105 商業都市タスク②
俺達が店に到着する少し前。
そこには王国兵が押しかけていた。
「ここに犯罪者であるダリスの協力者。ハンナが居るのは分かっている。大人しく差し出せ。」
すると奥からここの料理人にして店長である男が顔を出した。
「確かにここにハンナはいますがそんな大それたことをするような娘では・・・。」
「黙れ。貴様を反逆罪で処刑する。」
そう言って王国兵の一人が剣を抜いて店長を斬り付けた。
突然の事に店長は意表をつかれ、その場に斬られた腹を抱えて倒れ込んだ。
それを見てみんなの制止も聞かずにハンナが飛び出して来る。
「店長!」
そしてハンナは店長の許に駆け寄り白魔法による回復を試みる。
しかし、傷が深過ぎる為に彼女の魔法では血が止まらない。
「にげ・・ろ。」
「貴様がハンナだな。貴様を連行する。それとそこの給仕の女共も連行し取り調べを行う。全員連れて行け!」
すると兵士たちはあからさまに厭らしい顔を浮かべると少女たちの手を取り服を破れるのも厭わずに拘束していく。
酷い者になると上半身の服を全て故意的に脱がされそのまま見せしめの様に連行されていった。
そして彼らはそのまま店長を放置すると外に出て炎を放つ。
すると建物は木造なため、炎はあっという間に燃え広がって行く。
それを見て兵士たちは笑い声を上げながら今日の獲物を連れて去って行った。
その少し後にユウ達はその場に到着すると店を見て呆気に取っれる。
「どうなってるんだこれは?」
しかし、考えている余裕は無い。
マップにはまだ店内に人の反応が残っている。
俺は店に飛び込むと中央で血を流して倒れている男に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
俺はすぐに傷を塞ぐと声を掛けた。
すると男は意識を取り戻して俺の服を握り締めてくる。
その表情から余程の事が起きたのだと容易く想像できる。
「ハンナが、店の娘達が王国兵に連れ去られた。頼む。助けてやってくれ。」
しかし、それでけ言うと男は血を流し過ぎたのか再び意識を手放した。
俺は男を抱えるとこの場を脱出し少し離れた所に寝かせて視線を店へと移す。
(この店はもう駄目だろうな。)
営業するにも修理をするか新たに作る必要がある。
確実に今日の晩飯には間に合わないだろう。
俺は魔法で店の火を消すとホロに顔を向けた。
「ホロ、大丈夫か?」
「ユウ、お肉が・・・。」
どうやらホロはあの肉を食べられなくてショックを受けている様だ。
楽しみにしていたメニューが変わるのはとても切なく辛い事である。
そしてホロの目に珍しく怒りが燃え上がった。
(食べ物の恨みは恐ろしいからな。)
そして少しすると他のメンバーも到着し、この惨状を見て表情を消した。
それは呆けているのではなく、この一瞬で怒りが振り切れたのだろう。
みんなもあのステーキを楽しみにしていたようだ。
俺はそんな彼らに声を掛けて動き出す事に決めた。
「皆の思いが一つになったので行く事にしますか。」
そして、全員が無言で頷いたのでまずはハンナたちを救出する所からだろう。
さっきの僅かに聞いた話だけでも連れていかれた少女たちの身が心配だ。
俺はマップを開くと彼女達が連れ去られた場所を探す。
ハンナは名前が分かるが他の娘の名前は知らない。
しかし、所属が同じ店名なので探し出すことが出来た。
連れていかれたのはハンナを入れて4人。
見ればここから500メートル離れた場所にいるようだ。
しかし、彼女達は建物の一室で王国兵たちに囲まれている様で急いだ方が良い。
俺はアキトに場所を知らせると上空へと飛び上がった。
そしてここは王国兵の管理する建物の1つ。
そこで4人の少女たちは互いに寄り添い、庇いながら王国兵からの視線に耐えていた。
彼女達は晒し者の様に連行され家族以外に見せた事のない大事な場所を大衆に見られながらここへと連れて来られた。
中にはそれで今も泣いている者も居る。
そんな中でハンナだけは王国兵に声を荒げた。
「あなた達。こんな事して良いと思ってるの?」
しかし、その声に返されたのは言葉ではなく平手であった。
その動きには容赦がなく、激しい音と共にハンナは床へ倒れた。
「黙れこの雌豚が!貴様らはこれから俺達の玩具としてのみ存在が許されるんだよ。生意気な口を叩けば遠慮なく痛めつけるから覚えておけ。」
そしていきなり殴られたハンナは茫然と頬を押さえ涙を流した。
それを見て他の3人の少女も恐怖に顔を染めると瞳を絶望に染める。
「ははは、それで良いんだよ。さあ、その邪魔な服を脱げ。」
「キャアアーーー。止めて誰か助けてーーー。」
「お父さん、お母さーん!」
「止めて私には心に誓った人が!」
「いやーーー!」
少女の叫び声が部屋に木霊し、外にも漏れているにも関わらず誰も助けには来ない。
兵士たちはその声に笑みを深めながら少女たちの服を破り捨てて行った。
しかしそんな時に普通に話しかけて来る者が現れる。
「ようハンナ。まだ大丈夫そうだな。」
俺は人質を取られる事を警戒しこっそりと中に入ると絶賛ピンチ中のハンナに声を掛けた。
今の俺はスキルによって彼女にしか認識されていないがこれも1つの意思確認だ。
もし助けが必要ないと言うならここに居る王国兵は半殺し程度で捨てておこう。
まあ、後で到着するメンバーが見逃せば生き残れるだろう。
ただし、もし助けが必要だとすれば今の俺に手加減の文字はない。
するとハンナは咄嗟にこちらに視線を向けると名も知らない俺に必死に手を伸ばし助けを求めて来る。
「お、お客さん。お願い助けて!」
(ハンナも藁にも縋る思いなんだろが掴んだ藁は大当たりだったな。)
するとハンナに手を伸ばしていた男は笑いながら拳を握ると彼女に振り下ろした。
恐らくは黙らせる為か、心を完全に圧し折る為だろう。
しかし、その拳が彼女に届く事は永遠にありはしない。
何故なら男の腕は次の瞬間には天井にまで舞い上がり、重い音を立てて床に転がったからだ。
しかし兵士はそれが理解できず、突然消えた腕に困惑し自分の肩に視線を落とした。
すると肩から先が切り取られており、血管からは血が噴き出しているのが見える。
そして、意識して初めて痛みが神経を通して脳に伝達され、兵士は肩を押さえて転げ回った。
「ギャアアアーーー!」
周囲はその異常にやっと気が付き仲間を治療しながら警戒を始めた。
それに合わせてスキルを切ると、その視線がこちらへと集まって来る。
「誰だ貴様は!ここが王国軍の待機所だと知っているのか!」
「こうなればお楽しみは後だ!まずはこいつを殺してからじっくりと遊んでやる。」
そして邪魔な少女たちを乱暴に壁際に付き飛ばすと腰に手を伸ばした。
しかしそこに武器は無く、剣は全て壁に立て掛けられている。
それに気が付いた兵士たちは焦りで顔を青くすると一斉に武器のある場所へと走り出した。
だが俺がそれを待つ理由は一つもない。
そのため兵士たちに容赦する事無く剣を振り、その首を斬り飛ばし息の根を止めた。
「これでここは終了か。予備の服をやるからそれを着ておいてくれ。ハンナ、理由は後で話すからその娘達を任せたぞ。」
ハンナはまだ意識がしっかりしているので何とか頷いて返事を返してくる。
しかし、残りの3人はいまだに放心状態から脱していない。
恐らくは突然起きた事が多すぎて脳の理解が追い付いていないのだろう。
俺はそんな4人を置いてその場を離れて次の場所へと向かって行った。
次に向かうのは別の待機所だがそこにはダリスが捕まっている。
俺は一直線にそこに向かうと窓を蹴破りその中に飛び込んだ。
「こんばんわ。ダリス、久しぶりだな。」
「あ・・アンタ・・は・・・」
するとダリスは既にかなりの拷問を受けているのか足の指は潰れ膝には釘が何本も生えている。
片眼は焼かれ、これで意識が保てているのが不思議なくらいだ。
もしかすると痛みに耐性を得るスキルを持っているのかもしれない。
そしてその周りを囲んでいた王国兵は俺を見て怒声を上げると剣を向けて来る
「貴様はこいつの仲間か?ここに来たのが運の尽きだな。今すぐに殺して窓から叩き出してやれ。」
「「「は!」」」
どうやら今度の兵士たちはしっかり武器を所持していたようだ。
しかし、それでも雑魚は雑魚。
俺は即座に拳を握り王国兵へと攻撃を仕掛けた。
一人目は右の拳で頭を粉砕し、二人目は返す腕で手刀を放ち首を刈り取る。
三人目は左足で蹴りを放ち腹を抉ると天歩で足を止め、返しの蹴りで反対の兵士の胸に風穴を開ける。
そして最後の一人は踏み込んだその勢いのままに手刀で肩から胴までを一気に切り裂いた。
それらの行動を2秒程度で終わらせると俺はダリスに歩み寄った。
「あ、アンタ・・半端なく・・・強かったんだな。」
「まあな。それでどうする。自分で傷は癒せそうか?」
「無理・・だな。ここまで・・破壊されたら・・・余程腕の良い・・治癒師に見てもらわない・・限り・・・治らないだろうな。こりゃ・・・ハンナにも愛想を尽かされ・・・そうだ。はは・・・。」
「そうかっ!」
「がああああーーーー!」
俺は返事と同時に膝に刺さる釘を抜き取り、ポーションの瓶を口に突っ込んで無理やり飲ませた。
これは初期に作った秘薬のポーションなので回復までに時間が掛かる。
今となってはあまり使い道が無いがこういう時には丁度良い。
「アンタ、容赦ないな・・・ん?何か目がぼんやり見えてきた気がするな・・・。」
「動けるようになったらここに行ってハンナを守れよ。」
俺はそれだけ言って簡易的な地図を書いて渡しておいた。
ダリスがそれを受け取ると同時に俺は次の場所に向かって行く。
その際にホロには連絡を入れて落ち合う場所を伝えておく。
それに今はゲンさんとサツキさん。
アキトとアスカは二人一組で王国兵狩りをしているようだ。
見るからに容赦がなさそうなので直ぐに全滅させて燃やされた店の前に戻って来るだろう。
本当に食べ物の恨みは恐ろしい。
一応見ていると捕らえられていたり監禁されていた人はしっかりと救出しているので心配はなさそうだ。
そしてホロは先程の店の前で待機していたようで俺からの指示で動き始めギルドへと向かい始めた。
俺達がするのはスキルを使ってギルドの裏切り者を炙り出して始末する事だ。
俺はギルドの前に到着するとホロを待って静かに待機する。
するとホロも空を移動してきたようで俺の横に降り立った。
「お待たせユウ!ここにホロのお肉を奪った悪い奴がいるの!?」
「直接ではないけどその仲間だな。犯人は俺の方でしっかりとお仕置しておいた。」
まあ、少女たちを攫い襲おうとしていたうえに、ホロの楽しみにしていた夕飯を奪ったので死んでも文句は出ないだろう。
この町の王国兵もあの店を襲わなければ少しは生き残る可能性があったというのに。
「それじゃあ、入ろうユウ。」
そしてなぜかホロは首輪にリードを付けてその端を俺に渡して来る。
それを受け取るとホロは犬の姿になり、俺を促すようにトコトコ歩き始めた。
服はライラの付与のおかげで犬の姿のホロにもベストフィットだ。
俺はそれを密かに撮影しながらホクホク顔でホロに続いて歩き出した。
(まあ、可愛いから好きにさせるか。)
そして中に入ると当然周囲から視線を受けた。
何せ見た目は犬の散歩をしている一般人がギルドに訪れたとしか思えない出で立ちだ。
腰に剣は指しているが見た目からして冒険者には見えにくい。
すると一人の冒険者が俺の元に歩み寄り声を掛けて来た。
「おい、あんちゃん。ここは散歩コースじゃねえんだ。悪いが帰ってくれないか。」
そう言って男はガンを飛ばして来るが俺の表情に変化はない。
しかし、横のホロには変化が生まれた。
ホロはそのまま2本足で立ち上がるとフラフラとシャドーボクシングを始めた。
どうやらただの犬ではないとアピールしている様だ。
(ナイスだホロ。その調子で顔をこっちに向けてくれ。)
俺は密かにシャッターを連打しながらその雄姿を収めていく。
これは後でパソコンに送って写真にしておかなくては。
するとその雄姿に気付いた男はホロを見て鼻で笑った。
「なんだその腰の抜けたパンチは。パンチって言うのはこう放つんだよ。」
そう言って男はホロに拳を放った。
(こいつ殺すか。)
しかし、その拳はフラフラとした足取りのホロには当たらず見事に躱されてしまう。
しかもそのカウンターが男の下顎にヒットし、その余りの威力に男は天井に頭からぶつかり醜態をさらした。
更に、この一撃で意識さえも刈り取られたようで一切動くことは無い。
すると受付嬢の口が僅かに動いたので読唇術で読み取ってい見る。
『酔犬だわ!』
(おお!アンタとは良い友達になれそうだ。)
しかし、そんな事を考えていたのも束の間の事で周りにいた冒険者たちが動き出し俺達を囲み始めた。
時刻は夕方を少し過ぎている辺りでそれなりに人が多い。
数は20といった所だろうか。
俺がホロに視線を向けると大人しく後ろに下がりお座りをした。
『可愛い~。』
「ああ、その通りだ。あんたが敵だとしても良い友達になれそうだ。」
そして俺の独り言を聞き取った1人が俺の胸倉に手を伸ばして来る。
俺はそれをつかみ取ると手加減をした威圧を放つ。
今回は喋れないといけないからだがどうやら成功したようだ。
冒険者達は先程まで五月蠅く騒いでいた口を閉ざして静かに俺の言葉を待っている。
それはギルド職員も同じで先程からホロに熱い視線向けている一人だけは俺の威圧を意に返さずに俺の横に視線を向けている。
(図太いというよりも真正だなアレは。)
そして俺はそちらは置いておいて、冒険者たちに声を掛けた。
「俺の質問にハイかイイエで答えろ。いいな?」
すると冒険者たちは一斉に頷きを返して来る。
「お前達の中で王国兵に情報を売った者はハイと言え。」
すると2人の冒険者が早速ハイと答えた。
その声に俺の威圧を振り切り、周りの冒険者の視線が集中する。
俺が威圧を解くと彼らは大きく息を吐くがハイといった冒険者に殺到し袋叩きにし始めた。
あのままでは死んでしまうかもしれないがそこは俺の関知する所ではない。
ギルドにはその場所ごとのルールがあり、裏切り者に対する制裁もそこに含まれている。
そして俺はカウンターに行くとそこから周りを見回した。
現在ここに居るスタッフは7人。
奥に1人。
恐らくはその一人がギルマスだろう。
俺はスキルを使い彼らに問いかけた。
既にこの中で一人を除き俺の威圧で心は折れているので聞き出すのは簡単だ。
「お前達の中で王国軍に内通している者は返事をしろ。」
「わ、私です。」
「お、俺だ。」
どうやらこちらにも二人いた様だ。
内通者は男性と女性が一人ずつか。
「男のお前、理由を言ってみろ。」
「そんなの、出世するために・・決まってるだろ。」
「女の方は。」
「母が病気でお金が必要だったの。体を売っても足りなくて。」
(主観では男はアウトだな。)
俺は剣を構えて男に覚えたばかりの技を放ちその心臓を貫き始末した。
そして女にも視線を向ける。
「ヒィー、お願いです!殺さないでください!」
「今回はセーフとする。」
俺はポーションを取り出すとそれを女に放り投げた。
すると女は唖然とした顔でそれを受け取りそれを鑑定したのか目を見開いた。
「これ・・・くれるんですか?」
「それで帝国兵とは縁を切れ。とは言っても今日中には全員が居なくなる可能性があるがな。売ったら一生生活に不自由はしないだろうがお前の親が助かったかは後で確認するからな。もし見捨てたら次は殺す。覚悟して行動しろ。」
(俺の両親は救えなかったからな。)
「は、はい。ありがとうございます。」
そう言って彼女はこの場から走り去ったがきっと薬を飲ましに行ったのだろう。
あの秘薬なら大抵の病気は完治するはずだ。
すると奥から今度はギルドマスターが現れた。
ギルマスは俺を見ると舌打ちをして腰の剣を引き抜き俺に向けて来る。
「貴様の特徴は既にギルド本部から知らせを受けている。あの方々を脅かす存在を生かして帰す訳にはいかない。悪いがここで死んでもらう。」
「あの御方ってのは誰だ。」
「当然、陛下とこの国のグランドマスターだ!」
どうやらこいつは国側の人間の様だ。
俺の特徴をどこで聞いたかは置いておくとして、今は日本でもありきたりな服を着ている。
こちらの服装とは違う所も多いのでそれで分かったのだろう。
顔もこちらの人間とはかなり違うので特徴的と言えば特徴的か。
「流石に中央に近づくとお前の様なゴミがギルマスにいるんだな。」
「貴様ーーー。俺を愚弄するとはいい度胸だ。俺は辺境に飛ばされたガギルスとは違うぞ。エリートである俺の力を思い知れ。」
「何が力だ。王国兵は町の出入り口近くにある飯屋を襲撃して店長を殺そうとしたぞ。更に店へ火まで放って全焼させた。そんな奴らの中に居て満足とは、とんだエリートだな。」
「え、出口前の飲食店・・・。今日はお肉がお勧めの?」
そして俺達の言葉に突然先ほどの受付嬢が割って入る。
すると周りが何故か彼女から離れ始めた。
「ジェノサイドの家を燃やした・・・。」
「おいお前ら。少し走って確認して来い!」
「ギルマス死んだな。」
そんな中で受付嬢は立ち上がりギルマスに歩み寄った。
そこには先ほどまでのにこやかな受付嬢の姿はない。
あえて例えるとするならサツキさんだろうか。
「な、何だテニス。」
「王国兵が家を焼いたのは本当ですか?」
「そ、その話は聞いていない。ただ罪人のハンナを連行しに行くとは聞いている。」
『ドゴー!』
「がはーーー!」
テニスは躊躇なくギルマスの腹を打ち抜くと地面に沈めた。
その顔には笑みが浮かんでいるが、額と殴った腕には怒りの為か血管が浮かんでいる。
「ハンナちゃんは常識のあるイイ子です。アナタはギルマスでありながらそんな横暴を許したんですか!?」
「お、俺は何も・・。」
『ドーン!』
『バキッ!』
「ぎゃあーー!」
そして今後はその足を踏み抜き石畳の床に足の跡を残す。
当然ギルマスの足はテミスの足の形で潰れており肉も千切れて殆ど繋がってすらいない。
すると外から先ほど走って行った者が帰って来た。
かなり早いが足に自信があったのだろう。
しかし彼の報告は燃え盛る火に油を注ぎ尚且つダイナマイトを放り込むのに等しかった。
「大変だ。親父さんが王国兵に斬られたらしい。その場に居合わせた人が助けたらしいが・・・。」
すると途端にテニスの目の色が変わり笑顔が一瞬で消え失せた。
そして、まるで目の前のギルマスを既に人間と見ていないように冷たい瞳を向ける。
「言い残す事はありますか?」
「た、助け『グシャ!』。」
そしてギルマスは最後の言葉すら残せずに頭を潰され息を引き取った。
俺はマップで彼女のレベルを確認するとそこには58の数字が表示されている。
(俺より1つ高いレベルか。俺の威圧も柳に風だったしかなりの実力者だろうな。)
そしてギルマスを踏み潰した直後に走り出そうとするテニスの肩に俺は手を置いて引き留めた。
すると先程と同じ様に冷たい声と視線が向けられ、威圧が周囲へと充満する。
「何か?」
その顔には「邪魔するならあなたも潰しますよ」と如実に書かれている。
しかし、俺は彼が無事な事を知っている。
なにせ俺が助けたんだからな。
「店長なら大丈夫だ。俺がしっかり回復させておいた。」
「本当ですか?」
「ああ本当だ。」
そう言って先ほど戻ってきた男に視線を向けるとハッキリと頷きを返してくる。
すると彼女の表情は崩れてその場に腰を落とした。
「よかった~。でもお店はどうしよう~・・・。」
するとホロが落ち込んでいる彼女にすり寄り頭を擦り付ける。
その仕草にテニスはホロを抱き上げると頬擦りをしながらその毛並みを堪能し始めた。
そして良い考えが浮かんだのか彼女は顔を上げて笑顔を復活させる。
「そうだ!ギルドの責任はギルマスが取るけどギルマスの責任は王都にいるグランドマスターが取るんだよね。報告も兼ねてるから出張扱いで行って来る。」
「行って来るって!いきなり出張なんて都合が良い事が・・・。」
『ダン!』
「・・・何か言った?」
「い、行ってらっしゃい。」
そして彼女はスタッフに声を掛けると私的な出張を了承させて俺の許へと戻って来た。
「もし、王都まで行くなら一緒に行かない?こう見えても料理は得意なんだよ。」
「まず、お前が何者かを聞いてからだな。仲間も居るから了承も取らないといけない。」
「それなら説明するからそこまで案内してよ。」
「まあ良いか。」
(なんだかホロが懐いているから悪い奴ではなさそうだしな。)
そして俺は彼女を連れて燃やされた飯屋であり、彼女の家でもある所まで戻る事にした。
その間、ホロは彼女の腕の中だが大人しくしているので問題はなさそうだ。
そしてついでに町を調べると奴隷商館の3人を残し、既に王国兵は全滅していた。
これで仕事は終了と言う事で後の細かい所はギドにでも任せておこう。
他に一般人の協力者がいても王国兵という隠れ蓑が失われれば彼の目からは逃れられないだろう。
その後メールを飛ばし俺達は一度集まる事に決めた。




