1 開会! 決勝地球ファイター入場!(後編)
ズシン! ズシン!
会場を揺らす超重量級の足音!
『皆様! なんということでしょう!
恐るべき生物が入場であります!
人語は理解できるのか!
肉食恐竜最強!
ジュラ紀代表、ティラノサウルス!』
観客がワーワー!
――ジュラ紀代表ティラノサウルス!
全長15メートル! 体重20トン!
茶色の爬虫類的外皮! 巨大な口には無数の鋭い牙!
身体に比べて小さい腕であるがその爪は万物を切り裂く!
巨大なしっぽは大樹のごとし!
獲物を仕留めるために最適進化した太古の最強生物である!
「アンギャー!」
恐竜のごとき悪魔的咆哮!
その悪魔的暴君の頭に貼りつくは――同じく太古の生物、バイオ三葉虫!
「くっくっく! 我らが原始の力!
脆弱なる現代生物など蹴散らしてくれるわ!」
『埼玉県行田市代表、ナイト埴輪・ヴァニワー!
行田市を支配する埴輪騎士団の団長!
馬形埴輪タケルメーロに騎乗しての入場だァ――ッ!』
観客がワーワー!
――行田市代表、ナイト埴輪・ヴァニワー!
赤茶色のボディが凛々しく躍動し、深淵のごとき目と口は見る者を惹きつける。
各関節部は驚くほど滑らかに可動。
土でできた身体とは思えぬ機動性を備えた歴戦の勇士だ!
「地球を統べるのは我ら埴輪人類よ!
愚かなる人間共! 貴様らの栄華もこれまでだ!!」
「ヒヒーン!」
人馬一体! タケルメーロが勇ましくいななく!
『で、出たーッ!
こいつが優勝したらヤバい!
いつの間に地球に来たのか!
宇宙からの侵略者! 人類の敵!
宇宙人代表、グレイ!』
観客がワーワー!
――宇宙人代表、グレイ!
その姿は……身長130センチ。小柄なヒョロガリ体形。
身体の割に頭部は大きく、素っ裸で灰色の肌をさらしている。
巨大な釣り目にはなんと! 白目がない!
黒目のみ! なんと恐ろしい生物か!
少なくとも地球の人間ではない!
まさしく一般的な宇宙人の姿である!
「……! ……!」
人語は話せないようである。
何を伝えようとしているのか!? 意味不能理解不明の恐怖である!
――ちなみに! 彼の登場により!
宇宙人の存在を否定する学者たちは軒並み逮捕!
世界中で一斉斬首が行われたことは言うまでもない!
『インドはカレーだけではない!
カレー以外のインドをしかと見よ!
インド式殺人ヨーガマスター!
特製カレーで敵を焼き尽くす!
インド代表、インド・カレーまんが空中浮遊で入場だァーッ!』
観客がワーワー!
――インド代表、インド・カレーまん!
その姿は……頭がホカホカのカレーまん!
カレーまんに目、鼻、口がついており、ターバンを巻き巻きしている!
額には『印』の焼き印!
日々のヨーガトレーニングによりそのボディは極限までガリガリに軽量化!
アバラが浮いた上半身をさらしパンツ一丁!
肌はカレーまんの色、ターメリックカラーだ!
「ナマステテテテ! どいつもこいつもブクブクと太りおって!
殺し合いに筋肉などいらぬということを! 教えてやるわい!」
『血中アルコール濃度90%!
おそロシア代表、ヤーレン・ソーレン!
ウォッカがなければドッカ行っちゃう!
世界最強のアル中が参戦であります!』
観客がワーワー!
――おそロシア代表、ヤーレン・ソーレン!
32歳! 身長三メートル!
筋肉ムキムキ! マッチョマンのアル中!
ツルッパゲに泥棒ヒゲ! そしてインディゴカラーのレスリングスパッツ姿である!
「ガハハハハ!」
おそロシアスマイルでコサックダンシング行為を行うヤーレン――そこに!
「ヤーレン! 優勝しないと後が怖いよ!」
アリーナ席最前列でギリギリとムチを構えるモスグリーンの軍服をまとう女の姿。
おそロシアの女軍人コロシーナ・シネチェンコ大佐である。
デカパイ指数500! おそロシア皇帝より地球征服を厳命されたエリート女将校だ!
「ガハハハハ! 心配無用!
我が祖国のため、このヤーレン!
死んでも優勝する覚悟!」
「うむ! 頼もしいぞヤーレン!」
ピシャアン!
「ギャー!」
ヤーレンの頼もしさに思わずムチを振るうコロシーナ!
手ごろな位置にいる観客にキツイ一撃をお見舞いする!
「おそロシア万歳! 豚は死ね!」
彼女にとってムチを振るうのは呼吸と同様の日常行為。
誰も逆らうことはできないのだ!
おお、なんというおそロシア的日常風景か!
『観客の皆様! おいしい匂いが漂ってまいりました!
餃子消費量は地球一!
餃子に非ずんば人に非ず!
得意の餃子殺法は破られたことのない必殺の技!
宇都宮代表、ギョウザ男の入場です!』
観客がワーワー!
――宇都宮代表、ギョウザ男!
白い厨房服! 頭がホカホカの餃子!
餃子に目、鼻、口がついた男である!
神風トオルと同じ鉄道列車に乗り合わせた縁により――
その道中を共に戦い、決勝会場に無事辿り着いた男!
彼の協力がなければ……神風トオルは予選敗退であっただろう!
「どいつも強そうだべが……負けはしないだべ!
神風トオル! 悪いが優勝はこの俺だべ!」
ギョウザ男の目に炎が灯る!
そしてその炎は全身を包み込み!
ごま油でパリっと焼かれた餃子の匂いが会場を満たす!
なんと魅惑的な香りか!
観客は口の中が宇都宮餃子だ!
『皆様! 驚きです!
その若さは地球ファイト史上最年少!
殺人お遊戯の使い手!
スモックは返り血でいつも真っ赤!
幼稚園代表、魔野ゆかり! 五歳!
デカパイ指数は当然対象外!
スリーサイズはナイショだ!』
観客がワーワー!
――幼稚園代表、魔野ゆかり!
その姿は……身長120センチ、弱冠五歳の美幼女。
黄色い幼稚園帽子からオカッパ頭の髪が覗く。
水色のスモックを身にまとい、チューリップ型の名標には『ゆかり』の文字。
まさしく一般的な幼稚園児の姿である!
「ゆかりちゃん! がんばえー!」
「やれー! さつがいしろー!」
観客席から応援する幼稚園の学友たち。
あどけない笑顔で手を振るゆかり。
しかし!
(ふふふ! 地球ファイター共め!
この貧相な幼児体形に油断しているであろうの!
その隙が命取りじゃ……!)
『月が地球を回っているのではない!
地球が月を回っているのだ!
戦慄の月世界からウサギが緊急参戦!
バニーガールの始祖!
月代表、ルナツキ・ウサコ!
デカパイ指数は420!
抜群のスタイルであります!』
観客がワーワー!
――月代表、ルナツキ・ウサコ!
そのイデタチは……人間で言うところの若い女の姿!
小動物のウサギ姿ではない!
セミロングの黒髪!
ウサギ耳カチューシャ!
黒のバニーガールスーツ!
なまめかしい黒ストッキング!
オシリにはモコモコ丸しっぽ!
いわゆるバニーガールのチャンネー的姿である!
プラカードの似合いっぷりは地球一だ!
「地球の重力! さすがに身体が重いが……いいハンデだ!
貧弱なる地球人など敵に非ず!
せいぜい我らの奴隷として働かせてくれようぞ!」
日々のうさぎ跳びにより鍛え抜かれた下半身!
高い位置にあるキュッと引き締まったオシリがプリプリと動く!
自堕落な生活を送る女では到達できないプロポーションだ!
一般庶民諸君も覚えておいてもらいたい!
女のデカパイは努力に非ず!
プリケツこそ努力の賜物! ごまかしの効かない芸術品!
デカパイの豚女はいてもプリケツの豚女はいない!
健全なるオシリは健全なる精神を宿すのだ!
『ワビサビ! スシ! テンプラ!
マイコ! ゲイシャ! オイラン!
ウドン! ソバ! ラーメン!
日本代表、フジヤマ・サムライ丸!
好物はカンピョウマキ!
模範的ジャパニーズ日本人であります!』
観客がワーワー!
――日本代表、フジヤマ・サムライ丸!
白練色の甲冑武者! 胸には日の丸が赤く輝く!
その姿は日本国旗が鎧と化したがごとし!
腰には日本刀! その素顔は鬼のごときマスクに覆われ窺うことはできない!
しかし! 表情は見えぬとも漏れ出る強者のオーラ!
「サムライ丸! 決勝大会開催国に恥じぬ活躍! 期待しておるぞ!」
グラウンド正面に張られた陣幕、そこから応援するは日本国内閣総理大将軍!
護衛の武士に守られながらサムライ丸に檄を飛ばす!
「仰せの通りに……!」
サムライ丸が頭を下げ、マスクの奥でギラリと目を光らせる!
『皆様! 本大会最注目選手の入場です!
地球代表に選ばれし若きファイター!
地球の未来はこの男にかかっている!
幻の地球真拳継承者!
地球代表、神風トオル!』
観客がワーワー!
――神風トオル!
21歳! 栃木県民! フリーのフリーター!
その姿は……黒レザーのライダースジャケットに格闘家らしく指ぬき革グローブを装着。
なんというイカしたセンスか!
安全靴を履いているため鉄骨が足に落下しても大丈夫!
工事現場での経験は格闘界においても有用なのである!
道中において――ドン・ナポリタン、デス・バイキング!
すでに二人の地球ファイターを倒した実力の持ち主であるが!
(なるほど……! 入場行進を見ただけでわかる!
さすがは決勝ファイター! 楽には勝てそうにないな……!)
悪魔的死闘の予感!
だが! しかし!
「そう! だがしかし!
俺にはやることがある!
この会場にいるであろう父上!
必ず捜し出し――!」
神風トオルが拳をギリギリと固く握る!
「父上を倒したというアメリカ大統領ピザフライ!
勝つためならば罪なき人々も傷つけるデビル悪魔!
断じて許さぬ……!」
みなぎる地球パワー! 行進する足に力が入る!
一歩踏み出すたびグラウンドの表土が蒸気のごとく巻き上がる!
果たして神風トオルは――この決勝ファイター達を相手に生き残れるのか!
『――以上16名による、トーナメント戦となります!』