第四十一話:クリスマス
メリークリスマス。
今年も例年と同じように、世間はクリスマスムード一色になった。
お決まりの軽快で楽しげな音楽が流れ、アーティストのクリスマスソングが流れ、すれ違った親子連れの笑顔と笑い声が聞こえ、
……そんな中でも俺は、次の営業先へ足早に歩を進めている。
今は、とっくに終業の時間。当然真っ暗。街灯の無いところは歩きたくないくらいだ。
だというのに、こんな時間になぜ? と問えば、取引先の担当が時間指定してきたから。と答えるしかないな。
その会社の担当、俺のことを苦手としているらしく、俺の会社の方に直接連絡しては、営業の担当(つまり俺ね)に直接電話してほしいと伝えられているはずなんだが……。
現実はこの通り。毎度伝えたことを無視する始末。
……これさ、連絡のミスとかあったらどうするつもりよ? こっちのせいってか? ははは、……そろそろ俺、皮肉の一つでも言って良いと思うんだが?
「………こんな時間に、申し訳ない…………」
その取引先の担当、やつれた顔で、今にも倒れそうな声を出しよる。
……こんな日に、過労死寸前の人が目の前に現れるとは思わなかったな。
……少しは優しくしてやるか。
「仕事ですから。お気になさらず」
それ以外の言葉があったら教えてほしい。
「……どうも、おつかれさま……」
「では、私はこれで。……倒れないでくださいね?」
これで、一人だけ残っているなら近所に食事にでも誘って愚痴を言わせてもいいんだろうけどさ、信じがたいことに、1チーム分五・六人はいる。
エナドリとか飲めばいいってわけじゃないだろうし、クッキーとかゼリーとかの栄養補助食品と適当に飲み物を人数分差し入れたよ。
メリークリスマス。
サンタさんなら、もっと気の利いたプレゼントを用意してくれるんだろうけどな。
さて、ここから直帰か。
家までは中途半端な距離。朧を呼ぶほどでもないので、しばらく歩くか。
今年ももうじき終わる。長いようで、あっという間の一年だった。
今年は本当に色々なことがあったな。
山でキノコ狩りしたり、
月夜に城跡まで散歩したり、
廃鉱で金鉱脈掘り当てたり、
山に行って川遊びしたり、
ヅラのオッサンに引っ掻き回されたり、
マダムのお願いで座敷に閉じ込められたり、
急に引きこもりになった別部署の人の家に行ったり、
全身赤い変態と遭ったりもしたな。
……うん、女性と縁があった一年でもあった。
…………うん、そろそろ、ちゃんとしないといけないよな。
………………でも、なにが、どれが、『正解』なんだろうな?
……………………何を選んでも、誰を選んでも、必ず誰かを泣かせてしまうのなら。
それなら、いっそ。
着信音で、考え事が中断された。
こんな時間に、誰だよ?
舌打ちしながら、スマホを見てみれば。
( ´ ▽ ` )ノ
どこか、安心しながら、スマホを操作。
『もしもし、わたし、メリーさん』
うん、こんばんは。どうしたんだい?
『メリークリスマス。今夜はクリスマスなの。イブじゃない、当日なの』
そうだね。楽しんでるみたいで何よりだよ。
『鶏の丸焼きに、鶏肉のハムに、チキンステーキに、ローストレッグにと、今夜は鶏肉尽くしなの』
はは、たくさん食べてご満悦なメリーさんが頭に浮かぶよ。
『これから、デザートにケーキをいただくところなの。フルーツたくさんのケーキ。とっても美味しそうなの』
そうかい。そりゃよかった。俺も腹減ったな。
『幸せな気分を、お裾分けなの。……はむっ。ん~。甘酸っぱくて美味しくて幸せなの……』
やべ、メリーさん、語彙はないが声に感情乗せるだけでマジで旨そう。余計に腹減ってきたぞ。
『今夜は、お休みしたらサンタさんがプレゼントを持ってきてくれるの。なにをくれるか、今から楽しみなの』
楽しい夢をプレゼントってのも、良いんじゃないか? 夢の中でもたくさん食べな?
『また電話するの。メリークリスマス。良い夜を』
かちゃ、つー、つー、つー。
ほんと、色々あったよな。今年は。
メリーさんから電話が掛かってきたことが始まりでさ、不思議体験が幾つもあって、命の危険を感じたことも何度もあって。
……で、女性と、縁があって。
さてさて、来年の今ごろは、なにがどうなっているだろうな?
せっかくだから、俺も言っておくか。
「メリークリスマス。聖なる夜に、奇跡を」
ふと、空を見上げれば、一条の流れ星。
それから少しの時間を経て、白い雪が舞い降りてきた。そして……。
「こんばんは。お疲れさまです。メリークリスマス。今夜は、ホワイトクリスマスですね」
待っている人がいる。その事に、たまらないほどの愛おしさを感じながら、その女性を、そっと抱き締めた。
「ただいま」
・俺 : 主人公。男性。
……備考 : 職業・総合商社の営業。優良物件。
ハーレム願望は無かったはず。もう自信無い。
今後のことで、お悩み中。
・メリーさん : 金髪碧眼の、少女の姿の……怪異?
……備考 : もうすっかりマダムの家の子。
クリスマスプレゼントは、サンタのコスチュームだった。
トナカイとソリも欲しくなってしまった。
・桜井さん : 同じ会社の、同僚の女性。
……備考:会社内では、入籍カウントダウンな扱い。
家族と過ごすクリスマスも良かったけれど、今年は……。
・源本 雫 : 主人公に憑いた何者かによって、死の淵から生還した、名家の令嬢。
……備考:外見からして、深窓の令嬢然としている。
家の付き合いがあるため、クリスマスなどはいつも大変。
老若男女から、言い寄られることもしばしば。
・木ノ下 双葉 : 無口で無表情で無愛想な、現役女子高生。
……備考:父は総合商社の営業課長(やや天然)。母は専業主婦(天然)。
無神経な男子に、クリぼっちと言われてマジギレした。
家族がいるし! ぼっちじゃないし! なんなら、クリスマスのごちそうは、自分と母で作るし!
・碓氷 幸恵 : 幸薄い誘導員。実家は歴史ある町工場。
……備考:昼は誘導員、夕方からは工場の事務を兼業。
最近、明るくなったねと言い寄られることが増えて、少し困っている。相手は本気ではなく、遊びっぽいし。
・朧 輪子 : 明るい笑顔を絶やさないタクシードライバーの女性。
……備考:先祖に人化した妖怪を持つ、先祖返り。
呼ばれると思って出待ちしていた。
実際は呼ばれなかった。残念!