第三話:スマホ
二時間に及ぶ、ありがたくないお説教が終わる頃には、すっかり真っ暗になってしまっていた。
偉そうに講釈垂れるクソ上司は、当たり前の顔して残業申請を書き始めた。俺の目の前で。
しかも、早く帰りたまえと抜かしよる。
顔で笑って心で泣いて。
そんなフレーズが浮かんだ。
気分は二足歩行の豚みたいなクソ上司を◯◯(不適切発言)。
顔は真剣、心で八つ裂き。
笑ったら、ありがたくないお説教追加コースだからな。顔だけは真剣にしなきゃならん。
帰宅途中、また着信があった。
またかよ? チッと舌打ち。
\(* ´ ▽ ` *)/
今度は嬉しそうだな。
そろそろ一言文句言ってやろうか?
『もしもし、わたし、メリーさん♪』
可愛らしい声を聞いたら、怒りもしぼんでしまった。なんせ、すごく嬉しそうだったから。
『新しいパパにおねだりして、念願のスマホデビューなの』
そういやそうだった!
新しいパパってなんだよ!?
『それから、パパのお肉をごちそうになったの。特に、太くて長くて熱いソーセージが絶品だったの』
……うん? パパの、お肉?
……パパ『の』お肉?
……え? 待って、待って、役目を終えた新しいパパをむしゃむしゃ食べたの!?
パパに焼き肉かフランクフルトを奢ってもらったんじゃないの!?
『油の滴る太ももや差しの入ったお腹、一つ一つ味と食感の違うハラワタも美味しかったけど、パパ自慢のソーセージを食べたら、おっほぉぉぉおうとか、変な鳴き声あげてたの。マジキモかったの』
待て待て待て! メリーさん、パパに何したの!?
断末魔の叫び!? 俺には違う叫びに聞こえたぞ!?
メリーさんの声だから可愛いらしかったけど!!
肉屋さんだよな? 新しいパパは肉屋のオジサンだよな!? 焼きたてのソーセージ奢ってもらったんだよな!? メリーさん!?
『お腹いっぱいでもう眠いの。また電話するの』
がちゃ、つー、つー、つー。
……おいぃ……。
メリーさん、何したよ……。
人物紹介
・上司:二足歩行の豚みたいな中年男性。
……備考:正論じみているような説教を得意としているため、多くの同僚、部下から嫌われている。
上司からの受けは良い。
・肉屋の店主(推定):男性。変態紳士(確定)
……備考:肉屋の店主と思われる。メリーさんにスマホを買い与えた変態。
現実に存在するか不明。