偽りの愛
私は、いや私たちの結婚は愛がない。
いわゆる政略結婚というもので私も彼も反対した。
だけれども私たちの親は私たちの結婚を押し進めた。
そこから私たちの偽りの愛の同居生活が始まった。
朝、「おはよう」のあいさつもなく始まりお互いの仕事に出る。
帰ってきても「おかえり」も何もなく、夜は二人別の部屋で寝る。
こんな生活に意味はあるのだろうか。
ないだろう。
そう思った私は彼に一つの提案を持ち掛けた。
彼も二つ返事で承諾してくれた。それもとてもいい笑顔で。
私もにっこりと笑うと彼に早速行くことを伝える。
外に出ると夜の独特な匂いが私の鼻をくすぐる。いつもはあまり好きな匂いではないが、今日ばかりはとてもいい匂いに感じた。
私たちは階段を昇っていく。コツコツと靴の音が響き、これから起こることに少し恐怖を感じて震える。
でも私たちは足を止めない。これが終わったら解放されるのだから。そう思うと気が楽になり、より早く階段を昇っていく。
夜風が涼しい。今日は満点の星空で星がつかめそうだ。そう考えながら私は空へと手を伸ばす。つかめるわけないとはわかっていてもつい伸ばしてしまう。
それを見た彼はクスリとわらう。気恥ずかしくなって私は伸ばした手を引っ込めて彼のもとへ向かう。いよいよだ。
二人で屋上の端に立つ。下はきれいな夜景だ。その景色を見てにっこりと笑うと私たちは飛び降りた。
とてもきれいなこの街でとても汚い人たちへの自分勝手な逃避行動。
さようなら。