父の帰還
ドラゴン退治から数日の日々が過ぎた。あの後俺たちは死体があるとまずいということでドラゴンを魔法で燃やした。そして残骸を地中に埋めた後何事もなかったかのように村へ帰った。
その後、村長のイレンや村の大人達が件の畑へ赴き、ドラゴンが消えている事実に頭を抱えたのは言うまでもない。結果、俺たちのドラゴン退治は村の誰にも知られることなく密かに達成したのだ。
「ルナとルージュには口止めしておいたしとりあえずは解決ってことでいいな」
そして俺は今日もいつも通り鍛錬に向かった。
ドラゴン退治から半月ほど経ったある日、俺はいつも通り鍛錬を終え、外で顔を洗っていた。
「セレン、元気してたか?」
そんな俺に久しく声を聞いてないが、親しみのある声がかけられた。顔を拭いて振り返るとそこにはしばらく会ってない父ゼルバが立っていた。背中に剣を背負い額の傷も最後に村を出た時と変わらない。ゼルバはこの村唯一の冒険者だ。冒険者故になかなか村に帰ってくることがない。基本的には村から少し離れた大きな街で生活している。だが、仕事の合間や近くに寄ることになった時などは顔を出す。今回は俺が鍛錬に行っている間に帰ってきていたのだろう。
「父さん!帰ってきてたんだ!おかえり!」
俺は一目散に駆け寄った。
「ああただいま。しかしまた背が伸びたか?」
「はは!父さん会うたびにそれ言うね!もう家には行ったの?」
「いや今着いたところだからな。これから向かうさ」
「じゃあ一緒に行こ!母さんもルージュも喜ぶよきっと!」
「そうだな。じゃあ行くか!」
親子でたわいのない話をした後、家に向かった。
久しぶりにゼルバが帰ってきたということもあり母リーチェもルージュもいつにも増してテンション高く料理を作っていた。ディクトリア家では料理や家事などは基本的にリーチェがやるのだが、たまにルージュも手伝う時がある。リーチェ曰く、「何事も小さなうちからやらせておけば体に馴染むでしょ!」ということらしい。今回はゼルバも帰ってきたということもあり2人で協力して作っていた。
「なんだなんだ、今日はずいぶんとご機嫌だな」
「当たり前じゃない!久しぶりに家族4人揃って食事できるんだもの!張り切らなくちゃ!」
そう言うとリーチェはまた料理の方に専念した。
「ルージュも料理できるようになったんだな。その歳でそこまでできるとは••••••父さんは嬉しいぞ!」
「ええ、父さんの為にたくさん作りますからたくさん食べてくださいね」
ゼルバに褒められてルージュは少し顔を赤らめた。が、照れ隠しなのかすぐに料理の方へ専念した。
料理ができる間俺と父さんは雑談をしていた。なかなか話せない分、今のうちに話しておきたいのだ。
家族で仲睦まじく談笑をしながら食事を楽しんだ後俺は風にあたりに外へ出ていた。父さんが来たということでいつもよりも興奮していたらしい。熱を覚ます為、ぼーっと夜空を見上げていた。
「綺麗だな」
後ろから声をかけられ、振り返ると父さんがいた。風にあたりにでも来たのだろうか?
「そうだね。ここは空気がいいから星が見やすいよ」
「ああ、街じゃここまで星は見えないな」
軽く深呼吸をしたあと、父さんがこちらに視線を向けてきた。
「どうしたの?」
「すまないな。寂しい思いをさせて」
少し眉を潜めてぽつりと父さんは言った。
「謝ることなんてないよ。父さんは冒険者なんだからそれが当たり前。むしろ村にずっといたら仕事できないでしょ」
「はは!セレンは厳しいな。確かにそうだな。父さんは好きでこの職業をやってるんだ。それが当たり前だな!」
2人で夜空を見ながら今まで出来なかった話をたくさんした。
10分ぐらい経ちいい感じで熱も冷めてきたとことで家に戻ろうとした時、
「そういえばセレン?鍛錬は続けてるのか?」
父さんが尋ねてきた。
「うんもちろん!早く父さんみたいに強くなりたいから!」
「はは!そうか俺みたいにな••••••よし!明日久しぶりに俺が鍛えてやろう!セレンがどこまで強くなったか確かめてやろう!」
すくっと立ち上がった父さんは俺を見ながら言った。
「本当に!やった!父さんと特訓なんて久しぶりだなぁ。明日が楽しみ!」
最後に一緒に特訓したのは1年ほど前だ。あの時も一緒にやったが剣術に関しては父さんには敵わず、教えを乞うていた。あれから1年経ったが、どこまで成長しているか確かめるにはいい機会だ。父さんに成長した俺を見せる!そう決意した。
「じゃあ明日、朝ご飯を食べたら始めるぞ。準備しておけよ」
「わかった!」
そして約束した俺たちは家に戻った。
セレンの父親が登場します。
ようやくディクトリア家全員をだすことが出来ました!
次はゼルバとの特訓です。
お楽しみに!