プロローグ:式神の英雄
新作です。・・・月一更新予定。あと気分投稿。
『・・・長かったな。我主よ』
「そうだな・・・願いを、託せたよ」
そういう言って二人の男が背中を合わせ座っている。
一人は和服を着た髪の長い青年と言うべきイケメン。
もう一人は下駄を履き、丸眼鏡に浴衣には織物。
大正の散切り頭風の高齢の男性だ。
二人はともに多くの傷を負っており、命はもう長くないと見える。
「師匠、白龍さん!」
「オヤジ、白龍!」
「爺ちゃん、ハクさん!」
「おじい様、ハクさま!」
そんな二人に近寄ってくる4人。
「おお、彩斗に桃。晶に麗華。・・・そうか、終わったんだな」
「そうか、長きにわたる苦しみから、我が弟は放たれたんだな・・・」
二人はそう言って笑った。
「・・・あれ、もう目がかすんできたよ。彩斗、いるか?」
「なんだよ、親父!?」
「儂の、式神。どう、だったか?」
『ぴゅー!』
「おお、お前。そこにいたのか。気づかずすまないな・・・」
「オヤジ!もうしゃべるな!死んじまう!」
「師匠!私、今回でわかりました。まだあなたの式神製作能力に追い付いていないと。退魔協会は貴方を老害と呼びますが・・・あなたの名の下に集まった退魔師全2500名。まだまだあなたに学びたいと思っています!」
「おじいちゃん、まだ死なないで!僕ようやく伝説の『陽』の陰陽師に慣れたんだよ!おじいちゃんのおかげなんだよ!?そうだ、僕力で直せばいい」
「お爺様、私も『陰』の陰陽師として覚醒いたしました。私と伴侶である晶であれば、あなたを・・・」
集まった四人は次は屋にそんなことを言うと、老人は懐から一枚の折り紙を取り出し、手馴れた手つきで鶴を折る。
「みな、わしはもう十分いい生きた。・・・そして、これが何かわかるか?」
老人は今居ったばかりの鶴を地面に置く。
「千羽鶴の・・・」
「そうだ・・・これが、最後の一羽」
「おお、主よ。行きなことをする。・・・ついに神の願いを千叶えたか」
「そうだな・・・もう最初どんな願いしようとしていたか忘れちまったよ・・・」
二人はそう言ってもう見えない目で空を見る。
「彩斗、よく聞け・・・」
「うグゥ、・・・な、なんだよ・・・」
「泣いているのか?・・・相変わらず泣き虫め」
「う、うるさい!」
「儂が千羽鶴に込める願いを皆に教える…心して聞け」
それを聞くと4人は涙をこらえ、親であり、師であり、祖父であり、義父である彼の言葉に耳を澄ます。
「儂は、かつて英雄にあこがれるただの子供だった。そしてその英雄とは、今の常識を壊し、時代に変革をもたらす者の事と思っている」
「それじゃあ、師匠は・・・英雄ですね・・・」
桃はそう言って老人の言葉に答える。
「ありがとう、桃。・・・さて、我最大の相棒白龍帝の闇の落ちた弟、暗黒龍を足してもらった。わしの願いの為に力を貸してくれたことに感謝しよう。・・・そして、お主らに一つ課題を残すとしよう・・・それは、わしを超える式神使いになること、だ」
「「「「な!」」」」
「神聖視とは、甘えだ。自分ではそこには届かないと思ているからこそ起こるものだ。我が息子よ、弟子よ、孫よ。万物に終着点は無い・・・。さらばだ、お前たち。強く、生きろ・・・」
老人は力強くそう言って息を引き取った。
「主が死んじまったからな・・・俺もしばらく眠る。・・・またな、みんな」
老人に背を合わせていた青年も同じくして光となって消える。
4人は泣き、茂みに隠れてひっそりと彼の最後を見ていた彼の式神達は雄叫びを叫ぶ。
ここは帝都―――東京。外壁に囲まれたこの都市の最外部。その城壁にて老人は息を引き取った。
背後に億を超える無数の妖魔の軍勢の屍を築いて。
蘆屋 孝導―――享年3012年 11月12日 98歳。
死因:出血死、生命力還元:魔力による魂の劣化。
追記:退魔師の多くが暗黒龍討伐に出ていたところを無数の妖魔に襲撃されたところを初代式神(相棒)白龍と共にこれを単騎にしてわずか1時間で迎撃。町に被害なし。尚、上記のとおり、己の生命力を魔力としたため魂の劣化が激しく、治癒系、貝吹き系魔法を受ける事かなわず、そのまま衰弱死。
一度は見捨てられた『陰陽術』を再興させ、日本どころか世界にするらその名をとどろかせた老人は最後に大いなる戦績を残しこの世を去った。
彼は後世『式神の英雄』として歴史に名を残す存在となった。
※※※
一方、死後の世界である天国では―――
老人は一人の美人さんの前に座っていた。
「ああ、あなたか。あなたは決まっているのよ・・・えっと、転生ね。行ってらっしゃしゃーい」
美人女神にわけもわからず黒い穴に投げられてしまった。
「え?・・・儂、死んだんだよね?説明プリーッズ!」
―――老人の旅は、まだ終わらない・・・。
ありがとうございました。