第五話:ドッグラン
さて、仕事を一件やっつけてから、次の取引先へ行く途中の通り道に中央西公園があるので、寄ってみることにする。
町の中心部にある中央西公園は、散歩で立ち寄る場所とは言えない。というのも、住宅地から大分離れているから。
メリーさんが散歩にいく可能性としては低いが、西の住宅地は午後でないと行けない。各取引先に顔を出しておかないと、サボりと見なされるからだ。そして、各取引先全て回るには、効率良く歩く必要がある。つまり、歩くルートは決まっているのだ。
中央西公園は、ビジネスマンの通り道、あるいは休憩所になっている。
公園の外にはコンビニ、
中には公衆トイレとベンチ、噴水、自動販売機、ゴミば……ダストボックスがある。
ベンチは全て、雨避けに屋根が設置されており、夏の暑さもしのぐことが出来る。
……というコンセプトで造られたこの公園。
第一級ナントカデザイナーとやらが多額の報酬をせびった事で巨額の税金が投じられており、町の住民たちからは忌々しい存在になっている。
しかも、そのデザイナー、最悪なことに、海外から報酬をせびり、しかも吊り上げて来やがった。
当時の町長はなにやら弱みを握られていたらしく、唯々諾々と従っていた。そのツケは、特別税とかの名目で今も住民たちに重くのし掛かっている。
町で相談した高名な弁護士にも、海外には手を出せないと見放されてしまって、当時、それはそれは大きな騒ぎになったのだった。
5年ほど前の大騒ぎは、大人から子供まで巻き込んだ騒ぎになったので、今でもほとんどの住民が悪い記憶として覚えている。もちろん俺も。
忘れるものかよ。俺も抗議活動に無理やり駆り出されたし、今も余計な税金を払い続けているのだから。
嫌な過去を思い出して嫌な気分になっていると、不意に着信に気付く。
こんな時にどこのバカだよ?
チッと舌打ちしながらスマホを確認すると、
≡≡Σ(O_Oノ)ノ
また顔文字だよメリーさん。
今度の用事はなんだい?
『も、もしもし? わたし、メリーさん!』
おっとどうしたメリーさん? なにやら慌てているようだが?
『今、西中央、公園の、ドッグラン、にいるの』
やっぱり西の住宅地の方だったか。
……うん? 何か走ってる? ドッグラン? 何故?
『犬は、苦手って、言った、のに、飼い主、のおばちゃんた、ちが、笑いながら! 笑いながら! 犬を! 放したの!』
いやいやメリーさん? なんでドッグランの中に居たの?
そりゃ放すよ? ドッグランは犬を放して運動させる場所なんだし。
そりゃ笑うよ? ドッグランの中に居たなら、犬と遊びたいけど素直になれない子供だと思われたんだろうさ。
『(笑ってないで、助けるのーーー!!)』
犬の飼い主のおばちゃんにでも叫んでいるんだろうか?
スマホから顔を放しているようで、叫び声が遠く聞こえる。
その返事か、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
おばちゃんやい、助けてやらんのかい?
場合によっちゃ、お巡りさん出動だぜ?
場合によっちゃ、お手々が後ろに回るぜ?
『あ、や、だ、ダメなのーーー!?』
(あらあら、もう仲良し)
(うふふ。うちの子があんなに楽しそう)
(それを言ったらうちの子だって)
(ほんと、あんなに楽しそうにしているのを見るのは久しぶりよ)
(よっぽどあの子が気に入ったのね)
『舐めちゃ、顔を、ダメ、顔は』
(はいはい、あなたたち、おやつの時間よ)
(たくさん運動して偉いわね)
……うん、犬の舐めてる音や鳴き声なんかは一切聞こえないのに、離れているはずのおばちゃんたちの会話がどうして聞こえるんだろうな?
なにやったよ? メリーさん?
『…………汚されたの…………もう、お嫁にいけないの…………』
メリーさん……。
なんかな、動物番組で手叩いて子犬をおいでおいでするあれが思い浮かぶんだが。
『……おのれ……この恨み……必ず……晴らすの……』
そうか。メリーさん、強く生きろよ。
『…………また電話するの』
がちゃ、つー、つー、つー。
……午後、西の公園に行ってみるか。
人物紹介
・俺:主人公。男性。
……備考:職業・会社員。仕事の効率を求めた結果、毎日同じことの繰り返しになってしまった。仕事つまんない。
・メリーさん:謎の存在。女性(推定)
……備考:犬は苦手。ドッグランの中に居た理由は不明。そもそも、現実の存在かどうか不明。不明ったら不明なの。