第五十四話:落ち葉
焚き火を推奨するわけではありません。
火の扱いは注意しましょうね。
平地の緑が赤く染まった頃は、山では落葉も終わりへと向かう頃。
つまりは、葉っぱが大量に落ちているわけで。
今日はマダムのお願いで、マダムの所有する山のキャンプ場で、落ち葉集めて堆肥に+焼き芋+その他の日。
「第一回、秋の落ち葉焚き~。ドンドンパフパフなの~」
違うからな? 落ち葉は肥料にするのよ?
久しぶりの全員集合に、テンション高めのメリーさん。
「ええと、落ちている葉っぱを集めればいいのね?」
おっかなびっくり、ほうきで落ち葉を集める雫嬢。
「これだけ大量にあると、集めるのも楽。……あ、雫、1ヵ所だけに集めなくてもいいの」
へっぴり腰の雫嬢が気になって仕方がない双葉嬢。なんだかんだで優しい。
「一緒にお芋を包みましょうね」
実家の工場が忙しかったらしく、久しぶりのお休みです。と喜んでいる碓氷さんは、姉貴とサツマイモをアルミホイルにくるむ役をかって出た。
「孝緒さーん、テーブルとかこんな感じですー?」
キャンプ用のテーブルとイスを配置してるのは、朧。
ガタついてないか確認して、OKを出す。
「孝緒さん、こんな感じで足りますか?」
火種用に、古新聞を丸めているのは桜井さん。
ふわっと丸めておくと、幾分かは火が着きやすい。
さて、俺はというと。
『ふご……ふご!』
水と消火器を車から下ろしたら姿を現した野生のイノシシ相手に、睨みを利かせているところだった。
ざりっざりっと後ろ足で地面を蹴って、突進準備いつでもOKなイノシシを見て、どうすっかなぁ……? と思っていると、
「野生の生肉が自分から来たの? わたし、獲れたて新鮮なレバーを生で食べてみたかったの♪」
これこれ、生食は寄生虫が怖いぞ? メリーさんならおなか壊すってことを知らないかもしれないが。
それに、俺たち誰も狩猟免許持ってないだろ? 野生の生肉を勝手に獲ったらマダムが怒られるんだぜ?
「ええー……。ママさんは怒られたりしないと思うの……。……あ、あーっ! 逃げるなお肉ーっ!!」
完全に捕食者の目をしたメリーさんが前に出た瞬間、恐れをなして逃げ出すイノシシ。
……野生の本能は、危機を正しく認識したようだ。
「もーっ、なんで逃がすのーっ?」
誰もイノシシの解体なんてできないからだよ。道具もないし。包丁だけじゃ無理だろ。それに。
「こっちのお肉の方が美味しいと思うぞ?」
アルミホイルで包んだブロック肉をメリーさんに突きつけてやる。
料理人の作るローストビーフのようにはならないと思うけど、失敗してもいいようにバーベキューセット持ってきているし、作るのも含めて楽しもうぜ?
ちょっとふてくされているメリーさんを尻目に、雫嬢がバーベキューセットの炭にマッチで火をつけようとして、力みすぎてマッチをへし折っている。
「……うぅ、この、む、難しいわね……」
「もう、ちょっと貸してみなさいよ」
必死な表情で2本3本とマッチを折っていく雫嬢を見かねて、双葉嬢がマッチを箱ごと取り上げて慣れた手つきでマッチを擦り、火をつけてみせていた。
「「あ、あぁーっ?」」
で、ちょっと強めの風が吹いてマッチの火が消えていた。残念。
で、隣のバーベキューセットはというと。
「お、うまく点きましたよー」
「わっ、結構な勢いで燃えますね」
朧と碓氷さんがライターで新聞紙に火をつけて、炭に移していた。
……いやさ、雫嬢に双葉嬢? 俺を恨めしそうに睨んでもさ。
さて、焼き芋が上手く焼き上がるかどうか分からんし、他の食材で食事の準備をしようぜ。
焼き芋なら、帰りながらでも食べられるし、なんならおみやげにしてもいいだろうからさ。
サツマイモの焼き時間を見ながら、バーベキューで昼食ということになった。
鉄板で肉と野菜を焼きながら、温めるだけでいいようにしてあるスペアリブとか出したら、メリーさんが骨ごと噛み砕いていた。歯と顎が丈夫だなおい。
雫嬢は優雅にゆっくりと食べているが、隣の双葉嬢に焼き上がった肉や野菜をせっせと皿に盛り上げられて、こんなに食べられないと抗議していた。
碓氷さんは焼きながら、いいお肉ですね、美味しい。とニコニコ幸せそうに頬張っていた。
よく焼けたフランクフルトを頬張り、口もとについた脂を舐めとる朧を見て、ちょっと、なんというか、目をそらしてしまう。
そらした視線の先では、桜井さんにあーんといわれて大きく口を開ける姉貴。
ニコニコ嬉しそうな桜井さんに美味しいですか? と聞かれて大きくうなずく姉貴に思わずほっこり。
そんな感じで食事も進み、厚切りサーモンのちゃんちゃん焼きをみんなで味わい、
「ふぅ、もうおなかいっぱいよ。ご馳走さま」
と雫嬢がペーパータオルで口を拭ったところで、全員我に返る。
「……あ、サツマイモ、焼いてましたね……」
姉貴がけぷぅと可愛くげっぷする中で、みんなを代表するように桜井さんが言う。
で、みんなで目配せしあう。
……食べれる?
……ううん、無理。
そんな感じで。
まあ、メリーさんだけは、
「食後のデザートなの♪」
と、声を弾ませていたが。
メリーさんが隣のバーベキューセットに駆け出し、いもが焼けたか試しに取り出してみようと、碓氷さんが軍手はめて立ち上がったとき。
ごう、と、不意に、突風が。
突風は、両方のバーベキューの火を消し、地面の落ち葉を舞い上がらせ、渦を巻き、
「あーっ! おいもーっ!?」
隣のバーベキューセットで焼いていたサツマイモを、一つ残らず持っていってしまった。
その、突風の中に、片目の龍を見たのは、気のせいだったのだろうか?
・俺 : 主人公。男性。名前は『孝緒』
……備考 : 職業・総合商社の営業。優良物件。
突風の後、火の消えたバーベキューセットの炭に、ポリタンクの水をかけておいた。
芋はともかく、火がついたままの炭が舞い上がって山火事にでもなったらマダムに処されるとしばらくの間ビクビクしていた。
・メリーさん : 金髪碧眼の、少女の姿の……怪異?
……備考 : もうすっかりマダムの家の子。
ハロウィーンに続き、今度は焼き芋を持っていかれておかんむり。
しばらくの間機嫌が治らなかった。
・桜井 美咲 : 同じ会社の、同僚の女性。
……備考:会社内では、入籍カウントダウンな扱い。
突風が吹いたのに鉄板の上にはホコリの一つも落ちていなくて、首をかしげた。
・源本 雫 : 主人公に憑いた何者かによって、死の淵から生還した、名家の令嬢。
……備考:外見からして、深窓の令嬢然としている。
こういう風にみんなで集まると、普段より食べてしまう。
太らないか心配。
……これ以上、胸のサイズが増えないか、ほんと心配。
・木ノ下 双葉 : 無口で無表情で無愛想な、現役女子高生。
……備考:父は総合商社の営業課長(やや天然)。母は専業主婦(天然)。
なんか、しばらくぶりで顔を合わせた雫の胸のサイズがアップしてる気がして、内心へこんでいる。
・碓氷 幸恵 : 幸薄い元誘導員。実家は歴史ある町工場。
……備考:誘導員は退職、工場の事務に専念。
桜井さんと料理のことでやり取りしてるうち、レシピが増えた。
料理の腕も上がっているみたいで、家族も喜んでる。
・朧 輪子 : 明るい笑顔を絶やさないタクシードライバーの女性。
……備考:先祖に人化した妖怪を持つ、先祖返り。
ちょっと最近、たまに孝緒さんの視線が……?
気のせい? それとも?
・謎の幼女 : 御神木の桜の木の中から引っ張り出した、姉と認識する幼女。
……備考:霊だったはずなのに、実体がある。
口数も少ないが、別にしゃべられないわけでもなさそう。
姉として、弟のことは気がかり。
焼き芋、楽しみにしてたのに……。
でも、どっちにしろ満腹で食べられなかったと気付く。
・西のマダム : 高級住宅街に住む、セレブな女性。既婚者。
……備考:メリーさんを迎え入れ、たくさんの犬と旦那と一緒に過ごしている。
犬はたまに増える。犬じゃないのもたまに増える。
孝緒にお願いする前に、どこかと連絡を取っていた模様。
・一目連 : 片目の龍神。別名、目目連。
・備考 : 普段は山に住み、風、つまり、天候を司る神とされる。
製鉄の神格を持つ天津神と同一視されることも。
一つ目ではなく片目というところにこだわりがあるらしい。
片目が傷ついてる人って、歴戦の傭兵っぽいよね。
お目目に触手は目が点。
※(注) : 屋外での焚き火などは原則禁止されています。
キャンプ場や河川敷の公園などでは、周囲に燃えるものがない状態だから黙認されているものと思われます。
正確なところは少し調べただけでははっきりしなかったですけど。消防法かな?
地域の行事などで、焚き火で焼き芋など予定している場合は、水を容れた白いポリタンク(主に水用、容量20リットル)や消火器を準備した上で、警察や消防に相談してみましょう。
繰り返しますが、作者は屋外での焚き火を推奨していません。