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第一話「モンスターワールドへようこそ!」

自分だけで書く作品よりも友達とアイディアを出し合ったり、色々教えてもらいながら作る作品の方が長続きする事に気付いたので連載を決めました。なるべく月一とかで更新出来るように頑張りたいですね。

今日は十月三十一日、今夜はハロウィン。各製菓会社でお菓子の売り上げがピークを迎えるこの日。僕は何をしているのかというと、バイト先のケーキ店で後片付けに追われているところだ。

 小さいが街でも有名な店の中は、ハロウィン当日というだけあって多くのお客さんがケーキやお菓子を買いに押し寄せてきていた。既に棚に並べられたお菓子は詰め合わせどころか単品までもがとっくに売り切れ、ハロウィン限定のケーキ類も殆どがショーケースの中から姿を消している。閉店時間を過ぎ、店内を掃除して調理器具を片付けているのが今の僕、佐藤秋雅(さとうしゅうが)だ。

「お疲れ秋雅。今日はもう帰っていいぞ」

 人柄の良さそうな顔をした男性、この店の店長が両手をハンカチで拭きながら声をかけてくる。

「ありがとうございます、店長」

 気付けば閉店時間の二十時を一時間も過ぎている。そろそろ帰って寝なくちゃ、明日の準備に差し障るだろう。制服をハンガーに下げコートを羽織ると、僕は裏口から店を出た。

 秋も深まり、すっかり日は落ちている。表通りに出ると商店街のあちこちにカボチャのランタンが飾られている。街はハロウィン一色に染まっていた。

 あちこちに仮装して、お菓子を詰めるための籠やプラスチック製のケースなんかを片手に歩き回っている子ども達や、お菓子の詰め合わせを持って帰る途中の通行人も見える。その一人一人が皆、心の底から楽しそうに笑っていた。

「これだからパティシエは天職なんだ」

 釣られて僕も笑顔になる。世界中に数ある美味しい物の中でも、やっぱり甘味には人を笑顔にする力があると思う。僕はそんな甘味を人々に届けるこの仕事に憧れて、お菓子作りを始めたんだ。

 おっと、ここで改めて自己紹介。僕は佐藤秋雅。現在は高校を卒業し、パティシエを目指して勉強中の十九歳。小さい頃から、夢はいつか自分の店を構えること。その為に休みの日は家に友達を誘って、自作したケーキやクッキーなんかを囲んでいる。給料が貯まればあちこちの名店を巡って味を研究し、今ではこの街にあるケーキ屋の味なら全部覚えた。肥っているだろうって?とんでもない。体力作りだってパティシエの必修科目だ。毎朝早起きして筋トレしてるから、全然肥ってはいない。なんならこのほど良く筋肉の付いた四肢を確かめてみてくれ。とてもほぼ毎日甘い物食ってる人間とは思えないだろうから。

「いやー、それにしても流石ハロウィン。売れ残らないっていいことだよなぁ」

 廃棄処分になる商品が出なかったことを喜びながら帰路に着く。明日も朝から忙しくなるし、帰ったら晩飯と風呂を済ませてさっさと寝よう……などと考えながら歩いていたその時だった。

 イベント事は楽しいものだが、世の中どんな事にも表と裏があるもので、イベントもその例に漏れず楽しいと同時に負の側面も併せ持つ。

 例えば、楽しむだけ楽しんでゴミをポイ捨てしたまま帰る迷惑な参加者、とか……。

「うぎゃっふぉ!?」

 その辺を転がっていた空き缶をうっかり踏んずけてしまい、僕は派手にズッ転げ、すぐ隣のゴミ捨て場に頭から突っ込んでしまった。倒れた直後、頭に強い衝撃を感じ、僕の意識はそこでしばらく途切れるのだった。


 目が覚めると、何かの被り物を被ったような狭い視界になっていた。

「いたたた……誰だ空き缶捨てたのは……」

 ぼやきながら、何が頭を覆っているのか手触りで確かめる。

「この形、それにこの匂いは……カボチャか!?」

 転んでゴミ袋の山に突っ込んだ後、近くに飾ってあったジャック・オー・ランタンが頭に落ちて来て、しかも見事にはまってしまったらしい。空洞になった底が抜けて頭が突き抜けてしまったらしい。気持ちよく帰れそうだったのになんて運の悪い……。

 と、僕はここでようやく自分の視界が揺れていることに気が付いた。足が地面についておらず、背中に何やら生温かい違和感がある。まるで誰かに担がれているような……いや、今僕は誰かに担がれている!?

 慌てて周囲を見回そうにも、視界が悪くてここが何処なのか確認することが出来ない。その時、僕が動いたことに気が付き、僕を担いでいる誰かが口を開いた。

「おう、起きたか。お嬢様が倒れているお前を見つけてくれたんだ。感謝しろよ?」

「あ……ありがとうございます……。ここは何処なんですか?」

「何言ってんだ?来た時も通った山道だろうが。それともまだ寝惚けてんのか?」

 口をついて出た疑問に対し、厳つい声が笑い混じりに応える。

 山?この街の山と言えば確か、神社の管理地くらいしかなかったような……。この人、神社の人なのか?

 いやいや、神社の人が僕を連れて来る理由がない。第一、僕は初詣以外で神社を利用したことはないぞ。

 つまり別の理由だ。倒れている僕を見つけて駆け寄った、という所までは分かった。起きなかったので担いで移動する、というのも分かる。山に連れてくる理由がさっぱり分からない。

 困惑する僕を他所に、男はどんどん歩いて行く。耳をすませると子どものような話し声もする。狭くなっているとはいえ視界に映らないから、多分男の前を歩いているんだろう。ダメだ、余計に分からなくなる。大男に子ども達、この集団は何なんだ?

 ここが山じゃなくて街中でこの先が病院なら、ハロウィンを楽しんでいたところ、倒れていた僕を見つけて病院へと運んでいってくれている子ども達の保護者で納得出来たんだけど……。

「あの、何処へ向かっているんです?」

「何処って、決まってんだろ。帰るんだよ」

「帰る?」

 再び質問するも、余計に訳が分からなくなった。帰るって何処に?一体彼らは何処へ向かっているんだ?

「皆、あと一時間で門が閉じてしまうわ。急いで!」

「はーい!!」

 困惑を深める中、女性の声と子ども達の元気な返事が聞こえてきた。それに伴い男も足を早める。

「悪いな、ちょっと揺れるが我慢しろ」

「え、ちょっと!?」

 どうやら子ども達も男も走り出したらしい。視界の揺れが大きくなる。待ってくれ、担がれたまま揺れてるからちょっと酔う!酔って気持ち悪くなってくる!

 吐きそうになるのを堪えながら、僕はそのまま運ばれて行った。揺れている間に頭にはまっているカボチャも揺れ動き、一瞬だけ外の風景、それもこの列に並んでいる者達の光源で照らされたほんの僅かな部分が目に入る。山中の森林だ。しかも木々の密集率が高く、かなり深いところまで入り込んで来ているらしい。

「皆、一人ずつ入って。念の為、人数を確認するわ」

 また女性の声がして、子ども達が返事をする。女性が子ども達の名前を一人ずつ呼ぶと、子ども達は元気に返して進んでいく。

 この辺でようやく僕を抱えていた男も足を止めた。

「一人も欠けてなかったな?」

「ええ、皆いたわよ。でもそれだとやっぱり、その人……」

「俺達の列に混ざらずにここへ来たのかもな。行こうぜ」

「そうね。門が閉じちゃうわ」

「あ……あの……うぷっ」

 話ぶりから察するに僕を誰かと勘違いしているらしい。慌てて訂正しようとしたが、吐瀉物が腹の底から上ってきそうになり、それを押し戻そうと堪えている間に二人は僕を連れたまま、何処か穴のような場所へと入っていった。

 一瞬、周囲が光に包まれ、洞窟の中の水たまりに雫を一滴落としたように透き通った水音が響く。今振り返ると、この不幸な事故と偶然にも重なってしまった二人の勘違いこそ、僕がこれから体験する不思議な日々の始まりだった。


 □□□□


「ただいま~」

「はやくおうちかえろ~」

 子ども達の声が聞こえる。声が響いてないし、目と口の穴からひんやりとした風が入ってくることから察するに、開けた場所に出たらしい。

「今年も楽しかったな~」

「お嬢様、今年の収穫はどれほどで?」

「大量よ。ほら、こんなに貰っちゃった♪」

「こいつぁいい!一週間は菓子には困らないな!」

 俺を担いでいる男と、お嬢様と呼ばれた女性の会話が聞こえる。

 そろそろ降ろしてもらわないと、今度こそ僕は口から出てはいけない物を滝のように吐き出してしまいそうなので、声を張り上げて自己主張した。

「あの!そろそろ降ろしてもらえませんか!!」

「おっと、すまねぇ。今降ろしてやる」

 ようやく地面に足が着くと僕は力が抜け、糸の切れた操り人形のようにへたり込む。

「ず、ずっと揺らすもんだから危うく吐くところでした……」

「ああ悪い!そこまで気が回らなかった!なにぶん急いでいたからよ……」

「大丈夫ですか?気を失って倒れていたみたいですけど……」

 男の申し訳なさそうな声が聞こえ、女性がこちらへ駆け寄り、隣にしゃがみ込むのが僅かな隙間から見える。

 そろそろ邪魔なので、僕は両手で頭に被さっているカボチャを取り除けた。

「……え」

 ようやく素顔を見せた僕の目の前に飛び込んできたのは乳白色の肌をした少女と、レンガ色の肌をした明らかに人間ではない筋肉量と巨体の大男が、目と口を見開いて驚いた表情をこちらに向けている所だった。

「え、あなたまさか……!」

「人間……だと!?」

「うわあああああああああああぁぁぁ女の子の後ろに怪物がいるううううううう!?」

 悲鳴が森の木々に跳ね返ってこだまし、蝙蝠やフクロウが何羽か飛び立つ。少女は慌てた様子で僕に説明する。

「驚かないで!リアムは私の家に仕えてるの。あなたに危害を加えたりはしないわ!それよりあなたは急がないと帰れなくなるわよ!!」

「え!?」

 少女は僕の手を掴むと、僕の手を引いて走り出した。転びそうになりながらも立ち上がり、引っ張られる。

「その木の洞にあなたの世界への門が開いてる!でももう閉じてしまうの!だから急いで!!」

「わ、わかった!」

 意味が分からなかったが、彼女の必死な顔を見る限り()()()()()()()()というのは嘘ではないらしい。僕も木の洞を目指して全力で走る。

 目の前の木を見ると大きなトンネルが開いている。だがそのトンネルの向こう側の穴がどんどん小さくなっていた。どうやら洞がトンネルになっているのではなく、洞の中に鏡のように入り口が開いていて、それが閉じていっているらしい。

 まるでファンタジー映画に出てくる人間の世界と魔界を繋ぐゲートが閉じていくシーンみたいだ、という感想がふと頭を過る。いやいや、まさかそんな……。

 そんなことを考えている間にも、どんどん穴は縮んで行った。

「あと少し!あと少しで!!」

「ダメ、間に合わない!!」

 手を伸ばしたが、一歩遅かった。後一歩踏み出せば間に合うというところでゲートは閉じてしまったのだ。目の前に残っているのは木の内側と、穴の両側に立てられていた篝火が煙を上げているだけ。その背後で少女が膝を着き、項垂れる。

「間に合わなかった……。あと少しだったのに!」

「あの……」

「ごめんなさい!私が勘違いしたばっかりに、あなたをこの世界に連れてきてしまった……本当にごめんなさい!!」

 地面に手を付き、地面に付くくらいに深く頭を下げる少女。展開が飛躍し過ぎていて訳が分からず困惑しながら、僕はとりあえず頭を上げるように促す。

「待って待って!頭上げてよ!その……僕自身何が起きてるのか全然分かってないんだけど……色々と一から説明してくれない?」

「一から……説明?」

「うん。ここは何処なのか、さっきの穴は何なのか、君達は誰なのか。ちゃんと教えてくれないと頭こんがらがってショートしそうで……」

 僕がそう言うと少女は顔を上げ、スカートの土を払いながら立ち上がった。

「すみません、取り乱してしまって……。分かりました。あなたに順を追って説明します。まずは私の家まで行きましょう。話はそこからです」

「ありがとうございます」

 取り敢えず洞から出て空を見上げると、満点の星空が広がっていた。秋の大四角形もハッキリと見える。ここは少なくとも僕の街とは違う場所らしい。

 そういや今何時だ?

 腕時計を確認すると、時刻は深夜0時を超えた所だった。

 って事は、僕は二時間以上気絶してたのか……。念の為、朝になったら医者に診てもらおう。

キャラ紹介

佐藤秋雅(さとうしゅうが)

種族/性別/年齢:人間/男/十八歳

身長/体重:172.5cm/62.5kg

職業:菓子職人見習い

・不幸と勘違いが重なり、魔界へとやって来てしまったパティシエ見習い。魔界では使えなくてもスマホと財布と自宅の鍵は後生大事に懐に仕舞っている。親や友人を常に気にかけており、一年後には必ず元の世界へ帰ることを誓っている。

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