子宮Ⅰ
あなたです。
わたしはわたしの子宮の歌を歌おうか。
生まれた宮、そしてずっとそこにいることを。一般的な男性の類ではない、と言ったのは、つまりは。
ユータラスへ至る小径へと
神秘の膜で包まれた秘所へと
起源を辿れば宮へと到達し
還ることもなかりしば
孵ることもなく あてもなく
子宮の幻想を見て
保護される膜の存在を思い起こして
帰巣本能が働くのだ
全て人は神秘から生まれ 人皮を被って
膜を破り
そして元の神秘の場所へと帰る
。
子宮は神秘の器官であることを。人は皆知っている、無意識に。
その神秘にあやかっていいのは、いずれ肉を付けこちらに来る幼子のみよ。
子宮に秘められたものを、肉をすでに持った者が利用せしめんとするならば、その身に破滅が訪れることを!
神秘は神秘のままであらねばならず、子宮は幼子のものだ。!
しかし幼子の悲鳴を聞け。
「ああ、なんて悍ましき刃物の数々!!
永劫に安全だろうと思って身を潜め育ててもらったこの部屋に危険が、危険が迫っている!!
母親が仕組んだのか、そうでもなければ刃物の侵入など許さない…恐ろしい、
恐ろしいから逃げようとしても部屋に一杯のわたしの体は抵抗もできず手足が引き千切られる。
そうして出てきたわたしの体は「医療廃棄物」として捨て去られてしまう。」
受動的に体を捨てるのと、積極的に体を捨てるのには雲泥の差がある。
一つ間違えればそのような運命を辿っていたのだろうと、少し恐ろしくも感じながらも。
何の罪もない、胎児の気持ちを知る為の文書。
人間として生まれることすら許されなかった胎児と、
人間として生まれることのできたわたしは、何が違うのだろうか?
きっと何も違わないのかもしれないし、何もかも違うのやもしれん。
ただそこにあるのは「中絶される胎児の存在」であり「中絶されなかったわたしの存在」である。