第九話:尾行中
自室で目を覚ます。
一人暮らしなら十分な広さの安アパートには、他に誰もいやしない。
田舎の親は、とっくに眠りについている。
俺が年を取ってから介護する必要がない分、気楽と言えば、バチが当たるか?
……なんやかんや言い訳つけて、この手に何も残らないことを、誤魔化そうとしている自分に腹が立つ。
……だからといって、手を伸ばしても何かを掴めるとも思えない。
…………やめよう。朝風呂浴びて、仕事行こう。
変わり映えしない日常をつまらないと思って、どれくらいになるだろう?
朝起きて、
コンビニ寄って、
会社行って、
歩きまわって、
へとへとになって家に帰る。
これの繰り返し。
しかし、最近は……。
スマホに着信。しかし、着信音は、親しい相手限定のヤツ。
仕事の都合で友人とも縁の切れた俺に、平日の日中電話かけてくるヤツなんて……?
|(фωф)
……うん? 今度は何をしてるんだメリーさん?
|)≡З
|ωф)
|)≡З
ぶふっ!? と、とうとう絵文字が動き出したぞ!?
なんだなんだ? 何が起きているんだ?
『(もしもし、わたし、メリーさん)』
おいおい、ぼそぼそ小声で何してるんだ? メリーさんや?
ってか、俺が吹き出したのはノーカンか? ヤバいと思ったんだが。
『(今、怪しいヤツを尾行中なの)』
……うん、そいつ終わったな。メリーさんに後ろ取られたら、アウトだからな。
しかし、なんでまた尾行なんて……?
『(犬のクセに、人みたいな顔をしているの)』
……うん? なんか聞いたことが……?
『(『ほっといてくれ』って言われたけど、こんな怪しいネタ、ほっとけるわけないの)』
ぶふっ!?
慌てて口を押さえてスマホを耳から離す。
幸い、吹き出した音は聞かれなかったらしい。
いやいや、それって、人面犬じゃん!?
とうとう違う怪異が、しかも真っ昼間から闊歩するようになったのか!? この町は!?
『(どこに行くか、必ず突き止めるの)』
あ、あー……。
どうしよう? これも罠か?
メリーさんが何考えてるか全く分からん。
『(また電話するの)』
(かちゃ、つー、つー、つー。)
おっと、電話切れた音も小さいな。
電話の音量すら自由自在か?
芸が細かいな、メリーさんは。
……この町の怪異、他にも居るんだろうか……?
人物紹介
・俺:主人公。男性。
……備考:職業・会社員。
昔の夢を見た。最近、人恋しい?
・メリーさん:家出少女?(推定)。西のマダムに引き取られた?
……備考:何やら怪しい存在を尾行中?
・人面犬:人の頭に犬の体の都市伝説。『ほっといてくれ』が口癖の様子。
……備考:夕暮れ時や夜の、人目につかない場所に出没する、基本的に無害な怪異。