04:ツクヨミ
「・・・そうか。ここには治療が行われるまでの間休む為に」
「はい。このジパングの大王、初代天皇陛下の眠りし聖地、『トウキョウ』はジパングの『学』の集まる所ですので来てみたかったのとこんな体では知識を高める事くらいしかやることないので・・・」
キョウカとオリガの二人はトキヤに連れられ、食事できるところに向かっていた。
トキヤは演奏を終えると子供から遊びに誘われる。
しかし、昼の鐘が鳴ったことで子供たちが「お昼御飯だ―!」と言って散ってゆく。
・・・子供には花より団子かな
トキヤはそう言って苦笑いを浮かべる。
そんな時に、彼女に昼食を共にと誘われた。
トキヤは二人を誘導しながらこの機来た理由を聞く。
意外にも彼女はここに治療・・・まあ、原因不明の病の正体がわかるようになる成人になるまで、どこかで療養させられそうだったのだが、それならといって彼女の祖父の買ったあの屋敷に引っ越してきたらしい。
あの屋敷か・・・とトキヤは少し懐か聞く感じていると二人をつれて行きたかった店に着く。
ついたそこは大通りを少し外れた、人通りの少ない通りにあるbar『ヤガミ』。
「『ヤガミ』・・・本当にここなんですか?」
「・・・あなた、どこの手のものですか?」
キョウカとオリガは二人そろって胡散臭そうにそういう。
「しつれいな。ここは裏通りにある目立たない店だが腕は一級。一見さんお断りの店なんだよ?」
そう言って、トキヤは中に入る。
「いらっしゃい・・・おお、トキヤ殿。来ると思ってはいましたがご令嬢の方とご一緒とは」
中にいた初老のマスターは驚いたように言うが、その目は笑っている。
彼はおそらく知っていた。
「相変わらず、この帝都の事なら何でも知っているね、マスター。・・・でも、それはこういった身分の人たちに警戒を与えるのを知ってかな?」
そう言ってうしろを見るとオリガがキョウカの前に立ち、守るように前に立つ。
その手にはどこから取り出したのかくないを持っている。
オリガはトキヤから見ても、『敵対したくない』存在だ。
それはトキヤの周囲を考えたとき、その言葉は重みが増す。
ほぼオールAである、あの修練所の連中にいながら、オリガと『敵対したくない』。
それは彼女がそれだけ強いということを指し示す
・・・それに、オリガはトキヤ、キョウカの一つ上の歳らしい。
つまり、彼女は8歳だ。
・・・いや、このステータスに年は関係ないな。
トキヤは心の中で驚愕していた。
このステータスは生まれながらでしか持ちえないもの。
そしてこのステータスを持っている人物を一人知っている。
オリガ (女) 獣人(幼児) レベル:9
力:S
魔力:S
生命力:S
体力:S
精神:S
スキル:〈俊足〉・〈獣化〉・〈身体能力強化〉・〈闘気〉・〈収納箱〉
アビリティ、オールS。そして獣人の種族持ち。
この世界の勇者とは何も一人で世界を歩くわけではない。
勇者には幾人かの従者が存在する。
それらには共通点がある。
さまざまな役割が与えられているが例外なく、アビリティがオールSであること。
そして超越種へと進化していることが主な例とされている。
超越種とは人間から各種分野に特化した特殊人間の事で、種によって各種アビリティのS以上の能力を引き出すことができる。
彼女の持つ獣人は、肉弾戦闘。つまり、肉体能力強化系の種である。
本人が気づいているかは知らないが、敵に回してあまり宜しくない結果になりそうなのはマスターもうすうす感じているはずだ。
トキヤはそう考え、マスターに目配せする。
その視線にマスターは反応した。
「・・・はあ、トキヤ君。こんな世間知らずな、お客さん連れてきちゃだめだよ。今お客さんいないからよかったけどね、お偉いさんも来るの知っているよね?」
マスターはそう言ってジト目でトキヤを睨みつける。
「すまない、すまない。ここの料理を食べてもらいたくて連れてきただけなんだ。オリガさん、キョウカさん。彼は『マスター』。この帝都の裏を仕切るボスだ」
「「!?」」
オリガの警戒度がさらにがる。
それにマスターは頭を抱え、ため息をつく。
そして、barのカウンターからこちらに出てくる。
それに伴いオリガが殺気を放つ。
「おっと、暴れるなよ。そうはいってもこっちだって王の勅命でやっているんだぞ?」
「え?」「どういうことですか?」
「・・・では、改めまして」
そう言ってマスターは手始めに・・・消えた。
「「!?」」
存在もつかめず、影も出さず、足音もせず、そっと近づく。
そして気づいたときは、オリガからくないを奪っていた。
「ジングウジ家のご令嬢にごあいさつします。私のコードネーム『マスター』と呼ばれる、ジパング天皇直下諜報部隊『ツクヨミ』総長です」
「「・・・」」
二人はその言葉に驚きを見せ、一方のトキヤは笑顔になる。
「へぇ、やっぱり」
「おや?気づいてましたか?」
「一回、俺の前に出てきたからな・・・」
「あー、あの時ですか。やっぱりしっぱいだったか・・・」
二人はオリガとキョウカを置いて話す。
「・・・つく、よみ」
オリガは新たなくないをどこからともなく取りだし、背後のキョウカをかばう形でこちらに武器を向ける。その瞳は赤くなりかけている。
獣人の瞳が赤くなるというのは獣化の予兆。
相手が誰であろうと、怯まないという目は評価するが、恐怖で手が震えていもした。
このジパングにて『ツクヨミ』は多くの者の憧れであると同時に恐怖の対象でもある。
それは月詠にいる人物たちにある。
アビリティ、オールAで構築された少数精鋭の集団で、天皇勅命でしか動かない部隊。
その総長に刃を向けているのだ。怖がらないわけがない。
後ろのキョウカが震えているオリガの対処に困ってあわあわしているとトキヤと目が合う。
その瞳は、どうにかしてくださいという音になっていない声が聞こえた。
・・・仕方ない。
トキヤはやれやれと言った風にごく自然な動きで草を口元にあてる。
そのあまりの自然な動きにオリガはトキヤの行動に反応できなかった。
・・・そして、かなでる。
先ほどの公園で演奏した曲とは違うが、優しく、リラックス効果のある曲を奏でる。
すると、オリガの震えがやみ、それを見逃さずキョウカはオリガの肩に手を多く。
「・・・無理しちゃだめよ?それに、ここ安全だから」
その声は優しく心地いいものだった。
「・・・おじょう、さま?・・・ああ、すみませ―――――――」
「オリガ!?」
「キョウカさん、大丈夫ですよ・・・眠っているだけです」
緊張の糸の切れたオリガ。
彼女はそのまま倒れようとしていたのでトキヤが抱き留める。
彼の腕の中の彼女はそのまま気絶しるように眠るのであった。