日課
私が7歳になった頃から、マナおばさまと守護獣は街に行くことが多くなった。
相変わらず私の方は、家の周りから出る事はないのだが、移動可能な範囲は徐々に広がっている事だけは明白なのでした。
その原因の一つとして分かったのが、ここ数年で家の周りの聖気がかなり充満したという事。
マナおばさまが黒い大地の中で一気に色を塗り替えるような聖気という爆弾を作り出せるかの研究していたことがきっかけなのであるが、その聖気を貯める為に貼っていた結界の維持が弾けそうになる度に広げていった為である。
原因の一つに私が関係しているのでは? っと最近になって思うようになってきたのでありました⋯。
この世界の食事事情は正直まだ未知の状態で、マナおばさまが作ってくれるのはスープが多く、あとはお肉を出される事が多い。
お肉に関しては前世の記憶と比べると血生臭く感じるがもうこの件は解決したので、あとで話をしようとおもうけど、最初に言った私が原因ーーその理由は⋯⋯周りの水辺や移動範囲内の森で、前世で見慣れた植物や果物が生えたりしているからなのです。
簡単にいうと、水辺の近くにはワサビがなっていたり⋯草の代わりに山菜系もよく見るようになったり、バナナなどの果物系がなっているのをよく見かけるようになっているのです⋯。
「助かるんだけどね⋯⋯」
街に出たことがない私には、この世界に普通にある物なのかない物なのか分からなく、マナおばさまに一度ワサビを食べさしてみたのだが『⋯⋯おいしいね』の答えしか返ってこないのである。
それならあるんじゃない? そう思った人もいると思うけど、食べる前に一呼吸ついてるんだよ? その間がきになっちゃうんだよね⋯。
そういう訳で、最近のマイブームはマナおばさまとクロウがいない時に、書庫で研究資料や本を読む事になっています。
まぁ、当たり前なんだけど⋯この世界の常識が本になっているわけもなく、私が理解した内容はこれだけであった。
その1:前世の記憶通り、世界は黒と白の色塗りみたいな陣地取りが行われている事。そして現在の大地比率は黒7:白3である。
その2:この世界での職業というのは大まかに5つしかない事。記憶にあるのは前衛で戦う者、仲間をかばう者、魔法で援護する者、癒す者、そして聖女。
その中で聖女だけは例外であり、守護獣以外の固有才能として『恩恵(ギフト』があるという事。
恩恵については、まだまだ研究段階であるが、特殊を除き大体は他の4つの職種に関するものだと言われている。
特殊例として、マナおばさまの恩恵は『変換』であり、札に術式を書き水、火、電気などに変換している。
その札に魔力を込めると発動させることができ、他の人でも気軽に使えるという訳である。
ただし、聖女の力によってできたものなので、悪用する場合には使う事は出来ず、札などは微粒子となり還っていく。
その3:守護獣について。
これも現在は研究中であり、守護獣は聖女であれば誰でも持てるという訳ではなく、守護石との対話か認められた者のみが使役できるのである。
守護獣は聖女を守る者だが、その攻撃には黒に汚染された生物の浄化にも効果がある。
現在、守護石は王都のみが管理しており、他の街で扱うことはない為、万が一保持していると犯罪行為となる。
その4:黒色の髪について。
忌み子、呪われた子と呼ばれ、災いを呼ぶ黒子とも呼ばれる。
親のDNAは関係ない為、親の悪い心が溢れているとそのまま受け継がれて生まれる子供に当てはまるとされ、産まれ次第⋯⋯⋯ここからは黒く塗りつぶされているが、白い紙を使い上から字を浮かばすと、殺害が望ましいが出来なければ黒の大地に置き捨てる事を推奨と書かれていた。
その後の文章には手書きで、「黒色の髪の子は呪われた子ではなく、何か成すべき事がある為生まれてきた可能性がある」と書かれている。
「黒く塗りつぶしたとこ読まれるとおもったのかなぁ。まぁ、でも私は十分幸せだけどね」
街に連れていけない理由はこれだと確信している。
続いて、マナおばさまの研究資料を開くと、左のページにはそれぞれの効果と右のページにはその術式が書かれている。
「えぇっと、なになに? アイテム収納術。魔力による次元収納、コレにより大きな荷物などの必要がなくなり素早く動ける。何これ! すごい便利そう! 確か魔力を込めたら誰でも使えるんだっけ?」
(魔力を込める? うーん。祈るみたいにすればいいのかな?)
試しにやってみるが、何も起こらなかった。
「てへへ、やっぱりダメだったか、えぇっと、次は結界術か。これマナおばさまが研究してるやつだ」
これも使ってみるが、やっぱり何も起こらずにいたけど、諦めきれずに他のページも何度も挑戦をするが一度も成功することはなかった。
「だめだったか〜。まぁ、資料用だから使えないのかもしれないっと言う事にしておいて、今日の読書はここまでにしよっと」
気づけば昼過ぎになっていたので、昼食の食材を取りに森の中に入る。
大きいお肉などはクロウと一緒ではないと厳しいので、今日の昼食は1人ということもあり山菜や果物ねらいである。
ただし、万が一襲われる場合は応戦はするので、そのための準備などはすでに完了している。
例えば、一見平面に見える大きな木が生えているこの場所、落ち葉などでカモフラージュしているが一部だけ斜めに削っている。
これに引っかかると、進行方向が大きな木になりぶつかって脳震盪を起こすという訳だ。
「まぁ、使ったことはないんだけどね⋯」
私が狩りに使う弓は、小、中、大の大きさの矢を切り替えて使って獲物をとる。
当初は、精神統一の一環として弓道をする為に欲しいと思っていたのだが、ある日の食事時、お肉はクロウが取ってきてると知り、血生臭い味について思う事があったので、ナイフをもって一回同行したいとお願いしたのである。
それはまだクロウに名前をつけていない時であり、そして初めて黒に侵食された動物を見た日まで遡る。
それは前世の記憶ーー映像で見たことがある猪より一回り小さかったが、もの凄い力で暴れていた。
いや、正確には今いるこの場所の聖気がまだ充満はしていないグレーの状態とはいえ、侵食されたモノにとっては毒になるのだろうと思うほど、苦しんでいるように見えたからである。
暴れるだけで木が次々となぎ倒されていく。
走るだけで、石が飛礫みたいに飛ぶ中、白銀に光る大きな狼が勇敢に向かっていく。
絡み合う二つの塊、地響きの如く揺れる大地、そして今まで見たことのない牙を剥き出しにした狼の戦闘本能。
狼爪で猪を傷つけると5本の傷跡から黒いモヤが飛散していくと更に激しくのたうち回る。
それから数度、狼爪の跡がつくと萎んでいくかのように猪が元の姿へと戻る。
元の姿になった猪は既に死にかけており、守護獣は首に牙をかけて窒息させようとした。
「待って!!」
興奮状態にあるせいか、剥き出しで返り血でドロドロになった守護獣が物凄い形相でこちらを見る。
「だ⋯めだよ。窒息なんてさしたら⋯苦しいだけだから⋯」
私が何かをしようと近づいていくのが分かると前足で猪を押えこむだけにしてくれる。
そのまま携帯していたナイフで「おやすみなさい」とだけ言い、お腹から肋骨の間に刃を通すと猪は静かに息を引き取る。
そして、軽く解体をして自分達が食べる分だけを持ち、あとは土の中に埋める。
その時、ドロドロになった手を狼が舐めて綺麗にしてくれる。
「ありがとう。けど、君の身体もドロドロだね。近くの水辺で綺麗にして帰ろう」
水辺に着くと手を使い狼の返り血も綺麗にする。ついでに冷やして血生臭さを抑えようとお肉も洗うと、とても綺麗なお肉が現れる。
そう⋯いつものお肉は窒息して殺していた為、毛細血管が破裂してどうしても血生臭いお肉になっていたのだった。
その綺麗なお肉を珍しそうにしてフンフンと嗅ぐと、一つ食べた。
「あ〜! 〜ぁ⋯〜。食べちゃったかぁ。美味しい?」
「ウォン!!」
「そっか、なら仕方ないね。けど、もう一つは駄目だよ。マナおばさまと私の分なんだから」
「⋯⋯ウォン」
「間をあけないでよ⋯。う〜ん。なら、守護獣ではなくクロウと呼んでいいなら食べていいよ」
勇敢に立ち向かう姿は本能であり、絶対王者の咆哮は怖いと美しいの両方を表している。
一度吠えると、もう一つのお肉を食べるクロウ。
こうして私がクロウと名付けた日から、一緒にいる時間がどんどん長くなり兄妹の様に仲良くなるまでそう時間がかかることはなかった。
「懐かしいなぁ⋯」
昨日の事のように思いだすが、この事をマナおばさまに言うと、『何言ってんだい! まだ2年前の事を懐かしいとかいうんじゃないよ!』と言われそう。
山菜と果物を取り帰宅する。
まだ2人が帰ってきていないので、日課として弓の練習を始める。
小矢は、素早く射つ。できる限り素早く思い通りの場所を射抜く練習。
中矢は、一番弓道に近い。しっかりと引いて、しっかりと的を射抜く。
大矢は、弓を地面に差し、身体全体を使いながら全力で力強く引く。少しでも力を抜けば自分が飛ばされる為、一瞬足りとも気は抜けないしバリスタまでとは言わないけど破壊力も抜群である。
「ふぅ⋯今日の練習終わりっと」
タオルで身体の汗を拭くと、胸がほんの少し膨らんできているように感じる。
「⋯⋯女の子なら⋯これが普通なのよね」
7歳で胸の膨らみが早いのか遅いのかは分からないが、成長すれば女性の身体になっていく事に少し戸惑いを覚える。
記憶にあるのは男性としての人生であり、女性の苦労する部分は一応は理解しているが経験はない為である。
「う〜ん。まぁ、みんな経験はする事なんだしなるようになるかな。さてっと、夕飯でも作ろう!」
その夜、悩んでてもしょうがない事を頭の中で残しておくのも嫌なので夕食時に色々と聞いてみる。
「あぁ、なんだい。そんな所で悩んでたのかい? このワサビとかはしらないが、果物の方はあるよ。正確にはワサビもあるかもしれないけど誰も取ってないのかもしれないね。この世界の食事でいえば新鮮=美味しいだからね」
「よかった〜。前世の記憶にあるものがあるから私のせいかと思っちゃったよ」
「⋯もし、そうだとしても気にすることはないよ。栄養豊富な食物が増えたんだ。それはこの世界にとってはいい事さ」
「うん。あとマナおば様の研究資料とかみたんだけど、本に書かれてる術式使ってみようとしたけど使えなかったんだよね。やっぱり資料だから?」
「んん? 本のは使えるよ? あれは結界など特殊な術式以外を除けば市販で販売している本と一緒だからね。ページを破ればそのまま使用できるはずだよ」
「あれぇ⋯? なら、やっぱり私の魔力がないからかな?」
「⋯ふむ? なら、もう一度やってごらん」
言われるままに使ってみるが、やはり反応はなかった。
「確かに⋯反応ないね。⋯まぁ、この件は少し調べてみようかい」
「うん。ありがとう!」
この世界は黒と白の陣地取りと認識していると言ったけど、この時の私は深い部分までは理解しようとしなかったのである。
7:3の状態だったのに、一部分だけ白色が強くなってきているという事の意味を。
そして私が術式を使えない原因は後日、2回目となる黒に侵食された動物に襲われた時に分かったのである。
次は戦闘シーンがあると思われます(´・ω・`)
ここから少し物語を進めて、イブ幼少期を終わらしたい気がします(´・ω・`)