数は10人で男が6に女が4だ。

その中にはシンジも含まれており全員が俺が渡した鎧と剣で武装していた。

更に俺は彼らにリストを渡し俺達の経験した事から必要そうな装備品を教えておく。

後は彼ら次第になるが必要に思えば買うだろうし、そうでなければ買わないだろう。

俺としては怪我をしたり死なないように早い段階で購入してほしいところだ。


そして外へと狩りに出かけると、俺が弱らせた魔物を彼らに倒させステータスを得てもらう。

どうやらここに来ている誰もが既に覚悟を決めていたのか躊躇いながらも魔物に止めを刺してくれる。

それにここの魔物は俺の地元よりも強いので低レベルの彼らはみるみるレベルを上げて行った。

その後も付近の魔物を狩って行き、3時間ほどで全員をレベル3まで上げることが出来た。

そこまでしてやれば戦うためのスキルは十分に手に入れることが出来る。

時刻も20時過ぎとなったので明日の事もありそろそろホテルに帰る事になった。


俺はマップを確認し安全な道を通ってホテルに向かって行く。

出来れば魔物が多くいる場所を通って帰りたいが俺の後ろには尾行者が一人付いている。

しかしこの魔物が大量に徘徊している時間に一人で歩くなんて自殺行為としか言えず、下手をすれば確実に死ぬ。

そしてホテルに帰った俺は食事を断り部屋に戻った。

そして部屋に備え付けの風呂で汗を流し服を着替えてベットに座りしばしの時間ゆっくりとした時間を過ごした。

するとマップに映っていた反応が動き扉の前に来るとノックをして来た。


「誰だ?」


マップで誰かは分かっているが、それでもあえて強めな口調で問い掛ける。

しかし、これで帰るならそれに越したことは無かったが、その希望は簡単に打ち砕かれた。


「クミよ。遊びに来たの。」


しかし遊びに来るにしては遅く時刻は既に夜の21時だ。

それにここは男が一人で泊っている部屋でどう考えても遊びに来たとは思えない。

そして俺は立ち上がって扉を開けると睨むようにクミを見つめる。

そこに昼間の優しい俺は存在せず、威圧を込めた目でクミを委縮させる。


(レベル1・・・2・・・3・・・。まだ帰らないのか。)


しかしクミは顔色を悪くし目に涙を浮かべても帰ろうとしない。

どうやら余程の覚悟でここに来た様で俺は心の中で大きな溜息を零した。


(一般人ならレベル2で普通は逃げ出すんだけどな。童貞の俺にこの状況をどうしろって言うんだよ?)

「まあ良い・・・入れ。」


しかしこのまま放置して他に行ってしまうと更に面倒になる。

俺は仕方なく威圧を解いてクミを部屋に招き入れる事にした。

そして扉を閉めて奥に戻るとクミが口を開くのを待ち続ける。

ハッキリ言って目的は分かるが俺からどう切り出せば良いのかが分からない。

変な受け取られ方をして誤解されても困るし、勘違いで本当に遊びに来たのならまさに命取りだ。

しかし、クミが口を開くと俺が予想していた悪い方の目的でここに来た事がすぐに分かった。


「あ、あの・・・、その・・・、わ、私を・・・私を一晩買ってください。」


そして最後は叫ぶような勢いでクミは言い切ると震える手で自分の服を握り締めた。

それに顔には昼間見たような不安がハッキリと見えており足も震えている。


「シンジは知っているのか?」


すると俺の言葉を聞いたクミはビクリと肩を跳ねさせ目を逸らした。

どうやらミクの独断の様でこんな事をするのも今日が初めてなのかもしれない

しかし、俺はシンジとの会話でクミへの思いを既に知っている。

それにおそらくクミも同じようにシンジを思っていると感じている。

それは昼間に一緒に行動して話していれば何となく伝わって来た。

それでもこうして俺の所に来たと言う事は何か事情があるのだろう。


「それなら質問を変えよう。お前はいつもこんな事をしてるのか?」


するとミクは俺を見て目に涙を浮かべて首を横に振った。

それならここで止めればシンジを裏切った事にはならないだろう。

しかし、クミも覚悟を決めてここに来ているので簡単に引き下がる気はないようだ。

そして必死に質問に答えようと口を開き途切れ途切れに言葉を並べた。


「初めて・・・です。それにまだ男性経験も無いの。だから・・優しくしてください。」


俺は大きな溜息を零し内心で頭を抱えた。

ちなみに世間でどう思われていようと異性を買う人間や売る人間を否定したりしない。

それが成り立つ社会と仕組みがあるのだからそれは必要な事なのだろうと思う。

でも目の前のクミは少し違う。

状況的にそれしか方法が無いのだとしても、本人が望んでいない事をするのは俺の主義に大きく反する。

しかし、このまま帰してもそれは何の解決にもならない。

なのでここはまず、色々試してみるしかないだろう。

その為に俺は今夜一晩だけクミを買う事にした。


「・・・わかった。お前を買ってやる。それで何が出来る?」

「あ、その・・・初めてだからリードしてくれると・・・助かります。」


するとクミは体を小さくして縋る様な視線を向けて来た。

それなら俺は立ち上がるとクミに近寄り腕や足を掴んで肉付きを確認する。


「う、そんな強くしたら。」


思った通りかなり鍛えているようで筋肉は俺よりも引き締まっているのではないだろうか。

無駄な贅肉も付いておらず、ウエスト周りも引き締まり指も太くてガッチリしている。


「普段は何をしている?」

「私生活の事はちょっと・・・。」

「勘違いするな。何か運動をしているだろ。」

「は、はい。ここ数年はボルダリングをしています。街中に大きなクライミングジムがあるので。」


体が鍛えられているのはそのせいか。

壁を上る為には体中の筋肉を使うし柔軟性も必要だ。

これなら体は最初から出来てそうなので魔物とも十分に戦えるだろう。

もしかするとステータスを取ると初めからスキルにレベル2か3があるかもしれない。


「あの、シャワーを浴びさせてください。」

「必要ない。その場に座れ。」

「え、そんな、いきなり・・・。」

「いいから座れお前は朝まで俺の所有物だ。そのつもりで声を掛けたんだろう。」

「・・・はい。」


するとクミは涙目でその場に座ると俺はそのまま背中に回る。


「足を開いてみろ。」

「・・・・・。」


クミは口答えを止めると俺が指示を出した通りに足を真横に開いて見せる。

それだけで高い柔軟性が見て取れるので背中に手を当てるとそのまま前にゆっくり押した。

するとミクはペタリと床に胸を付けるくらいまで倒れ平然とした顔をしている。


「あの、さっきから何をしているのですか?」

「ん?ああこれから外に出かけようと思ってな。」


するとクミは目を見開いて震え出した。

どうしたのだろうかと見ると震える声が聞こえて来る。


「い、いきなり外で・・・するんですか。あの初めては室内で・・・。」


しかし流石の俺もそろそろ我慢の限界がきたようで出かける目的をクミに伝える事にした。

さっきからエロい事は何一つしていないのにどうしてここまで勘違いが出来るんだ!?


「何を勘違いしているんだ。外に出るのは魔物を倒しに行くためだ。いいから準備しろ。」


俺はそう言ってクミを立たせると残っていた防具と剣を取り出した。

しかし説明したのに意味が分からないのか慌てて聞き返して来る。


「え、なんで?どういう事ですか?」

「今はとにかく付いて来い。こんな事を決意する度胸があるなら魔物と戦う位はどうって事は無いだろ。」


そして鎧と剣を装備させるとクミを引連れてロビーに向かった。

しかし現在の俺はいつものパーティを解除している。

そして今の俺のパーティメンバーは今回の事に関して重要人物であるシンジだけだ。

こうなる事を予想してあいつだけはパーティから外さず1階で待機させていた。

それにアイツにはクミが自衛のために力を手に入れたがっていると事前に伝えてある。

あくまで俺の所に来た理由はその相談をするためだと言ってあるので変に勘ぐったりはしないだろう。


そして1階に下りたクミはシンジと顔を合わせ手を拳の形にして強く握り締めた。

それだけで罪悪感を感じているのは明白だ。

しかし、全てが未遂に終わった今となってはそんな物は何の意味も持たない。

ここは意識を切り替えてもらわなければ最悪死ぬ事もあり得る。

なので俺はクミの背中を強く押すとシンジにクミを押し付けた。

二人は顔を赤くして見つめ合っているが夜は長いようで短い。

早くしなければ二人の顔のような真っ赤な太陽が顔を出してしまう事になる。


「急ぐぞ。シンジ、お前はバイクで出勤していたな。すぐにクミを乗せて俺に付いて来い。いいか50メートル以上離れるなよ。」

「分かった。」


この50メートルとはパーティで経験値を共有できる距離の事だ。

ライラの世界では既に検証がされていたため調べる手間が省けて助かった。


そして俺達は外に出ると魔物が密集している場所へと向かう。

そこには昨日倒した魔物の他にも新たな魔物として豚の魔物であるオークが居る。

新しい相手だが危険感知に反応はない。

そして周囲からはゴブリン、コボルト、シャドーマンとウジャウジャ湧いて来る。俺のマップにもかなりの数が確認されまさに入れ食い状態だ。

これだけではまだ足らないかもしれないが、今日のクミは俺が一晩買ったのだから存分に働いてもらおう。


そしてどうやらゴブリンとオークはクミを狙っているようだ。

好都合な事なので彼女には囮になってもらう事にした。


「クミ、絶対にシンジを離すなよ。シンジもヤバくなったら逃げるのは良いがクミを絶対に離すんじゃないぞ。」

「はい!」

「一生離さねえよ!」


(おい!こんな所で変なフラグを立てるんじゃない!もしここで死んだらどうするんだ!)


「・・・よし、それじゃクミ。最初に説明した様に奴に石を投げつけろ。」


するとクミはポケットから拳くらいの石を取り出し近くにいた魔物に投げつけた。

これで条件が揃ったのでアイツを殺せばクミにもステータスが手に入る。

その後の事もシンジとクミには既に説明してあるので問題は無いはずだ。

俺は並列思考で周りを確認しシンジたちに指示を出しながら戦闘を始めた。

二人は恋人の様に強く手を握り俺はそれを確認しながらスキルを習得する


二刀流1→10

魔刃1→10


俺は両手に日本刀を手にするとそれを魔刃で覆って強化し魔物を次々に切り裂いていく。

ちなみに魔刃はそれを込めた武器の強度と威力を高める効果がある。

今回は数が多いのでポイントを使ってスキルを取得し一気に殲滅する。


(ああ、こんな時にアニメで見た斬馬刀があればな。今度ライラに作ってもらおうかな?)


そんな事を考えながら俺は寄って来たオークの棍棒を刀で切り飛ばし更に反対の刀で胴を切って両断する。

どうやら魔刃は刀身を覆うだけでなく伸ばしてリーチを長くする事も出来るみたいだ。

これなら使い慣れるとかなり便利なスキルになるだろう。


そして俺は全力で暴れ回り蹂躙を開始した。

1匹目を倒すとすぐにクミからパーティの加入要請が来たので了承もしておく。


その後は作業の様なもので騒ぎを聞きつけた魔物が次から次に寄って来る。

それでも魔刃のおかげで魔物は防具を着ていても豆腐の様に切ることが出来るので一撃で始末が出来る。

それに攻撃範囲も伸ばせるので一度に複数の敵を倒す事も可能だ。

最近はスキルが体に馴染んで来たのでレベル通りの実力が発揮できるようになってきた。

最初はいきなり得た力に体や感覚が付いてこれずレベル通りの実力が発揮できなかったのだ。

しかし、最近のハードワークのおかげで少しは強くなれた気がする。

ただライラが言うにはレベル10の実力はこの程度ではないので俺にはまだまだ先がありそうだ。

しかし、スキルのおかげで通常ではありえない勢いで強くなっていた。

そして100近くいた魔物の群れは数分で消え去り足元には大量の魔石が転がっている。

後はこれを回収しないと何処にも行く事が出来ない。

そのため、俺が見張りをして二人には魔石拾いをお願いする。


「よし、魔石を拾って次に行くぞ。お前らもイチャイチャするのは拾い終えた後にしろ。」


二人は俺に言われて今にもキスが出来そうな距離にまで顔が近づいていた事に気付く。

すると二人は再び顔を赤く染めると互いに離れて俺の言った通り魔石を集め始めた。

すでにこの周囲に魔物はいないが俺は念のために周囲を警戒する。

もしかすると投擲をしてくる敵がいるかもしれないし魔法だって使う奴がいるかもしれない。

それに地元の牧場で倒したホブ以外は上位種を見ていないが確実に存在はしている。

それらの中には弓や魔法を得意とする者もいるとライラが言っていたので注意は怠りたくない。

そして暫くすると魔石を拾い終えたのでそれを回収すると再び走り出した。

夜の東京は昼間と違いイルミネーションに彩られていて美しい。

こんな時でなければホロ達も連れて来たかった。

俺達はイルミネーションに照らされた中で魔物を狩り続けた。

昼間に行った浅草。

少し前まで日本最大の電波塔だった東京タワー。

今でも多くのお客が来るスカイツリー。

子供たちの夢の結晶ディズニーランド。

そしてそれらを周りきる頃には2人のレベルは軽く10を超えていた。

そして俺はここでパワーレベリングを切り上げてホテルに帰る事にする。


(結局、誰とも遭遇しなかったな。)


俺は確認の意味も込めて周囲の主要施設を回ったが国の機関と思われる戦闘員は誰もいなかった。

居たのは少数でチームを組んで魔物を少しずつ間引いている人や遊び感覚で魔物を狩っている不良連中くらいだ。

これは明日、本当に気合を入れないといけないかもしれない。

そして俺はホテルに帰るとロビーに二人を座らせた。

クミもレベルが11まで上がったので100のスキルポイントがあるはずだ。

そのため俺はクミにスキルについて質問する。


「確か必要なのは魔道具作成と錬金と魔法陣だったか。そのスキルはあるか?」


するとクミはステータスを開きそこに視線を走らせて言われたスキルを探し始めた。

しかし人によって習得可能なスキルが違うので実際に確認するまでは分からない。

それでもそれがあれば彼女の道が開ける事になる。


「アニメの制作会社で仕事してたからありそうですけど。」


そんな独り言を言いながらクミはスキルを探し視線を動かしている。

そして少ししてパッと顔に花が咲いたような笑顔が生まれ繋いでいたシンジの手を強く握り締める。

しかし、、ボルダリングによって鍛えられた握力は強烈な様でシンジは顔を引き攣らせて耐えるような笑みを浮かべている。


「あ、ありました!これを習得すればいいのですか!?」

「ああ、それをレベル3まで上げてくれ。それとシンジ。頼みがあるんだがライラを呼んでくれないか。」

「分かった少し待っててくれ。」


ただこのままではシンジの手が使い物にならなくなりそうなので助け舟を出してやる事にする。

そしてシンジは立ち上がると自然な動きで繋いでいた手を解き、ロビー受付にある電話へと向かっていった。

あそこにいるスタッフに頼んで電話を使わせてもらうか、顔見知りだろうから頼んで呼び出してもらうのだろう。

その間に俺は小声でミクに話しかけさっきの事について伝えておく。


「俺の部屋に来た事は無かった事にする。いいな。」


するとミクは俯く様に小さく頷くと下唇を噛んで了承した。

実際に部屋に入れただけで他人に咎められるような事は互いにしておらず、問題なのは本人たちの気持ちだけだ。

俺は今回の事は蚊に刺された程度にしか思っていないので後の問題はクミだけという事になる。

そして、クミもなんとか気持ちを呑み込んで納得してくれたので次の話に移る事にした。


「よし、それならこれからの事はライラが来てから話す。しかし言っておくが楽が出来るとは思うなよ。この地域で結界石が作れるのはお前だけだからしっかり仕事を覚えて今日の借りを返してもらうからな。」


俺は先程までとは完全に雰囲気を変え口角を吊り上げて笑うとクミは目をパチクリして俺を見つめた。

そしてクスリと笑い「はい」と答えるとシンジに視線を移しようやく笑顔を浮かべる。


「今日はありがとうございました。」


そしてその声はとても小さかったがとても晴れやかに聞こえた。

その後シンジが戻ってくると少ししてライラも現れ本格的な話へと移って行った。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうやらミクの独断の様でこんな事をするのも今日が初めてなのかもしれない →どうやら、クミの独断の様で、こんな事をするのも今日が初めてなのかもしれない。
[気になる点] ステータスを得たときのボーナスでスキルがいくつか取れるようですね。 スキルポイントは1レベルアップにつき+10で固定ですか? 【3 チートスキルを手に入れました】より 〉そして俺と同じ…
[一言] それにおそらくミクも同じように →それに、恐らくクミも同じ様に
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ