03:草笛の音色に連れられて
「あ、若様!」
「本当だ、トキヤ様!」
屋敷に近づくと公園にいた子供たちに見つかる。
・・・しかし、子供達までおれを若様と呼ぶようになってしまったな。
元々は修練所の連中が自分たち上司だからと言うことで呼び始めた『若様』。
剣の勝負でタツキに勝っていたからそう呼ばれるようになったが、奴らが酒場や街中でそうやって声をかけるものだから定着してしまった。
「おう、みんな元気か?」
自分の下に集まってくる子供たち。
年は4~7と同い年化年下ばかり。男女の数は同じくらいだ。
彼らの顔ぶれはだいたいいつも同じで、気まぐれに外でできる色々な遊びを教えたら懐かれてしまった。
「若様、あれやって!葉っぱの奴!」
「葉っぱの・・・ああ、草笛か。いいぜ。あそこのベンチでややろうか?」
そう言ってトキヤは身近な葉っぱを一枚とる。
公園の隅に合あるベンチに座り、その周囲に子供たちが座る。
「じゃあ、曲は・・・オラシオン」
某、アニメ映画のキーとなる曲を俺は弾いた。
晴れ晴れとした公園の片隅で心地よい風に吹かれながら草笛の音色が辺りに広がってゆく。
その心地よい音色に周囲の人々は自然と足を止め、鳥たちが近くに木に止まり、トキヤの奏でる音色に耳を傾ける。
そこはいつしか、演奏会のような多くの人々が集まっていた。
※※※
彼女はそれを新しくついた屋敷の自室のベットに座り聞いていた。
隣が公園と言うことで、うるさいのは覚悟していた。
それでも自分と同年代の子たちが遊ぶ姿を見たかったし、そのたのしそうな声が聞きたかった。
「お嬢様、荷物の搬入にもうしばらくかかるので昼食を外でいただかおうと思うのですが・・・」
「ねえ、オリガ」
「はい、お嬢様?」
オリガと呼ばれた茶髪のメイドは失礼ながらお嬢様の見せたその表情に驚いてしまい、そして涙が出てしまった。
「きれいな音色ね・・・」
そういう彼女の顔は自然と出た、心から笑っているそんな優しさに満ちた笑顔だった。
彼女のはジングウジ キョウカ。
ジングウジ家 双子の妹。
その身は生まれながらにして病にかかり、すぐれた肉体を持ちながら貧弱と言う矛盾を抱えた少女。
それゆえに周囲から様々な感情をぶつけられ、心を早くに閉ざし、大人びてしまった少女。
彼女は今、久しぶりに・・・いいや、初めて年頃の少女のように微笑むのであった。
やがて、草笛が終わると彼女はその窓から下をのぞき奏者を探す。
すると、一人の少年がこちらを見ていることに気が付いた。
「こんにちは。少しは元気が出たかな?」
彼はそう言って笑った。
―――トクン。
その笑顔を見た瞬間、キョウカの心は高鳴った。
彼女はそれが何であるか知らない。
ただ、それでも、彼女は頬を赤く染めて返事を返す。
「・・・ええ、素晴らしい物でした」
その一言に奏者の彼は彼女に見惚れながら、「ありがとう」と笑みで返す。
二人の出会いは何の変哲もない。草笛の結んだ出会い。
そして、・・・これがのちの伝説の始まりとは、誰も知る由もなかった。