異世界事情
「ごめんなさい。ごめんなさい」
顔を真っ赤にした女神様が、俺の身体を拭いてくれている。
その姿はまるで懸命にご奉仕してくれるような姿だった為⋯。
「い⋯いえ、大丈夫ですからお気になさらないで下さい」
そう言ってすぐに女神様をはがすと、自分のハンカチをとり出して顔を拭く。
「で、どうだったのですか?」
「ちょっとまってね⋯。検索対象外男性を外してともう一度検索と⋯」
何やら1人でブツブツといい目の前を見つめる。
「ヒィッ!!」
まるで天津飯の太陽拳を喰らったみたいに両腕で目を塞ぐ。
「な⋯なるほど⋯そういう事ね」
一段落ついたのか、落ち着きを取り戻す。
「待たせてごめんなさいね。私としては貴方に来てもらえるならとても助かります」
「なら、その赤ちゃんの命は⋯」
「えぇ、もちろん連れていく必要は無くなりましたが、本当によろしいのですか? 記憶も見ましたが貴方の事を大好きな方は大勢います。それを差し引いてまでこちらにくるメリットはないですよ?」
「そうですね⋯。でも、最初に言った通りここで赤ちゃんを見捨てて、この世界に戻っても前と同じようにしていく自信はありません」
「⋯⋯分かりました。が、これから私の世界をお話ししますので、それから決めてください」
「分かりました」
女神様が両手を横に広げると、何か呪文のようなものを呟くと空間が真っ白に染まり、地面に黒い点が現れた瞬間、瞬く間に広がっていき宇宙空間のような場所に移動した。
「綺麗だ⋯」
前後左右360度のプラネタリウム、星が流れる様に動いてる様に思わず口に出る。
「今更気づいたの? こう見えても私は上界ではモテるんだから」
「あ、いえ⋯この景色が⋯」
女神様がボッと赤面する。
「い、いえ! 勿論、女神様も綺麗ですよ。ただ、恐れ多くも当たり前の事を口にするのは失礼かと⋯」
「そ、そうよね! それと女神様はやめてくれないかしら? 私の名前はマリアよ」
「マリア様ですか⋯」
「そう。けど様は必要ないわ。貴方達を管理してる訳では無いのだし」
「いえ、私達の星でも聖母サンタマリアーー人類の母として伝承が残っていますので」
「ふ〜ん。誰が言ったかは分からないけど、もしかしたら上界の言葉を感じ取れた人がいたのかもしれないわね」
流れ行く星々がゆっくりになり、1つの惑星の前で止まる。
「ついたわ。ここが私が管理する星【フォルガイア】よ」
地球の様な感じだが、3割が見覚えのある地球と同じ大地、7割が黒い大地に染まっている。
「⋯⋯黒いですね⋯」
「そう。最初に聖気が必要でいったわね。この黒い大地を浄化する為に必要なの」
「管理者であるマリア様が直接できないのですか?」
「基本管理といっても干渉はできないのよ。ただ星が滅ぶと他の星とのバランスが崩れたりするの」
「そうなるとどうなるのですか」
「私達も含めて全て凍結する」
「⋯え?」
「そうはいっても、その前に全ての星を収束さしてリセットするけどね。えっと、巨大なブラックホールっていえば分かる?」
一瞬で思考が止まる。
「え、えぇ⋯。突発的に凄いことに聞いたので頭が一瞬飛んでました」
「そうよね。いきなり言われても困るからここらは気にしなくていいと思うよ。もしなっても、一瞬の出来事だから『あっ』で終わるだろうしね」
ゆっくりと星の中へと降りていく。
「元々は黒い大地ではないのよ。このフォルガイアでは、大きく『魔種』と『生種』に分かれてるの」
指をクルクルと動かす様にジェスチャーすると、よくアニメで見るようなゴブリンが出てくる。
「これが魔種。純粋に魔から生まれたから魔物ね」
さらに指を動かすと人やら動物が現れる。
「これが貴方も知ってる様に生種ね。生物種と言ったほうがいいかしら?」
「いえ、大丈夫です。俺の星では生物種しかいませんよね?」
「そうよ。だから他の星々みたいな危険は少ないけど、完全に安心って訳でもないですよね?」
「そうですね。戦争や環境破壊やいろんな事件もあります」
「それが魔と思っていいかもね。この黒い大地は魔に汚染された大地なの。たとえばこの動物とか⋯」
指を動かすと、猪にそっくりな動物が現れる。
「生種なんだけど、魔に汚染されていき、時間が立つとこうなるの」
徐々に体躯が大きくなり巨大なツノにイボイボの身体になっていき、乙事主みたいに変貌する。
「こうなると生種でありながら魔種になります。いわゆる食糧から黒い大地を塗っていく役割に変わると認識していただいていいかも」
「なるほど、そして黒い大地を浄化するのが聖気を持つ者という訳なんですね」
「正解。もう少し正確に言えば聖女という職業になります」
「職業⋯ですか?」
「えぇ、大まかに前衛で戦う者、仲間をかばう者、魔法で援護する者、癒す者などがあるなか世界を浄化する者に位置するのが聖女です」
「なるほど」
(いわゆる王道RPGの職業がプラスαされた感じか)
フォルガイアの大地に足をつけると、目の前で人間と魔種に変貌した鹿みたいなのと戦闘が行われている。
「こちらからは干渉できないしされないので安心して下さい。人間達が腰に着けている物が見えますか?」
「えぇ、みんな形は違いますが、あのカンテラみたいなのですよね」
「えぇ。アレには聖女だけが補充ができ、生種を黒の大地からの影響を受けないようにできる聖気が入っています。いわゆる命綱の役目を担っています」
「命綱ですか?」
「えぇ、光が消えてもすぐには魔に汚染はされることはありませんが、常に毒霧の中にいると認識して問題ありません」
「なるほど」
「魔法なども強力なものを使うと聖気の消耗が激しいですし、何より自分が魔を受け付けやすくなるデメリットもあります」
「それは⋯中々進む事が叶いそうにありませんね」
「そうですね。現段階では保身の為に聖女を前に出さない事がデメリットになっています」
「聖女がPTに入り一緒に行く事は?」
「昔はありましたが⋯優遇される職業もあって安全第一に考える人も多いのが現状です。とくに聖女を討ち取れば一気に黒く侵食できますので⋯」
化物鹿に押されていくパーティ。
「ここからよく見ていてください」
ヒーラーがポシェットに手を入れると予備の聖気が入ったカンテラを取り出し化物鹿に当てる。
カンテラが割れるとキラキラと光る結晶が化物鹿を包むと苦しみはじめて一回り小さくなる。
「聖女が前に立つということは、魔種を弱体化するというメリットが発生するのです。ただ、このパーティで鹿は倒す事はできたようですが、もう街に引き返すしかないようですね」
聖気の残量を懸念して街に引き返していく。
鹿が倒されて綺麗な大地には戻ったが、よく見ると少しずつ黒い靄がゆっくりと大地に進行しているのが見えてわかった。
「なるほど、安全圏から聖女が出なくなったのはこのカンテラがあるからなんですね」
「そうですね。ただ、この装置自体は役に立ってはいますが⋯聖女が前に出る事を止めた事が一番の失敗でしょうか⋯」
マリアが再び何かを呟くと、時が止まったままの地球に戻っていた。
「これで私からの説明は終わりですが⋯最後に1つだけ言う事があります。男性の貴方を連れていけるとは言いましたが、転生をしていただく事が前提条件になり、貴方の肉体はこちらに連れて行く事は出来ません」
「それは俺が俺ではなくなる可能性もあるって事ですか?」
「ないとは言い切れません。なにぶん未知なる事になりますので⋯」
「では俺からも1つだけいいですか?」
「はい、なんでも言ってください」
「俺が俺ではなくなっても、転生した身体で聖気はきちんとお役にたてますか?」
「それは⋯⋯はい、間違いなく優秀な聖女になると思います」
「そうか、ならば問題ありませんよ。よろしくお願いします」
「そ、それはこちらの台詞だと思いますが⋯ありがとうございます」
「ただ、その場合肉体はこっちに置いとく方がいいんですかね? 魂が抜けるってことは植物人間の状態になるだろうし⋯それだと皆に負担かけてしまうか⋯」
「あ、あの! その⋯肉体の件なんですが、私が預かっていてはいけませんか?」
赤面しながら言われる。
「マリア⋯様が? どうしてでしょうか?」
「そ⋯それは、まだ言えませんが⋯、も⋯もし貴方の人生が充実して、魂がこの肉体に戻ってこれたならその時に言います!」
更に紅くなる。
「戻ってこれるんですか?」
「分かりません⋯が、上界であれば地球のように保存状態の維持や世話をする必要もなく眠っているようにしておけますので⋯」
目を少しそらしながら、両指をクルクルと回す。
「そうですか、ならお願いします。もし必要なくなれば破棄して下さい」
「それは絶対にありません!」
頬を膨らませて怒りながら言われた。
「そういえば転生はランダムなんですか?」
「ランダムではなく調整するつもりです。王族などはもう聖女が産まれる事が決定されておりできませんが、できる限り貴族よりにしたいと思っています」
「できればランダムにお願いできませんか?」
「そうよね⋯やっぱり王族⋯⋯え?! ランダムって聞こえたけど嘘よね?」
「いえ、できたらでいいんですが⋯」
「地球と違い、最悪な環境に産まれたらその場で死ぬ可能性もあるのよ? 最悪なケースでは魔に汚染された聖女を作れるか実験材料にされるかもしれない」
「役に立ちたいとは思うのですが、転生という新しい旅路であればやはり自分の運命に従いたいのです」
「そ⋯れは⋯」
説得しようとしたが、あかちゃんを助ける時と同じ目をしていた為、諦める。
「⋯分かりました。そういえば貴方のお名前は聞いていませんでしたね。教えていただけますか?」
「あぁ、失礼致しました。神輝聖といいます」
「聖様ですね。転生された時に自分で名乗りたい名前はありますか? どうなるかは分かりませんが、最後にご自分のお名前をつけてみてはいかがでしょうか?」
「名前ですか⋯」
ふと考えたが、特別な今日の出来事であれば新しい世界に持っていく名前はこれしかないと感じた。
「イヴでお願いします」
「分かりました」
マリアが何かを呟くと、視界が真っ白になっていくのを感じた。
一瞬で地面の接地感もなく、自分が倒れているのか立っているのか分からないまま溶けるように意識が消えて行く。
「聖様⋯⋯だ⋯⋯き⋯⋯す⋯⋯」
何かを言われたが、聞き取る事は叶わず俺はこうしてフォルガイアへと転生した。
次はおまけ部分載せてから、本編に入る予定です(´・ω・`)