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清く正しく生きる 主人公を犬にする 原案だけあったもの( ゜Д゜)

作者: TUBOT

 僕は自分の父親はどんな人なのか? そうお母さんに何度も聞いた。

 お母さんは言いにくそうな様子だ。ぎこちない笑顔浮かべて黙り、ほどなくして話題を変える。

 大体の事は聞いている。

 父は宇宙を駆け回って犯罪を取り締まっている宇宙警察というものらしい。実際は星間刑事警察機構警視とかいうらしい結構偉い立場なのだと聞いている。

 だが宇宙を飛び回っており、僕の家に帰ることはない。誕生日やクリスマスにヌイグルミなんかを送ってくる。僕が女の子だとでも思っているのか? ズれたプレゼントだ。

 今日の朝の事だ。


「ケイタ。今日は学校は休みなさい」

 お母さんから言われた言葉。学校が休みとはいえどうれしい話でないらしい。

 お母さんは父がマフィアを一斉摘発したため、逆恨みをされて僕らが狙われてしまったという話を聞いたという。お父さんが迎えに来て僕らを保護してくれる。それまで家で大人しくしているように言われたという。

 警察からの連絡の後、これみよがしに大きな銃を持ったおじさんが来た。

 昔は銃弾は最初から弾の形をしていたようだが、今は液状の弾がチューブでくみ上げられ、電流で弾の形になり、レールガンで打ち出される。

 人類が地球というところのみで生きていた頃の水鉄砲のような構造だ。揺らせばゆらゆらと揺れる液体が入ったグリップに親指ほどの長さの砲身。地球時代を描いた時代劇映画に出てくるライターを大きくしたような見た目のものだ。

「ガラの悪いおじさんだが怖がらないでくれよ。警察の中にも敵の仲間がいるらしくてな。金で動く俺みたいなのが来ちまった」

 警官ではなく自分が来た理由を端的に僕に話すと、サイレンの音が聞こえてくる。

 現代の車のタイヤは低反発素材で悪路に合わせてタイヤがくぼんで、なめらかな走行が可能になる。砂利道を走っても全く揺れないのだ。

 昔からの伝統という、白と黒の車体のパトカーに乗り込もうとして、家のドアを開ける。

 今の時代に騒音はないので石垣で音を遮断するという発想はないし、事故もないので道路にドアがほとんど隣接している。ドアを開けると、ものの三十センチ先にはパトカーのソファーがあった。お母さんがパトカーに乗り込もうとすると、家の敷居をまたいだ瞬間にパタリと倒れてしまった。

「しまった!」

 おじさんが窓から出て素早く空に向けて銃を打つと、カンカンカンカンと甲高い音が聞こえる。その音は、おじさんがドローンを撃ち落とした音だ。

「配置されていた……」

 ドローンから射出された毒針でお母さんは撃たれたのだと後で聞かされた。それでもあの光景がそういうものだったのだという事を理解することはできない。

「母親だけ乗せて病院に向かえ!」

 おじさんが警官に指示を出すと、警官はパトカーを出した。

「小僧! 家の中に入っていろ!」

 そう言われ、僕は立ち尽くした。その場で棒立ちになりつつも、コクリと頷くことはできた。

 そして、おじさんは家の外を回って安全の確認を始めた。


「君のお母さんは亡くなったそうだ。お父さんも遺体が確認された」

 それを言われたのはそれから十分もたたないうちだ。

「何言ってるの?」

 聞こえたけど、言葉の意味は理解できない。僕がそう言うと、おじさんはちっと舌打ちした。

「一応伝えたぞ」

 それだけ言うと、おじさんは数日前お母さんと買い物に行って買ったばかりのソファーに乱暴に座った。嫌な気分になった。

 胸が痛んだ。これが形見というものだろうか? 買ったその日にジュースをこぼした。その時は何とも思っていなかったソファーだが、今ではなんとも愛おしかった。

「どうすりゃいいんだ! 依頼主がいなくなっちまった!」

 そういうおじさんはイラついてそう言う。

「君はどうしたい?」

 そう言われても何とも答えられない。うつむいて、何も考えられなかった。

「安全になるまで警護はするつもりだ。ところで便所はどこだ?」

 僕が指をさすと、おじさんにそっちに向かっていく。

 おじさんもいなくなった僕はバタリと床に倒れた。昨日までお母さんと一緒に暮らしていた。お金はお父さんが送ってくれたというので不自由はなかったし、お母さんも僕にやさしかった。

 それが今日の朝のうちに全部なくなってしまったなんて、全然実感がわかない。

 そうしていると、家のドアが開く音が聞こえた。

 人間の足音とは思えない、カチカチという足音、背後から何かが忍び寄ってきているのが分かる。振り向こうした瞬間にそれは僕の頭に覆いかぶさった。

「犬型のアンドロイドか!」

 おじさんが帰ってきてそう言っている。動物型のロボットが僕に覆いかぶさったのだ。

「ケイタ。僕がお父さんだ」

 その犬の姿をしたそれは、僕の耳を本物の犬のように舐めながらそう言った。


「おめえがリュウイチか……」

 あれから犬とおじさんが話し合った後、おじさんが僕に状況を教えてくれた。

 あの犬は、僕のお父さんの記憶を埋め込んだアンドロイドなのだという。

 もしもの時のために、犬型のアンドロイドに自分の記憶を埋め込んでおいた僕のお父さん。

「一応、あいつからこれからの俺の依頼内容は聞いた。残党のカタがつくまで警護は続けるらしい。あとは君の許可だ」

「おい! 依頼主がやれと言っているだろう!」

「おめぇもう人間じゃねぇだろ」

 おじさんが言うには、生きている人間でなければ、契約を結べないと決めているという。もうアンドロイドになった犬のいう事は聞かないということらしい。

「お願いします」

 そう言う。おじさんはこれから住み込みで警護をすると言ってくれた。


 犬になったお父さんは、それから本物の犬のように僕にかまってきた。後ろからのしかかってきたり、お腹を撫でてくれと言わんばかりに僕の前で仰向けになったりした。

「ケイタ。元気を出すんだよ」

 そう言ってこなければ、いずれその気にもなっただろうが、これはお父さんの記憶を埋め込んだ犬だ。そんな事を思えるはずがない。冷静に考えると気持ち悪い。

 いい年した大人が、僕の前で仰向けになってお腹を撫でてくれといっているのだ。

「なんかお父さんらしいことはできないの?」

 僕は犬に向けて言う。

 犬はそれからいきなり静かになった。

「お父さんらしくするなんてわかんないよ……」

 いままでお父さんらしいことをしてもらったことなんてなかった。犬もそうらしい。それから、カチカチと音を鳴らして歩き、微妙な距離を取って座った。

「なんで僕らを捨てたの?」

 お母さんと離婚はしていないが、家に帰ってきたことなどない。こんなものは捨てているのと同然だ。

「捨てていない……つもりだった……でも捨てていた……」

 それから静かになった犬は震えた声になる。

「お父さんらしい事……お母さんとの思い出話なんて聞きたくないかい?」

 気の滅入るようなことを言う犬。だが、気に聞いたことなんてこの犬にはできないだろう。

「それでいい……」

 僕が小さく言うと、話し出す。


「犯人を探してください!」

 殺人事件で父を殺された少女がいた。家の前で事情聴取をすると、泣きながらそう訴えられ、胸が痛んだのだ。

 これから社会に出て仕事をして、給料をもらって、男手一つで自分を育ててくれた父にこっちがおごってやる番だと意気込んでいたところだったらしい。

 だが、入社前に父は何者かによって殺された。その事件を担当したのが、当時新米であったリュウイチであったのだ。

「犯人はすぐに見つかった。町の不良。遊ぶ金目当ての身勝手な強盗殺人だ」

 犯人をすぐに見つけて逮捕をしたものの、その少女は浮かない顔をしていた。自分は次の事件に取り掛かる。だが合間を見て、その少女の様子を見に行った。

 少女に会うたびに最近の事件の話をして、自分の行きつけのラーメン屋に行き、この子が喜ぶだろうと思って、よく知らない女の子向けの映画のチケットなども渡した。

 なんども足しげく通った後、ある日、少女からこう言われた。

「あなたってつまんない」

 大変ショックを受けた言葉だったが、その後手をひかれた。

 手をひかれるままについていくと、スーツを買う店に連れていかれ、使う予定もないスーツを女の子のお金で買ってもらった。

「なんでこんなものを……」

「お父さんに最初にスーツを買ってあげるつもりだった」

 景色のいい公園に連れていかれ、その後、写真を撮るからと言って、展望台の上に立たされた。

「ずっと決めてた。ここでかっこ悪いお父さんがかっこよく見えるような写真を撮ろうって」

 それから、家に連れていかれ、手料理をごちそうされた。

「お父さんはレトルトのカレーが大好きだった。そんなもの食べなくなるように私はもっとおいしいカレーを練習してた」

 そのカレーを食べきると、少女は膝をついてうつむいた。

「やっと気が済んだ……今日はもう帰って……」

 その様子に尋常ならないものを感じたリュウイチはすぐにその家を退散した。


 次の日、その少女は書類仕事をしているリュウイチの元にやってきたらしい。

 いままで浮かない顔ばかりしていた彼女は、化粧をして、ネックレスをして、髪を結い上げていた。そして、屈託のない笑顔を浮かべている。

「ねぇ。結婚して」

 いきなりのプロポーズだった。

 何も言葉を返せず呆然としていると彼女はそれから言葉をまくしたてた。

「私肉親を殺されて心が病んでいるの。しつこいよ。こわいよ。なにがなんでもつきまとうよ。結婚しないと終わらないよ」

「待ちな。僕は仕事に人生をささげるつもりっていうか……多分幸せな家庭なんて築けない……」

 そう言っても彼女は屈託のない笑顔を浮かべていた。有無を言わさず続ける。

「結婚しなさい」


「それから、なし崩しにね。一言『うん』と言うと、式の段取りは全部彼女が決めたよ」

 どう思えばいいかわからない無茶苦茶なラブストーリーだった。

「でも、僕にとってはよかった。辛いときや迷ったときに手紙を送って話せる相手がいる。自分に帰るところがあるっていう安心感があった。それがあったから、どんなに遠くに行っても、どんなに辛くても、気持ちが見えない力で支えられていたので折れなかったんだ」

 身勝手な言葉にも聞こえた。そのため、僕は普通ならいるはずのお父さんがいなかったのだ。それで、周りの友人をうらやましいと思う事も多かった。惨めな気持ちになった事もあった。

「ケイタが大きくなっていっているっていう報告も、僕にはうれしかったんだ。この年になったなら一緒にあそんでやるといいなとか、美味しい食べ物教えてやるのもいいなって……」

 幸せそうに話す犬だが、モヤモヤする言葉だ。いままで何一言言葉を交わさなかった人間から、そんな事を考えられていたんだと考えると、不快感を感じた。

「気持ち悪いよ」

 そう言い、僕は犬から遠ざかった。

「僕はお前なんか知らない! 父親だからなんだよ! 何者なんだよ! 意味分かるだろう! お前は僕にとって何者なんだよ! 気味が悪いんだよ!」

 犬はパタリと動きを止めた。

 自分に好意を寄せる得体のしれない謎のロボット。勝手な事を考えまくって意味の分からない妄想をしている。そうとしか感じなかった。

 黙って僕の前から消えていったその犬。それから、僕は得体のしれない恐怖に身を震わせた。


「本当に大丈夫なのか? 外に出て……」

「大丈夫なように君を雇ったんだ」

「これはさすがに守り切れなくても俺のせいじゃねぇぞ」

 犬とおじさんの会話。おじさんは反対していたが、犬とおじさんと僕は外に出た。

 目的は近くにあるレストランで昼食をするからという事だ。僕の気が滅入るからと行って強行したお出かけだった。

「おい! 犬!」

 早速犬は道行く女性にちょっかいをかけていた。おじさんが止めに行く。

「何よ! この犬!」

 いくらなんでもと声を上げ、迷惑がる女性。おじさんが犬のしっぽを掴むと、振り返った犬はおじさんにうなりを上げる。

「うなるんじゃねぇよ! 大人しくしねぇか!」

 おじさんは結局くびねっこを押さえて、犬を女性から離した。一言お詫びを言った後、僕の方に戻ってくる。

「犬の体を最大限上手く使った方法だよ。おっぱいさわったよ!」

「やめろ駄犬! 子供に何を教えてる!」

 僕に向けて言ってくる犬。それからも傍若無人な犬の行動は続いた。

「勝手に食うんじゃねぇ! ロボットだから消化できないだろう!」

「その体しょんべんできんのか! やめろ! なんのためだ!」

 次々に犬が暴れ、おじさんが止めに入る。元警官のやることとは思えない。


 目的のお店に着くと、犬は外につながれ、僕とおじさんだけで店の中に入った。

「あの犬なんなんだ?」

 おじさんが言うが知るわけない。僕だって迷惑している。目の前で大きなステーキを食べるおじさんは、ガラス越しに犬の事を見た。

「おじさんって強いの?」

「ああ?」

 僕はお母さんを殺した奴に復讐したいと思い始めていた。

「悪い人を殺してる?」

 おじさんは少し黙った後に横を向いて答えにくそうに答える。

「殺すこともある……」

 十分な返答だ。僕は切り出した。

「僕をおじさんの弟子にして……」

 そう言うと、おじさんは考え出した。

「復讐を悪いものとは思わねぇ……行く先もないというなら……俺にいいように使われることになるがそれでもいいのか……?」

 おじさんは僕の心情をすべて察していた。

「おねがいします……」


 店を出ると、僕とおじさんはお互いに鎮痛な顔をしていた。

「聞いていたぞ。俺は反対だからな」

「うるせぇよ。駄犬」

 犬がさっきの話を口をはさんでくるのを止めた。

「これ以上、往来で騒ぐな。ジャンク屋に持っていくぞ」

 そうおじさんが言うと、犬は黙った。


 夜に、おじさんがリビングに座っていた。

「おう、話を始めるか?」

 犬はリビングに入ってきた。入るなり話を切り出す。

「ケイタをそんな世界に入れるわけにはいかない。ケイタは清く正しく生きて、幸せな人生を歩むべきなんだ」

「ケイタ君に、シングルマザーの可哀そうな人生を送らせた本人が言うじゃねぇか」

「それは悪いと思って……」

「待て。まず、こっから話そうじゃねぇか。父親ってなんだ?」

 それからおじさんが言った言葉は、僕の言葉の代弁であった。

「血がつながってりゃ父親か? おめぇは知らねぇ他人じゃねぇかよ。他人が勝手に仲良く遊んでやろうとか妄想しているなんて気持ちわりぃだけじゃねぇか。そもそも今のお前は悪霊ってやつじゃねぇか?」

「子供を想っていたら悪霊か?」

「迷惑だったら悪霊だ。おめぇ生きているうちから赤の他人だったじゃねぇか。今となっては本体は死んでるんだぜ。死んだ人間の意志だけ残って、残った人間に迷惑かけているなんて悪霊そのものじゃねぇか」

 それから、おじさんは犬に銃口を向けた。

「撃てと言え。悪霊になりたくなければ。ここでスクラップになれ」

「まだ……僕にはやることがある……」

「ケイタ君に迷惑がかかることか?」

「ケイタを救うんだ」

「アホか! それが迷惑だってんだ!」

「奴らの本部の場所、まだ分かっていないのか?」

「ああん?」

 それから、おじさんから敵の残党の居場所を聞き出した犬はどこかに消えていった。


「リュウイチさん。よろしいんですか?」

「この体の役目は終わった」

 突入部隊に事情を話すと、体に爆弾を巻きつけた犬は敵の本部に入り込んでいった。


「君がケイタ君だね」

 その後、警官が僕の前にやってきた。

「殉職されたリュウイチ警視は、君にメッセージがあるという。預かってきた」

 メモリースティックを渡した警官は一緒に僕の家に入ってくる。

「本人が嫌がっていても見せるように言われてる。無理やりでも見せろと」

 家のプロジェクターに映像が流されていく。精密なコンピュータグラフィックで作られた生前のお父さんの姿がそこには写っていた。

「僕は、君にとっていい父親ではなかったのは認める。だけど……」

 それからその姿は土下座を始める。

「僕を父親だと認めてください! どんなにダメな父親だろうと、僕が父親だった事を忘れないでください!」

 これが、あの犬の本音なのだ。このみっともなく懇願して僕にすがりつく姿が、本当のあの犬の姿だった。

「ケイタ! お前は清く正しく生きろ! 幸せになれ! 幸せになれ! 僕はきみを幸せにできなかった! ならじぶんでつかみ取れ! なんでもいい……」

 カメラにすがりついた映像は言う。

「僕の事を忘れないでくれ……君は幸せになってくれ……なんでもいい……なんでもいいんだ……」

 それだけで映像は終わった。時間にして二十秒足らず。

 一緒に見ていた警官は呆然としていた。

 僕も呆然としていた。


 十五年後、おじさんは警察に自分の獲物を先取りされて悔しがっていた。

「おじさん。そろそろ引退したら?」

 おじさんは声をかけられるのに、悔しそうにして鼻を鳴らした。

「親子そろって目障りだな」

 相手は笑い、わざとおじさんにつめよって行く。

「あのバカな父親以上に目障りでしょう?」

 それから相手は声をかけられる。

「ケイタ警部。準備完了しました。帰りましょう」

 それから、僕はおじさんに挨拶をしてから振り返る。

「僕は清く正しく生きる。幸せになる」

 おじさんと僕にしかわからない謎の挨拶をした後、仕事に戻った。

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