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第六十一話:雨の裏側で

 私なりのアンサーとさせていただきます。

 何のことか分からなくても問題ありません。



 7月7日は七夕。


 本格的な夏に向けてどんどん暑くなっていく時期。


 俺の過ごす地域では、毎年この日は雨模様。


 短冊に願い事書いて笹の葉に(くく)り付けても、雨じゃあ天に届かないと気落ちするまでが恒例となっていた。




 そんな、毎年の雨の日の仕事帰り。




 ぢりっ! と、焼け付くような感覚。




 その直後、



『あ痛っ!?』



 どさりと音を立てて墜ちてきたのは、着物姿の……着物?

 江戸とかよりずっと昔の、和服っぽい上着とゆったりしたズボン姿の男性。

 ちょん(まげ)でないけれど髪はまとめてあって、いつの時代の何者なのかまるで分からん。



 ……だからといって、放置するわけにもいかんのだろうなぁ……。


 ざあざあ音を立てて降る雨は、傘なしだとすぐにびしょ濡れになってしまう。


 ……はぁ、面倒だが仕方ないか。



「もし、大丈夫ですか?」



 墜ちてきた何者かに声をかける。


『何きみ? 僕のこと見えるの? いやぁー、あっはっは! まさか地上まで落とされるとか…………あのクソ義親父(おやじ)…………』


 あ、例によってアカンやつに声かけたのかもしれん。


「…………何かお困りですか?」


 慎重に言葉を選ぶ。いや、声かけた段階でアウトなのかも分からんけど。


『いや、なに。大したことじゃないさ。一年に一度の逢瀬(おうせ)を義理の父から邪魔されてるだけなんだよね! ……確かに、色恋にかまけて仕事サボったのは僕の落ち度だけどさ! だからって、テメェが決めた《年に一度の逢瀬》まで邪魔されたらかなわんよな! あっはっはっ!』


 ざあざあ降る雨に全身ずぶ濡れになりながらも、怒りが振り切れて笑いが込み上げてきたのか突如笑いだす男性に、怪異とか天人とか別にしても、普通に引く。


 ……いやさ、その義理の親父さん、あんたのテンションの高さに嫌気(いやけ)さしてるんじゃない?


『ありがとう地上の人よ。不満をぶちまけてだいぶスッキリしたよ! 1日は短いからね! 姫といちゃつく時間がなくなってしまうから、これでおさらばするよ!』


「あ、ちょっと」


 テンション高めの農夫の婿(むこ)に引きつつも、気になったことを問わずにはいられなかった。


『なんだい? できるだけ早く天に戻りたいのだけれど? でも、質問があるなら聞いてあげるよ!』


 ……まあ、その、好青年ではあるんだろうな。テンションの高さがウザいだけで。

 ともあれ、機嫌を損ねない内に聞いとこう。


「こんなざあざあ音を立てて雨が降っているのに、あなたはあなたの姫に会いに行けるのですか?」


 問えば、男性はきょとんとした顔になり、少しの後に得心がいったように一度大きく(うなず)いて、


『なんだ、そんなことか! 地上に降る雨が、天の国に影響を与えるなんて、そんなことはないさ! 僕らは地上より遥か遠く星々の彼方に暮らしているからね! でもその、僕と姫を案じる気持ちはありがたくいただいていくよ! じゃあね!!』


 男性は朗らかに笑い、大きく手を振ってから、天に向けて何か光の帯みたいなのを右手から伸ばして、その光の帯に引っ張られるように天へ昇っていった。


 残されたのは、傘をさしたまま雨に振られる俺一人。



 ……7月7日の雨が見せた幻か何かだったのかな?



 そんなことを思っていた時、スマホに着信が。




( ´△`)




 ……いやその、メリーさんどうしたよ?



『もしもし、わたし、メリーさん』



 はいよ。なんか沈んだ雰囲気だな?



『笹の葉に願い事を書いたのに、こんな雨じゃあ天まで届かないの』



 願い事を書くのは短冊な? それと、なんか彦星っぽいテンション高いやつが言ってたぞ。地上の雨は天に影響を与えないって。



『そうなの? なら、《世界掌握(しょうあく)》って書いた願いもいずれ叶うの♪』



 なんと。世界を掌握ときたか。……いや、まあ、征服よりはいいのかもしれんけどさ。


 ……ところで、どういう意味で掌握?



『……えっと、こう、がしっ! と掴んで、ごりゅっ! とするの?』



 疑問系で言われても分からんよ。

 それ掌握でなくて圧潰(あっかい)とか粉砕(ふんさい)とか言うんでないの?



『ともかく、雨の日でも願い事が叶うって分かったからそれでいいの。……また電話するの』




 がちゃ、つー、つー、つー。




 ……願い事叶うとまでは言ってないんだが……。


 いやはや、メリーさんが世界を掌握したなら、どんな風になるのかな?


 ……意外と、あまり変わらなかったりして。




 気が付けば、ざあざあ音を立てて降っていた雨もやみ、見上げた先には天の川がずいぶんとはっきりその形を天に示していた。



・俺 : 主人公。男性。名前は『孝緒(たかお)

……備考 : 職業・総合商社の営業。優良物件。

 七夕の願い事 : 健康第一

 


・メリーさん : 金髪碧眼の、少女の姿の……怪異?

……備考 : もうすっかりマダムの家の子。

 七夕の願い事 : 世界掌握



桜井(さくらい) 美咲(みさき) : 同じ会社の、同僚の女性。

……備考:会社内では、入籍カウントダウンな扱い。

 七夕の願い事 : 円満解決



源本(みなもと) (しずく) : 主人公に憑いた何者かによって、死の淵から生還した、名家の令嬢。

……備考:外見からして、深窓の令嬢然としている。

 七夕の願い事 : 老害滅べ



()(した) 双葉(ふたば) : 無口で無表情で無愛想な、現役女子高生。

……備考:父は総合商社の営業課長(やや天然)。母は専業主婦(天然)。

 七夕の願い事 : 胸が大きくなりますように



碓氷(うすい) 幸恵(さちえ) : 幸薄い元誘導員。実家は歴史ある町工場。

……備考:誘導員は退職、工場の事務に専念。

 七夕の願い事 : 安全第一



(おぼろ) 輪子(りんこ) : 明るい笑顔を絶やさないタクシードライバーの女性。

……備考:先祖に人化した妖怪を持つ、先祖返り。

 七夕の願い事 : 人生を一緒にドライブしませんか



・謎の幼女 : 御神木の桜の木の中から引っ張り出した、姉と認識する幼女。

……備考:霊だったはずなのに、実体がある。

 口数も少ないが、別にしゃべられないわけでもなさそう。

 姉として、弟のことは気がかり。

 七夕の願い事 : 弟が結婚できますように



・西のマダム : 高級住宅街に住む、セレブな女性。既婚者。

……備考:メリーさんを迎え入れ、たくさんの犬と旦那と一緒に過ごしている。

 犬はたまに増える。犬じゃないのもたまに増える。

 七夕の願い事 : うちの子たちが幸せでいられますように




・七夕 : 年に一度の逢瀬(おうせ)が許された日。

・備考 : 男と女が恋に落ちた。

 そのせいで、男と女は色恋に(うつつ)を抜かしてばかりで全く仕事をしなくなった。

 それに怒った女の父は、男に試練を与える。

 その試練に失敗した男は、天の川という川で分けられもう女に会えなくなってしまった。

 泣き崩れる娘を不憫に思った父は、双方真面目に仕事をすることを条件に、年に一度だけ二人に会うことを許した。


 しかしながら、その日が雨では二人は会えないという説がある。

 それに対する作者なりのアンサーとして、


「地上は雨でも遥か星々の彼方では影響無く、二人の逢瀬は叶う。しかし、地上からの祈りは雨雲に遮られて届かない」


 というものを提示してみた。


 愛し合うからこそ、周囲のことも忘れてはならないという教訓にも思える。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 笹の葉に願いを書くメリーさんかわいいです^^ 世界を掌握……マダムがGOをだせばフツーにできちゃいそうな気しかしません。 織姫と牽牛、事件から何年もたつだろうに一年一度しか会えないのは少…
[一言] >愛し合うからこそ、周囲のことも忘れてはならないという教訓にも思える。 深い( ˘ω˘ )
[一言] どこぞの涼宮さんも言っていたが、相対性理論的に見て彦星と織姫の星に願いが届くのはだいぶ先だぜメリーさん(ォィ
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