旅立ちのとき
ーー View change セレン ーー
父さんとの特訓が終わって数日が経った。あれから父さんは話しかけるも何処か思いにふけっている節があり、相手にされなかった。おそらく模擬戦の結果のことだろう。まさか現役冒険者をましてやCランクの冒険者を負かしてしまったらああなるだろう。
「まいったな••••••」
別に勝とうなどと思っていたわけではない。あくまで胸を借りる思いで模擬戦に望んだのだ。そのために様々なスキルも付けたというのに••••••ん?スキル?
「そういえばステータスってどうなってたっけ?」
ステータス画面はドラゴンを退治する前に開いて以来開いていない。もしかすると今回勝てたのはスキルに問題があるのかもしれない。そう思った。
「見てみるか。【ステータス解放】」
いつものようにステータス画面を開いた。
名前 セレン・ディクトリア 5歳 Lv.128
HP 2670/2670 MP ∞
能力値
チカラS 体術S 剣術S 速さS 魔力S 魔法S 運A
まもりA 自然治癒A
スキル
広範囲探知 言語理解 身体強化・絶 魔力無限
完全模倣 効率栽培 神の眼 記憶蘇生 筋力倍加
見切り 剣豪
神の加護
武神の加護 剣神の加護 風神の加護 魔神の加護
七福神の加護 守護神の加護 女神の加護
「これが原因か••••••」
ステータスを見るとドラゴンを倒すよりも前よりも50ほどレベルが上がっていた。それに比例して他の能力もレベルが上がっていた。
「しかもスキルも増えてるし••••••」
各能力がランクアップしたことによりスキルもさらに会得したようだ。
「さて••••••なんて説明すれば良いやら」
どう説明すれば納得してくれるのか俺には思いつかなかった。素直に話すべきか、【俺は転生者で神から特別な力を得た】とーーいやいや、それはやめておこう。間違いなく混乱して話がややこしくなるだけだ。
「うまく誤魔化すしかないか」
5歳が考えた精一杯の答えだ。もうこれ以上の答えは出そうにない。
それからは何事もなかったかのように時間は過ぎていった。俺と父さんはあの後このことについては一旦保留と言う形にして触れないようにした。お互いに考える時間が必要だと言うことだろう。父さんが再び街に戻るまで俺たち家族は少ない時間を楽しく過ごした。
そしてあっという間に父さんが街に戻る日になった。
「それじゃ、頑張ってね!たまには連絡してよね。あなたったら仕事熱心のせいでこれっぽちも連絡してくれないんだから」
「わかったわかった。必ず連絡するよ。というか、仕事熱心なのはいいことじゃないか。そのおかげでお前達を養うことができてるんだから」
「そうだけど......無理だけはしないでね。あなたに何かあったら私......]
「ははは!そんな顔するなよ。俺もこの道は結構長いんだ。そう簡単にくたばったりしないよ。......それにお前達を置いて先に逝ったりするもんか」
「あなた......」
なんか家の前でイチャついてる両親を見ると改めてこの夫婦は今後絶対に喧嘩なんかしないだろうな、と思ってしまう自分がいる。それに万が一喧嘩をしたとしても負けるのはおそらく父さんの方だろう。父さん、母さんには頭上がらないからな......。ともあれそろそろ止めたほうがいいだろう。周りの人が集まってきた。
「あの......いい雰囲気のとこ水さして悪いんだけど周りの目もあるからそろそろ......」
「ん?あ、ああ悪い悪い。それじゃそろそろいくか」
そう言って父さんは踵を返してその場を後にしようとした。そんな父さんの裾を誰かが掴んだ。目に涙を溜めて今にも泣き出しそうになっているルージュだ。
「もう行っちゃうの......?まだお父さんと一緒にいたいよ......っぐす......」
普段はしっかりしていても中身はまだ4歳の女の子だ。お父さんと離れるのは辛いだろう。まだまだ甘え足りない、もっともっと遊びたい、そんな気持ちがにじみ出ていた。
「父さんももっともっとルージュと一緒にいたいよ。でもしょうがないんだ。仕事だからね。大丈夫、またすぐ帰ってくるさ。それまで待っててくれないか?そうだ、ここで父さんと約束をしよう」
「......約束?」
ルージュが涙を拭きながら言った。
「そうだ。それはな、またここに戻ってきてルージュの手作りの料理を食べる!これが約束だ」
「え......?でも私料理は少ししか......」
「だからこそ約束したんだ。俺は必ずなるべく早く村に戻ってくる。約束は守る!必ずだ。だからルージュもそれまでの間は自分なりに努力してみてくれ。そして最高の料理を俺に食べさせてくれ!父さんは楽しみにしてるぞ!」
父さんなりにルージュのことを思って言ったのだろう。父さんの言ったことはルージュに届いたらしくルージュはさっきとはうって変わって覚悟を決めた顔つきになっていた。
「わかった。お父さんにあっと言わせるような料理作ってあげる。約束する。だから......んっ」
ルージュはゆっくりと小指を立てた。何を意図したのか理解したのか父さんも小さく頷き同じように小指を立て、お互いの小指を絡ませた。
「約束だ」
「うん、約束」
お互い固い約束をした後、今度こそ父さんは街へ向かって歩みを進めた。だが、俺にはどうしても確認しておきたいことがあった。これを確認しなくては今までやってきたことが全て水の泡となってしまう。背を向けた父さんに向かって俺は言った。
「父さん、あの......聞きたいことがあるんだけど?」
「ん?なんだ、どうした?」
俺の声に反応した父さんがゆっくりと振り返った。
「あの、俺の事冒険者として認めるって話、まだ答え聞いてないと思って。答えを聞かせてよ」
父さんは表情を変えずに聞いていた。父さんを負かしてしまったことは今でも信じられないがせめて父さんに認められたかどうかだけははっきりさせておきたかった。
「なんだそんなことか、そんなもん決まってるだろ」
父さんは一呼吸おいた。そしてーー
「俺、ゼルバ・ディクトリアはセレン・ディクトリアを冒険者として認める!これが答えだ!」
俺は晴れて、父さんから合格を勝ち取ることができた。
「ありがとう。じゃあ来年になったら冒険者になれるんだね!楽しみ!」
「ああ、じゃあその時は一緒に行こう!俺が話を通してやる。何せ息子の冒険者デビューだからな!」
「うん!約束だよ!」
「おう!約束だ!」
そして俺たちもお互い固い約束を結んだ。そして、今度こそ父さんは村を去って行った。
「さて......やることは決まったな」
やることそれはーー
「来年までに念を入れてLv.200にまで上げるぞ!」
新たな目標を立てて俺は日々精進するのだった。