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117 食事会

俺は集まって来た兵士たちにまずは声を掛けた。

彼らにも食べてもらうがまずは先に食べさせたい人達が居る。


「お前らの分は別に作るからまずはあの老人たちが先だ。彼らをここまで運んできてくれ。」


すると兵士たちは目の色を変え老人たちの許に走って行った。

老人たちは馬車を見送るためにここから少し離れた所に座り込んでいる。

その背中は少し寂しそうだが急に兵士たちに取り囲まれて目を白黒させた。

そして兵士の数は300人程。

それに対して老人たちは100人しかいない。

彼らは兵士たちにまるで胴上げの様に抱えられ俺達の近くへと下ろされていった。


「怪我人の上に老人なんだからもっと丁寧に運べ。」


すると俺の言葉で今頃気付いたのか彼らは揃って苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

しかし日頃かそういう訓練でもしているのか動きがシンクロしている。

この国の兵士はいったいどんな訓練を受けているのだろうか。


そして料理は完成し、メノウとクリスは次の支度へと移って行った。

後は俺達でもどうにか出来るのでここからはこちらで配膳を行う。


「1人一杯なんてケチな事は言わない。腹いっぱい食ってくれ。」


すると一人の老人が全員を代表して話しかけて来た。

その目は俺の持っているスープをチラチラ見ているが、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「若いの。この役立たずな儂らに飯を食わせても何も返せんぞ。」


すると周りの者も頷き肩を落としている。

確かにそうかもしれないがこれはちょっとしたボランティアなので自己満足と言い換えても良い。

そのため見返りは彼らの笑顔で十分だ。


「何か返そうとか考えなくても良い。目の前に飯があってそれを笑顔で食べてくれれば十分だ。今は失った体力を取り戻す事だけを考えてくれ。」

「そうか、そんな事を言われたのは何年振りか。それならありがたく食わしてもらおう。」


そう言って老人たちはお椀とスプーンを受け取って食べ始めた。

しかし、その光景は異常で次第に手の動きは早くなり誰も言葉を喋らない。

しかも食べ終わると、まるで元気が爆発した様に立ち上がった。


「お替りじゃ。こんな美味いもん、もう一生喰えんぞ。」

「私もよ。もっと食べたいわ。」

「ええーい、何をしておる。儂は這ってでもお替りに行くぞ。」


そしてまるで老人たちは元気なゾンビの様に地面を這ってでも動き出した。

それを見て兵士たちは止めに入るが老人たちの鬼気迫る顔に足を止め仕方なく入れ物を受け取るとお替りを注ぎに行った。

しかし、それでは遅いとみて兵士たちは鍋を抱えるとそのまま注ぎ始める。


そしてその様子に俺は畑の様子を確認しようと視線を動かした。

しかしそこにはいつもと少し違う植物が生い茂っている。

驚く事に既にそこには芽ではなく成長しきったレコベリーの様な植物が出来ていたのだ。

しかし、レコベリーとは緑の茎と葉、そして紫の実をつける。

だが畑にあるのは実だけではなく葉や茎まで全体が真っ赤な植物だった。

それにライラとアリシアも気付いた様で急いで畑へと向かって行く。


「これは・・・!?」

「もしかして突然変異ですか!?」


ライラの驚いた顔にアリシアはすかさず確認をとる。

突然変異と聞こえたが、まさか変な物が出来てないだろうな。


「ええ、まったくの新種よ。まだ名前も付いていないわ。きっとさっき流れてた血を吸ったからね。」


するとライラの言葉にアリシアは目を見開いて驚愕する。

スキルによる鑑定とは世界に刻まれた情報を読み解く物だ。

そして、名前に関しては初めに名前を付けるとそれが世界に刻まれ、それ以降は永遠にその名が使われることになる。


「なら何て呼べば・・・。」


そんな中、俺は二人の話を聞いてある事を思いついた。

俺達の世界ではこういう時に発見者の名前が付けられる事もある。

なら、二人の名前から取れば良いだろう。


「ならライシアが語呂が良さそうだな。」

「ちょ、ユウなんてこと言ってるの・・・!あーーー!!!」

「ラ、ライラさんもしかして・・・。」


ライラの叫び声にアリシアは恐る恐る問いかけた。

するとライラは肩を落としながらアリシアにコクリと頷きを返す。


「名前が付いちゃった。もう何があっても変えられない。」

「よかったな二人とも。これで全部じゃないけど名前が永遠に残るんだろ。」


するとライラは真っ赤な顔で目を吊上げ俺の首を前後に激しく揺すり始めた。

どうやらあまりの感動に理性を失ったようだ。


「それが恥ずかしいって分かってるでしょ!だから普通は別の名前を考えるのよ!」

「それならいいじゃないか。それにこれがレコベリーじゃないならエルフの掟も完全無視できるだろ。元々無視してるけど。」


するとライラは涙目になりながらも「ムググ~!」と口をムグムグさせながら手を放して溜息を付いた。


「あんまり溜息をつくと幸せが逃げるって言うぞ。」

「ユウは私から離れて行く気があるの?」

「無いな。」


俺の即答にライラは顔を赤くして今度はニマニマすると急に抱き着いてきた。

それに対して俺も抱きしめ返すとライラは嬉しそうに言葉を呟く。


「それなら何があっても私は幸せよ。」

「それが聞けて俺も嬉しいよ。」


そしてライラは恥ずかしがりながら宣言してくるので俺もそれに返して言葉を囁いた。

すると今度は横からアリシアも飛び付き俺を見上げて来る。


「私も構ってくれないと何処か行っちゃうかもしれませんよ。」


俺はそんなアリシアの事も軽く抱きしめると「それは大変だ」と笑って返した。


「ふふ、絶対に離さないでくださいね。」

「ああ、そのつもりだ。それじゃそろそろ収穫して薬にしてくれるか?」

「分かったわ。作るのはAタイプでいい?」

「そうしてくれ。急ぎじゃないからな。」


ちなみにAタイプは最初に作っていた治りが緩やかな秘薬の事だ。

これは新たな薬なのでフル回復ポーションとでも名付けておこう。

日頃はフルポと省略して呼ぶことにする。

そしてBタイプは最近作っている回復が早い最新版だ。

なので秘薬A・BとフルポA・Bの計4種類となった。

もし、この実から更に量産が可能なら回復薬係はかなり充実しそうだ。


そして、ライラとアリシアは実を収穫し始めた。

しかし、おかしな事に取っても取ってもなくならない。

どうなっているのかと思えば摘んだ端から再び実が出来ている。

そのため俺達はその場で大量の実を収穫することが出来た。


『ホープエンジンの出力を低下させ、再びニュートラルに移行させます。』

(そう言えば成長を促進させるために精霊力を高めていたのを忘れていた。)


そしてホープエンジンの出力が下がると実の出来るのが止まり俺達は全てを収穫すると一本の苗だけを残して全て回収した。

これがあれば少しはアルフェの助けになるだろう。

精霊がいなければ実をつける事も少ないだろうがそれでも問題は無い。

もしかすると何処かの優しい精霊が気を利かせてくれるかもしれないな。


「なら、その役目は私がしてあげましょうか?」


すると突然ライシアから一人のドライアドが顔を出した。

見たことの無い顔だがどうしてここに現れたんだろうか?

まあ、そんなものは俺の思考に答えた時点で決まっている。


「もしかしてオリジンの差し金か?」

「う・・・。黙秘します。」


彼女はギクリと肩を震わせると口の前に手を持ってきてバッテンを作った。

どうやら、嘘のつけないタイプの様だ。

しかし、オリジンが何を考えているかは大体想像がつく。

おそらくはこれを悪用されたくないのだろう。

それならこのドライアドは監視者と言う訳だ。

俺も、この国の全てを信用した訳ではないので今回については感謝しておこう。


「オリジンの事は聞かなかった事にするからライシアの監視を頼んだぞ。」

「やっぱりバレてるし。うう~後で叱られる~。」


まあ、後でこいつが叱られないよにしっかりとお礼をしておこう。

それに今回に関しては確実にオリジンのファインプレーだしな。


「それで、お前は王家と契約するんだな。」

「そこもバレてるし・・・。そ、そうよ。定期的な実りを与える代わりに悪用しないと誓わせるの。」

「その相手は指定してるか?」

「そこは流れに任せろって言われてる。」


それならこの戦いの勝者が契約相手になるだろうな。

この実はポーションに加工できる技術があるなら誰でも薬に出来る。

秘薬自体で大事なのは技術ではなく材料なのだ。

そのためエルフは徹底的に材料を隠蔽している。

ただ、これはレコベリーではなくライシアなのである意味権利はライラとアリシアが持っている。

ここに一つくらいあっても問題はない。

ただ、今回の礼にライシアの実はトゥルニクスに渡さないといけないだろう。

あちらはしっかり精霊が管理しているので問題はないはずだ。


「なら、あそこに候補者がいる。先に挨拶しておいたらどうだ。」

「そうね。相手の人となりを知るのは大事よね。」


そう言って彼女はアルフェの許へと向かって行った。

アルフェは常識のある人物なので直ぐに打ち解けるだろう。

そして俺が話している間にライラ達もポーションを完成させたようだ。

二人はそれを持って老人たちの許へと向かって行く。

この秘薬だがAタイプはブルーベリーの様に酸味が利いた飲み口でそれなりに美味しい。

Bタイプは幾つかの材料がブレンドされ飲むのに少し勇気がいる。

今回のライシアがどんな味か知らないが俺はその様子を観察する事にした。


ライラ達はまず、紙コップを取り出し、それに赤いポーションを注いでいく。

今回は作ってすぐに飲ませるのであれでもいい様だ。

通常は特殊な瓶に入れていて腐敗と効力が落ちるのを防いでいる。


そして、老人たちはそれを恐る恐る飲んでいるがライラ達が離れて少しすると急に震え始めた。


「お・おおお・・・おおおおおーーー!」


(もしかして副作用か?先に俺で試すべきだったか。)


しかし、その老人は急に立ち上がると失った片足に視線を落とした。

するとそこからまるで映像を早送りにした様に足が伸び大地を踏みしめる。

そして顔の前で腕をクロスすると両足で大地を踏みしめ雄叫びを上げた。


「マーーースル!」

(いや、先に飲まなくて正解だった・・・。じゃない恐らくこれは蛇肉との相乗効果だな。)


以前にクリスがした事がここでも起きたと考えるのが自然だろう。

それに彼らは先程までヨボヨボの老人だったのに今では40代に見える。

しかも体は引き締まり、剥げていた人などは髪がフサフサだ。

もしやこれは一部の人たちには夢の薬ではないだろうか。

先程まで剥げていた老人は自分の頭を確認して涙まで流している。

そのため顔の見た目以上に若く見えた。

ちなみに筋肉的な意味で。


(もしもの時は俺もお世話になろう。男は男性ホルモンの関係で禿げ易いと言うからな。)


そしてどうやら、女性の方が若返る傾向がある様だ。

筋肉の発達はそこそこに、見た目が30代前半まで若返っている。


しかも全員が骨格から変化したのではないかと言える程に顔つきまで変わってしまった。

女性は全員美人になり、男性はナイスミドルに変わっている。

もし、街中をこんな集団が歩けば確実に注目の的だろう。

そして自らの変わった姿を見て本人たちが一番驚いている様だ。


「お主たちは儂らに何を飲ませたのだ?」

「いや、欠損部位を治すだけのつもりだったんだが予想以上に効果が強すぎたみたいだ。その・・・すまん。」


まさかここまで即効性があるとは驚いた。

メガロドンの時は若返るのにも一晩かかったのに、やはり葉と実でも効果に違いがあるらしい。

そして若返った彼らの一人が謝罪する俺の肩に力強く手を置いた。

先程までのヨボヨボの手とはえらい違いで生気に満ち溢れている。

そしてニカリと笑い、反対の手でサムズアップを向けて来て歯をキラリと光らせた。


(俺は彼らに何を飲ませてしまったんだ・・・。)

「気にするな若いの。噂によればダンジョンにも若返りの薬があるって話だ。少し驚いたがこれ位なら大した事じゃない。ありがとよ。」


そして他の人達も口々にお礼を言って来る。

ちなみに後で知った事だが若返り薬は本当にあるらしい。

ただ、あまりにも貴重なため1年若返るだけの薬でも金貨50枚以(250万円)以上の値段がするらしい。

そして、結局彼らの男性陣は義勇兵として参加し、女性はサポートとして残る事になった。

逃げられるように治療したのだが以外にもこちらの王国兵は男所帯で料理を出来る者がいなかったのが痛い。

そのため彼らに歓迎されてしまい、たったの半日で連帯感が生まれてしまった。

これではもう彼らだけを逃がす事は出来ないだろう。

もともと一人も死なせる気はなかったので問題ないとはいえ責任は取らなければならない。


そして、その様子を少し離れた所から一人の天使は見詰め続けるのだった。

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