第9話 リクトたちの過去
「俺たちは、このリングルートの街から遠く離れた山奥の村で生まれ育ったんだ。そこはこの町とは違って質素で物なんかほとんどなく、村民たちが自給自足で生活していた」
「自給自足で? じゃあ食料を販売する店は儲からないんじゃ……」
「そもそも、店というものがなかったんだ。本当に今じゃ想像もつかないほど、質素な生活をしていたと思うよ」
「私も。傭兵始めてから、自分が住んでいた村と世界がこんなに違うものなんだな、って思ったもの。自分の中の常識が一切通用しなかったから、始めは戸惑ったな」
リクトとリコは、住んでいた環境が激変して大分苦労したようだ。
「話を戻そうか。始めの内は家族と過ごして楽しい日々を送っていたが、東西戦争が激しくなってくると、次第に村の若い男たちが戦争に駆り出されるようになってきた。東方大陸の徴兵は男が13歳からで、当時の俺は12歳だったからギリギリ大丈夫だったけど、その徴兵制度のせいで、村からは若い男がいなくなってしまった。ある日、それを好機と見た近隣の山賊たちが、俺たちの住む村を襲ってきたんだ」
「……」
リクトから告げられた言葉に、ラグナは息をのんだ。
「若い男が戦争に行っていたために、村には戦える者がほとんどいなかったから、成す術もなく襲われてしまった。老人は抵抗する間もなく殺されてしまったし、子どもたちでは抗うには弱すぎた。結局、山賊に好き勝手にされてしまったんだ」
「あたしの父は村長だったんだけど、まあ真っ先に殺されてしまったわね。山賊たちを一人残らず殲滅したかったけど、当時の私にはそんな力はなかった」
「それで、リクトたちはどうやって助かったの?」
ラグナは顔に冷や汗を流しながら訪ねる。
「俺とミソラとリコは母親をはじめとする大人たちが逃がしてくれた。皆が山賊たちを引き寄せている隙に、村の抜け道から脱出して、近くの村まで命からがら逃げ出したんだ。その後、応援を引き連れて村に戻ってみたけど、そこには凄惨な状況が待っていた」
リクトとリコは、当時の村の様子を思い返していた。それは、二人にとっては決して思い出したくない光景である。
「死屍累々と形容するにふさわしい死体の数。破壊された家屋。ほんの数時間前まで普通だった光景が、こんなにも変わるものなんだなと思った瞬間だったわね」
「流石にその光景はミソラに見せることは出来なかった。当時7歳だったミソラには、あまりにも惨い現実だったからな」
「……」
ラグナは言葉を出すことができない。