序章 『玄関開けたら異世界だった』
過去に書いていた異世界モノです。主人公は自転車です。ある意味。
とにかく無力で魔法も何もかも使えない主人公は必死にペダルを回し、チート級の最凶令嬢や使用人たちと共に事件を解決していきます。
俺は米が好きだ。
それはもはや、日本人に生まれた所以でもあるし、己の舌にクリティカルヒットするからといった個人的な趣向も関係している。それで、俺はよく『玄関開けたらイトウのご飯』という、インスタント食品にしては味と弾力が抜群に優れている、かの有名なそれを食べることも少なからずある。
ここで注目して頂きたいのは、『玄関開けたら』という点について。もしも本当に、家に飯が無かったり、はたまた、尋常でない程の空腹に苛まれている時なんかに、玄関開けたらイトウのご飯が置いてあったら、と下らない妄想を件のご飯を食す時に、ふと考えていたりする。
しかし、現実には喉から舌が出る程にそのイトウのご飯を渇望することは殆ど無く、代わりに置いてあったらいいなと思うものが、テレポート機能である。これは、玄関開けたら何が起こって欲しいか、という論点が些かずれた意見になってしまうのだけれど、関連しているので問題ない。
話を戻そう。そのテレポート機能というのは皆もご存知、某国民的大ヒットSF漫画に出てくる、ピンク色の万能ドアに搭載されているものだ。
大半の高校生――特に電車や長距離を自転車で走る方々は、登下校で苦労している。そんな中でやはり、テレポート出来たらなぁ、などという非現実的な妄想を虚しく友達と話し合う、SFに憧れる典型的なロマンチストが生まれていくのだった。
つまり、俺もそんな虚しい妄想を垂れ流す典型的なロマンチストの中の一人なので、当然の如く、この玄関を開けたら学校だったらいいのになぁ、なんていう風に思考が帰結する。
ここで、だ。仮にそんな事がもし本当に起こったらどうするか、というシミュレーションをしてみよう。通学路というプロセスを終えていないので、学校までのテンションは出来上がっていないのではないか。そう、そうなのだ。突然そんな事が起こったとしても、心の準備やプロセスが行われていない以上、誰もが最初は戸惑うだけなのだ。
では、この説を学校以外の場所に置き換えて当てはめてみよう。絶対に当てはまると思う。それはもう、餅は絶対、醤油と海苔で食うと決心した時並に。
例えば、見ず知らずの場所だったらどうだろうか。そして、そこは、現代知識や文明の利器、言語などなど、全てが通用しない世界である。確実に困るだろう。というか、現在進行形で困っている。え、妄言を吐くな、だって? いやぁ、ほら。今挙げた仮説が仮の話じゃなくて絶賛経験中だから困っているのだということを誰かに聞いて欲しくてさ。
あ、一応メッセージアプリは使えるから友達や家族とは喋れるのだけど。
もう、お分かり頂けただろうか。
そう、俺こと蒼原森檎は今――
「……いや、まじでこれ、どうすんだよ……」
――異世界に居るのでした。
これより、全くもって摩訶不思議で証明不明、それでいてファンタスティックな非日常な物語が幕を開ける――のだと思う。