第十一話:逃がさない
さて、休日の今日は社員一同バスに揺られている。
研修という名の慰安旅行。
研修という名の温泉と、
レクリエーションという名の役職持ちの講話と、
山なのに、海の幸をふんだんに使った海鮮尽くしと、
社員同士の交流という名のカラオケ大会兼飲み会。
社長が飲めない人なので、メインはカラオケになるんだとか。
入社当時から強制参加なので、毎年同じ事やってる。
飽きないんだろうか?
俺は行きのバスのなかで既に飽きている。
酒が入ると、普段絡まない人もウザ絡みしてくるもんだから、鬱陶しくてしょうがない。
その際に話す内容は、基本的に愚痴で、聞きたくもない話だ。
嫁や娘の話とか、独り身に話されてもさ。
あと、うちの娘もらってくれとか、ほんとやめてください。
中学生とか、ほんとに犯罪だから。
もう少し、気の利いた話しした方が、いいんでない?
なんて思ってみても、酔った相手に伝わるはずもなく。
たちの悪い強制参加のお陰で、気分はドナドナだ。
しかもこれ、有給扱いなんだぜ?
休暇申請したら、休みにいくんだぞ? と、訳の分からないことを言われたよ。
横になって寝てると、ガチの説教始めるくせにな。
休みじゃねーのかよ?
そういや、名目は研修だっけ。
堂々と、
・毎年慰安旅行やってます。
・部下と上司の距離が近い職場です。
・アットホームな職場です。
なーんて、優良企業アピールしたらいいのに。
以前の事を思い出してふてくされる。
移動中のバスの中は退屈だ。外の景色でも見るくらいしか……。
スマホに着信。マナーモードにしていてよかったよ。
しかし、こんなときに誰だよ? つい、舌打ちしてしまう。
隣の席のヤツが気になるが……。寝てるし。
まあいいや。誰からだ?
ε==≡≡┏(*・ω・)┛
んんん? なにしてんの? メリーさん?
『もしもし、わたし、メリーさん』
ああ、うん。たった今、ナニかワケのワカラナイ物体が、バスを高速で追い抜いていったが?
『怪しいヤツを見つけたの! 今度こそ逃がさないの!』
気合い入ってるな。前の人面犬は、相当悔しかったみたいだな。
『距離は、縮まっているの! もうじき、追い付くの!』
……うん。今、洋服を着た小柄な少女らしき人物が、猛スピードでバスを追い抜いていったぞ?
まさか、今のがメリーさんか?
おいおい、顔を見たかったな。可愛いのかな?
つっても、高速バスを一瞬で抜き去る少女とか、勘弁だけどな。
『てけてけ、とか、訳の分からない音を立てて走る訳の分からないヤツなの! 捕まえるの!』
うん、捕まえてどうするんだい? メリーさんよ?
んで、そいつは『テケテケ』だな。
また、都市伝説の中でも色物が出たなぁ。
人の顔だけの存在で、顔の側面、本来は耳がある場所に腕がくっついていて、腕を使って走るとか。
その際、「テケテケ」と言いながら走るとか、素手で走っているにも関わらずテケテケと音がするとか言われているな。
メリーさんや? 変なの見つけたからって、追っかけるのはどうなんだい?
まあ、楽しんでるならいいけどな。
『今度は、絶対捕まえるの。捕まえたら、また電話するの』
がちゃ、つー、つー、つー。
テケテケか……。
新幹線追い越した説とか無かったっけ?
あと、見ただけで即死の説はあったっけ。
でも、見ただけで死んだら、誰が存在を伝えれるんだよ?
存在を忘れられた時、都市伝説は消滅する訳なんだし。
デマでなけりゃ、俺の人生もここまでって訳なんだが……。
(また電話するの)
メリーさんがそう言うからなぁ。
また電話掛かってくるんだろうなぁ。
その時に、俺が電話とれなかったら、どうなるんだろうな?
メリーさんが荒ぶったら…………。
うん、恐ろしいことが起きるだろうな…………。
人物紹介
・俺:主人公。男性。
……備考:職業・会社員。
社員旅行とか嫌いな人。給料から引かれての強制なら、自分のお金で一人で温泉行きたい。
・メリーさん:少女の姿の怪異?
……備考:好奇心旺盛なお年頃。リベンジするの。
・テケテケ:顔と腕だけの怪異。
……備考:基本、走るだけの怪異。
素手で走るのにも関わらず、テケテケと音がなる。無害、のはず。