女神との出会い
子供の頃から、人の役に立つ事が大好きだった。
おやつを食べている時、子供が欲しがればあげる。
譲るという行為は、いまとなっては驕りなのかもしれないが、当時はその行為によって喜ぶ顔が何より嬉しかった。
「聖ちゃんはやさしい子じゃのぅ〜」
「じゃのう〜。まるで聖女じゃ」
性別は男だったのだが、女の子みたいな顔立ちと親が娘が欲しかったらしく女装をさしていたこともあるのが原因で、年寄りがセイと呼びその名前が間違っていても、誰も気にすることもなく日が経っていく小さな田舎の村で産まれ、年寄りに囲まれ、聖女ともてはやされていたのが子供時代。
その後、30年も経過すると聖女と言われた男は見事に逞しすぎるぐらいの筋肉を手に入れていた。
それが俺、『神輝聖』である。
路上から車のクラクションが2度鳴る。
「ショウ!!」
大都会でボランティア事業で働いている俺に話しかけてくるのが、同じ村で育った幼馴染『緑屋光』
「今日、仕事終わったら、いつものとこで一杯やらないか?」
「あぁ、分かったヒカル。後でな」
もう一度、クラクションを鳴らすとそのまま走り出す。
昔は俺の方が聖女と呼ばれていたが、この大都会ではヒカルの方が可愛がられている。
男として可愛がられるのも失礼な話なんだが、本人も女性にモテるせいかまんざらでもないらしい。
(っといっても、毎回この聖夜に一緒に飲みに行くって事は⋯今年もそうだったんだろう)
ヒカルには悪いが俺も予定はないので助かっているし、今年もいつも通りなのでホッとする。
仕事が終わり、いつもの居酒屋にいくとヒカルが待っていた。
「お疲れさん。ビールと適当につまみ頼んでおいた」
「ありがとさん」
ビールとつまみが運ばれてくる。
『今年もお疲れさんでした〜!』
お互いがそういうと、グラス同士を合わせカキンと音を鳴らし口に運んでいく。
「さて、今年も聞いてくれるか⋯ショウ⋯」
「あぁ」
「今年も⋯ダメだったぁ〜。みんな彼氏つくってたんだ!! 男ならココにいるだろ!!」
そう、女にモテる=付き合うでは結びつかないのである。
ヒカルはモテるのだが、ペットのような可愛いであり男としては見られていないらしい。
毎年、この聖夜に2人で飲むのは、つまりはそういう事である。
ヒカル話を肴に盛り上がっていく。
「そういうショウはどうなんだよ?」
「俺か? 俺はモテないぞ?」
「ん〜? そりゃないだろ〜? 今日だってボランティアの女子はショウを見てたんだし?」
「あぁ、あれは忘年会の誘いじゃないか? このガタイのせいか話しかけるのが勇気がいるんじゃないか?」
「ん〜そうかぁ〜? そうは見えなかったけどな〜」
「あぁけど、結局女の子4人とオーナーには行きませんか? とは言われたな。一緒の忘年会なのにおかしい話だ。それぞれに毎年この聖夜は幼馴染の愚痴聞かないといけないからと断ってしまって申し訳無かったが」
「⋯⋯そうか⋯俺が邪魔してたってワケ⋯⋯ってか、愚痴ってなんだよ! 愚痴って! あぁ、そう言われてみれば毎年言ってんのか⋯はえぇなぁ。時間経つの」
「そうだな」
こうして、冬のクリスマスは過ぎていく。
「じゃあな。次はまた正月遊びに行くわ」
「あぁ、来年はちゃんとした彼女が出来るといいな」
「うっせ。俺のことより自分の心配でもしてな。俺に彼女ができたらすぐ結婚して子供つくってやんよ」
「ははは、それは楽しみにしてる」
ふと、周りを見るとお祭り騒ぎの中、信号待ちをしているベビーカーの母親に目がいく。
(危ないな)
「ショウどうした?」
「あぁ、あそこの信号待ちしている母親が危ないと思ってな」
「ん? あぁ、たしかに危ないな。携帯に集中しすぎじゃね?」
周りがうるさいせいか、ベビーカーから手を離し、片手で耳を防ぎ、もう片方で携帯を耳に押し付けて何かをしゃべっている。
お祭り騒ぎの中、誰かの身体がベビーカーにあたりコロコロと前に進み横断歩道に入っていく。
気づいた母親が慌てるが、信号が丁度変わていて安堵したのだが、一台の大型車が信号を無視してベビーカーに突っ込んでいった。
慌てた時に引き戻したら、よかったが少しの安堵が命取りに変わる。
悲鳴が上がりそうになる中、聖だけは赤ちゃんの元へ駆ける。
(赤ちゃんを突き押せばなんとか間に合う)
心の中はそれだけであり、そのあとの事はなにも考えていない。
一心不乱に駆ける中、突如空間がカチッといい音がした。
一心不乱に駆けるショウも、その音に一瞬身体が強張りバランスを崩す。
すぐに顔をあげ、周りの違和感に気づくと空間がーー時が停止したように固まっていた。
「これ⋯は」
ハッと我にかえり、赤ちゃんの方を見ると黒いローブを羽織った何かが立っていた。
背筋が凍るという言葉があるが、まさにそれを実感した。
仮装でもなんでもなく、見るだけで寒気で身体が震えるその姿は死神と呼ぶのになんら違和感がなかった。
【去れ。この子は我が連れていく魂だ】
おぞましい声が頭に響く様に伝わる。
逃げ出したい気持ちと赤ちゃんを助けたいという気持ちが葛藤して冷や汗が出る。
「ま⋯待ってくれ⋯。その子はまだ人生が始まったばかりなんだ。見逃してやってくれ。魂が必要であれば⋯俺のをもっていって構わない」
やはり助けたいという気持ちが勝る。
黒いローブから白い骨が現れ、ヒュンっと軽く振るうと鎌が現れ、首に当てられた。
【⋯⋯⋯下らぬ。汚れた魂を持っていってなんになる? それでもまだ言うならその汚れた魂も刈ってもよいのだぞ? 肥料の代わりぐらいにはなるだろう】
「⋯⋯⋯なら、そうしてくれ。現状を目の当たりにして生き残っても俺は今までの生活はできそうにない」
【お前を刈った後に、赤ちゃんをつれていけば同じ事なんだよ! 諦めて立ち去りなさい!】
だが、聖はそうしなかった。
【あ〜もう! 何がこの格好すれば去っていくからだいじょうぶよ!】
そういって黒いローブを脱ぎ捨てると、先程とは全くの正反対の女神が現れる。
プラチナブロンドの髪に透き通る程の肌をラインを損なわせない様に覆っている服、おおよそ人が理想を求めるならと思わされる程の姿をしていた。
「め⋯女神さま?」
「えぇ、地球ではそう呼ばれているわね。さて、早速本題なのだけどこの子は私の星に必要な子なのよ」
「必要⋯ですか?」
「えぇ、私の管理している星では聖気を持った魂がいないと滅んでしまうの。だから、こうしてたまに連れて行ってる訳。分かった? だから邪魔しないでくれると助かるのだけど?」
「それは分かりましたが⋯⋯。この子の母親はどうなるのでしょうか? どんな些細で愚かなミスをしたとしてもこの子が亡くなれば多大な悲しみにおおわれるはずです」
「なるほど⋯、そういう見解なのね」
「?」
「この星の言葉を使い簡単にいうわね。地球は輪廻転生の転生する場所なの。ここでは何も始まらずいわゆる漂っているだけ」
「?? なら、この文化や歴史は⋯⋯」
「いい質問だけど、それは過去の記憶から生み出された副産物ね。外国も含めて歴史も文化もよく意識してみれば似たり寄ったりなのよ。干支などでいえば中国のほうは豚なのに日本ではイノシシとかね」
「⋯⋯⋯」
「私達からにしてみれば、地球は収穫するための場所といっても過言ではないの。肉体がしんでも、またここで赤ちゃんになるだけ。この工程を繰り返していくと魂が昇華されたり必要になれば収穫してそれぞれの世界に連れていくって感じかな」
「それを俺に言っても大丈夫なのですか?」
「ほんとはいけないことだろうけど、私の星では貴方みたいな人は大好きなのよ。話してるだけで魂の汚れは感じられないしね。正直男の子じゃなかったら連れて行ってあげたかったと思うぐらいにはね」
「男ではダメなのですか?」
「う〜ん。転生だから問題はないんだけど、無垢な処女に勝るほどの聖気を持った大人の男は見たことないから元から検索からは除外してるのよ」
「それでは⋯俺のを計ってください。一応自己満足かもしれませんが、胸を張って生きてはきましたので」
「そんなに言うなら計ってみてもいいけど⋯他人でしょ? この子の為に自分を捨てるのはおかしいと思うけど?」
「そうかもしれませんが⋯やはり赤ちゃんとして産まれたなら母親と父親、2人と過ごす時間を大事にしてほしい。これを機に母親はもっと赤ちゃんに目を離さず大事にしてくれるだろうし」
「そ、要するに貴方は馬鹿なのね。けど、やっぱり私は嫌いにはなれそうにないな」
女神が近寄ってくると、胸に手を当てる。
「じゃあ、計るわね」
そういうと胸の辺りが温かくなり、小さな光の玉が女神の手に現れる。
それをぎゅっと自分の胸に入れると、なぜだが不毛な顔をして首を傾げる。
「どうしましたか?」
「んん! ん〜? あれ?」
驚きと狐に化かされたようで疑問を浮かべるような感じがやはり不毛な顔に見えた。
「ちょっと私と同じ目線になってもらえるかしら?」
「はい?」
その場で膝で立つようにする。
「ごめんけど、記憶みせてもらうわね」
「はい? 構いませんが⋯」
そう言われるとおでこをくっつけられる。
さすがに恥ずかしく、離れようとすると『動かないで!』そう言われいて頭を抑えられる。
時間にしては一瞬だったのかもしれないが、とても長く感じたあと、ゆっくりと女神様の目が開き眼があった瞬間に『ブッ!』と口から唾液が飛び散った。
(女神様でも、アニメみたいな驚きをするんだな)
つくづく俺がそう感じた瞬間であった。