1 世界融合
今回は過去に投降したのですが運営様よりエロい判定を受けてしまい加筆修正したものになります。
当時は急な消去で色々とご迷惑をおかけしましたが、この物語に興味を抱いて頂けたら幸いです。
俺の名前は最上 夕。
齢は28歳だが彼女はいない。
父と母とは病気で死に別れ、今は実家のある広島のとある町で愛犬と細々と暮らしていた。
家に帰れば犬ではあるが今では家族の一員となっている愛犬のホロが出迎えてくれる。
ちなみにホロはコーギーという犬種で胴長に短い脚、キツネのように大きな耳をしていてとても可愛い。
こんな感じの俺だが仕事は真面目にこなし平和な日々を送っていた。
そして今日は夜勤明けの土曜日になる。
家に帰ると早朝の6時だがホロを連れて朝の散歩だ。
それにホロはあまりトイレを我慢しないタイプなので定期的に散歩に行く必要がある。
しかし、家に連れて帰り共に過ごすようになってから、それを一度も面倒に感じたことは無い。
「ホロ、散歩に行くぞ~。」
『ドドドドドドーーーー。』
そして俺は家に入り声を掛けると奥の方から元気な足音が聞こえてくる。
転んで怪我をしないように床には絨毯を敷いているけど、これを聞いていると不安に感じることもある。
しかし、その心配もホロの顔を見ると消えてしまい代わりに何か更なる対策をしようと思考が切り替わってしまう。
「キュ~ンキュ~ン、ハッハッハ。」
そして声に答えるようにホロは俺の許へと駆け寄り、咥えていたリードを渡してくれる。
いつものことだが準備が良く自然と笑みが浮かんでくる。
それに帰ってすぐのホロはとても甘えん坊なので凄く可愛い。
俺はリードを着けると扉を開け朝の清々しい空気を吸いながら家を出ようと足を踏み出そうとした。
しかしそのタイミングで携帯にメールが届く音と振動を感じ意識をそちらへと向ける。
こんな早朝でも仕事の関係や、知り合いからかもしれないので無視するわけにはいかない。
番号を教えている相手にはいつでも連絡しても良いとも告げているのでその可能性は十分にある。
俺は携帯を開くと画面を操作し相手を確認してみる。
『こんにちは皆さん。』
しかしそこにあるのは変なタイトルのメールが一通だけだ。
しかも意識した瞬間に俺はゾクリと体の芯が震え、誰かに後ろ髪を撫られたような感覚に襲われた。
だがそのメールを確認しようとして手を動かすと誰かに足を叩かれ振動が意識をこちらに引き戻してくれる。
そして視線を下げるとホロが片足を上げたまま俺を見上げているのが目に入った。
どうやら早く散歩に行きたいらしく俺の足に犬パンチを叩き込んだらしい。
「そうだな。迷惑メールっぽいし後でいいか。」
その後、俺はいつものように1時間ほど散歩をしてから家に帰ってきた。
帰るとホロは汲みたての水を飲み、満足そうにソファーに飛び乗って目を瞑る。
俺はテレビをつけてチャンネルを一周させ何か気になるニュースが無いかを確認する。
ただ、この地域はチャンネルが少なく6チャンネルしかない。
そのため、衛星テレビを契約しているが今日はそちらを見る必要が無いほど、興味深いニュースをしていた。
どうやら先ほど俺の携帯に届いたメールだが、あれに書いてあった皆さんとは本当に全員だったみたいだ。
ただし、携帯を所持している者限定だが、例外は見つかってないらしい。
要は携帯を所持している人には無条件でメールが届いているようで、その内容もニュースに取り上げられていた。
『明後日の月曜日、この世界の全てが変わる。』
こうして出ているということはテレビ局の人間はあのメールを開けて確認したのだろう。
俺はまだ見ていないがメールを開くことでウイルスに感染するわけではないようなので確認することにした。
するとそこにはテレビに出ていたそのままの文書が書かれている。
しかし、その文書の下には大量の空白があり、どうやらまだ続きがありそうだ。
もしこれで一番下に『馬鹿め』や『うっそで~す』とか書いていたらどうしようかと悩んだがそこにはただ一言だけ『備えよ』とだけ書かれていた。
俺は深呼吸をするとホロを撫でて冷蔵庫や倉庫を確認する。
家は父が器用でハンマーやシャベル、手作りの棍棒に木刀と色々揃っている。
さらに、一緒に住んでいた祖父が警戒心が強かったため、一階の窓には侵入防止用の鉄柵がある。
それに家の周りは高い壁に囲まれ、1面は高さが5メートル以上ある垂直の崖になっている。
それと祖父が趣味で集めていた日本刀が数本あり武器になる物も十分にある。
ただこれは管理が大変なので近日中に知り合いのお店に頼んで処分してもらう予定だったが、数日くらい延びても問題ないだろう。
しかし、一人と一匹で住んでいただけあり冷蔵庫や保存食が心もとない。
そう考えた俺は車を走らせて近くのコンビニに突撃した。
そこで俺は賞味期限が長い食べ物や飲み物を大量に買い込み、車へと積み込んでいく。
ちなみに後でスーパーにも行って大人買いをするつもりである。
そこでは御つまみでよくある乾物などの保存に適した物を購入する予定だ。
それにこの町だと長期保存できるたんぱく質はそれぐらいしか売っていないので、後で保存食の作り方を調べて覚えておこう。
あと、酒と煙草も買っておいてもしもの時に備える。
俺は酒はやっても煙草はしないが、こういった嗜好品は世界が滅亡する系の番組で役に立つこともあると言っていた。
後は米と燃料だな。
ガソリンはセルフを梯子すればそれなりに集められるだろう。
ガソリンの缶は金属製でホームセンターで買わないといけないが、簡単に腐る物ではないので騙されたとしても消費は難しくない。
それよりも手に入らなくなった時の方が大変だ。
後は薪とホワイトガソリンだがキャンプ道具を出すのも久しぶりだな。
それにホロのご飯も絶対に必要だ。
その後、思いつく限りの物を貯金を下ろして買い漁った。
途中、俺と同じような客が数名いたが話はせず、ただ互いに苦笑を浮かべるだけに留める。
そして、荷物の大半は床下や3階に運び込むと額の汗を拭って一息ついた。
1人だと広く感じるが元々2世帯住宅だったので家はそれなりに広い。
それと部屋の幾つかのカーテンを遮光性の高い物に替え、更に内側から段ボールを切って貼り付けた。
これで夜でも光が漏れずにライトがつけられる。
もし何かがあった時にここだけ灯りが点いていたりすれば心無い者の標的にされてしまうかもしれない。
そして、これだけのことをすると既に夕方が近づき空が赤らみ始めていた。
意外と食料の買い出しに時間が掛かってしまい車で何往復もしながら荷物を運び込んだからだろう。
しかし、これだけやって何も無ければ俺は一人で笑うしかない。
もしそうなれば買い溜めした物で期限の短い物は笑い話と一緒に周りに配ろう。
そして夜になり俺はホロと一緒にベッドに入るとゆっくりと目を閉じた。
明日、目が覚めると何が起きているのか。
それとも結局何も起きていないのか。
しかし眠りは太陽が昇る前に終わりを迎え、目を開けて時計を見ると深夜の3時になるところだった。
横には何故か震えて身を寄せるホロの姿があり、何かに怯えているのが分かる。
そしてテレビをつけチャンネルを回すとニュース速報が流れ、ほんの数分前に震度4の地震があったと伝えている。
どうやらホロが怖がったのは大嫌いな地震があったからのようだ。
それにここは家の2階なので震度4でもかなり揺れる。
俺は震えるホロを優しく抱き上げるとベッドから立ち上がり部屋の電気を点けた。
すると携帯にメールが届いたことを知らせる音が鳴り今度はそちらへと向かっていく。
そしてメールを確認するとそこには。
『祝』
というタイトルのメールが届いていた。
そして中身を確認すると。
『世界の融合に成功。』
と書かれていた。
俺はそれを見てすぐに窓に歩み寄ると外を慎重に覗き込み視線を走らせ異常を探る。
するとそこには幾つもの人影があり、道路や歩道を我が物顔で歩き回っていた。
俺は不審に思い昨日買っておいたビデオカメラに電池を付けて望遠機能を使い画面を覗き込んだ。
できればテレビに出てくる暗視ゴーグルのような物があればいいのだが、そんな特殊な物を準備する時間が無かった。
だが、現代のカメラは暗視機能がかなり優秀なため街灯の助けを借りれば十分に見ることができる。
そして、カメラの画面には色は不明だが子供のような姿の生き物が映し出されていた。
しかし、その顔は人の物ではない。
目も鼻も口も体に比べて大き過ぎる。
しかも口には牙と思われる物が並び、人の前歯のような物が見当たらない。
それに服装も変だ。
腰蓑のような物を着け、上半身は裸。
しかも手には棍棒を持っている。
現代の常識に照らし合わせれば棍棒だけでも何処から見ても不審者だ。
と言うよりも人間ではないのは目に見て明らかでゴブリンとでも呼んでおこう。
ただこれがどういう状態なのかは不明だが俺は携帯を取り出し、『110番』に掛けて警察に通報した。
それに初見から俺が危険を冒して対処する必要はなく、こういう時のために警察が居るのだ。
「夜分にすみません。家の前に棍棒を持った不審者がいるのですが・・・。」
「アナタもですか。勘弁してください。これで何件目だと思っているんですか。あなた達ねー。ふざけていると令状を取って逮捕しに行きますよ。」
(そう言えばこの町の警察官は腐ってる奴が多かったな。)
この町の警察は碌で無しが多い。
市民は捕まえても自分たちが都合が悪いと権力を振りかざして脅してくる。
ある意味ではヤクザよりも質が悪くこれでは役に立ちそうにない。
「一応この会話は記録していますよね。何かあったらいつでも来てください。それとあなたのお名前も教えてください。」
すると電話の向こうの警察官は口を噤んだので都合が悪くなったようだ。
だが、そんなことをしても当直の時間を調べれば判明するんだがな。
その後も俺は丁寧な口調を心がけて会話を進めると電話を切って溜息をついた。
すると間の悪いことに少し離れた所から通行人が叫びながら現れた。
どうやら酔っ払いのようで声がここまで聞こえてくる。
「ギャ―――! うわーーーー!!」
よく分からないが叫びたい気分なんだろう。
(でも、この声・・・もしかして女か?)
しかし、ゴブリンたちはその声を聞き棍棒を手に動き出した。
その動きは速いとは言えず、体が細く見えるので力もそれ程でも無さそうだ。
酔っ払いに近づいて行くのはこちらで確認していた3匹だが大声を出していたので離れている場所からでも集まって来るかもしれない。
俺はカメラを回しながらその様子を確認すると女はゴブリンたちに囲まれてしまった。
3匹のゴブリンは酔っ払いの前に立つと「ギャギャギャギャーー」と醜く笑い、まるで値踏みをするように顔が下から上へと動いていく。
しかし、次の瞬間には酔っ払いに襲い掛かり、まずは先頭のゴブリンが足を打ち付け地面へと転げさせた。
しかし、未だに状況が理解できないのか殴られた足を押さえ声を荒らげる。
「イッター。何すんのよアンタ達・・・。え・・・?」
するとようやく相手が何かを理解できたのか女は呆気に取られて呆然とゴブリンを見上げた。
そして次のゴブリンは女の頭に棍棒を振るい容赦なく殴り倒すと他の奴等も後に続いて棍棒を振り上げていく。
そのため、暴力は止まる様子は無く、笑い声と打撃音が周囲へと響き渡る。
「嫌、やめて。痛い、誰か・・・誰か助けてーーー。」
どうやら襲われている女も自分の置かれた危機的状況にようやく気が付いたらしい。
しかし俺としては危険には飛び込みたくはない。
だが、そのまま放置もしたくない。
そして俺は先程までのゴブリンの動きや女の状況から戦力の分析を始めた。
見た感じゴブリンの力は弱そうだ。
その証拠に女は何度も殴られているが死んではいない。
逃げないのは酔っぱらっていて足腰が上手く動かないからだろう。
俺は結論を出すと木刀を手に取り玄関に駆け下りていった。
そして扉から飛び出し、そのままゴブリンたちの下へと走って一直線に向かっていく。
その頃には酔っ払いの女はゴブリンに組み伏せられ服を破かれようとしていた。
(棒を振る力は弱いくせに服を破る力はあるのか。)
そしてよく見ればゴブリンには鋭い爪が生えていた。
どうやらあれで服を切り裂きながら剥いでいたのだろう。
乱暴にしているために女の肌には切り傷が幾つか見え、足と顔には棍棒で殴られた痣ができていた。
どうやら非力に見えてもそれなりには力がありそうだ。
俺は女を助けるために冷静に相手の力を更に分析する。
すると女が気付いて俺に消え入りそうな声で手を伸ばしてきた。
「お・・ねが・・い。たすけ・・・て。」
ゴブリンたちは女の服を脱がすのに夢中でいまだに俺に気付いていない。
それに腰蓑から突き出したモノを見ればこいつらが何をしようとしているのかは明白だ。
女もそれが分かっていて俺に助けを求めているのだろう。
生憎、この時間だとこの周辺で通る者は殆ど居ない。
俺に見捨てられればこの女の助かる道は無いに等しいだろう。
このゴブリンたちが物語の通りの習性なら女は犯して殺すか、犯して連れ去るかのどちらかだ。
どちらにしてもこの女には不幸しか待っていないことが容易に想像できる。
俺は木刀を手に相手の死角に入ると足音をさせないように歩み寄った。
そして木刀を上段に構えるとそのまま全力で振り下ろし脳天へと一撃を加える。
『ゴッ』
「ギャッ・・・。」
「ギャギャ?」
「ギャー!」
ここに来てゴブリン達もやっと俺の存在に気が付いたようだ。
その頃には女は殆ど服を脱がされ半裸になっていたが俺は木刀を振り上げ別のゴブリンの顎を殴り付ける。
「ギイイーー!」
見れば最初のゴブリンは頭から血を流して痙攣し、2匹目は顎を押さえて転げまわっている。
そして3匹目は足元に置いていた棍棒を手に取り警戒しながらこちらを窺っていた。
しかし、その視線はチラチラと女に向かっていることからどうやら俺に集中はしていないようだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべると、擦り足でゆっくりと女の許へ近づいていく。
そして手を伸ばそうとした時、ゴブリンは俺に向かい棍棒を振るってきた。
おそらくは獲物を横取りされると勘違いしたのだろう。
だが俺は既にゴブリンが棍棒を振る姿を何度も観察している。
そのためタイミングは十分に分かっているので余裕をもって攻撃を躱し、そのままコメカミに向けて木刀を一振りしてダメージを与える。
しかし、これで無傷な奴は居なくなったが油断はしない。
俺は別に格闘技の経験があるわけではなく、虫は殺せても動物?を殺した経験はないのだ。
本気で殴った気でいてもどこかで手加減してしまっているかもしれない。
すると一匹目のゴブリンが光の粒子になって消えていった。
その後には何か黒い石が転がり血の跡も綺麗に消えている。
どうやらこいつらは死ぬと消えてしまうようで俺の知る生物とは根本的に違うようだ。
ただ死体の処理をどうしようか悩んでいたがこれは俺としても丁度良い。
それに証拠は先程から家の部屋からカメラに記録されているので問題はない。
「と、いうことはだ。こいつはまだ生きているのか」
得られた情報が少ないので確信はないが、そこから考えればそういうことだろう。
俺は動かなくなっている2匹のゴブリンに慎重に近寄ると心を鬼にして頭に木刀を振り下ろした。
それにこの道はあと2時間もすれば犬の散歩をする人が出始める。
こいつらを逃すのはその人たちに危険が及ぶ可能性が高い。
「後でもう少し見回りをしておくか。」
俺は心の中で「許せ」と唱えながら残り2匹に止めを刺した。
そしてそれと同時にゴブリンは光になって消えさり先程と同じ様に石へと変わる。
俺はそれを手に取り観察をすると石のように見えたのは暗いからで、本当は透けていて水晶の様だ。
そして中央には炎が揺らめき、これがただの石ではないことを示している。
俺はそれをポケットに入れると次に倒れている女に視線を移した。
どうやら女は意識を失っているようで半裸のまま倒れて動かない。
俺はそれを見て溜息をつくと頭を掻きながら傍へと向かっていった。
「は~、仕方ないから連れて帰るか。」
それにこんな状態で放置すると再びゴブリンに襲われるかもしれない。
俺は女を抱え上げるとそのまま家へと連れて帰ることにした。
もし今の姿を何も知らない人間が見れば犯罪者にしか見えないだろう。
今が深夜で人通りが無いことが本気で良かった思える・・・。
俺は家に戻るとそのまま女を余っているベッドに寝かせると布団を掛けて部屋を出ていく。
そして、2階に上がるとビデオカメラを止めて映像を確認してみる。
「・・・ちゃんと撮れてるな。これがあれば彼女が目を覚ました時の説明も大丈夫だろう。」
ハッキリ言って酔っ払いは記憶が曖昧なことが多い。
俺は酔っても覚えているタイプだが人によっては全く覚えていない時もある。
朝に目が覚めると半裸で体中に傷があり、しかも知らない男の家でベッドに寝ていたらどんなことになるか。
は~・・・想像もしたくない。
できれば覚えていてくれることを期待しよう。
そして俺は部屋に戻り携帯を見ると再びメールが届いていることに気が付いた。
読み始めて頂きありがとうございます。